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【編集局デスク】

若者はのろまか

2010年9月11日

 近ごろの若者はのろまだそうだ。先日お会いした浜矩子同志社大学ビジネススクール教授がそう言って、こんな例を挙げた。

 教室で資料を配布するために、最前列の学生に数十部を配った。これを一人が一部ずつ取り、次々にリレーしていけば手間がかからないはずだが、最後尾の席に届くまでかなり時間がかかったという。

 「何をしていいのかわからない学生もいて、てきぱき処理できない」と、浜さんは言う。「それでも、ものすごく速く動くものもあって、それは親指」。携帯メールを打つときの親指の動きは、まるで別の生き物のように激しいのである。

 対照的な動作の原因は、子ども時代の送り方にあるのではないか、と浜さんは分析する。浜さんの少女時代(一九五〇年代)は子どもたちの多くは家の外で遊んだ。まだ空き地もたくさんあった。いろんなことを体で学んでいった。のろまなんかでいられなかった。

 今の子どもたちはもっぱら家の中でのゲーム機遊びである。こちらは反射神経がものをいい、親指の動きの活発化につながる。

 こうした体験に由来するのかもしれない。若者たちが保守化している。

 「自分たちの力で社会を変えるのだ」という革新意識が薄れ、「もうこの社会は変わらないのだ」というあきらめの意識が強くなっている。

 旅行会社によると、『地球の歩き方』を片手に個人で海外旅行をしたがるのは今や五十代のおじさんたちで、若い人の多くは観光場所が決まっているパック旅行だという。結婚相手を見つけるのもインターネットを使うようだ。だが、しょせんは情報にすぎない。

 若い人たちに同情申し上げる。就職難、結婚難、そして低賃金と格差社会、さらに「のろま」なんて言われたら、もう立つ瀬がないではないか。

 (名古屋本社編集局長・志村 清一)

 

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