敬老の日を前に、元気な高齢者をシリーズでご紹介しています。
きょうは50年以上にわたって貸本屋を営む90歳の男性をご紹介します。
福岡市中央区にある一軒の貸本屋さん。
開業は1957年、昭和32年と半世紀以上に渡って営業しています。
店主の松尾茂美さん、90歳。
学校を卒業後、製鉄所で働いていましたが、戦争で職を失い、この仕事を始めました。
●松尾茂美さん
「昔でいう召集令状がきますよね。そして敗戦になったら、職がないですよね。そのうちに、知り合いが貸本屋始めて、簡単にできるよっていうから。そしたらね、忙しいんですよ。そのころ、本がない時代やから」
松尾さんの店には、およそ1万5千冊の本が並んでいます。
往年の名作から最新の雑誌や漫画まで、ジャンルも豊富です。
お客さんからおすすめの本を聞かれると、親身になってアドバイスします。
●本を借りた女性
「なんかみなさん、おもしろいよっていうことで貸してもらったんですけど…。あんまり本屋さんとか行かないんですけれど、親しみがあって、温かみがあるっていうのがね」
店の本を仕入れるため、松尾さんは週に何度も本屋へ足を運びます。
店員さんに売れ筋の本を尋ねるなど、常に流行も調べています。
●松尾さん
Q.流行などの情報はどこから仕入れる?
「それは実際ここで見たり、週刊誌見たり雑誌の宣伝見たり、新聞の広告見たり、お客さんからアドバイス受けたり。お客さんが一番読みたいと思ってるやつをなるたけ。まあ、それが仕事ですからね」
この日は料理に関する本を2冊購入しました。
●積文館書店・三浦学功さん
「50年っていったら僕が生まれてないので、その時代からの本を知ってらっしゃる方っていうのが、一言で表せないですけど、すごいですよね」
本の仕入れが終わると、いつも喫茶店に立ち寄ります。
ここで一服するのが、今は何よりの楽しみです。
●松尾さん
「朝なんか若いお嬢さん多いですからね、その中に混じって、コーヒーを飲む。まだオレはがんばってるかなぁ、幸せだなぁと、そういうことを考えてしまいますね。年のせいかなぁ」
戦後は多くの人が貸本屋を利用していましたが、テレビなどの普及とともに客足は遠のいていきました。
松尾さんの店のような昔ながらの貸本屋は、福岡にもうわずかしか残っていません。
●松尾さん
「もう無理です。もう続きません。もう頭が回らない」
それでも松尾さんの店には毎日、なじみのお客さんが足を運んできます。
●40年以上通う女性
「古い本も置いてあるので、そういうのを探すのも楽しいですよね。私が本を読む間はずっと続けてほしいですね」
●松尾さん
「少しでも唐人町にお客に集まってもらうために、オレもがんばらないかんなーと。そういう気持ちはありましたね。頼られるとね、ついそのね、(本を)探してはいよってことになるでしょ。そして、あーよかったなと。大変やったでしょって言われると、天神の本屋はしょっちゅう回るから大したことないよと。それだけですね」
ネットや電子機器が普及する中、貸本屋さんには、人との繋がりやぬくもりが今も残されています。
元気の源は、お客さんの笑顔という松尾さん。
思い出がつまった本とともにこれからも店を守り続けます。