「WBA世界フライ級タイトルマッチ」(25日、東京ビッグサイト)
25日、いよいよ運命のゴングが鳴り響く。王者・亀田大毅(21)=亀田=が、元同級王者・坂田健史(30)=協栄=と対峙(たいじ)する初防衛戦。ジム同士のトラブルを乗り越えて実現する因縁対決に注目が集まる中、元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎(40)が23日、デイリースポーツに特別寄稿し、大一番の行方を徹底分析した。94年12月、薬師寺保栄との日本選手対決でボクシング史に残る激闘を繰り広げたベテランは、自身の経験などをもとに、大毅の『戦術』、坂田の『精神力』が勝負のカギを握ると言い切った。
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今回の世界戦は、自分も興味がある試合だ。勝敗がどうなるかというのもあるけど、2人の戦い方が気になる。
精神的には坂田の方が大きなプレッシャーがあると思う。また、元王者としてや、元同門が相手という意地もある。意地を持つ人間は強い。鋼のような心は簡単には折れない。
ファイタータイプの2人は、ともにオールラウンドプレーヤーではない。それだけに、打ち合いになると想像されがちだ。しかし、互いに手の内は知り尽くしている。それならば、もし自分がトレーナーなら、逆転の発想をするだろう。
短い距離で相手に迫るフック系のパンチで前へ出て、相手を下がらせるのではなく、強いジャブ、左ストレート、ワンツーを多用して突き放す。(体勢をすぐに立て直せる)ウィービングやスウェーバックをさせないようにする。両者ともフットワークを使えるタイプじゃないから、強いジャブを3、4発と打って相手の進撃を止め、自らの攻撃へつなげる。
この考え方は両選手ともに有効だが、2人の大きな違いは、坂田はパンチの回転が速く、大毅はパンチ力があること。強いジャブという部分で言えば大毅が有利だが、坂田は一発で相手を止めることはできなくても、コンパクトな手数がある。また、プロとして10年以上のキャリアと対応力もある。
強じんな精神力を持ち、しかもチャレンジャーである坂田が簡単に下がることは考えにくい。だからこそ、大毅は強い左を連打して、相手ガードの上からでも強い右を打つ。「打ち合う」のではなく「打ち離す」「打ち散らす」イメージだ。
「因縁の対決」を意識しすぎないことも大切だ。自分も薬師寺保栄との対戦が「因縁」と騒がれたが、少なくとも自分自身は他の選手と対戦する時と気持ちは全く変わらなかった。
大毅は王者としてドッシリと構えていたらいいだろう。「来いや、いわしたる!」ではなく、「意地があるって?だから何?」くらいの余裕を持っていないと、相手のペースに巻き込まれ、想定していたことが頭から消えてしまう。戦術をしっかり立てて、冷静にそれを全うすることが重要だ。=敬称略 (元WBC世界バンタム級王者)