沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件で、那覇地検は逮捕・送検された中国人船長を処分保留で釈放し、船長は帰国した。
釈放自体をどう見るか。那覇地検が釈放理由の一つに「外交上の配慮」を挙げたことをいかに評価するか。また、菅政権の外交力の判断や今後の取り組みへの注文は……。各紙社説の主張は大きく分かれた。
毎日は「釈放によって、日中の緊張した関係が緩和される方向に向かうことを期待したい」としつつ、釈放決定の「不透明さ」に疑問を呈した。
特に、地検の外交配慮は「異様」だとし、検察独自の判断とされることに疑問を投げかけ、事実なら「検察が外交に口を出したことの当否が問われる」と述べた。また、釈放は「中国の外交攻勢に押されての決定という印象」はぬぐえず、「政府の外交姿勢に対する不信を招きかねない」と指摘。再発防止に向けた環境づくりを求めた。
朝日は「大局的な判断であり、苦渋の選択であった」「高度な政治判断」と釈放自体は前向きに評価。一方、中国が圧力を強めた時期の釈放決定には「疑問が残る」とした。そのうえで事態の「最終的な着地点を描けていたのか」と、船長逮捕や拘置延長の判断に関して「民主党外交の甘さ」を指摘した。
読売は「日本政府として筋を通せなかった印象はぬぐえない」などと政府に説明を求めたが、釈放や経緯についての踏み込んだ評価、批判はない。
釈放そのものを強く批判したのが産経、日経、東京各紙だ。
特に産経と東京が激しい。産経は「どこまで国を貶(おとし)めるのか」と題し、釈放は「千載に禍根を残す致命的な誤り」「これほどのあしき前例はなく、その影響は計り知れない」などと酷評、尖閣諸島領有の意思を明確にするため、ヘリポート建設、自衛隊配備などを求めた。東京も釈放は「大局に立つ賢明な決定とたたえることは到底できない」「歴史に残る愚かな決定」と厳しく批判した。
一方、日経は「唐突な釈放は厳正な法律の適用・執行といえるのか」と「深刻な懸念」を表明した。日経、東京両紙は同時に、毎日同様、検察による政治判断も問題視した。
各紙は、多岐にわたる論点で比重の置き方や評価の程度が異なる。だが、船長逮捕から釈放に至る一連の経緯で明らかになった菅政権の問題処理能力、危機管理能力に強い疑問を表明した点で一致している。
【論説委員・岸本正人】
毎日新聞 2010年9月26日 2時30分