September 05, 2010

Collection 218 - JK Place Capri


 JK Place Capri_01Capitano Giuseppe (カピターノ・ジョゼッペ) の船を降りて、Capri (カプリ) に上陸した私は、憧れていたホテルのラウンジへ向かうことにした。Marina Grande (マリーナ・グランデ) 港から歩いて5分程であろうか。少し小高い位置にあり、人々やタクシーが行き交う港の喧噪が遠くなっていった。

旅友Sが Firenze に住んでいたとき、P.zza S.M.Novella (ピアッツァ・サンタ・マリア・ノヴェッラ) に面したホテル “J.K. Place (ジェイ・ケー・プレイス)” の “The Lounge (ザ・ラウンジ / Collection 054)” にランチに連れて行ってくれたことがあった。そして、そのホテルが “J.K. Capri (ジェイ・ケー・カプリ)” として、Capri に存在していることを知ったのは2年前のこと。2007年にオープンした際に、私もCapri を訪れていたのだが、Anacapri (アナカプリ) のホテルを予約していたので、全く気付いていなかった....。


 JK Place Capri_02旅友Sも「プライベートホテルだから、ラウンジに入れるかな....」と声を漏らしたが、蒼い空と海に映えるアイボリーのホテルに入っていった。入口では、“J.K. Capri” の CI カラーである淡いブルーのジャケットを身に付けた男性が快く挨拶をし、「ラウンジでドリンクを飲みたいんだけど....」と伝えると、奥の海が間近に見える席を案内してくれた。美しい顔立ちの彼は程よく日に焼けていて、南イタリア特有の大らかさを感じさせた。外にはよく手入れのされたプライベートプールの周りに木製のシェーズロングが並べられ、優雅な休暇を彷彿させた。


 JK Place Capri_03案内されたラウンジのシートからは、蒼い海を一望することが出来た。空を飛び交うカモメが、時にはラウンジの手すりで羽を休め、私たちと共に時間を過ごしたのであった。建物の中のラウンジも非常にセンスが良い。インテリアデザインは、Firenze に拠点を構える Michael Bönan (ミッシェル・ボーナン)。洗練された上質な空間をデザインする建築家だ。Collection 207 の Portrait Suits (ポートレイト・スイーツ) を手掛けた人物であり、もちろん Firenze の “J.K. Place” も同様である。 彼のデザインはハイエンドであるが、熟知した歴史的で文化的知識と現代のモダンをバランスよく計算することで独創的なインテリアを生み出していることが特長といえるだろう。


 JK Place Capri_04建物の外観のような、アイボリーのファブリックをまとったウィングチェアには、爽やかなブルーのクッションが置かれ、そのブルーのテキスタイルが Capri に滞在していることを再認識させてくれる。深い海のような紺色に塗られた空間には多数のアートが飾られ、手元のテーブルには、センスの良いビジュアルブックが揃い、贅沢な時間を過ごすには最適な場所をいえるだろう。地中海の流れを感じる異文化が融合したようなインテリアは、時代・文化の錯誤を感じさせ、その領域のない感覚が不思議と居心地が良い。ラウンジから続くダイニングもホワイトに統一されたチェアにブルーのクッションがコーディネートされ、インテリアの調和を上手く合わせている。


 JK Place Capri_05外のラウンジにプロセッコが運ばれてきた。崖下の海岸からは子供達が海遊びをする宝かな声が聞こえ、ゆっくりと日の落ちる Capri の風景が目に入った。風の当たりもちょうど良く、喉を通るプロセッコがたまらない。....しかし、そうそうゆっくりしている時間はない。青の洞窟と海遊びは諦めていたものの、Capri のフレグランスショップである “Carthusia (カルトゥーシア/ Collection 012)” には立ち寄りたいと考え、そろそろ出掛けようか....と席を立とうとすると、先ほどの美しい男性が「もう少し待ってくれれば、Capri の中心地までホテルの車を出しますよ。」と声を掛けてくれた。私達は宿泊客ではないので、断ろうとすると彼は笑顔で「構いませんから。」と付け加えた。そんな言葉に甘えて、車が出発する時間をラウンジで待つことに。しばらくして、ホテルの名前が書かれた車に通され、街に車が入れるところまで送ってもらった。さすが素晴らしいホスピタリティーのホテル。やはり価格は高いので、なかなか宿泊はできないが、いつか.....と心に決意し、その気持ちに深く感謝をした。


 JK Place Capri_06私達は “Carthusia (カルトゥーシア)” に立ち寄り、目的のプロダクトを手に入れて、タクシーで急いで Capitano Giuseppe の元に戻った。本当に短い時間の滞在であったが、何度訪れても心が洗われる島だ。前回の2度も最大の目的であった青の洞窟に入れなかったのだが (しかもベストシーズンに....)、今回も時間的に厳しかった。2度あることは3度ある.....とはよくできた言葉で、前向きな私はまた Capri が呼んでいる.....と勝手に判断するのであった。
 
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Collection 217 - Capitano Giuseppe

Ravello から Amalfi の海岸線に戻る頃には、太陽は真上に位置していて、私たちの移動の時間が迫っていた。


Capitano Giuseppe_01前日から旅友Sが船着き場の男性にいろいろと話を聞いている光景は目にしていて、Sは私にこう言った。「シーズンだと料金が €1200.00 の小さなクルーザーをオフシーズンだから €700.00 で目的地まで連れて行ってくれるって言うんだけど。」と。旅のディレクションを担当する私は「1人 €100.00 か....。」と考えた。次の目的地は、Amalfi から定期的に出ているという Capri (カプリ)行きの船に乗船し、Capri で少しだけ探索してから、再度、本土であるSorrento (ソレント) に船で渡り、そこからタクシーに乗ってホテルに宿泊することになっていた。しかし、大荷物を抱えた大人が7人.....ガラガラと石畳を引き摺るように連なり、停泊しては荷物を預け.....、想像するだけでかなりの疲労感を予測することができた。私はメンバーの女性にその話を持ちかけると、さすが第一線で働く女性ばかり.....「荷物も預けていられるんでしょ?じゃクルーザーにしましょ。」と話は早い。


