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夕張 9千票の選択

<上> 新リーダー 乱戦終え融和も課題 (2007/04/24)

 財政再建団体となった夕張市長選は、市内外から七人が出馬する乱戦の末、地元生まれの藤倉肇氏が新リーダーに選ばれた。投票総数九千の選択は、どんな未来につながるのか。選挙戦を振り返り、今後、本格化する再建の道筋を展望する。

 「しっかりバトンタッチさせてもらいます」「市民と力を合わせて、一年でも早く再建を達成してください」

 夕張市長選に初当選した藤倉氏は投開票から一夜明けた二十三日、夕張市役所で当選証書を受け取ると、すぐ応接室に後藤健二市長を訪ねた。二人は旧夕張北高の同級生。間もなく市庁舎を去る後藤氏も、心からの笑みを浮かべた。

異例の結集

 三月二十九日夜の藤倉後援会発足式は、夕張の政治地図を良く知る市民を驚かせた。大物道議として知られた故石川十四夫氏の娘婿と、石川氏を落選に追い込んだこともある元道議・葛健二氏が後援会幹部として同席。石川直系の前市議も、市長選に出馬した千代川則男氏と同じ会派だった縁を振り切って藤倉陣営に参加した。

 従来の常識では考えられない「呉越同舟」。夕張市政に影響力を持つ「主流派」は、千代川氏支持に流れた市農民協議会など一部を除き、こぞって藤倉氏を支援した。財政破たんを招いた旧市政との決別は必要とする一方、始動したばかりの再建計画の全面変更も望まない。そんな既存勢力にとって最適の候補が、夕張出身で企業再建経験も豊富な藤倉氏だった。

 旧友の後藤氏も手を差し伸べ、自らの後援会の中軸を担う連合夕張に支援を要請、支持決定につなげた。ただ、こうした経過は一部市民の目に「旧態依然の組織選挙」「街を破たんさせた旧市政の継承」と映る反作用を呼んだ。

羽柴氏猛追

 さらに「二千人規模の企業を五社誘致」「私財を投じるくらいの気持ちで市政を担う」とする青森県の会社社長・羽柴秀吉氏の主張も、今後十八年間の「耐乏生活」を恐れる有権者の心をつかみ始めた。日を追うごとに熱気を帯びる羽柴氏の街頭演説。「複数の中小企業誘致」など現実的な公約を掲げていた藤倉氏周辺に、焦りが募った。

 「このままでは危ない」と感じた陣営は、最後の賭けに出た。十九日夜、藤倉後援会の幹部は総決起集会を中座し、空知管内選出道議の稲津久・公明党道本部代表や同党支持母体・創価学会の地元幹部と会談。羽柴陣営の強烈な追い上げによる窮状を訴え、表向きの「自主投票」を覆す全面支援の約束を取り付けた。

 北海道新聞の出口調査では、結果的に公明党支持層の六割が藤倉氏に票を投じた。次点の羽柴氏との差はわずか三百四十二票。藤倉選対幹部は「市内で基礎票が千票と言われる公明票がなければ、負けていた」と苦しげに明かす。

 「大きな耳で市民の声を聞く」をスローガンに掲げた選挙戦は結局、組織頼みに終わったかに見える。市職員は半減し、公共施設の休止や住民負担増に苦しむ市民。藤倉氏以外に票を投じた六割に及ぶ有権者の声を、どう市政に反映するのか。財政再建団体として、難しいかじ取りを迫られる新市長は、街を七分した乱戦の果てに「市民融和」という課題も抱え込んだ。

(横井正浩)

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