▼ 中国の事情
尖閣の問題では、日本の弱腰や中国のエスカレートした対応ばかりに目が行きがちだが、この問題はそんなに単純ではない.それぞれのお家の事情が存在する、非常に面白い外交的なドラマである.感情論に偏らずに、そのあたりを解説する.
まず外交の基本は「相手の立場でモノを考える」ということだ.これは思いやりの考えとは違い、自分が相手の立場ならどうするか、あるいは相手の内情はどうなのか把握することで、こちらの作戦が決定されるという意味である.
中国共産党、10月に5中全会 習副主席の要職選出焦点
【北京=峯村健司】中国共産党機関紙・人民日報によると、党政治局は党中央委員会第5回全体会議(5中全会)を10月に北京で開くことを決めた。来年からの経済政策の大枠を決める第12次5カ年計画の基本方針を討議、策定する。
胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の後継の最有力候補とされる習近平(シー・チンピン)国家副主席が軍の要職である中央軍事委員会副主席に選出されるかどうかが焦点だ。 (2010.7月 asahi)
多くの人が忘れているが、中国の権力闘争は益々エスカレートしている.特に今年は、公然と温家宝を批判する声が中国国内で高まっている.かなり危険な状況だ.
私は以前に中国国内の事情について記事にしたので再掲する.
〜以下再掲記事〜
▼ 暗闘続く中国の権力闘争
中国の歴史は,権力闘争の歴史と同義である.その過酷さと熾烈さは日本の比ではない.現在の中国では,あらゆる政治的イベントが権力闘争に結びつき,内政はもちろん,外交政策まで影響を及ぼし,歪められた意思決定に結びついている.
一見すると無関係ようだが,実は権力闘争が主たる原因であった現代中国の事件は少なくない.主なものを列挙してみる(主としてWikipediaから引用).
文化大革命・・・大躍進政策の失敗で権力を失った毛沢東が,国家の路線と権力を再び自らに取り戻すために仕掛けた大規模な権力奪還闘争としてとらえられることが多い
第1次天安門事件・・・1976年4月5日に中華人民共和国の北京市にある天安門広場において、同年1月に死去した周恩来追悼の為にささげられた花輪が北京市当局に撤去されたことに激昂した民衆がデモ隊工人と衝突、政府に暴力的に鎮圧された事件、あるいは、この鎮圧に先立ってなされた学生や知識人らの民主化を求めるデモ活動を包括していう.事件後,トウ小平が責任を問われて失脚し、魏京生は入獄。四人組が事実を曲げて毛沢東に報告したために、毛沢東は本当に反革命が起こったと勘違いし、その後の弾圧に結びついた。だが、四人組を批判する北京の人々の動きは中国全土に広がり、半年後の四人組失脚の一因となる。
第2次天安門事件・・・1986年5月に総書記の胡耀邦が「百花斉放・百家争鳴」を再提唱して言論の自由化を推進し、国民からは「開明的指導者」として支持を集めた.これに対してトウ小平ら党内の長老グループを中心とした保守派は、「百花斉放・百家争鳴」路線の推進は中国共産党による一党独裁を揺るがすものであり、ひいては自分たちの地位や利権を損なうものとして反発した.9月に行われた六中全会では、国民からの支持を受けて胡が押し進めようとした政治改革は棚上げされ、逆に保守派主導の「精神文明決議」が採択され、胡は長老グループや李鵬らの保守派の批判の矢面にさらされた。
この権力闘争が,学生の民主化運動をも巻き込んで,武力行使による大虐殺という結末を迎える.
2005年上海反日暴動・・・小泉さんによる靖国参拝などの行為が,中国の一般大衆を刺激し,主要都市で暴動が起きたが,上海の暴動だけは,他都市と違って,反日に名を借りた現政権へのデモ活動という側面が強かった.田中宇氏のメルマガから引用する.
