刑務所を仮出所した人たちの社会復帰を支援する国の更生保護施設が、北九州市に開設されて1年以上が経過しました。
これまでに多くの入所者が職を得て社会復帰するなど、一定の成果が出ています。
しかし、いまだに反対運動は続いていて、理解を深めてもらうための取り組みが続いています。
北九州自立更生促進センターの花壇にひっそりと咲く一輪の花。
以前、仮出所してセンターに入所していた男性が、部屋に置いていた花を職員が植えなおしたものです。
男性は入所中に、禁止されている酒を飲んだため仮出所が取り消され、刑務所に戻されてしまいました。
●北九州自立更生促進センター・渡辺統括保護観察官
「センターの職員として、3か月無事に送り出せなかったという反省の意味をこめて、花がこれだけ元気でやってるんですから、本人も花に負けないように、普通の生活を送れるようなればと願っている」
去年6月、小倉北区の工業団地の中に開設された「北九州自立更生促進センター」。
刑務所を仮出所した人たちを3か月間受け入れ、保護観察官が生活指導や就労支援を行い、社会復帰を手助けします。
刑務所内で問題を起こすことなく刑期の途中で出所を許された仮出所者。
以前は民間の更生保護施設が受け入れてきました。
しかし、入所待ちが続くなど民間だけでは対応しきれなったため、新たな受け皿として国が全国で初めてオープンさせたのが、この「自立更生促進センター」なのです。
開所から1年間で入所した22人のうち、14人が仕事を得て社会に復帰、刑務所に戻されたのは飲酒を理由とした1人だけで、これまで大きな問題は起きていません。
今年1月にセンターを「卒業」した20代の男性。
現在は、北九州市内のガソリンスタンドで正社員として働いています。
ガソリンスタンドを経営する野口義弘さんは、これまでに仮出所者や元受刑者など80人以上を雇ってきました。
男性の仕事ぶりについて、「貴重な戦力になっている」と話します。
●ガソリンスタンド経営・野口義弘さん
「本当に努力しています。お客うけもいい。車の磨きを特別に頼まれるし、いろんなもの買うときもその子を指名してくる。そういうのがまた彼の自信に繋がっている」
一方、男性は、「センターのおかげで職を得ることができた。この職場の仲間を裏切ることはできないので、まじめに必死に働いていきたい」と話しています。
センターの開所から1年以上がたった今も、付近には施設に対して反対を訴える看板がいくつも設置してあります。
法務省によると、満期出所者の再犯率は55パーセント。
これに対して仮出所者は32パーセントで大幅に低くなっています。
また、職を得た仮出所者の再犯率は7パーセントですが、無職だと37パーセントにまで跳ね上がります。
法務省は当初、工業団地に開所することで、多くの雇用が見込めると期待していました。
しかし、地元の運送業者ら3団体が反対運動を展開、いまでもその姿勢は変わっていません。
●福岡県トラック協会北九州支部・増田康雄支部長
「刑罰を受けた人が(センターに)入ってきているわけだから、不安になる。そう簡単に(反対の)旗は降ろせない」
センター周辺での理解は必ずしも進んではいないのが現状ですが、社会復帰に「仕事」は必要不可欠なため、法務省などは受け入れに協力してくれる企業の開拓に力を入れています。
ガソリンスタンドを経営する野口さんは、自ら仮出所者を雇用するだけでなく、その就業を支援するNPO法人の理事も務めています。
この日は、市内の建設会社を訪れ、協力を要請しました。
●協力を要請する野口さん
「雇用する事業所が少なくて、立ち直るきっかけを働くことによって作っていただければと思っている」
●小原工業・小原澄男社長
「(野口)社長のとこで働いてる従業員見まして、性根入れて働いてると思ってるので、私も何とか協力したいと思う」
●野口さん
「あなたはうちの会社にとって必要な人間だと、あなたがいないとうちの会社は回らないという、自覚を持たせると、すごい力を発揮してくれる。もちろん表面だけではなく、内面、心も変わっていく」
ところで、北九州の自立更生促進センターが工業団地に開設されたのは、周辺に民家がなく、反対運動が起こりにくいと見られたことや、雇用の確保が目的でした。
しかし、一般の市民が住んでいない場所に立地していることに、専門家は違和感を感じています。
●北九州市立大学法学部・朴元奎教授
「社会に復帰するってことの意味は、いろんな人と生活を共にしながら、自分の生活設計をたてて、自立していくのが道筋なのに、人がいないような場所に設置したということで、本当にそれが刑務所を出て、社会復帰していくような人にとって、適切な場所なのかということについては、強い疑問を持っている」
北九州に次ぐ2番目の国立の更生促進センターが、福島県に開設されました。
こちらは、住宅地の中にオープンしましたが、「治安の悪化」を理由に住民が猛反発。
住民との溝が埋まらないまま、計画より2年遅れて先月から仮出所者を受け入れています。
法務省は順次、各地にセンターを設置する計画ですが、地域の理解を得ることが難しく、ほとんどが暗礁に乗り上げた状態です。
●北九大・朴教授
「(住民の)不安感は、はっきりした根拠のない不安感。(仮出所者が)社会復帰し自立していくうえで、(センターが)役に立ってるんだという情報を、地元住民に定期的に発信していくことがとても重要」
●福岡保護観察所北九州支部・曽根崎哲也支部長長
「更生しようとする人を排除する見方ではなく、温かく見守る地域社会を私たちは望む。そのためには私達も、更生保護制度というものを、一般の地域の方にも理解してもらえる努力をしないといけない」
仮出所し、社会に復帰しようという意思を持った人たちを排除せず、地域で見守ることができるようにするためには、センター側の十分な情報公開と、それを冷静に受け止める意識が欠かせないといえそうです。