「東アジア共同体構想」を打ち上げたのは、鳩山由紀夫前首相だった。「中国や韓国との信頼関係が弱い」「早過ぎるのでは」。そんな批判もあったけれども、新しい関係に向けた新鮮な響きが感じられた
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周囲の国々も、おおむね好意的だった。例えば、昨年9月の本紙には、中国社会科学院の日本研究所副所長の談話が載っている。鳩山前首相が靖国神社を参拝しないと明言したことなどにも触れて、共同体構想の提唱を評価した内容だ
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あれから1年、「東アジア共同体」に暗雲が垂れ込める。沖縄県の尖閣諸島周辺で起きた中国漁船の衝突事件がきっかけである。海上保安庁の巡視船に漁船がわざとぶつかったとし、海保が船長を逮捕し、取り調べが続いている
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中国側の抗議が予想以上に激しい。次第にエスカレートし、ついに温家宝首相が船長の釈放を要求してきた。領海内で起きた事件である。日本政府として国内法で捜査をするのは当然のことだ。中国政府には、特段の冷静さを求めたい
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それにしても、「東アジア共同体」の道のりの何と遠いことか。ちょっとしたことで関係が悪化する現実を、あらためて突き付けられた思いがする。「共同体」の実現にとって最大の壁はナショナリズムである。お互いが謙虚な姿勢で乗り越えていくしかないだろう。日本と近隣国との歴史の溝を埋める努力も引き続き大事になる。