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【コラム 私は見た!】

並みの相手ではないが吊ってみようか

2010年9月25日

 強い。白鵬の強さをどういい表すか、それもすぐには言葉が思い当たらないほどの強さだ。把瑠都はよく戦った。しかしやはり、段違いの強さの前になすすべもなかったというところだろうか。

 実は、ひとつのヤマ場として、六十連勝が現実のものになる日のことを考えていた。それが終盤の終盤近くになることは予想することができた。混戦が白鵬の側に意外な要素を持ちこむことかわからない上に、積み重なった疲労が、どんなこたえ方をするかも計算できない。その上に六十連勝という数字への拘りもあったのだ。

 なんの理由もないことなのだが、六十九という数字が持つ響きだけの話なのだ。なぜかというと、六十九連勝だ七十連勝だという話を聞かされる度に、あの双葉山が越えようとして果たさなかった難関が目の先に横たわっていることを思い出すせいなのだ。

 双葉山は常勝だ、百勝を果たすのも間近いことに相違ない。そう子供心に信じこんでいた英雄が、意外に簡単に敗れ去った。この衝撃は悪夢として残る。だから、単なる語呂合わせに近い話だが、白鵬六十連勝と聞く度に、妙なものがよみがえってきてしまうのだ。

 しかし、白鵬が悪夢も、妙な記憶も打ち破ってくれた。この長いこと私の肩におおいかぶさっていた荷が取り去られたことを良い機会にして、これからは遠慮なく白鵬党の旗を揚げようと思う。

 その白鵬の把瑠都戦だが、右を差してつりに出たのには驚かされた。それは把瑠都も同じだったと思う。相手の得意技のすぐ脇に欠点があることはよくいわれることだが、並みの相手ではないのだから、白鵬はなにを思っていたのだろうかと考える。

 この一戦、白鵬は苦しまぎれにつって出たわけではなさそうだ。そのあと右からの投げ、左からの投げと、自在な攻め手を出し、最後は鮮やかな上手投げで決めている。彼自身が上手投げで決められる形が自分の相撲なのだといっている通りだ。

 魁皇がまた星ひとつだが追いついてきた。これでは先のことはわからない。安美錦戦では仕切りでいつになくまゆのあたりに厳しいものを浮かべていたが、期待通りもう一勝上げる気概を示したような相撲だった。大いなる声援を送り続けているファンにこたえる意味で、あとひとつ。私もそう祈っている。 (作家)

 

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