尖閣諸島沖での衝突事件をめぐって、那覇地検は公務執行妨害の容疑で逮捕、拘置していた中国漁船の中国人船長を、処分保留で釈放すると発表した。唐突な釈放は厳正な法律の適用・執行といえるのか。深刻な懸念を抱かざるを得ない。
今回の決定は、少なくとも中国の揺さぶりを受けて事態を収拾した印象を与えた。圧力をかければ司法手続きも中断すると国際社会に思われたとすれば、日本の外交・安全保障に重大な影響を与えかねない。
不可解な検察の決定
那覇地検次席検事は「とっさの行為で計画性は認められないが、故意に巡視船に漁船をぶつけたのは明白」と説明しており、船長が否認を続けても起訴できる証拠は整っていたようだ。
犯罪行為があったと検察が認定しているのに容疑者が否認すれば、20日間の拘置期間をいっぱいに使って調べを続ける。さらに否認のまま起訴に至れば、初公判まで起訴後拘置で身柄を拘束する。そうした検察の通常の捜査手法に比べると、拘置期間の途中に事実上の不起訴を決めて釈放するのは異例である。
釈放の理由を次席検事は「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮した」と述べた。これは変だ。検察庁は政府の一機関だが、個別の事件の捜査・処分は司法権の行使に密接に関係するものであり、政治的な思惑から独立が要請される。
そもそも検察官に「今後の日中関係」がどのようなものになるのが望ましいのかを判断する権限はない。「わが国国民への影響」にしても、現状を分析し将来の動向を予測する能力はないだろう。次席検事が言う「考慮した」とは、政府の意向をくんだことと考えざるを得ない。
仙谷由人官房長官は「那覇地検独自の判断だ」と述べたが、どのような経緯で今回の決定に落ち着いたのか、政治による介入の有無も含めて検証が必要だ。
こうした形の決着は日中関係にとって、その場しのぎにはなるかもしれない。だが、長い目で見れば、禍根を残すことになりかねない。
尖閣諸島の領有権を主張する中国政府は船長を即時無条件で釈放するよう求め、圧力と受け止められる措置を繰り出していた。
閣僚級以上の交流の暫定停止などを決めたほか、21日から日本向けのレアアース(希土類)輸出が止まった。河北省で軍事管理区域に侵入しビデオを撮影したとして、ゼネコン「フジタ」の日本人社員4人が拘束されている。
このタイミングで日本が司法手続きを中断し船長を釈放したことで、中国側は他の問題でも圧力をかければ日本は譲歩すると考えるようになっても不思議ではない。
海上保安庁の巡視船に船をぶつけるという無法な行為がおとがめ無しとなると、今後、尖閣諸島周辺で中国漁船の活動がこれまで以上に盛んになるおそれもある。海上保安庁の士気を損なうことも心配だ。
23日にニューヨークで開いた日米の首脳、外相の会談では、ひとまず日米連携を確認した。船長釈放で緊張が当面ゆるんでも、長期的に見れば日米の結束を強める努力がさらに必要になる。
クリントン国務長官は前原誠司外相との会談で、尖閣諸島も日米安全保障条約の対象になるとの原則を示した。これに続く菅直人首相とオバマ大統領の首脳会談でも、「西太平洋の海の課題について緊密に協議していく」ことを申し合わせた。
欠かせない日米の結束
クリントン長官が公式な会談の席で、尖閣諸島に日米安保条約が適用されるという立場を明示した意味は大きい。尖閣諸島は日本固有の領土であり、安保条約の対象に含まれることは当然だ。裏返せば、こんな原則すら高官レベルで再確認しなければならないほど、日米関係が鳩山前政権下で傷ついたともいえる。
今回の会談で結束を示せたとはいえ、気がかりな点もある。オバマ大統領は「中国は経済的に発展している。中国との協力関係は重要だ」と指摘した。米政府高官からも日中対立の対話解決を望む声が出ていた。
米政府としては安保条約上、尖閣諸島の防衛に当たる義務があることを確認しながらも、東アジアで新たな紛争を抱えたくないのが本音だろう。アフガニスタンなどでの戦争で米国は軍事的に消耗している。中国はそうした米側の事情を見すえ、日米同盟にくさびを打つ動きも見せている。ゲーツ国防長官の訪中を招請したのも、その表れだろう。
今回の問題はアジアの海に多くの火種が潜む現実をあぶりだした。これらの問題に対応するには日米の結束や、中国の軍拡への懸念を共有する東南アジア諸国との連携が欠かせない。一方、中国との対話も深める必要がある。菅政権は早急に外交を立て直さなければならない。
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