2010年9月24日
ベネチア国際映画祭でも話題を集めた三池崇史監督の時代劇「十三人の刺客」が25日に封切られる。藩主を暗殺するために組織された13人の男たち。その頭目を役所広司が演じている。役所にはまた「最後の忠臣蔵」という主演作もある。侍の大義を、一方では激しく、一方では静かに体現している。
ベネチアでの「十三人の刺客」は賞こそ逃したが、観客の反応は抜群だった。「客席から拍手が出る作品になればいいと思ったが、本当に感動しました。子供の頃、満員の映画館で大人たちがヤンヤと盛り上がっていたのを思い出しました」
明石藩主の松平斉韶(なりつぐ)(稲垣吾郎)は残忍な性格で、非道の限りを尽くしている。危機を感じた良識派の老中から、御目付の島田新左衛門(役所)に斉韶殺害の密命が下りる。新左衛門は志ある男たちを12人集め、参勤交代で明石に戻る途中の斉韶を待ち伏せ、鬼頭半兵衛(市村正親)率いる約300騎との闘いに臨む。
決戦を前にして新左衛門が同志に言う「切って切って切りまくれ」のセリフには、ベネチアの観客から拍手喝采が起きた。「監督に『これ、本当に言うんですか』と聞いたんです。だって、ありがちなセリフですよね。でも、監督は『思い切ってやっちゃって下さい』と。こういう型どおりの言葉ってカタルシスがあるんですね、日本でも海外でも」
12人のつわものを束ねる新左衛門の役作りで、気を付けたことが一つある。「12人の男たちが“命を預けてよし”と思う人間に見えるかどうか。見えないと映画は失敗してしまいます。そのためには、いつも張りつめているんじゃなく、緩めるところは緩める。それが理想のリーダー像だと気づきました」
三池監督のアクションの速さには定評がある。しかも、それは、カットを細かく割ったり、カメラを激しく動かしたりして作る小手先の速さではない。カメラを固定してワンカットで撮る。観客には今何が起こっているかをすべて見せる。俳優はその分大変だ。
「監督の演出には緩急がある。細かく指示するのではなく、自由にやってくれ、という感じ。普段は我々を笑わせたりして現場の空気をなごませている。しかし危険な殺陣の場面では『命がけで戦ってくれ』と繰り返し言われた」
12月18日公開の「最後の忠臣蔵」は、「北の国から」の杉田成道監督がメガホンを取る。役所が演じる瀬尾孫左衛門は、吉良邸討ち入り前夜に大石内蔵助から密命を受け、姿を消す。以来16年、苦しみながら生き延びる。こちらの密命に派手さはない。しかし新左衛門も孫左衛門も、大義のために自分を捨てるところは共通する。
「かつての侍が持っていた『粋』や『誇り』を、今の日本人にはすっかりなくしてしまった。日本が毅然(きぜん)として未来に向かうためには、彼らの生き方にヒントがある気がします。だから時代劇が作られるのではないでしょうか」
一方で、「侍とは何か」と会見で聞かれてこう語った。「本当の侍とは、庶民の平和な生活を守っていくものだと思います」(飛)