尖閣諸島沖での衝突事件は船長の釈放決定で「幕引き」が図られたが、領有権問題を抱える周辺諸国は日中の神経戦を注視した。
韓国メディアは船長の釈放決定を「中国の報復に日本が白旗」と速報。聯合ニュースは「日本は国内法による起訴と判決という先例を残すことに失敗した」と指摘し、「日本の経済がどれほど中国の報復に弱いかを露見させた」と伝えた。韓国は日本と共に領有権を主張する竹島(韓国名・独島)問題を抱え、中国に理解を示す向きもある。しかし、ある政府関係者は「尖閣諸島が紛争地とみなされるのを避けようとし、中国による経済圧迫も懸念したのだろう」と妥当な判断との見方を示した。
一方、尖閣諸島(台湾名・釣魚台)の領有権を主張する台湾の馬英九政権は、早期解決が図られたことに安堵(あんど)しているようだ。中国寄りでも、日本に弱腰でも批判を受け、また、中国との共闘は安全保障上の支えである日米を刺激しかねない。13日に尖閣諸島に向かう抗議船に乗船した台湾の民間団体「中華保釣(尖閣防衛)協会」の黄錫麟総幹事は毎日新聞に「釈放しなければ緊張は一層高まり、日中台が皆、傷を負うことになった」と日本の決定を評価した。
中国との間で南シナ海領有問題を抱えるベトナムのメディアは連日、日中の対立を報道。24日は一斉に船長の釈放決定を速報した。
ベトナムは、東南アジア回帰を明確にしたオバマ米政権を巻き込んで中国への対抗姿勢を強める戦略で、日本時間25日未明の米・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議では、米国の南シナ海問題への関与を改めて強調する見通しだ。それだけに、日本が米国から「尖閣は安保の対象」との確約を取り付けながら、中国に妥協せざるを得なくなったことにショックを受けている可能性がある。【ソウル西脇真一、台北・大谷麻由美、バンコク西尾英之】
毎日新聞 2010年9月25日 東京朝刊