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山本弘
山本弘
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2010年09月25日

「可能性を生み出しただけでアウト」に異議を唱える

今、『アイドルマスター』のファンの間で「9.18事件」が大きな衝撃を巻き起こしている。
 この日の東京ゲームショーで、『アイドルマスター2』の新たな内容が明らかになったのだが、ここで二つの事実がファンを激怒させたのだ。

1.律子、亜美、あずさ、伊織の4人はNPC扱いでプロデュースできない。
2.ライバルとしてイケメン男性ユニットが登場。

 いや、こりゃダメだ。そんなに熱心な『アイマス』ファンではない僕でも、「そらあかんわ」と思うよ。特に1。普通、新作は前作より機能がアップしてるもんなのに、前作よりキャラクターを削ってどうする。律子や伊織のファンは泣くだろ。
 こういうファンの想いを踏みにじる決定を下せる人間がいるというのは、信じがたいことである。
 2もダメだ。そんな新要素、ファンの誰も望んでないだろう。女性層を開拓したかったのかもしれないが、それなら別のゲームを作ればいいではないか。
 さらに1と2の合わせ技で、「何で律子や亜美やあずさや伊織をリストラして、代わりにこんな連中を入れるんだ!?」と、ファンの怒りが爆発するのは必至。そんな当然のことも予想できなかった制作者たちは、いくら非難を浴びてもしかたなかろう。

 とまあ、ここまでは僕も理解できるのだ。

 問題はその先。

 9月19日、ニコ動に「総統閣下がアイドルマスター2にお怒りのようです」という動画がアップされた。よくある総統閣下の出てくる嘘字幕ものなんだけど、これが4日間で40万再生を超えるヒットになったのである。
 その中にこんなフレーズが出てくる。

「描写がなければいいという話じゃない。可能性を生み出しただけでアウトなんだよ」

 今、この「可能性を生み出しただけでアウトなんだよ」というフレーズが共感を呼び、大流行しつつある。23日の時点でgoogleで検索したら9000件以上ヒット。たった今(25日午後6時)検索したら23000件以上に増えていた。まだまだ広がりそうな勢いである。
 要約するとこういう意味だ。
『アイマス2』の制作スタッフは、ゲーム中で男性ユニットの誰かとアイドルが恋愛関係になったりする描写はないと断言している。しかし男性キャラクターを登場させたら、必ずそれをアイドルとくっつけてエロエロな同人誌を作ったりする奴が出てくるに違いない。ファンにしてみれば恋人を寝取られたようなもの。こんな可能性を生み出した奴を許せない……というのだ。

 は?

 すみません。ぜんぜん理解できません。

 たとえば、複数の男性キャラが登場する健全なマンガを元に、18禁BL同人誌を作る者は大勢いる。
 あるいは小学生や中学生の女の子が出てくる健全なアニメを元に、エロ同人誌を作る者もたくさんいる。
 当然、そういうものを不快に感じる人もいるだろう。
 でも、それは原作者の責任か?

 違うやろ? 何もないところに勝手に「可能性」を見出してるのはファンの方やろ?
 もっとぶっちゃけて言えば、君ら自身が「俺の○○ちゃんが男とあんなことやこんなことを!」と勝手にエロい妄想してるだけやろ?
 その責任をネタ元の作者に押しつけて非難するって、おかしいんとちゃう?

「可能性を生み出しただけでアウトなんだよ」と主張する人たちの文をいくつか読んでみたんだけど、筋が通らないことばかりである。
 たとえば「男性キャラを出すのがダメなら涼はどうなるの?」という当然のツッコミが浮かぶわけだが、『DS』は番外編だからかまわないんだとか、相手が夢子だからいいんだとか、苦しい言い訳がされている。
 いやいや、あのストーリーからすると、真あたりとくっつく「可能性」もあるよね?(ゲームの中ではともかく、妄想の中では) その「可能性」は無視していいの?
 さらに言うなら、わざわざ公式で男性キャラを出すまでもなく、すでに『アイマス』のエロ同人誌なんて山ほどあるんじゃないの?

