きょうのコラム「時鐘」 2010年9月25日

 野球の先攻と後攻に、有利不利はない。どちらを取るかは作戦次第。相手が強いと思えば挑戦する側が先攻を取るケースが多いという

高校野球の名勝負、星稜対箕島戦も先攻星稜、後攻箕島となったから伝説が生まれたと見るファンが多い。優勝候補に挑んだ星稜が後攻めだったら、あの展開にならなかったろう。31年ぶりに甲子園で対戦した元球児らの熱い友情物語に、そんな解説を思い返した

先手必勝か後手有利か。われら凡人なら、先手を取れば追いかけられる不安がよぎる。先手を取られれば、ずるずる敗れそうなあきらめが先に立つ。無論、名監督にも弱気と強気のせめぎ合いがあるに違いない。野球には人生への教訓が詰まっている

イチローの10年連続200安打は、打席数の多い一番打者の有利さを生かした記録である。が、有利ならだれでもできる記録ではない。イチローがすごいのは相手チームと競う団体競技の野球を、あたかも個人競技のようにしてしまったことだろう

イチローの相手はイチローしかいない。大記録の陰に、ひとりで団体競技を戦う孤独が漂って見えるのである。