Capitano Giuseppe_02Ravello に向かう朝に、旅友Sと値下げ交渉係として任命されたIさんは、先ほどSが話していた男性のところに2人で向かい、私たちは港のベンチから遠巻きにその姿を眺めていた。「オフシーズンとはいえ、交渉は難しいかな....」と話していたのだが、15分程して戻った2人は「€700.00 が €650.00 になったよ!」と笑顔を見せた。そして私たちは安心をして、Ravello に向かったのであった。

Amalfi の港に到着すると、旅友Sの指揮系統により、ホテルに荷物を取りに向かう班と、街で船上ランチ用の食物を調達する班に分かれた。私は荷物をSに任せていたので、Amalfi のDuomo の方に脚を向けた。するとIさんが「Duomo の側にパン屋さんがあったと思います!」と教えてくれたので、格式の高そうな内装のパン屋さんに入っていった。そこは "Pansa Amalfi 1830 (パンサ・アマルフィ・1830)" というパティスリーだ。私はそこで人数分のサンドイッチと水、そして密かにプロセッコを1本忍ばせることにした。カウンターでは大きなトレイに丁寧にサンドイッチを並べ、店名の入った包装紙につつんでリボンまで掛けてくれた。リボンとは、何だかスペシャルな感じがして、大人になっても嬉しいものだ。私たちは港に戻り、荷物班を待ち構えていると、タクシーからガラガラと仲間が降車してきた。そこに合流し、すでに停泊しているクルーザーに乗船するために船着き場へと続いた。


Capitano Giuseppe_03乗船する前に、交渉係の男性に全員から集金した €650.00 を支払い、全員が船に乗り込んだ。旅友Sは「操縦するのは Giuseppe (ジョゼッペ) さんだって。みんな Capitano (カピターノ) って呼んであげてね。Capitano って英語でキャプテンのことね。」と話した。Capitano Giuseppe は寡黙であったが、信頼の出来そうな大柄な男であった。船はきれいに清掃されていて、私たちは船上を裸足で歩くことにした。とにかく荷物から解放された私たちは海風を肌で感じながら、第一の目的である Capri に向かうこととなった。.....しかし、クルーザーでテンションが上がりながらも、空腹の私たちは早速、先ほど購入したサンドイッチのリボンをほどき、プロセッコで乾杯をした。私はモッツァレラチーズとトマトが入ったシンプルなものを選んだが、このパンが美味しい......イタリアでこんなにパンがおいしいと思ったことはない。海の青さが際立っているせいか、喉を通る感覚も爽やかに感じるのであった。


Capitano Giuseppe_04Capri に到着するまでは、撮影をしながら、周りの風景を記憶しようとした。そんな時、私は船の最後尾にある旗が目についた。イタリア国旗のなかに4つに分割されたマーク。ひとつは 先日から港でも見かけていた Amalfi のシンボルだ。ブルー地にホワイトの十字のようなシンプルなものだ。「この旗は....」とSに聞くと、「イタリアの海洋都市のシンボルじゃない?だってVenezia (ヴェネツィア) と Pisa (ピサ)もあるし、あとは Genova (ジェノヴァ) でしょ。」と教えてくれた。この歴史も非常に興味深く、私の知的探究心を突いてきた。今でもその旗を大切に誇りとしていることが、何だかイタリアらしい。

1時間は過ぎただろうか、口数の少ない Capitano Giuseppe が「Capri が見えてきた。」と教えてくれた。程なくして、Capri の Marina Grande (マリーナ・グランデ) 港のプライベート用の船が停泊する港に到着すると、私たちは2時間だけ街を散策することになった。Capitano Giuseppe は船で荷物を預かっていてくれる。本当にクルーザーで来て良かった.....とこの時に実感をした。観光客が多い Marina Grande 港の石畳を、人ごみをかき分けて、荷物を預けるところを探して.....恐ろしい。きっとメイクも汗ではがれ落ち、全員がボロボロになったことであろう。私たちはCapri で目的としていたホテルやショップを周り、短い時間ではあったが十分に満喫をしたのであった。このストーリーは後日改めて。


Capitano Giuseppe_05私たちは時間通りに船に戻り、この日宿泊する予定のホテルに近い小さな港に向かうスケジュールであった。ところが旅友Sは渋い顔をして、Capitano Giuseppe と話している。「Casa Malaparte (カーサ・マラパルテ) に立ち寄れるか?って聞いてみたんだけど、方向が逆だから時間的に厳しいってさ。」と。Sは、以前から私が気になっていた Capri にある建築、Casa Malaparte を見ることができるかどうかを確認していたのである。私はその気持ちが嬉しかったのだが、日も落ち始めた時間でしょうがないとあきらめるのも当然であると思った。Casa Malaparte とは、Capri のマッスーロ岬にあるイタリア人作家兼ジャーナリストのCruzio Malaparte(クルツィオ・マラパルテ) の別荘だ。彼の死後、現在に至っては別に私有され、一般公開はされていないために陸路で見ることができないのだ。私は、Jean-Luc Godard(ジャン=リュック・ゴダール)の「軽蔑」(1963年)のシーンで目にしてから、一度訪れたいと思っていた建築だ。.....が、今回の船旅を割安で引き受けくれた Capitano Giuseppe に迷惑はかけられない。すぐに次の目的地に気持ちを切り替えたのであった。しばらく、波が少し高くなった航路を堪能しながら、全員の口数が減った。程よい疲れと満足感が旅情を感じさせたからだろうか?そして、しばらくすると Capitano Giuseppe が小さな声で「......Malaparte......」と言った。私とSは驚いて、彼が指差す方向を見ると、高い崖上の木々の隙間からオレンジ色の外壁を望むことができた。口数の減っていた私たちであったが「あ〜!」と全員が声をあげた。Capitano Giuseppe は立ち寄ってくれたのだ。そしてしばらく船を停泊させて、あらゆる角度からその建築を見せてくれた。何とも言えない感動と本物を目の当たりにした私は、船の手すりに身を乗り出し、カメラに収めていった。


