中国人船長釈放 これで互恵と言えるのか

 これが日中の戦略的互恵関係の発展への努力なのだろうか。何とも釈然としない思いが残る。
 沖縄県・尖閣諸島周辺で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件で、公務執行妨害の疑いで逮捕、拘置されていた中国人船長が24日、処分保留のまま釈放されることが決まった。
 政治決着と言うほかない。経緯を振り返れば、それが浮き彫りとなる。
 船長逮捕後、中国政府は丹羽宇一郎大使に抗議を繰り返した。閣僚級の交流停止などの対抗措置も連発した。
 これに対し、日本政府は「中国漁船の違法行為は明白で悪質」として日本側の正当性を強調、仙谷由人官房長官は中国政府の異様な強硬姿勢に「遺憾」の意を表明した。
 菅直人首相は「日中双方の努力で戦略的互恵関係が発展することが必要だ」と述べ、中国側に自制を求めると同時に日本側も冷静な対応が重要との認識を示した。
 来日中だったアーミテージ元米国務副長官はこうした日本側の姿勢を評価し、「中国が、どこまで許されるのか日本を試している」と語った。日本が法治国家として衝突事件に粛々と対応するのは当然のことだった。
 ところが、事態は沈静化とは逆の方向へ動く。国連総会出席のためニューヨークを訪れた温家宝首相は、船長の「即時、無条件釈放」を要求、受け入れられない場合には追加対抗措置も辞さない考えを明らかにした。
 23日には、ハイテク製品の生産に不可欠な希少資源「レアアース」(希土類)の中国による事実上の対日禁輸措置が発動されていること、さらに河北省の軍事管理区域への侵入、撮影容疑で邦人4人が中国当局に取り調べを受けていることが判明する。
 そして24日の船長釈放の決定である。このタイミングは国際社会にはどう映ったことだろう。仙谷官房長官は、釈放を検察独自の判断とし、那覇地検は「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮した。福岡高検、最高検との協議で決めた」と説明した。
 日本側は危険なゲームを「大人」として降りて、中国政府に貸しをつくったつもりなのかもしれない。
 しかし、その大人の振る舞いが、中国国民に誤ったシグナルを送ることにならないかと危惧(きぐ)する。
 今回の「考慮」で、今後、日本は尖閣に領土問題は存在しないと言い続けることができるのだろうか。衝突事件と同じような事件が再び起きた時はどう対処するのか。政府は国民に説明を尽くすべきだ。
 加えて、衝突事件を撮影したビデオの公開を望みたい。中国と国際社会に真相はしっかりと伝えねばならない。

新潟日報2010年9月25日

日米首脳会談 「深化」の道筋が不透明だ

 菅直人首相とオバマ米大統領がニューヨークで会談した。対中国関係での緊密な連携と日米同盟の強化で一致した。
 中国漁船衝突事件で緊迫する日中関係に配慮し、日米の円満さの演出に力点が置かれたようにも見える。
 日米間の最大の懸案である沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題は5月の日米合意を再確認するにとどまり、踏み込んだ話し合いはなかった。率直に言って物足りなさが残る。
 中国問題が現在の日本にとって最大の外交課題であることは間違いない。アジア太平洋地域の安定を保つ上からも、中国にメッセージを送ることの意味は否定しない。
 だが、普天間は日米関係を大きくきしませ、結果として鳩山政権を行き詰まらせたほどの重い課題だ。先送りや棚上げは許されまい。
 確かに打開への展望を開く道のりは険しい。移設先とされた名護市の市議選で受け入れ反対の市長派が圧勝した。11月の県知事選まで、日米両政府の協議は事実上ストップ状態だ。
 だからといって、日米首脳会談が、両国関係立て直しだけに終わっていいはずはない。菅首相はオバマ大統領の「難しい課題であることを理解する」の言葉に満足してはならない。
 民主党政権がまいた種だ。責任を持って収拾に当たってほしい。日本政府と地元の話し合いが前提である。
 そのことと併せ、日米両政府は沖縄の負担軽減のために真剣に汗を流す姿勢が求められる。いつまでも手をこまぬいていれば、結果は最悪の「普天間固定化」につながる。
 日米は昨年11月、日米安全保障条約改定50年となる今年に「同盟の深化」を図ることで合意した。
 世界を視野に入れる中で日米安保をどう位置付けていくかが、その議論の核心となる。自衛隊と米軍の連携強化だけではない。
 中国問題、北朝鮮の核や拉致、東アジア共同体構想における日米協調は基本に据えるべきだろう。普天間問題を乗り越えてこそ、そうした新しい日米関係が現れてくる。
 政権交代から1年が経過した。だが、「同盟の深化」への道筋は見えてくるどころか、霧の向こうにかすみつつあるかのようだ。
 問いたいのは、民主党、菅首相の外交に戦略はあるのかということだ。美辞麗句や玉虫色の言葉はいらない。行動で示してほしい。
 オバマ大統領は11月にアジア太平洋経済協力会議のため来日する予定だ。3度目となる首脳会談では具体的な成果が得られるよう、日米の対話を強化していく必要がある。

新潟日報2010年9月25日

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