赤門からプロスポーツの道へと突き進む。久木田が“合格通知”に満面の笑みを浮かべた。
「本当にうれしい。一日でも早く試合に出て、チームの勝利に貢献したい」
93年のJリーグ開幕から18年目で、東大出身のJリーガーは初めて。しかも、日本協会が大学所属のままJリーグの試合に出場できる特別指定選手として承認したため、“現役東大生Jリーガー”としてピッチに立つ可能性もある。
東大出身のプロスポーツ選手は、物珍しさから騒がれるのが宿命だ。しかし、「注目してもらえるきっかけがあるのはいいこと。でも、実力で結果を出したい」とキッパリ口にした。
「東大出身初のJリーガー」は、4年間意識してきた目標だった。忘れられない言葉がある。「誰も挑戦したことのないことにこそ価値がある」。07年の東大入学式で、現東大先端科学技術研究センターの福島智教授(48)が読んだ祝辞だ。目が見えず、耳も聞こえない「盲ろう者」として、世界で初めて常勤の大学教員となった同氏の言葉に決意を固めた。
母校・熊本高入学時は「成績は平均以下。でもコツコツ勉強した」。サッカーは県大会8強が最高で、もちろん代表歴もない。しかし、大学2年からはアパートにテレビも置かず練習漬けの毎日。東京V、鹿島などJ各クラブの練習にも参加した。獲得を決めた岡山の池上GMは、「スピードがあって球際も強い。真面目で努力する選手」と期待する。
「スポーツと街づくり」を研究テーマに大学院に進学するか、最後まで考えた。「進学試験の受験料も払ったけど、結局受けなかった。後悔はしない選択はできていると思います」。退路を断って、新たな人生へと一歩を踏み出す。(丸山汎)