Capitano Giuseppe_06最後は、Faraglioni(ファラリオーニ)と呼ばれるカプリ島の離れ岩の景色を眺め、目的地である海岸の小さな桟橋に到着した。寡黙な海男、Capitano Giuseppe は全員の荷物を船内から降ろし、私たちに会釈をしてからすぐに Amalfi に戻っていった。良く磨かれた船と気の利いた行動.....彼の性格がよく表れている船旅になった。私たちはそこから手配をしていたタクシーに乗り込み、何とも言えない喜びに満ちた顔でホテルへと向かっていった。
 
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September 04, 2010

Collection 216 - Ravello


Ravello_01Amalfi からバスに乗り、高台の方に位置する街 Ravello (ラヴェッロ) に向かうことにした。私の目的はただひとつ。以前から崇敬している建築家 Oscar Niemeyer (オスカー・ニーマイヤー:Collection 028 ) が設計をした Auditorium (オウディトリウム:音楽堂) が完成に近づきつつあるという情報を耳にしていたので、その建築の近くまで行ってみようという話になったのだ。Salerno から Amalfi に移動する船上から、それらしき建築物は目に入っていた。崖上にそびえ立つ白く優しいラインを描いたオブジェのようなデザイン。海上から、旅友Sと「多分あれに違いないよね....」と確認し合いながら、近くで見ることのできる期待感を高めていった。


Ravello_02ブラジルに憧れていたが、なかなか訪れるチャンスが無い中、Oscar Niemeyer の建築を実際に見るということに高揚感は上昇するばかりで、バスが進む山道も心地の良いものに感じた記憶がある。バスは Ravello の街の手前で停車し、私たちは前日の船から見えた方向に歩き始めた。10分程で、白く有機的な外観をした Auditorium が目に入ってきた。

Ravello は夏を向けると、音楽の街となり、映画や美術といった文化的なイベントが開催され、世界中から多くの人々が集まってくるそうだ。人々はワインを片手に、その情緒や風景を楽しむということであるが、何とも非常に贅沢な時間ではないか。Oscar Niemeyer の Auditorium は、その最高な季節を目指して工事を進めているのであろう。


Ravello_04私たちは入口側に向かうと、まだ工事中のようで中に人影は感じられないものの、Amalfi 独特の風景であるロバが、不要になった土をトラックの荷台に運ぶ光景が見えた。海岸から高台まで激しい岩肌を望む土地柄のせいか、昔からロバは作業や運搬には欠かせないようで、特産物であるレモンを運ぶ重要な役割も担っていたようだ。狭い道路では、車と共に縦列駐車.....いや、縦列駐ロバだってする。そして、その従順に移る目が、Amalfi の情景をより穏やかなものと感じさせていた。昔から現代まで続いていること.....もちろん最先端とはほど遠いが、そのゆっくりとした時の流れが逆に安堵感を憶えるものであった。


Ravello_03旅友Sが「ちょっと中を見学できるかどうか確認をしてみるよ。」と、作業をする人を探し始めた。何かイタリア語で会話をしているような音がかすかに聴こえたが、私は Oscar Niemeyer の仕事に出会えた感動と何とも言えない気持ちが押し寄せていた。Sがゆっくりと戻ってくると「今、責任者が居ないから、見学を許可することはできないらしいんだけど、少し見えるところまでなら見てもいいって言うことなので、入口の階段上がったところまでね。」と言って、中にあるレストスペースのような建物まで覗くことができた。ガラス越しの壁面には Oscar Niemeyer のスケッチが描かれていて、1人で無上の喜びを感じていた。近くには行けないが、メインである Auditorium の美しさを目に焼き付けた。Ravello に訪れた目的を達成できたのだ。


Ravello_05その後は、街を散策し、絶景が見えるという Villa Cimbrone (ヴィッラ・チンブローネ) に向かった。よく手入れされた庭園には、美しい藤棚が青い空と重なり合い、海から舞い上がる潮風が心地良い気分を作りだしてくれた。手すりから下はすぐに Amalfi の海が広がり、優雅なひとときだ。しばらくして、庭園内にある Hotel Villa Cimbrone (ホテル・ヴィッラ・チンブローネ) のテラスで、プロセッコとフルーツで乾杯をした。Oscar Niemeyer とロバ、そして天空庭園と呼ばれる Villa Cimbrone.....に乾杯の瞬間。悪くない時間だ。

最後の Amalfi の時間を満喫したのであった。
 
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August 28, 2010

Collection 215 - Positano


Positano_01翌日、Amalfi の港から定期的に出ている Positano (ポジターノ) 行きの船にのり、ランチと散策のために出掛けることになった。船は観光客であふれ、ほぼ満席の状態だ。人々はカメラを手に、その青い海や海岸線に連なる美しい建物を収めていった。しかし何故だか時間が止まったかのような不思議な場所だ。私は現代に生きながらも、目に入る古典的な建築物を眺め、二度と同じところを流れることのない風が肌に染みていく感覚を憶えた。