〜田中宇氏メルマガ〜
1989年の天安門事件のときもそうだったのだが、中国で大衆を巻き込んだ政治運動が起きると、その混乱を使い、中国共産党の上層部で権力闘争を行おうとする勢力が出てくるときが往々にしてある。
4月16日、日本から町村外相が中国を訪問してくる前日、中国全土の各都市で反日デモが激化したとき、北京の中央政府は、全国の行政責任者に対し、デモを抑制させるよう再三にわたって指示を出した。ところが、他の都市の指導者たちがデモを抑制する中で、上海市政府だけは、デモを黙認する態度をとった。上海ではこの日、数万人規模のデモが発生し、日本領事館に対する投石がさかんに行われた。
その後4月25日には、上海市の共産党委員会の機関紙である解放日報が「反日デモは謀略であるので、厳しく処罰すべきだ」と主張する社説(425論文)を掲載したが、これは天安門事件が起きる直前の1989年4月26日に、北京の人民日報が掲載した「民主化運動は謀略で、動乱なので厳しく処すべきだ」と主張する社説(426論文)と論旨が似ていると指摘されている。
人民日報の426論文は「動乱」のレッテルを貼ることで、民主化運動の参加者を逆に激怒させ、大衆のデモを共産党最上層部の権力闘争に発展させるきっかけを作った。同じ意味で、解放日報の425論文も、反日デモを中共中央の権力闘争に発展させようとする意図が秘められていたのではないか、という憶測を呼んでいる。
今の中国共産党は、胡錦涛主席の権力が確立して間もない時期だ。前任の江沢民前主席が率いる「上海派」の中には、胡錦涛の一派に権力を委譲することに抵抗している人々がいるはずで、彼らが反日デモを使って胡錦涛体制を崩そうと動こうとしたとしても不思議はない。
だが、ジャカルタで開かれたアジア・アフリカ会議に出席した小泉首相が4月22日、村山首相談話を引用するかたちで日本の過去に対する反省を表明する演説を行い、翌4月23日には、小泉首相がジャカルタの胡錦涛主席の宿泊先を訪ねる形式で日中首脳会談が開かれ、日中が対話を強化することで合意した。この成果をばねに、胡錦涛政権は反日デモを抑制する力をつけ、上海派の策動にもかかわらず、反日運動は下火となった。
〜田中宇氏メルマガ引用終わり〜
この上海反日暴動以来,北京閥の胡錦涛政権は,急激に親日政策へ舵を切る.対日関係の悪化が権力闘争の火種になることを恐れたからである.日本側もこれに応え,中国を刺激する行為を控えるようになった.
しかし,中国の意思決定が国内の権力闘争に依存しており,内政も外交も手足を縛られた状態であることに変わりはない.北京オリンピック,チベット暴動など,中国の現政権は,権力闘争に繋がりかねない国内の事件に対して異常に神経質となり,防戦一辺倒の対応であった.一方で2006年には,上海市トップを汚職の容疑で逮捕し,上海閥をある程度粛清することに成功している.
〜再掲終わり〜
実は、秋というのは中国にとっては政治の季節なのである.昨年2009年は習近平が中央軍事委員会副主席に就任するか否かが最大のポイントだった.
結果は大方の予想を裏切り、就任なしであった.これは権力闘争に決着がついていないことを意味する.おそらく、今年10月の5中全では、さすがに就任するだろう.名実ともに習時代の幕開けとなるかもしれない.
そんな中で尖閣諸島の漁船体当たり事件が勃発した.これは各方面から指摘されているが、船長および船体は民間の漁船ではなく、軍関係者である.
そして体当たり事件はしっかりとした意図を持って引き起こされたと考えたほうがよい.なぜなら、この問題の長期化と懸案化によってもっとも利益を得るのは「上海閥」であり「太子党」であるからだ.
中国海軍は、正確には中国人民解放軍の南京軍区が主力となっている.ここは徹頭徹尾の上海閥の牙城である.上海市トップを逮捕され、押され気味の上海閥は、東シナ海や南シナ海で強硬路線を取ることにより、「北京」に対して揺さ振りをかけているのである.
船長逮捕問題で中国国内が沸騰すると、その矛先は現政権に向かう.それを追い風に北京閥および団派を駆逐しようというのが上海閥ないし太子党の目論見である.そのことは既に識者から指摘されているし、私も昨年に記事にしている.重要なので再掲する.
