現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 国際
  4. 国際支援の現場から
  5. 記事

上海万博開催地で起きたこと、起きていること

2010年9月24日

  • アムネスティ・インターナショナル@上海

写真上海市 (c)Dubin写真上海万博予定地に掲げられた万博のテーマ「より良い都市、より良い生活」 2009年(c)Dubin写真女性活動家たち 一番左が金月花さん (c)Dubin写真立ち退きによって壊された自宅跡地にたたずむ男性 (c)Dubin

 「より良い都市、より良い生活」をテーマに、2010年5月に始まった上海万博も残すところ2カ月を切りました。この6カ月間の一大ショーを行うために、上海万博予定地に1万8千世帯が強制立ち退きを余儀なくされました。

上海での大規模な強制立ち退きは2000年から始まり、上海万博事務協調局は2005年から、上海の中心部に位置する、会場予定地に住む2万人近くの人びとを移住させ始めました。

アムネスティの調査では、こうした強制立ち退きに反対し、居住権を求める女性活動家への人権侵害が報告されています。

■女性活動家が標的に

 上海市民の金月花(Jin Yuehua)さんは、居住権を求めて闘う多くの女性活動家の1人です。しかし、その活動により、金月花さんは中国当局による弾圧の標的になっています。

 「私の自宅は、ここ1カ月ほど、制服警官ひとりと市の治安部要員四人に監視されていて、食料を買いに出かけたり、友人に会ったりすることもできません。」と金月花さんはアムネスティ・インターナショナルに語っています。金月花さんは上海で居住権を求める女性活動家グループのメンバーで、メンバーのほとんどが50代、60代の女性です。立ち退きに反対する運動へ参加することで、女性たちは嫌がらせを受けており、投獄されている人もいます。

 閔行区(びんこうく)にある金月花さんが経営する家電製品の店は、不動産開発業者によって取り壊されました。そのせいで、ひとり息子を大学へ通わせるという金月花さんの夢は打ち砕かれました。金月花さんの取り壊し反対の訴えが聞き入れられることは一度もありませんでした。こうした金月花さんの活動に対し、地方当局は金月花さんを何度も拘禁したり、自宅軟禁にしたりなど、嫌がらせを続けました。そのため、金月花さんの経済状況はさらに悪化し、金月花さんの息子はとうとう高校を退学しなければなりませんでした。

■住まいと生活は保障されるべき

 中国の土地の所有権は国家に帰属しているため、公共利益のためとして、土地を接収することが可能です。しかし、国は、その土地を使用していた人びとのその後の生活についての責任を負っているはずです。にもかかわらず、立ち退きを強制された人びとの補償がなされていないという実態があります。また、土地を接収する際の手段や強制立ち退きを迫られた人びとによる抗議に対し、かなり暴力的な対応が取られており、人道的見地からも問題があります。

 国際法においては、中国も批准している社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)第11条項において、生活水準について言及しています。その中には居住の権利も含まれます。そこでは、各国はその権利の実現のために適切な措置をとる必要があり、そのためには国際協力が重要であることが述べられています。権利実現のための社会権規約委員会における一般的意見第4(1991)では、「十分な住居に対する権利」が報告されています(E/1992/23, Annex III)。また、一般的意見第7(1997)では、「強制退去」について述べられています(E/C.12/1997/4)。ここで、すべての人は強制退去、嫌がらせ及びその他の恐れに対する法的保護を保障するだけの保有の安全を享受すべきであるという見解を示しました。

■万博の意味と各国の役割

 「国連が参加する本当の価値は、現代化と都市化のバランスという課題に取り組むユニークな事例であるホスト国の住民から我々が何を学べるかという点にある」と国連万博代表のAwni Behnam氏は話しました。「万国博覧会」であるからには、中国一カ国で成り立つものではありません。万博国際事務局(BIE)に参加している世界各国々は、地元住民がどのような課題に直面しているのかを真剣に検討し、改めて万博によってもたらされる影響について、より深く考慮していく必要があります。

 「強制立ち退きによって個人や家族、地域が被った人的被害やトラウマから立ち直るのは容易なことではありません。強制立ち退きは女性をはじめとする弱い立場の人びとに最も大きな被害をもたらすものなのです」とアムネスティのアジア太平洋副部長ロジーン・ライフは強調しています。

◆執筆者

(アムネスティ・インターナショナル日本 中国チーム 若宮ちひろ)

■ ワンクリックで世界を変える!