Positano は、イタリアのカンパーニャ州・サレルノ県の小さなコムーネだ。その小さな街に私は深い旅情を感じていた。なぜ引きつけられるのかは自分でも不明であるが、以前から訪れたい街であった。


Positano_02この日は波も緩やかで太陽の日差しも心地よいものに感じられた。船がPositano の港に停泊すると、すぐ横の浅瀬では、家族で海遊びをする姿が目に入った。私たちは船を降りると、Positano の街を散策することにした。坂上に向かい、小さな街並を眺めながら、Positano の風を感じた。途中でレモンのグラニータ(イタリア風かき氷)を買い食いしながら、散歩を満喫した。その後、海岸沿いに出て、港から一番近い Hotel Covo dei Saraceni (ホテル・コーヴォ・デイ・サラチェーニ) のテラスでランチを取ることにした。このホテルは、インフィニティプールを備えた素晴らしいホテルである。私たちは前菜は採れたての魚をシェアすることにし、プリモは各々に好きなものをセレクトした。私は、シンプルなボンゴレ・ビアンコをオーダー。テラスから覗く海岸線では、雲行きが怪しくなるものの、ランチが終わる頃にはまた晴れた青い空を見ることができた。


Positano_03私たちは海岸線のカフェに移動し、プロセッコを頼むと、そのグラスを片手に砂浜のデッキチェアに腰をかけた。Positano の海岸はとても穏やかで、のんびりとした午後にちょうど良いものであった。しばらくして海に入り、砂を手に取ると、キラキラとていたものが残った。ボトルの欠片であろうか、それは優しく角が取れて、幼い頃に遊んだおもちゃの宝石のようにも見えた。海は本当に好きな場所だ。久しぶりの海岸遊びに興奮しつつも、その静穏な一日に心から感謝をした。
 
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August 23, 2010

Collection 214 - Grand Hotel Convent di Amalfi


Grand Hotel Convent di Amalfi_02Amalfi では、以前から私のホテルリストで筆頭候補であった "Grand Hotel Convent di Amalfi (グランド・ホテル・コンヴェント・ディ・アマルフィ)" に宿泊をすることになった。狭い崖肌の車道に面したエントランスにタクシーが停車すると、浅く日に焼けたホテルのスタッフが荷物を取り出し始めた。自然の荒い岩肌をくぐると、ホワイトとシルバーの文様柄の壁面の中にエレベーターで階上のレセプションへ向かうと、白く塗られた壁の中にシンプルなデスクが伺えた。

バルコニーからは、心地の良い風が流れ、白い壁面を青い空と海が際立たせていた。旅友Sがいろいろと話を聞いてみると、このホテルは4月1日にオープンしたばかりで、古くは12世紀に男子修道院として使われていた建物だそうだ。近年は "Hotel Cappuccini (ホテル・カプチーニ)" として、運営されていたそうだが、新しいデザインホテルとしてリノベーションされた。ヴォールトの天井やホテル脇にある小径は、修道院時代の名残を感じさせるものだ。旅友S「"Cappuccio"って、フードみたいな被り物のことを意味するから、修道院の衣装から名付けられていたんだろうね。」と付け加えた。


Grand Hotel Convent di Amalfi_03新しいホテルということと、オフシーズンなこともあり、私たち以外にスタッフの動きしか見えない。私たちは、アウトサイドのデッキに案内されて、そこでブラッドオレンジのウェルカムドリンクを戴くこととなった。少しずつ陽が落ち始めたアマルフィーコーストは、ゆっくりと進む船のせいか、この瞬間だけ時間軸が変化したような気がした。まだ、その日のミラノからの大移動の旅を思うと、自身が Amalfi に到着したことが夢のようであった。ブラッドオレンジの冷たさもまだ信じられず、かなりのハードな移動であったことを感じさせた。やはり、マルペンサ空港から、Napoli に向かう飛行機は欠航になっていたようだ。


Grand Hotel Convent di Amalfi_04その後、各ゲストルームに移動をするが、崖肌に準じたように部屋が構成されていて、窓からは先ほどの緩やかな海を望むことができた。部屋はホワイト&ベージュのインテリアで、アマルフィの伝統的な陶器のタイルのアートが飾られ、奥には特産物である大きなレモンがディスプレイされている。無駄を感じない洗練されたデザインの空間が、非日常の時間を作りだしてくれた。バスルームは淡いベージュのタイルで貼られ、アメニティは意外にもフランス・プロヴァンスの" Côté Bastide (コテ・バスティド)"のもの。でも心地よい泡心地は、旅友Sも気に入っていたよう。


Grand Hotel Convent di Amalfi_06遅い朝食を取ろうとダイニングに降りると、既にメンバーは美しく配置されたビュッフェを楽しんでいるようだった。ようやく到着した南イタリアの朝、プロセッコで乾杯をしたことで、休暇であることを実感した。他にも数名のゲストが居たようだが、美しい空間は私たちだけで貸し切りのようであった。ラウンジには、スペイン人デザイナーの Jaime Hayon(ハイメ・アジョン)がデザインをしたBD Barcelona Design(バルセロナ・デザイン)社のPoltronas Showtime Indoor(ポルトローナ・ショータイム・インドア)が置かれ、ヴォールトの天井からは、Studio Job(スタジオ・ヨブがデザインをしたMoooi(モーイ)社のPaper Chandelier(ペーパー・シャンデリア)が吊り下げられた。歴史とデザインと地域性の全てが融合した寛ぎの空間は、格別なものだ。