現に胡錦濤政権が発足して6年になるのに、胡主席率いる共産主義青年団(共産党の青年組織)人脈と江前主席を後ろ盾とする上海閥・太子党(高級幹部子弟)の権力闘争に決着がついていない。
党中央政治局や書記局では両派の勢力がほぼ拮抗(きっこう)し、胡主席直系の李克強副首相らと江前主席が推した習近平国家副主席らが次期最高指導者の座をめぐって競い合っている。
胡主席の軍権掌握が遅れているため、軍部は党・政府の平和発展外交を無視するような対外強硬路線を主張し、昨年6月に日中間で合意した東シナ海ガス田共同開発にも強く反対している。これは反日民族主義を鼓吹した江沢民前主席の意向にも沿う動きだ。
今回の中央軍事委民主生活会の結果は明らかではないが、4日の新華社電は胡主席が批准した「軍隊幹部選抜規定」の発行を報じており、現政権にとって一定の前進はあったとみられる。胡主席が今秋の党中央委第4回総会までに軍首脳をどの程度一新できるかが、中国の今後を大きく左右する。
江沢民系軍幹部が多数残留し、江氏意中の後継者、習近平国家副主席が軍事委副主席を兼務することになれば、対日強硬路線が復活しかねない。その目的のために強硬派が東シナ海で軍事的緊張をつくりだそうとすることも考えられる。中国軍の動向に細心の注意を払う必要がある。
(2009年産経記事より)
つまり上海閥にとっては、東シナ海で軍事的な緊張をつくりだすことそのものが目的なのである.それで中国国内が沸騰するするほどに、上海閥が有利になり、現胡錦濤政権は不利になる.北京閥としては、何としても中国のメンツが立つ形で解決する必要に迫られた.
「だから温家宝はなりふり構わずエスカレートした対応をしたのだ」
そのやり方は、日本のフジタの社員に因縁つけて拘束し、人質とする方法である.これは本当に切羽詰って、手段を選んでいないことの裏返しである.温首相の強烈な国連演説は、日本に対してというより、中国国内向けのパフォーマンスである.逆に言うと、現政権はそれほどまでに追い詰められてナーバスになっているのだ.権力闘争の本番前に対日問題で厄介な事件がおきたわけで、これは自分達への非難と断罪のネタになってしまう.
今年の春までは、北京閥のほうが優勢であった.それは今年の中国の党人事からもうかがえる.
◎中国共産党各派閥の主な次世代指導者と役職
▽共青団派 (胡錦濤派)
・李克強 筆頭副首相
・李源朝 党組織部長
・汪 洋 広東省党委書記
・胡春華 内モンゴル自治区党委書記
・周 強 湖南省党委書記
▽上海閥 (江沢民派)
・孟建柱 公安相
・韓 正 上海市長
・黄奇帆 重慶市長
▽太子党 (高級幹部の2世など)
・習近平 国家副主席
・薄煕来 重慶市党委書記
・王岐山 副首相
・李小鵬 山西省副省長
中国 地方人事舞台に権力闘争白熱化 胡錦濤派・太子党躍進 凋落の上海閥
http://sankei.jp.msn.com/world/china/100426/chn1004262021008-n1.htm
尖閣問題が起きる直前に、温首相はNHKのインタビューに答え、興味深いことを言っている.