上海「万博難民」―強制立ち退きと闘う女性たち―

アクションにぜひ参加してください!

<インフォメーション>

9月25日(土)集会のご案内

「劉暁波はなにをしたのか――中国の獄中作家について考える夕べ」

 あなたは、中国の著名な文芸評論家・劉暁波氏のことを知っていますか。彼は文芸評論家であり、詩人であり、そして民主化活動家でもあります。彼は今年2月に「国家政権転覆扇動罪」で懲役11年の判決が確定し、現在は獄中にあります。

しかしその罪の内容は、中国の民主化を求める「08憲章」の起草に中心的な役割を果たした、ということだけでした。

北京五輪や上海万博を経験し、中国経済は活況を呈しているようです。しかし他方では残念なことに、劉氏のように、言論の自由を行使しただけにもかかわらず捕らえられた「獄中作家」が、中国には数多くいます。劉氏がかつて会長を務めた「独立中文ペンクラブ」の皆さんが、国際ペン東京大会にあわせ来日します。

 この機会に、劉氏の救援活動に力を入れているペン・アメリカンセンター(米国ペンクラブ)の皆さんも交え、劉氏の行動やその作品について語り、彼のような獄中作家のために私たちは何ができるのか考えます。

日時:2010年9月25日(土)17時45分開場、18時開始、21時終了予定

会場:早稲田奉仕園リバティホール(新宿区西早稲田2−3−1)

   地下鉄東西線「早稲田」徒歩5分、地下鉄副都心線「西早稲田」徒歩8分

電話:03−3205−5411

 アクセスMAP

<内容>

劉暁波氏の活動の紹介、作品の朗読、言論の自由をめぐる中国の最新状況の紹介など

発言予定:廖天キ(作家、独立中文ペンクラブ会長)、馬建(小説家)、楊煉(詩人)、クワメ・アンソニー・アピア(哲学者、ペン・アメリカンセンター会長)ほか

参加費:1000円(学生500円)

主 催:アムネスティ・インターナショナル日本

    独立中文ペンクラブ(独立中文筆会)

問合先:アムネスティ・インターナショナル日本 東京事務所

電 話:03−3518−6777

電子メール:〈amnesty−china@hotmail.co.jp〉

●劉暁波(LIU Xiaobo)

1955年中国長春市生まれ。著名な文芸評論家、詩人、民主化活動家。北京師範大学で修士号を取得後、同大・オスロ大・ハワイ大で中国現代文学を教える。その間に博士号取得。米国コロンビア大に客員研究員として滞在中の1989年に民主化運動の発生を知り、帰国。6月2日から天安門広場でのハンストに参加。同月4日の武力鎮圧のさなかでは、犠牲者をできるだけ出さないように動いた。その後1991年まで「反革命罪」で投獄される。出獄後も文筆活動を続けるが、たびたび拘束を受ける。中国の民主化を訴える「08憲章」の起草を中心的に担い、2008年12月に発表するが、このことが基で「国家政権転覆扇動」容疑で2009年6月に逮捕される。その後の裁判で懲役11年・政治権利剥奪2年が確定。現在も獄中にある。

●独立中文ペンクラブ〈独立中文筆会)

言論・表現の自由を求める中国内外の中国語作家たちによって、2001年に結成。同年、国際ペンへの加盟を認められた。劉暁波氏が2003年から2007年まで会長を務めた。

PR情報
検索フォーム

おすすめリンク

「これは重要なニュースなのか」「こらからどうなるのか」−−最新の中東ニュースについて、中東駐在の川上編集委員が答えます。

一色清さんの記事を配信中。第一線の論客と朝日新聞の専門記者60人が、「タイムリーで分かりやすい解説」を提供。

AIDSの正しい知識を身に付けるために…

国際支援の現場から


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介
  • 中国特集