猫を償うに猫をもってせよ

2010-09-25 横山孝一氏に送った手紙 このエントリーを含むブックマーク

 住所が分からないので勤務先へ送っておいたからまだ見ていないかもしれないので公開書簡にしてしまう。

拝啓

 ようやく暑さも和らぎ始めたようですが、いかがお過ごしでしょうか。

 さて、平川祐弘先生より、先生の書かれた『へるん』の文章の複写を送ってこられました。いくつか、事実誤認がありますので、拙著二冊とともにお手紙さしあげます。

 たとえば、私がまるで昭和天皇の戦争責任を追及しているようにお考えのようですが、そうではありません。私は身分制に反対なだけです。また平川先生を「天皇崇拝家」と「非難」はしていません。平川先生は、近著『日本語は滅びるのか』を見れば分かる通り、森有正のようにフランス文化に心酔してフランスに居ついてしまった人はバカにするのに、ハーンは礼讃するのですから、明らかにウルトラ民族主義者です。平川先生は、アーサー・ウェイリーの『源氏物語』英訳が出たことで、チェンバレンの名声が地に落ちた、と書いていますが(『アーサー・ウェイリー』)、そんな事実はないし、明治期には芳賀矢一すら『源氏』を猥褻だと言っていたのですから、チェンバレンとウェイリーの違いは単なる世代の違いに過ぎません。また平川先生は日本が神道の国であるかのごとくに言うのですが、神道などというのは宗教とはいえないと思います。日本は仏教国です。平川先生はチェンバレンが近代天皇制をこしらえものだと書いたのが気に入らないのです。

 また、「ウルトラ民族主義者」や「ナショナリスト」ではない、と平川先生が言われるので、では天皇崇拝家でしょう、と問うとなぜか答えないのです。太田雄三氏が英文の『チェンバレン』で批判した点にも答えていません。私は何でもお答えしますので、疑問がありましたらメールを下さい。アドレスは××××です。

 どうぞよろしくお願いします。お元気で。

                                  敬具

                                  小谷野敦

横山孝一様

九月二十二日

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しかし、私が天皇制に反対らしいと思うと脊髄反射的に、戦争責任を追及しているのだと思ってしまうあたり、ウィキペディアを見たって分かりそうなものだが、まあ修士青学、博士中大ではしょうがないか……。(学歴差別ではないよ。学歴差別というのは、学歴が低いから、能力があっても認めないこと。この場合は能力が低いのだから差別ではない)

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近くの図書館に「利用カードは登録者のみが利用できます。ご家族の間での貸し借り、友人への貸出、第三者への貸与や譲渡はできません」とあるのだが、変な文章である。まず「第三者」というのはこの場合、図書館、利用者以外の人という意味だから変。それに、借りた本は所有物ではないから、譲渡ができないというのは当然である。それに、同居家族間で見せるくらいはいいのではないかと思う。まあ同居していない家族のことだろうが。