Grand Hotel Convent di Amalfi_05ホテルに設置されているプールは、5月にオープンする予定だということで見ることができなかったのだが、非常に優れたホテルだと思う。
 
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August 22, 2010

Collection 213 - Amalfi


Amalfi_01ミラノ出張の後、ビジネスで訪れていた知人達と数日休暇を取って、イタリアを南下する計画を立てていた。行き先は毎回、地図を広げて検証をするのだが、私は以前から憧れていた「Amalfi (アマルフィ) に行きたい....」と言いつつも、Sorrento (ソレント) にも行きたいオーベルジュがあるし、同行予定のYさんは「私は島に行きたい.....疲れてるから癒されたいの.....」と。そんな案を検証する夜が続いた情報係の私は、K女史と地図を広げ、陸路や海路の行程をシュミレーションする。旅にはこの検証こそが重要だ。そして、予約実行係である旅友Sに伝え、確実な航路であると判断すると、早速予約を進めていく。これが我々の旅の手法。

「できた!」ミラノのマルペンサ空港から、Napoli (ナポリ)に向かい、Napoli からバスで Amalfi に入り、Amalfi と Positano (ポジターノ)でゆっくりとしてから → バスで Sorrento へ入り → Sorrento から船で Capri (カプリ) へ移動 → Capri から Napoli に戻り、列車でRoma (ローマ) へ移動 → Roma から東京へ帰国という航路を作成した。総勢7名の参加メンバーの憶いを詰めた、全て希望のホテルやダイニングの予約を完了した完璧な旅の計画だ。


Amalfi_02そして4月19日、私たちはミラノ中央駅にある空港行きのバス乗り場で待ち合わせようと話していたのだが.....、そう、アイスランドの火山である。そのハプニングにより、マルペンサ空港の閉鎖が続いていた。19日になれば、一部国内線は動くかもしれない.....というささやかな願いを望んでいたのだが、どうも市内の状況を伺うと雲行きが怪しい。旅友Sは17日の朝方、ホテルの部屋の端の方で、何か調べ始めていた。「もう飛行機のチケットは捨てよう。今ならまだ空席があるから、列車のチケットを確保しよう。」と言い、チケット7枚を確保した。急な予定の変更だ。

昼頃に Napoli へ到着するための列車は、朝の6時30分発のため、別々のホテルに宿泊していた私たちは中央駅に6時に集合をし、列車に乗り込むことにした。その日のミラノ中央駅は、やはり空港閉鎖のこともあり、列車のチケットを取れない人々が床に座りこんでいる光景が見られた。私たちも7名別々の席であったが、何とか席に着くことができた。中には、席を取れていないにも関わらず、列車に乗り込む人々もいて、列車の中には苛立った空気が流れていた。


Amalfi_03Napoli までは列車で4時間半位、その間は早朝の雑踏と仕事の疲れから解放されるべく、落ち着いた時間となった。太陽が高くなる頃、Napoli の駅に到着した私たちは、旅友Sが駅員に色々と尋ね、列車でSalerno (サレルノ)まで移動することとなった。近くにあったチケット売り場に並ぶと、やはり空港閉鎖の影響でかなり混雑をしているようだ。慣れない外国人が、チケット購入に手こずっていて列は長くなる一方であった。すると私たちの後ろにいたイタリア人女性2名が、旅友Sに「どこに行く予定なの?」と声を掛けてきた。「Salerno に行きたいんだけど....」と言うと、親切にも「それならばチケットはここじゃなくて、売店で買えるわよ。」と教えてくれた。私たちは「ありがとう!」と伝えて、その列を離れたのだが、彼女達も北イタリアから旅に来ていて、空港が閉鎖しているので列車のチケットを取るところだったようだ。

Salerno 行きの列車の時間が迫っていたので、旅友Sは早足で売店に向かい、「みんなを列車の方まで連れて行って!」と言われた私は、メンバーに Salerno 行きの列車のホームへ荷物を持って移動するように促した。7名分の荷物をガラガラと慌てて、移動する様子は何とも言えない光景だが、すぐに乗車できるドアの前で、チケットに刻印をする旅友Sを待ち、全員で列車に乗り込んだ。いつも私たちの旅はギリギリだ.....12時を過ぎていたので、「Salernoに到着をしたら、ゆっくりランチをしようか.....」と疲れた声で確認し合った。乗車して1時間程であろうか、かなり油断をしていたところ、暗いトンネルを抜けると駅には「Salerno」と.....「到着したよ!」と急いで全員に伝え、急いで降車をした。旅友Sは駅を出て、駅の並びにある旅行会社に私たちの大荷物を預ける交渉をして、私たちは大荷物の呪縛から解放されて、ゆっくりとランチを味わえることとなった。