 僕ら創作者にしてみれば、「可能性を生み出しただけでアウト」というのは、実に恐ろしい主張である。作者が具体的に描写しなくても、ファンが勝手に「可能性」を嗅ぎつけただけで「アウト」だと判定されるというのだ。方広寺の鐘ですかい。
 そんなめちゃくちゃな主張が許されるなら、どんな作品も創れなくなってしまうではないか。

 これは『かんなぎ』事件やマンガ版『ラブプラス』事件と同じ流れだ。どちらも作中に具体的な描写があったわけでもないのに、一部のファンが勝手に、ヒロインに男性経験があると妄想し、エキサイトして「中古」「ビッチ」などと罵倒しまくった。
 特に『かんなぎ』事件の場合、作者が女性だけに、受けた精神的ダメージは大変なものだっただろうと想像する。
 僕も正直言って処女は好きだ。作中に登場させるヒロインも、多くは処女だ。
 でも、処女厨は大嫌いだ。
 特に男性経験のある女性を「中古」「ビッチ」などと罵る奴はサイテーだ。処女膜がないというだけの理由で女性を蔑視するのは、心の狭い差別主義者だ。だから『かんなぎ』事件の時は、何の罪もない作者がかわいそうで、すごく腹が立った。
 趣味を楽しむのはいいが、それは妄想の中だけにしろ。実在する人間の人格を傷つけるな。

 ちょっと前にあったこの事件もそう。

平野綾がテレビで恋バナ解禁! ファンが怒り狂い殺人予告まで?
http://getnews.jp/archives/70924

 ファンの間では「平野綾には恋人がいない」と信じられていたのだそうである。んなわけないだろ(笑)。アニメキャラならともかく、実在する生身の女性だよ。22歳で美人なんだから恋人ぐらいいて当然だよ。
 しかし、そうした自分で勝手に創作した脳内設定を事実と混同していた連中が、それを否定されて激怒し、「殺す」とまで言っているのだ。
 頼むから現実とアニメの区別をつけろ。こなたやハルヒと違って、平野綾はいつまでも処女じゃない。

 さらにまずいのは、こんな主張を認めたら、ゲームやアニメを規制しようとする連中に格好の口実を与えてしまうことだ。

「ゲームをやっていると現実とゲームの区別がつかなくなる」

 そういうことを主張する連中がいる。僕らはそれに対して、「いやいや、ゲーマーは現実とゲームの区別ぐらいついてますよ」と擁護してきた。
 でも、そうではないらしい。
 世の中には、虚構と現実の区別がつかない者が大勢いるのだ。自分の妄想を現実のゲームやマンガの内容と混同し、妄想を根拠に腹を立てている者たちが。
 これはヤバい。彼らの存在は、規制反対派のアキレス腱になりかねない。
 たとえば、そうした連中が暴走して刑事事件を何度も起こしたら、これはもう規制推進派にとって美味しすぎる材料となるだろう。「それ見ろ、やっぱりゲームをやってるとこうなるんだ」と。
 さらに、「可能性を生み出しただけでアウト」だという論法を認めるなら、「非実在青少年の出てくるエロマンガを読んでいると実際に性犯罪に走る可能性がある」「だから禁止しろ」という主張に対して、反論できなくなってしまう。だって、具体的な根拠がなくても、「可能性」があるというだけでアウトなんだから。
「可能性を生み出しただけでアウト」という言葉に賛同する者たちは、それが敵方の武器として使われる危険性に気づくべきだ。

 繰り返すが、僕は『アイマス2』の制作者たちを擁護するつもりはまったくない。やっぱり間違ってると思う。批判されて当然だ。
 しかし、「可能性を生み出しただけでアウト」という主張に対しては、創作者の一人として、断固として異議を唱える。
 作中で描かれていない部分に関して、読者がどんな妄想を描くかなんて、作者には想像もつかない。ましてやそんなもんに対して責任も取れない。それは妄想する側の責任だ。

参考:
ゲーム「アイマス2」にファン衝撃 内容変更しろとネットで大合唱
http://tv.jp.msn.com/news/article.aspx?articleid=411610


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