【ワシントン】中国がレアアース(希土類)市場への管理を強めていることから、米国では国防関係者や政策担当者の間で資源アクセスに関する懸念が浮上している。高機能携帯電話(スマートフォン)など21世紀のテクノロジーに欠かせないレアアースは、精密誘導爆弾にも使われる。
中国が日本向けレアアース輸出の通関業務を停止しているとの報道を受け、供給懸念が広がっている。中国政府は23日、こうした報道を否定。中国商務省の報道官は「中国は日本向けのレアアース輸出を阻止していない」と述べた。
レアアースは、コンピューターのハードドライブやデジタルカメラといったハイテク機器に使われる17元素の総称だ。環境技術のカギを握る資源でもある。エネルギー効率に優れた電球にはユウロピウムとイットリウムが、ハイブリッド車のバッテリーや風力タービンにはネオジムが使われる。
レアアース鉱山は世界中にあるが、中国は採掘や加工で市場を圧倒しているため米政府が警戒している。政府監査院(GAO)が4月に発表したリポートによると、中国は世界のレアアース酸化物の約97%を生産している。レアアース酸化物は、金属に精製され、合金に混ぜられ上で、最終製品の一部になる。
中国はレアアースに対する輸出割当を実施してきた。商務省は、今年の総輸出量の上限を前年比40%減の3万0300トン弱とする方針を示している。そのうち、下半期の割当はわずか7976トンだ。
こうした状況から、政府当局者や業界幹部が不安を抱いている。米国、ドイツ、日本の代表は、自国が継続的な供給をいかに重要にみているかを認識するよう中国に要請した。
温家宝首相は先月、中国が輸出を停止しない方針を日本側に示した。中国の当局者は、今年の輸出制限強化の理由は環境懸念だとしている。陳徳銘・商務相は日本の関係者との会談で、「レアアースを大量に抽出すると環境に多大なダメージを与える」ため、中国政府が生産と取引の管理を強化したと述べた。
ロンドンを拠点とする専門誌と米紙ニューヨーク・タイムズは今週、中国が尖閣諸島沖での漁船衝突事件に絡んでレアアースの対日輸出を阻止したと報じた。日本の外務省や経済産業省の当局者は、そうした禁輸措置を認識していないとしている。対日輸出が禁止されれば両国の対立は深まり、貿易による世界的な影響力を二国間の政治問題に使っているとして日本、米国その他の国が中国と対立する恐れがある。
レアアースは磁力が強く、使えば部品を微細化できることから、軍需品にとっても重要だ。たとえば、精密誘導爆弾のフィンはモーターにサマリウムコバルト永久磁石を、F22(ラプター)などの高性能戦闘機の方向舵(ほうこうだ)や垂直安定板を動かすモーターは軽量のレアアース磁石を使っている。ネオジムは固定レーザーに使われる。
国防総省米陸軍対外軍事研究室(FMSO)のアナリスト、シンディ・ハースト氏は、国防総合大学の発行するジョイント・フォース・クオータリー誌最新号で、中国がレアアース業界での圧倒的地位を通じて「想像もつかないカードを握っているようだ」と指摘。「レアアース業界を掌握している中国は、いつか技術優位性を得て、軍事上の優位性を増す可能性がある」と書いている。
国防総省は、レアアースの中国依存が国防に与えかねないリスクに関する研究を完了しつつある。同省報道官は、政府の複数機関の情報を取り入れたリポートを来月発表する予定だと述べた。
一方、議員もレアアース供給が国防に与える影響に関する調査を始めた。下院科学技術委員会の調査パネルは、この件に関して年内に公聴会を開く予定。潜在的供給に関するデータをさらに集め、代替資源を特定することでレアアース不足に備えるよう促す法案の最終仕上げを23日に開始した。
同委のバート・ゴードン委員長(民主、テネシー州)は、新技術の原料の調達に関して米国が「人質に取られている」との懸念を表明した。
カリフォルニア州マウンテンパスの鉱山を保有するモリーコープ社は、生産の再開と拡大を目指している。この鉱山は、中国国外で最大のレアアース鉱山だ。同社スポークスマンは、レアアース磁石数種類について米国を拠点とした完全なサプライチェーンを12年半ばまでに構築する計画だと述べた。