Amalfi_04早朝からの苦労を思うと、どうしても美味しいものが食べたい衝動にかられ、駅から海岸線に歩き、中側の大通りに入るも、カジュアルなレストランしか見えない.....。でも、私はあきらめきれずに、大通りの先頭を歩き、あの先のテントの店まで歩いて駄目だったら諦めよう.....と願ったのだが、そこはジェラテリアだった。しかし、転んでもただでは起きないのが私の性格.....横の路地を見ると、垣根に囲まれた洒落たカフェを見つけた。店内を覗くと満席であったが、粋な雰囲気の人々がワイン片手にランチを楽しんでいる様子が伺えた。その光景にゆっくりと後から歩いてきたメンバーも納得のカフェであったので、外でプロセッコを飲みながら、席が空くのを待つことにした。そこで昨晩の夜から何も食べていない私たちは、やっと味わえるパスタに至福の時を得るのであった。ようやく胃袋も満たされた頃、デザートにフルーツを頼んでシェアをしようか.....とオーダーを入れた。そしてIさんがガイドブックを広げ、「Salerno から Amalfi まで船で行けるって書いてありますよ。」と旅友Sに手渡した。そこには運営会社の電話番号が記載されていたので、Sが電話をすると、15:30 の船が Amalfi 行きの最終便だと伝えられ、Sが「今、何時だっけ?」.....と。Iさんは「あっ、もう15:00ですよ。」ランチのために結構歩いてきてしまったが、一度、駅に荷物を取りにいってから、駅から正面にあたる港まで向かわなければならない......。「あ〜!フルーツキャンセルして!」と慌てて、会計を済ませ、そそくさとカフェを後にして早歩きで駅に向かった。旅行会社で荷物を受け取り、日差しの強い道を港に向かって直進し始めた。港には既に Amafi と書かれた船が停泊し、出航の準備が整っていた。Sは7名分のチケットを購入し、順番に乗船した。この日で一番ほっとした瞬間だ。Salerno から Amalfi までは海路で30分程で到着するが、バスで移動すると1時間かかるところだったので、これはかなりの時間短縮である。

この日の海上は風が強かったが、船の階上に上がり、南イタリアの潮風と岩肌の見える景色を目に焼き付けた。


Amalfi_05Amalfi に到着する頃は、16時を過ぎていた。しかし、無事に到着したということが、私たちの旅気分の高揚を増してくれるものとなった。ホテルは、近い場所であったが、崖の上の高台に位置していたため、港からタクシーに乗車をして、移動。この日は、まず私と旅友Sの部屋に全員が集まって、プロセッコで乾杯をした。ハードな1日だった.....が、旅友Sを始め、全員の運と英知でようやくAmalfi の地を踏めることとなった。

Amalfi は、私好みの感覚がたくさんある場所だ。看板やサインのひとつひとつに土地柄が感じられて、美しい風景だ。特産品である手漉き紙や焼き物、そしてレモン.....何もかもがストーリーが感じられて非常に興味深い。そしてアマルフィコーストと呼ばれる穏やかな海岸線。薄灯りの情景深い路地。やはり南イタリア.....私は完全に堕ちている。南イタリア(.....と言っても広域ではあるが) は私の大切な場所だ。ここしばらくは行けないであろうが、南イタリアの旅はライフワークのひとつと言っても過言ではない。年を重ねても、脚を運びたい場所だ。Amalfi は時間が足りず、ゆっくりと出来なかったので、再度トライしたい地である。
 
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July 24, 2010

Collection 212 - Trussardi Alla Scala Ristorante


Trussardi Alla Scala Ristorante_01ミラノ出張はただひたすら歩き続けるもの.....であり、ショッピングをする訳でも、観光をする訳でもない。そういえば、ミラノで市内を観光したこと.....まるで記憶が無い。イベントの会期中にしか、ミラノを訪れないために、まだまだミラノの本随にまでは、到達し得ないだろう。

休日にブレラ地区を歩いていたときのこと、Trussarudi (トラサルディ)が本社の1Fにカフェがあると聞いていたので、そこで軽くランチをすることになった。


Trussardi Alla Scala Ristorante_02ウィンドウが通りに面していて、そのウィンドウの上からは植物が溢れ出し、清涼感の漂う印象だ。店内に通されると、白と黒で統一されたモノトーンの空間が広がり、チェアは VITRA (ヴィトラ) 社のものだ。パントンチェアやジャン・プルーヴェのチェアが整然と並べられ、非常に居心地の良いひとときを提供しれくれるものであった。

オーダーはミラノのトラディショナルなリゾットを現代風にアレンジを加えたものと大好物のタルターレ。プレートが非常に美しく、自然光に照らされる中の心地の良いランチ。脚の疲れも少々和らぐのであった。

Trussardi Alla Scala Ristorante_03
 
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July 17, 2010

Collection 211 - Carl Hansen&Son


CH&S_01今年1月のパリ出張を終えてからは、人生の過渡期であったような気がする。体調を崩し、精神的にも疲弊していた反面、旅友Sとの東京での生活がスタートし、今までにはない安堵感を得ることとなった。4月には互いのビジネスのために、イタリア・ミラノで開催されるミラノサローネに脚を運ぶことになったものの、今年のサローネはアイスランドの噴火により、例年とは異なる雰囲気が漂っていた。私たちはミラノ市内で開催されるイベントのプレスプレビューを取材するために、4月12日にミラノ入りをしていたのだが、何日か遅れて入ってくる友人は、きっとマルペンサ空港が閉鎖する前の、最後の便であったに違いない。火山の影響により、ミラノにあるマルペンサ空港、リナーテ空港が閉鎖し、ミラノに入れない、もしくは出れない.....という人々が続出したのだ。


CH&S_02そんな雰囲気の中、開催されたミラノサローネ2010は、今年で49回目を迎え、来場者も昨年対比7%upとリーマンショックの影響を受けた2009年よりも復調の兆しをみせ、低迷していたビジネスに明るい動向が見えてきたようだ。

ミラノサローネで着目するべきこと....新しいデザイン、素材、プレゼンテーションとさまざまな動きを垣間みることができるのだが、果たしてそれは現在にどれだけ必要なものなのであろうか?私が素晴らしいと思ったデザインは、質実、伝統、文化背景を感じるものであり、その存在価値が美しいと素直に思うだけであった。今、デザイナーに必要な役割とは、市場に流通させるためだけのデザインではなく、さまざまな社会背景を取り込み、それをデザインに変換する作業が最も重要であると感じている。


