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2010年9月26日(日)付

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一括交付金化―まず配分基準を示そう

菅直人首相が、いわゆる「ひも付き補助金」を廃止して、省庁の枠を超えた一括交付金にする方針をすべての閣僚に文書で伝えた。政府は6月に閣議決定した地域主権戦略大綱に、来年度[記事全文]

再処理延期―核燃料路線の見直しを

青森県にある六ケ所再処理工場の本格操業が2年延期され、2012年となった。延期は18回目、当初予定の1997年からは15年遅れだ。再処理工場は原発の使用済み燃料からプル[記事全文]

一括交付金化―まず配分基準を示そう

 菅直人首相が、いわゆる「ひも付き補助金」を廃止して、省庁の枠を超えた一括交付金にする方針をすべての閣僚に文書で伝えた。

 政府は6月に閣議決定した地域主権戦略大綱に、来年度から段階的に導入すると書いたのだから、首相の姿勢は当然だ。けれど現実には、各省とも補助金の配分権限を手放したくないし、省庁の壁を超えた一体化など検討すらしていない。

 こんな各省にどう対応し、政治主導でどんな制度を実現するのか。まさに首相の実力が問われる。

 まず確認すべきは、先の民主党代表選で小沢一郎氏が語った「財源確保策」ではないという点だ。

 本来の狙いは、補助金行政の煩雑な手続きを簡素化しつつ、自治体が自由に使い道を決められる資金を増やすことである。つまり地域主権改革の一環なのだ。自治体の工夫しだいでは他の財源に回せる余地も生まれ、より充実した自治が実現していく。

 また地域主権改革の原点に立てば、一括交付金化の先にはその資金を自治体に渡す税源移譲があるはずだ。この基本姿勢を忘れないでほしい。

 その上で、具体的かつ丁寧な制度設計を急がねばならない。

 総額ざっと21兆円の補助金のうち、どれを交付金にするのか。学校でも保育所でも病院でもダムでも造れるような交付金を本当につくれるのか。国が自治体に守らせる基準と自治体の裁量枠との境界をどこに設けるか。そんな霞が関の内部調整すら容易ではない。

 同時に、もっと難しい問題がある。一括交付金を、どの省庁がどんな基準で自治体に配るのか、である。

 自治体の自由度が増すほど、個別の積算根拠はあいまいになる。それが自治体に渡す総額を削る口実になりかねない。だから積算や配分の仕方には、わかりやすい客観的な基準が要る。

 たとえば「面積と人口に比例、地域の経済力に反比例させ、これに高齢化率や積雪率も加味する」(政治学者の松下圭一氏)といった考え方が参考になるだろう。

 人口や経済力などのどこに比重を置くかで配分額は大きく変わるから、政府には財政学者らとともに10通りくらいの試算を示して議論を広げてほしい。具体像ができて初めて各省も自治体も制度論に乗りやすくなるはずだ。

 同時に、客観基準で配れば、自治体間の税収格差を埋めている地方交付税と似てくる。だが現行の地方交付税は総務省のさじ加減の部分があり、改善すべき点も多い。

 幸い、片山善博総務相は地方交付税の現状を酷評してきた自治のプロだ。この際、一括交付金の制度設計とともに地方交付税改革も断行し、地域主権改革のねじを巻き直してほしい。

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再処理延期―核燃料路線の見直しを

 青森県にある六ケ所再処理工場の本格操業が2年延期され、2012年となった。延期は18回目、当初予定の1997年からは15年遅れだ。

 再処理工場は原発の使用済み燃料からプルトニウムを取り出す。日本の核燃料サイクル路線の要の施設だ。試験運転中だが、放射性廃液とガラスを混ぜる工程がうまく動かない。

 遅れに遅れている核燃料サイクルだが、当分の間、展望は開けない。

 ちょうど今年は原子力政策の基本方針である「原子力政策大綱」(05年策定)の改定期だ。

 前回の策定では「使用済み燃料は全量再処理し、高速増殖炉で使う」という現路線のほかに、「使用済み燃料は再処理せずに捨てる」(直接処分)や「一部は直接処分」など複数のシナリオを考え、経済性や資源節約の点から、かなり本格的に比較した。

 その結果、全量を再処理するのは直接処分より割高で、発電コストを1割上げることがわかった。

 だが原子力委員会は「今から路線を変更すると過去の投資が無駄になり新たな研究も必要だ。施設立地地域との信頼も崩れる」という「政策変更コスト」の考えを持ち出し、「変更の必要なし」とした。一つの視点だが、これではたいていの政策は変わらない。

 それから5年たったが、状況はむしろ厳しくなっている。

 核燃料サイクルで使う高速増殖炉は今年、原型炉「もんじゅ」が14年ぶりに運転を再開したが、すぐ故障した。次の実証炉を建設するのが電力業界なのか、国なのかも決まっていない。

 日本のサイクル路線の問題は、その硬直性にある。

 コスト高やプルトニウム管理の難しさから撤退する国が多いなかで、日本は全量利用を基本とし、高速増殖炉で使うという一本の道しか用意していない。1970年代には多くの国がとった路線だが、今や現実味が薄い。

 もっと柔軟な政策にすべきではないか。今でも一部の使用済み燃料をしばらく保管する「中間貯蔵」をしているが、これを大幅拡大し、直接処分も考えるなど選択肢を広げるべきだ。

 原発建設計画にも課題がある。

 欧州連合と米国で昨年つくられた発電設備は、どちらも発電能力の割合で39%が風力だという。新設に費用と手間のかかる原子力は「選択肢の一つ」になっている。

 日本のエネルギー基本計画では、現在の54基に加えて、20年までに9基、30年までに14基以上の新増設をめざす。これまでもそうだったように、過大な計画ではないだろうか。

 発電の30%を担う原子力は日本の社会を支えている。時代の変化を踏まえて、役割の大きさにふさわしい合理的な政策に直していくべきだ。

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