尖閣諸島付近領海内の中国漁船衝突事件で、那覇地検が中国漁船船長を処分保留で釈放したことに、県内の漁協関係者からは政府に毅然(きぜん)とした対応を求める声が上がる一方、県内に住む中国人からは今後の日中関係への影響を心配し、複雑な心情ものぞかせた。
八重山漁協の上原亀一組合長は「捜査を尽くしたと信じたい。日本政府の対応が試されている」と慎重に言葉を選びながら語った。また、宮古島市の友利義文伊良部漁協組合長は「釈放は理解できない。漁業者が安心して操業できるよう、国は中国政府にしっかり対応してほしい」と求めた。
石垣市観光協会の宮平康弘会長は「尖閣問題が長引けば領土をめぐり日中だけでなく台湾や香港もいがみ合うことになりかねない。八重山は台湾からの観光が伸びているだけに心配したが早く結論が出てほっとした」と胸をなで下ろした。
県内の大学に通う20代の中国人女子留学生は「中国で連日テレビやネットで反日的な報道に接していると、中国人としての民族意識が芽生えるようになる。日中のどちらが正しいかは分からないが、釈放によって中国の人たちは反日感情の影響に振り回されずに済む」と歓迎。「日本に住んで6年になるが、この問題で両国が緊張関係になるたび複雑な心境になる」と心情を語った。
沖縄と中国の交流をサポートする日本沖縄華僑華人総会の田祖辰会長は仲介した30人以上がキャンセルし、観光への影響が長引くことを心配していた。「本来、民間同士の交流と政治は関係がないはず。沖縄県民は冷静に対応してくれた。友好関係が前進するようにまた努力したい」と話した。
中国ビジネスのコンサルタント事業などを手掛けるスペースチャイナ(那覇市)の佐藤未雲社長は「日中関係の悪化が続けば、商用ビザの発行に影響が出るのではないか心配していた」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
尖閣問題に詳しい緑間栄沖縄国際大名誉教授(国際法)は、今回の検察庁の対応を「へっぴり腰」と表現する。「中国船が故意にぶつかってきたビデオがあるなら公開すべきだった。事故処理もあいまいなまま幕引きするのはおかしい。大変悪い先例をつくった」と指摘した。
八重山署 大わらわ
報道陣大挙 驚く市民
【石垣】釈放された中国人船長は25日午前1時50分ごろ、拘置されていた八重山署からワゴン車に乗せられ、チャーター機が待機する石垣空港に向かった。ワゴン車は内側からカーテンが閉められ、船長の姿は確認できなかった。
同署には海上保安官や中国政府関係者とみられる男性がたびたび出入りした。建物の前には警官が1人配置され、警備に当たった。正面玄関前方には報道陣のカメラがずらりと並び、周辺では帰宅中の学生や市民らが物珍しそうに署内の様子をうかがっていた。
近隣に住む観光業の男性(22)は「全国から来ているんだ」と報道陣の人数にびっくり。船長の拘留については「中国と同じ文化を持つ台湾からの観光客が増えている状況で、台湾からの客の感情面への影響が心配だった」とする一方、処分保留には「ウミンチュが安心して漁ができなくなるのではないか」と懸念した。
市内の飲食店従業員の男性(39)は「八重山が好きなので関心があるし、国民として釈放の瞬間を見たかった。(今回の処分保留は)将来的な転換点とならないか」と不安げに話した。