CH&S_03そこで感銘を受けた企業は、デンマークの "Carl Hansen&Son (カール・ハンセン&サン)" であった。2007年にこの世を去った「椅子の巨匠」Hans.J.Wegner (ハンス・J・ウェグナー) の作品を制作する会社であり、今も尚、廃れることのない素晴らしいデザインを更に進化させていることに共感を得るものである。今回の展示では、世界で一番売れた椅子と言われている "Y Chair" の新しいライン、シトラスカラーシリーズを発表した。爽やかなグリーンのグラデーションが美しいコレクションだ。それを基調とし、会場全体をシトラスカラーで構成し、Wegner の事務所に所蔵されていた "CH468" が、50年の時を超えて発表された。美しい形状、機能を兼ね備えた名品だ。オブジェと言っても過言ではない。


CH&S_04そのブースの美しい佇まいは、文化を伝えることの素晴らしさと北欧デザインの奥行きを感じるものであった。簡素で機能的でありながら、心に強く訴えかける造形美。それは国民性に通ずるものなのか.....と近年深く考えるようになった。
 
Posted by kyoko_shino at 00:21  |Comments(0)TrackBack(0) | Vision : 視覚

July 10, 2010

Collection 210 - Osteria delle Tre Panche


Tre Panche_01パリ経由でイタリアに来た私は、東京に帰国するためにローマからフィレンツェに戻り、そこからパリに飛ぶために、フィレンツェで一泊することになっていた。

その夜のフィレンツェ最後のディナーは、以前に旅友のSが「やばかった....」と私に伝え、ぜひ脚を運んでみたいと思っていたオステリア。旅友Sもフィレンツェから、東京に拠点を移すということもあり、私にとって大切な街であるフィレンツェには訪れる機会も減るのかな.....と少し孤愁を感じていた。


Tre Panche_02フィレンツェの中心からバスに乗り込み、20〜25分位だろうか?どんどんと住宅街の方に向かっていることは理解できるのだが、バスの明るい蛍光灯のせいで、窓の景色が自分と重なり、到着する頃には既に方向性を失っていた。バスを降車すると、Sが「本当に小さい店だから。」といい、間口の狭い店のドアを開け、スタッフに予約を確認をしている。店内に入ると、長いテーブルが3台配置され、店の一番奥では、中年の男性と女性が食事をしている光景が見えた。私たちは彼らの隣のテーブルに案内され、笑顔で会釈をして、ベンチシートである横の席に着いた。Sは「ここの店名って "Tre Panche (トレ・パンケ) でしょ?3つのテーブルという意味。」と教えてくれた。"Osteria delle Tre Panche(オステリア・デッレ・トレ・パンケ)" は、女性シェフが腕を振るう店であり、トリュフ料理が非常に有名だそうだ。確かに、店内に脚を踏み入れたときから、フレッシュなトリュフの香りが勢い良く私の鼻孔を刺激した。


Tre Panche_03私たちはオーダーをする前に、その香りの誘惑に完全に魅了されていた。しかし、ブロンズ色のメニューを開き、文字を追う。Sと私は大好物であるカラスミのパスタをオーダーしつつ、"Taglierini al Tartufo (タリエリーニ・アル・タルトゥーフォ)" と ”Risotto al Tartufo (リゾット・アル・タルトゥーフォ)" のプリモをオーダー。"タルトゥーフォ" とは、トリュフのこと。このオステリアの良い香りの原因だ。そして、セコンド・ピアッティは大好物である卵.....スクランブルエッグにトリュフがふんだんにかけられたグリル、カルパッチョのトリュフかけ、タリアータのポルチーニ添えと、まさに茸づくし。とにかく、全員の好み味覚を網羅した。


Tre Panche_04この日は珍しく赤ワインをオーダーした。カジュアルなものであるが、トリュフの香りと混じり合い、まろやかな空気をつくりだした。まず、運ばれてきたのはプリモ3品だ。ボッタルガは口の中に程よい塩気とコクが広がり、全員で顔を見合わせた。そして、トリュフのプリモ。価格の割には、ふんだんにかけられたホワイトトリュフ。タリエリーニ、リゾットとは、口の中でトリュフの芳香と舌触りが楽しめるように共に淡い味付けに仕上げられていた。その微妙な調和は、何とも表現しし難い.....一言でまとめるならば「美しい味」以外に言葉が見つからない。こんなにプレートが空になることが悲しいなんて......今まで感じたことの無い感覚だ。


Tre Panche_05そしてセコンドが運ばれてきた。実は、私は卵好きであり。スクランブルエッグも楽しみなプレートだ。フライパンでちょうど良い火の通り加減で運ばれてきたスクランブルエッグにも、プリモと同様にトリュフがかけられ、卵とトリュフのだけのションプルなものであるが、これも大胆かつ繊細な味がたまらない。カルパッチョはルッコラとトリュフがのせられて、さらにトリュフオイルがかけられたスライスビーフが、目を瞑ってしまうほどの旨味が身体に染み渡った。タリアータ(薄切り肉のステーキ) は、季節的に細かいポルチーニしかないと言われたのだが、メニューに記載されていなかったもので、Sが前回、初秋に来店した際には、ステーキに1枚の大きなポルチー二が重なり、驚く程の香りと味だったという噂は聞いていた。もちろん、このプレートも非常に美味しいけれども、その幻のプレートにいつか会うことはできるのだろうか.......。


Tre Panche_06K女史は「この香りに包まれていたいから、今日はお風呂に入りたくない.....」と冗談を言い始める程、素敵なオステリア。素朴で洗練された最高のダイニングだ。Sがフィレンツェに在住していたため、近年は出張の帰りに数日だけ立ち寄っていたのだが、それもこのディナーが最後となった。でも最高のディナーであったことには違いない。やはり、フィレンツェは大好きな街。トスカーナの景色も美しく、またいつか脚を運べたら......と心から願っている。
 
