2010年09月25日

予想通りではあったけれど

「漁船衝突 中国人船長を釈放へ 「日中関係を考慮」」

というニュースが飛び込んできて驚いた人が多かったと思う。僕は、この結果はある程度予想をしていたものの、最悪のタイミングでこのような処理をしたことに驚いた。どうせこのようなことになるのだったら、どうしてもっと早く決断しなかったのだろうと思った。

イラクで人質事件が起きたときに、解放の条件として「自衛隊の撤退」というものが入っていた。そのとき、マル激では宮台真司さんが、この人質事件によってもはや自衛隊は絶対に引くことができなくなった、というような判断を語っていた。それは、そのタイミングで自衛隊が撤退するようなことがあれば、たとえ違う判断で撤退を決定したとしても、世の中の見方は、テロリストの圧力に屈して撤退したのだと見てしまうからだ、と説明していた。撤退そのものには、様々な議論ができるだろうが、あのタイミングでは、絶対にひいてはいけないものになってしまった、と語っていた。

今回の事件は、このような結論を出すタイミングとしては、事件が起こった直後というものが一つ考えられたのではないかと思う。そのときは、まだ中国は具体的な対抗措置を執っていなかったので、法的に判断して、事件として立件することが難しかったからと言っても、まだ通用したかもしれない。しかし、これは完全な公務執行妨害だと主張してしまったために、そのような処理ができなかったように思われる。
このとき、中国は直ちに報復措置を執って、民間の旅行の自粛という手に出たが、これはまだ国家的なものと言うよりは、国民が自主的に行っていたものというニュアンスが強かったのではないかと思う。この時点で、日本のメンツがつぶれないような形での収拾ができないか、中国と水面下で交渉すべきだったのではないかと思う。外交カードとしては、明らかに日本が弱そうに見えたので、譲歩するのは仕方がないと感じたが、それが表面化しないようにしてくれと交渉することはできたのではないだろうか。

しかし、日本政府はあくまでも対抗する方向を選んだように見えた。そのため、中国は国家的な対抗措置を執ってきたように見える。レアアースの全面禁輸というものは、中国が国家レベルで行った対抗措置であって、これは誰の目にも圧力に見える。こうなると、かつてのイラクの時に自衛隊撤退という選択肢がなくなってしまったように、船長の釈放という選択肢も消えてしまったように見えてしまう。ここで釈放をしてしまったら、誰の目にも、圧力に屈して釈放したと見られてしまうからだ。釈放するなら、このタイミングではなく、何とかメンツがつぶれないような下交渉をしてから釈放するしかなくなってしまったか、果たしてどうするのだろうか、ということを注目していた。

アメリカでクリントン国務長官の言葉を取り付けに行ったのも、難しい下交渉を何とかするために行ったのかな、とも僕は思っていた。何とかアメリカに間に入ってもらって、中国と交渉できないか、という道を探ったのではないかと。しかし、結果的には最悪のタイミングで、予想通りに事件をうやむやにするような船長の釈放ということになった。これは、最悪のタイミングではあるけれども、もっと遅れると、さらに悪い状況になるという判断から、やむを得ずここで決断したのではないかと思う。今回は、日本の外交は完全な敗北だったのだろう。

「「極めて愚か」「外交的敗北」=自民など一斉批判、公明は評価―中国人船長釈放」

というニュースには、

「自民党の安倍晋三元首相は衆院議員会館で記者団に「極めて愚かな判断だ。領海侵犯であることは明々白々で、中国の圧力に政治が屈した」と厳しく批判。石破茂政調会長は「菅直人首相と前原誠司外相が(訪米で)不在だ。いかなる判断に基づいて決めたのか国民に説明する義務がある」と述べた。
 みんなの党の渡辺喜美代表も記者会見で「明白な外交的敗北で開いた口がふさがらない。菅内閣の弱腰外交を糾弾していかなければならない」と断じた。たちあがれ日本の平沼赳夫代表は「中国の領有権を認めたことになりかねない」と懸念を示し、共産党の志位和夫委員長は「国民に納得のいく説明を強く求める」との談話を発表した。」

という記述があり、誰が見てもこんな風に思うだろうなと感じた。ただ、このニュースでは、

「一方、公明党の山口那津男代表は会見で「日中関係をこじらせることは誰も望んでいない。法的な主張をぶつけ合うよりも、政治的な解決をしていくべき場面に転じた」と評価した。」

という報道もあり、今後の公明党の動きを予測させるような印象を受けた。民主党は公明党と手を組むのかな、と。

今回のことは、外交においても、外務省主導のやり方ではもはや結果的に国益を損なう方向に行ってしまうと言うことを示したのではないかと思う。ここに政治主導という面を入れなければならないのではないかと思うが、菅政権にはその力がないことが露呈してしまった。これを見て、果たして国民は小沢さんの登場を期待するだろうか。菅政権には期待はできないけれど、小沢さんにはまだ期待を抱くことができると思うだろうか。それとも、やはり小沢さんは嫌いだから出てきてほしくないと思うだろうか。だが、そのときは、いったい日本の方向の舵取りは、誰に委ねればいいのだろうか。かなり絶望的な状況になってしまったという感じがする。

日本は今のところこんな状況だが、僕は今後の中国の対応が気になる。中国は、この日本の屈服に対して、暴君のような支配者として傲慢な態度で接してくるだろうか。もし、中国が外交上手な国だったら、これ以上日本を惨めにしない方向で外交的な融和を図ってくるのではないだろうかとも思う。中国としては、自分たちの主張が通ったという結果があればいいのであって、必要以上に日本人に恨みを残さないように配慮するのではないだろうか。それでも、日本人の中国に対する嫌悪感は残るだろうが、さらにそれを挑発するようなことは今後は避けるのではないかと思う。それが外交というものではないかと思うからだ。日本を屈服させることが中国の目的ではないと思う。日本の存在は、中国にとっても大事であり必要を感じていると思う。それが、自分たちにとって有効に働くようにすることが、頭のいい対応になるのではないかと思う。

中国は頭のいい国だと思うので、そんな対応をするのではないかと感じているのだが、そういう風にしてきたら、中国という国の力は日本を遙かに上回っているのではないかとも感じる。そういう国と外交で対抗しようとすれば、よほど頭のいい人間が対策を練って、しかも度胸が据わった対応をしなければならないだろうと思う。現在の菅政権にはそれができなかったと言うことがよく分かった。

もし中国が、傲慢に、日本など鼻にもかけないという態度に出てきたら、中国も本当の大国ではないということになるので、このときは、むしろ将来的に日本の外交が中国を上回る日が期待できるかもしれないと思う。だが、今後中国が大人の対応をしてきたら、今のところは恐れ入るしかないかなと、この事件の顛末を見て感じた。

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/khideaki/52194873