★★★☆☆(評者)池田信夫

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)
著者:菅原琢
販売元:光文社
発売日:2009-12-16
おすすめ度:5.0
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今年の総選挙の大きな争点は、小泉改革の評価だった。民主党は「改革によって格差が拡大した」と自民党を攻撃し、これに自民党も「改革の負の遺産を改める」と呼応し、どちらも小泉改革を否定した。この背景には、2007年の参院選で民主党が一人区で圧勝した原因を「小泉改革で地方が疲弊したため、農村票が自民党から離反した」とする世論調査の分析があった。しかしこれは本当だろうか?

素直に考えておかしいのは、農村票にそれほど大きな影響があるのかということだ。農村がいかに「固い票田」であろうと、日本の農業人口は300万人と人口の3%にも満たない。しかもそのほとんどは兼業農家で、主な収入源はサラリーマンだ。「一人区は農村」などというのは昔の話で、地方の選挙区でも都市部の票が圧倒的に多い。つまり都市住民の支持を得られない候補は勝てないのだ。

本書はこうした事実を、統計データで具体的に分析する。その結果あきらかになるのは、この「逆小泉効果」の神話を信じたことが自民党の総裁選や選挙戦術に深刻な誤りをもたらしたという結論だ。安倍内閣はまだ小泉改革を継承する意思があったが、造反組の復党が有権者の反発をまねき、支持率が急速に下がった。むしろ小泉改革を否定したことが2007年の参院選の敗因だった。

ところが自民党は、地方で勝つには小泉改革を否定する必要があると考え、福田内閣や麻生内閣では昔の自民党に戻る方針をますます強めた。小泉氏の勝因を「党首の人気」ととらえ、世論調査で人気の高い総裁を選ぶという戦術をとって麻生首相が誕生したが、その結果は最悪だった。農村型の自民党政治を「ぶっ壊す」と約束して都市部の票を掘り起こした小泉氏の功績を、自民党は台なしにしてしまったのである。

他方、民主党が2007年の参院選で農業所得補償などのバラマキ政策を打ち出したことが一人区での勝因だったという通説も誤りである。民主党の一人区での得票は2004年と比べてほとんど増えておらず、それが圧勝に結びついた最大の原因は選挙協力だった。しかし民主党自身もこれに気づかず、一人区をねらってバラマキを約束した小沢一郎氏の選挙戦術が功を奏したという「小沢神話」が生まれた。

小選挙区制のもとでは、投票で表明される世論と、選挙の勝敗に表れる「世論」に大きな違いが生じるが、メディアは後者だけを見て世論を語りがちだ。本書がこうした曲解を実証データで反証し、自民党の敗因を分析する部分は説得力があるが、民主党の勝因についての分析は物足りない。都市部の有権者が改革を支持したのなら、郵政民営化を初め小泉改革を全面的に否定するマニフェストを掲げた民主党が、今年の総選挙で圧勝したのはなぜだろうか。それは政策以前の「自民党的なるもの」への嫌悪だったのではないか。