Posted by kyoko_shino at 01:13  |Comments(0)TrackBack(0) | Taste : 味覚

July 09, 2010

Collection 209 - Ristorante Baby di Roma


Ristorante Baby di Roma_01私は以前から気になっていたリストランテがあった。そのリストランテは、南イタリアのカンパーニャ州にあり、なかなか行く機会は見つからないだろうと、憧れだけを深く抱いていた。旅友Sに伝えてみると「なかなかその方面には仕事でも行かないから、いつかは行けるだろうけどすぐには無理でしょ。」とも言われていた。今回の僅かなローマ滞在に関しても、私の旅に対する追随は、休まること無く、限られた時間の中でいかに楽しむか......いかに満足できる時間にするかというために、毎晩ベッドルームには書籍や雑誌を重ねて、プランを検討した。


Ristorante Baby di Roma_02そんな中、その想いが少しだけ通じたのだろうか?ローマに姉妹店があるという噂を耳にした。自分でも食べ物の話だけは、よく聞いているものだ.....と感心してしまうが、そのリストランテは "Ristorante Baby di Roma (リストランテ・ベイビー・ディ・ローマ)" といい、"Aldrovandi Palace Villa Borghese (アルドロバンディ・プレイス・ヴィッラ・ボルゲーゼ)" という優美な高台のホテルの中にある。私は、Sにランチの予約を入れてもらった時から、高鳴る心のせいかスペイン広場の階段や坂道を歩く足取りも軽くなった。


Ristorante Baby di Roma_03ホテルに入り、エレベーターでリストランテのフロアに向かうと、目の前には白を基調とした清潔感のあるインテリアが広がった。窓越しには、グリーンが溢れる庭園を臨み、庭師が剪定をしている様子が伺えた。広々とした店内には私たち4人の他に、恰幅の良い男性が一番奥の窓際の席で新聞を眺めていた。

私達は、ランチであったので前菜をシェアして、プリモを頼みたいと伝えると、スタッフが快く引き受けてくれると言った。Sが丁寧にオーダーを伝え、次にワインリストを広げた。「何系のワインが飲みたい?」と聞かれたので「シャルドネがいいけど....。そうだ!私が無知なだけなんだけど、ローマってラツィオでしょ?ラツィオのワインって飲んだことないかも.....。今日はご当地ワインにしない?」とSに伝えると「じゃあソムリエにお勧めを聞いてみようか?」と言った。ソムリエにその旨を伝えると、彼はすぐにお薦めのワインを紹介した。


Ristorante Baby di Roma_07ワインがグラスに爽やかに注がれていくと、美しい黄金色が徐々に色濃くなっていった。とても香りが強く印象的なワインで、私が好みの香りであった。卓上にはパンとアミューズが運ばれてきた。アミューズは、帆立に脂身のしっかりとした豚のベーコンが巻かれたグリル。アイボリーとグリーンのソースがガラスのプレートをキャンバスのように映し出した。そっと口に運ぶと、味の強いベーコンの風味が、淡白な帆立と口の中で混ざり合い、脂身と共に喉に流れていく。そしてワインを口に含むと、4人全員が目を合わせた.....「美味しい!」。フードを優しく包み込むような、樽香のするワインである。ワインは "Vigna Manti 2007" というもの。

その後、前菜が運ばれてきた。前菜は、イカのグリルのアーティチョークソースと卵のトリュフかけ。癖のあるチーズをイカの中に詰めてアーティチョークのソースがプレートに美しく描かれた。そして、卵。シンプルなプレートではあるが、口に含んだ瞬間は驚くほど、濃厚な味わいが広がった。「これも美味しい.....」繊細でシンプル、かつ美しいビジュアルからは想像できない味が膨らんでいく。


Ristorante Baby di Roma_04そしてこの日、一番楽しみにしていたプリモ。私とSは名物である、トマトのラビオリを頂くことにした。イタリアの象徴的なカラーで彩られた、トマトの鮮烈な赤とグリーンとホワイトのソースがアートのようだ。トマトのさっぱりとした酸味と、野菜のもつ旨味を凝縮していて、フォークがよく進む。K女史は兎肉をつかったフィリングタイプのショートパスタにブラックトリュフがかけられたプレート、Mさんはペスカトーレをオーダーした。Sがペスカトーレを一口もらうと「全部すごいんだけど、これはやばい....すごい味。」と驚いた表情をみせた。前述のワインと合わせて、食が進む。

甘いものが苦手な私を横目に、デザートのオーダーをいれていたようだが、リモンチェッロをオーダーした私は、その爽やかで透明感のあり、洗練されたグラスであった。帰り際、Sが「同じワインを買って、ホテルで飲まない?」と言い始め、ソムリエに伝えると「同じ2007年のものがなくて、2008年のものしかないんですが。」と申し訳なさそうな表情で応えた。私たちは2008年のものも試したいと伝え、手土産を手に入れた。

4月にとあるイタリアの方から、2月から方針が変わって、私の憧れている店が経営から離れた.....という話を聞いた。Sが「僕たちが行ったのは、1月末だったけど....」と言うと、「じゃ、君たちはラッキーだったね。1月であればギリギリセーフだ。」と。......食べ物の神様、ありがとう。と心の中で小さく呟いたのは言うまでもない。

インテリアと食の関係性+デザイン.....は深く果てしない。
 
Posted by kyoko_shino at 01:55  |Comments(0)TrackBack(0) | Taste : 味覚 , Vision : 視覚