「宮田秀明の「経営の設計学」」

宮田秀明の「経営の設計学」

2010年9月24日(金)

適切なインセンティブがない世界に優秀な人材は向わない

ロイヤリティーが知的財産の継続的な創造を促す

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インタビューを機会に高速船の開発プロジェクトを振り返った

 自動車雑誌の取材の中心は私へのインタビューだった。それが子供時代の話から始まるのだ。愛光学園柔道部を部長になって建て直したことや、東大自動車部の主将になったとき、日産・トヨタに援助してもらって車庫を建設したこと。指導教官の指導を全く受けないで修士論文を完成させた。さらに、社会人として取り組んださまざまな仕事まで際限がなかった。

 インタビューを受けることは少なくないが、私の人生を振り返えらせるようなインタビューは少ない。

 このインタビューを受けて、過去の私自身の仕事を振り返りながら、「インセンティブと賞讃」の大切さを考えてしまった。

 記者のOさんに何度も言われた。

 「それはないでしょう。ちゃんと評価してもらわないといけませんよ」

 私が過去に受け取ったインセンティブの低さに驚いたのだ。

 1986年から1993年までの仕事の中でいちばん大きな位置を占めていたのは高速船開発だった。H社とは双胴水中翼船の旅客船を、I社とは双胴型の大型フェリーを共同開発した。2つの商品開発プロジェクトの研究・開発・実証・普及までのすべてのプロセスに中心的な貢献をした。どちらも基本コンセプトは私のものだった。そのため、それぞれ特許を数件申請した。実験船の設計から、実海域での実船実験に至る過程でも、私が中心的な役割を務めた。

 人命を預かる新製品のリスクは大きい。大げさに言えば、私と私の学生たちの命のリスクさえかぶらなければならなかった。人命を預かる輸送機器の開発の難しさは、他の商品とは違う。

 最終的には営業のお手伝いまでしたが、日本の造船会社はこのような新商品の営業は苦手らしく、あまりがんばってくれなかった。今から思えば、商社を活用すればよかったのかと思う。それでも、それぞれ90億円、20億円の売り上げが立った。国内にたくさんあった高速船プロジェクトの中で、商品化に成功し、顧客に満足してもらっているのは私が主導したこの2つの商品開発プロジェクトしかない。船の新商品開発は本当に難しいのだ。

 双胴水中翼船「スーパージェット」は研究開始から6年目、尾道での実証実験開始から3年目に、7隻を一括受注する成果を上げた。H社が過去にライセンス生産した水中翼船の実績と、プロトタイプ実験船を使った尾道での実証実験と試乗の効果が評価された。

低めのロイヤリティーを提案したつもりが、半額に値切られた

 商品設計が終わった段階で、H社は私とのロイヤリティー契約の相談に現れた。私は販売価格の1%以下の数字を呈示した。そのとき、私たちの努力が商品になって、乗客に安全・安心で快適な旅を提供できる喜びが、なによりも大きかった。売ってくれたH社の営業の人にも感謝していた。世に出ないコンセプトや世に出ない知的財産は山のようにある現実を知っていたからだ。だから、かなり低いロイヤリティーを呈示したつもりだったが、H社は私の呈示を値切ってきた。けっきょく、ロイヤリティーは私の提案の半分以下になった。協力してくれたかたがたにも分配したから、私の取り分はもっと少なくなった。

 こんな話をしたら、O記者が

 「それは無いですよ。」

 と反応したのだ。





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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など


このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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