温首相、政治改革に言及 内部分裂激化の証しか
--------------------------------------------------------------------------------
【大紀元日本9月1日】「政治体制の改革を推進しなければ経済改革によって得られた成果が再び失われる」。中国の温家宝首相が8月下旬、改革開放のモデルとして実施して30年を迎えた深圳市を視察した際のこの予想外の発言は、国内外の高い注目を集めた。少し前に報道された中国国防大学トップの劉亜州将軍の現政治体制に対する厳しい批判に続き、温首相の政治改革への言及は、中共党内の改革派と保守派の闘争が一段と激しくなったことを示唆していると思われる。
中共は第13回党大会以降、政治改革への言及はしなくなり、それ以来あらゆる改革を「行政制度の改革」と位置づけてきた。今回、温首相が政治改革に明言したことは尋常な現象ではないと取られている。海外メディアの最近の報道によると、「太子党」を主体とした保守派が第18回党大会以降に望む人事は、習近平が総書記・主席で薄煕来が総理を務めるという「習薄ペア」だが、改革派は、「太子党」を権力の中枢からことごとく追い出し、現副総理の李克強が総書記・主席で現副総理の王岐山が総理を務め、王滬寧が宣伝部長を務めることを望んでいるという。
2012年の開会を控え、人事闘争がますます激しくなっている今、温首相の発言は改革派が態度を表明したものと読まれている。それを裏づけることとして、保守派は最近たびたび温首相の「民主」言論に反撃し、中国は絶対「三権分離」を実施しないと明言したことがある。
内部闘争が表面化
6月2日、温首相はNHKのインタビューを受けた際、政治改革を行うべきだと強調した。その内容として、「社会主義的民主政治の建設、公民の選挙権や知る権利や参政権や監督権を保障し、社会主義の法治を完備させ、法をもって国家を治め、法治国家を建設すること、社会の公平と正義を実現すること、人々の自由及び発展を実現するなど」を挙げた。
8月21日、温首相は深圳市を視察した際に、「経済改革ばかりではなく、政治改革をも推進していかなければならない。政治改革の保証がなければ、経済改革の成果も失われ、現代化建設の目標は成し遂げられない」と、政治改革について明言した。
8月初め、中国国防大学トップの劉亜州将軍は政治改革について、「10年以内に政治体制の転換が起こることを回避できない」と大胆に発言した。劉将軍はソ連の崩壊の例を挙げ、体制の改革を行わなければ「必然的に滅びる」と断言した。
一方、中共党内には従来から政治改革に反対する勢力が強く、中共宣伝部は5月に「人民日報」で「いくつかの重大な問題に答える」と題した長文を掲載し、中国では三権分立を行うことができないとしたうえで、「長い間、ごく少数派は三権分立という政治体制を鼓吹し、我が国の政治改革と司法体制改革の方向、さらには我が国の政治制度を根本から変えようとしている」と批判している。
中国の保守派はつねに温首相の言行を批判している。今でも左派のサイト「文革研究」には、元中共中央政策総合研究局長・張徳勤氏が09年に発表した「温家宝首相に対する六つの意見」が載せられ、温家宝首相が中国の特色ある資本主義思想をさらに発展させたなどと批判している。
温首相は2月22日に中央高官による新年のあいさつ会に出席した際、人間の「尊厳論」を言いだしたが、その後批判の波が激しく寄せられていた。軍の機関紙「解放軍日報」は軍関係者の文章を掲載、「尊厳とは実力でものを言う」ことや「国家の強大こそ最重要だ」とし、温家宝の「尊厳論」に反撃している。
保守派の異常な動き
中共内部において、改革派と保守派は常に論戦し合っており、その焦点は毛沢東に対する評価となっている。薄煕来が左派の領袖として「革命の歌を歌い、マフィア組織の取り締まりを行う」ことをもって国民の支持を得ようとしている。一方、改革派は毛沢東の諸問題をつねに言及しつつ、天安門事件で失脚した趙紫陽前総書記の功績を讃えるのである。「炎黄春秋」がその代表的な刊行物である。
左派の人たちは言論にとどまらず、さまざまな行動も見られる。たとえば、「真の共産党」を作ろうとすることや、各地で労働者によるストライキを企画、組織するなどである。このほど、各地で起きたストライキブームは実は、左派たちの「傑作」だったと言われている。特に日系企業をターケットにして民衆の感情を扇る狙いであるという。
政治改革は実現しうるか
一方、温首相および劉亜州の政治改革についての言論は、中共の延命のための一手法に過ぎず、その詐欺性を見抜くべきだとの論調もある。
海外中国語衛星放送・新唐人TVのコメンテーター竹学葉氏は、中共が政治改革を行うことは考えられない。たとえ政治改革を行っても、国民が望んでいるようには実現できず、ただ延命するための一手段に過ないと述べた。
政治評論家・三妹氏は、共産党独裁政府は機会主義と実用主義の段階に入っており、もう一人のゴルバチョフを生み出すことはないし、すでに手に入れた利益と権力を譲ることはないと考えている。かつての旧ソ連のインテリたちのように共産党を徹底的に否定するということがない限り、政治改革などは望めず、その場合は、中共が崩壊して初めて真の民主自由が実現できるのであるとしている。
上記記事をまとめると
@ 中国国内で人事闘争が激しくなっている
A 改革派と保守派の対立は国を二分するほどの勢い
B 毛沢東と趙紫陽に対する評価が指標になっている
C 今年の日系企業のスト騒動は保守派の煽動
D もはや中共が崩壊しないと改革できないとの意見もあり
「尖閣事件」とは、かような中国国内の下で起きた「事件」なのである.
