[日中と沖縄]対話こそ関係改善の道

2010年9月26日 09時43分この記事をつぶやくこのエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録
(3時間14分前に更新)

 こんなときだから「万国津梁(しんりょう)の鐘」に刻まれた琉球の生きざまを思い起こしたい。

 鐘は1458年に尚泰久王の命で鋳造され、首里城正殿に設置された。銘文の最初の節はこう記す。

「琉球国者南海勝地而

 鍾三韓之秀以大明為

 輔車以日域為唇齒在

 此二中間湧出之蓬莱

 島也」

 万国津梁とは世界を結ぶ懸け橋の意味で、「南海のすぐれた地にあり、朝鮮から優れた文化を学び、中国とは不可分の関係で、日本とも親しい琉球は、東アジアに出現した蓬莱(ほうらい)島のようである」と書かれた。次いで、貿易船を操って世界の懸け橋の役割を果たした琉球は、諸外国の物品が満ちていた、と記している。

 尖閣諸島を取り巻く日中関係の悪化を先人は嘆くだろう―という書きぶりをすると、情緒的な現実逃避と批判されるかもしれない。

 しかし、力による対抗策が現実に有効であるかどうかを問いたい。

 今回の中国漁船衝突事件で菅政権の対応は反省すべき点が多い。「尖閣諸島に領土問題はない」と宣言するのはいいのだが、中国も領有権を主張する係争地である現実を無視した。係争地で一方が公権力を行使すると軍事的緊張を招く事態も起こりえる。主張することと、実際に起こす行動とは分けて考えなければならない。

 日中関係がおかしくなることはない、という外務省側の当初の読みは大はずれだ。情勢認識の甘さは致命的で、外交力の貧弱さを露呈した。

 今後心配なのは国内の言論が内向きになることだ。

 海上保安庁の巡視船が中国漁船を拿捕(だほ)したとき、メディアを含め多くの言論は当然のことと評価したが、反作用は予想以上に大きかった。中国政府の強行で執拗(しつよう)な対抗措置、観光客の予約キャンセルやレアアース(希土類)の輸出停滞など経済的に不可分な関係を再認識させられた。

 そして船長釈放で「日本が白旗」(韓国聯合ニュース)、「弱小国は臆病(おくびょう)だ」(ベトナム人有識者)といった論評を外部から突きつけられた。

 憂さ晴らしとばかりに「海上自衛隊を出せ」という極端な意見が出るとやっかいだ。そんな歪(ゆが)んだナショナリズムに沖縄が巻き込まれてしまうことを最も危惧(きぐ)する。

 米国は領土問題は当事国間で解決するよう求め、干渉しない立場を明確にした。それでも同盟にすがろうと沖縄基地の重要性を強調する言論が起きそうな雲行きだ。

 海兵隊削減を含む沖縄の負担軽減にブレーキがかかったり、陸上自衛隊の先島配備計画を後押しする材料に使われるかもしれない。

 「普天間」県内移設反対の言論を抑えようとする内向きな議論に勢いがつくようでは、この国にとって不幸だ。

 東アジアの懸け橋「万国津梁」はいま外交・防衛政策で取りざたされるソフトパワーである。文化力を動員して琉球はかつて南海をはせた。

 その歴史を生かし日中友好の懸け橋を沖縄が担えるはずだ。解決は対話以外にない。

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