▼ 日本の意図
日本の外務省や政府関係者は、かような中国国内の事情をよく知っている(はずだ).それなのに、何故わざわざ中国を怒らせ、胡錦濤−温家宝政権が窮地に陥るような対応したのか?
その答えは・・・
@ 事件当時は小沢対菅のチンピラの喧嘩の真っ最中であり、仙石や菅がこのような微妙な外交的駆け引きおよび中国事情に精通していたと考えがたい.つまり、関係者の手のひらで踊らされた可能性が高い.
A 事件を日本国内で政治問題化することで、防衛力整備計画における南西諸島への陸上自衛隊増員配置と海上自衛隊の潜水艦増強など、軍事的な予算増額の地ならしをする意図があった.
尖閣にらみ陸自増員 1万3000人 防衛省方針
防衛省が流動化する東アジアの安全保障情勢や国際テロ、災害への対処能力を向上させるとして、陸上自衛隊の定員を現在の15万5千人から16万8千人へ1万3千人増やす方向で調整していることが分かった。複数の防衛省、自衛隊関係者が19日、明らかにした。(3面に関連)
年末に策定する新たな「防衛計画の大綱」に盛り込みたい考えで、来年度から増員すれば1972年度以来、38年ぶりの規模拡大となる。
ただ主要国では領土侵攻の前に敵を食い止めるため海軍や空軍を重視し、陸上部隊を削減する傾向にある。財政難の中で経費負担の増大も避けられず、政府内の調整は難航しそうだ。
定員増は陸上幕僚監部の強い意向を踏まえ、防衛省内局で検討。陸幕は日本近海での中国海軍の動きの活発化に伴い、中国沿岸から距離的に近い南西諸島での島しょ防衛強化が特に必要と説明。天然ガスなど東シナ海の資源獲得をめぐる日中摩擦も生じており、政府、与党の理解が得やすいと判断したようだ。
具体的には、中国が領有権を主張する尖閣諸島への対応を視野に、防衛態勢が手薄とされる宮古島以西への部隊配備を検討。沖縄本島の陸自部隊は現在約2千人だが、これを2020年までに南西諸島を含めて2万人規模とする構想も浮上している。
防衛省によると、増員は前年度比で千人増の18万人とした1972年度が最後。96年度以降は減員傾向が続いているだけに、本年度比で1万3千人増とする今回の措置はこれまでの流れに大きく逆行することになる。(沖縄タイムス)
B この問題に米国を巻き込んで、鳩山政権下で傷ついた日米の同盟関係を強化する意図があった.事実、南シナ海問題で東南アジアと米国は連携を確認.日米も連携を確認し、クリントン長官は尖閣が安保対象と言及した.これで南シナ海から東シナ海まで米国を巻き込んだ中国包囲網が出来上がったわけだ.
C こじれにこじれた普天間問題を解決するには、沖縄県と日本国民が、中国の脅威を身近に感じて、基地の必要性を理解する以外に方法はない.今回の事件は絶好のネタである.
D 検察官証拠捏造事件をベタ記事化することができる(これはおまけ)
いかがだろう?
すべて日本の思惑通りにコトが進んでいる.かような日本の意図を理解し尽くしている米国は「いいかげんにしておけ」と日本政府に苦言したのである.その結果が船長解放なのだ.
このような視点から考えると、中国は外交的に大失態を犯したことになる.まずは、南シナ海と東シナ海を結ぶ対中包囲網形成のきっかけをつくったことだ.しかも米国まで巻き込んでしまった.
南シナ海領有権で中国けん制 米とASEAN首脳
【ニューヨーク=嶋田昭浩】米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)十カ国との第二回首脳会議が二十四日、ニューヨークで開かれ、マレーシアやベトナムなど一部加盟国と中国が対立する南シナ海の領有権問題について「平和的解決が重要」との認識で一致した。太平洋とインド洋を結ぶ海上交通の要路である南シナ海で軍事活動を活発化させる中国の動きを牽制(けんせい)した格好だ。
ホワイトハウスによると、オバマ米大統領とASEAN各国首脳は「南シナ海などでの航行の自由、地域の安定、国際法の尊重」を重視していくことで合意した。
また、オバマ大統領は、ASEANと日中韓、インドなどでつくり、来年はインドネシアで開かれる東アジアサミットへの参加を正式に表明した。(東京新聞)
結局、中国が長期的な外交戦略上の果実として得たものは1つもない.壊れかけていた日米同盟を復活させ、東南アジアから東シナ海に渡る対中包囲網を形成させ、尖閣が日米安保の対象であることを確認させ、日本の自衛隊が南西諸島に増員させることを後押しする結果をもたらした.
つまり、中国は自国の国内事情(権力闘争)を最優先にしたので、国家としての真の意味での外交的果実は度外視した対応をとった.そもそも船長の解放に何の意味があるのか?
それで中国の尖閣支配が強化されるわけではなく、かえって周辺国の警戒行動を刺激しただけであり、尖閣や南沙諸島への軍事的行動がやりにくくなった.国際的にも非難される下地を作った.
おまけに一連の強圧的な外交駆け引きは、国際社会から顰蹙をかい、対中警戒論を増強する結果となった.
過激中国、評判は失墜 各国メディア、警戒にじむ
【ニューヨーク=阿部伸哉】沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)沖の漁船衝突事件で日本が中国人船長釈放で幕引きを図ったことについて、米メディアでは、日本の外交姿勢より、経済力や資源をてこに強硬姿勢で押し切った中国を警戒する解説や分析が目立っている。
ワシントン・ポスト紙(電子版)は二十四日、中国側の強気一辺倒の対応に「共産党指導部の力が弱まり、人民解放軍や国営企業などが勢力を増した結果」と分析。今後は特に対日や対米で関係がこじれることになると予測した。
特に中国がハイテク製品に必要なレアアース(希土類)を禁輸したとの報道に米メディアは注目。三大ネットワークの一つ、NBCテレビ(電子版)は記者ブログで「中国からの輸入に頼る米国も打撃を受けることになる」と警告した。
日本側が「圧力に屈した」との見方は強いが、英誌エコノミスト(同)は「最終的には中国が過剰な攻撃性を示して評判をおとしめた」と指摘。「成熟した国際プレーヤーとは思えない行動で、『平和的な発展』は形だけにすぎないと分かった」と批判した。(東京新聞)
さて、わが日本のメディアは、この問題を朝から晩まで流し続けている.しかも対中感情が極端に悪化するような「コメント」や「分析」のオンパレードだ.その理由は既に述べたとおり、同盟の強化や基地問題の解決など、日本の懸案事項を解決するのに、中国という外圧を利用しているからだ.それには猛烈に国民感情を煽ったほうがよい.
ここで疑問なのは、いったい誰が「絵」を描いたのかということだ.おそらく外務官僚か防衛官僚であろう.民主党の代表選挙で右往左往している弱みを見計らって、菅と仙石をうまく躍らせたわけだ.国内の課題を菅・仙石内閣を踏み台して解決しようとしたわけだ.こんな悪知恵が働くとは、本当に日本の官僚機構は恐ろしい.
田中宇氏は対米従属派が前原を煽ったのではないかと分析している.確かにその可能性はある.しかし、田中氏の「分析」は単に対米従属派が前原を煽ってピエロに仕立てている構図のみ強調し、中国の国内事情や、もっとダイナミックなアジアを巡る外交の裏事情を解説していない短絡的な分析だ.そんな低クオリティでは、読者にそっぽを向かれるだろう(怒られるかな・・・)
いずれにせよ.これで中国国内はますます混沌化した.注目すべきは10月の第17期中央委員会第5回全体会議(5中全会)である.そこで北京閥と上海閥、太子党と団派の決着がつくだろう.

47