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[19760] 【チラ裏から】管理世界に武術の達人を放りこんでみた(リリカルなのは×色々)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/11 19:16
 第14管理世界ペッパー。その辺境にある森の中で若い女性が3人の男に体を押さえつけられ、泣き叫んでいた。

「いや、いやあ!!! 誰か助けて!!」

 彼女は必死に助けを呼ぶ。けれど、頭のどこかでわかってしまっていた。助けは来ない、仮に誰かが近くに居たとしても、その人が自分を助けてくれることは無い。もしその人物が助けようとしてくれたとしても、自分を襲おうとしている男達には敵わない。何故ならば、男達はこのあたりでは有名なごろつきで―――魔導師だった。
 それも3人の内一人はAランク魔導師で残り二人もCランク魔導師。それに対し、近場の駐在所にはFランクの魔導師が一人居るだけ。他は町にE・Fランクの魔導師が数人居る程度。ごろつき達を止められるものは誰も居ないのだ。
 彼女以外にも既に多くの女性が被害にあい、それ以外にも強盗、傷害、多くの罪を犯しながら男達は野放しになっていた。
 当然、管理局の地方支部に応援を要請してはいるのだが、管理世界の中では辺境な上、魔導資質を持つものが少ないペッパーでは地方支部にすらBランク魔導師が数人、Aランク魔導師に至っては一人も居ない。そしてペッパーの中でも特に更に辺境なこのあたりにその貴重なBランク魔導師をまわしてくれることは無く、かといってC、Dランク魔導師とて余っている訳ではない。一人や二人なら送れないことはないだろうが、格下の魔導師を少人数送ったところで返り打ちにあうだけとわかっているため、結局いつまで待っても救援は来ない状況が続いていた。
 1年を超えてただ、男達の暴虐に耐えるしかない毎日。そんな状態だから少女にも最初からどこか諦める気持ちがあった。

「へっ、大人しくすれば、ちっとは優しくしてやるからよ」

 下卑たことを言いながら男が少女のスカートに手をかける。諦めの気持ちが大きくなり、少女は全ての希望を捨て去ろうとする。

「やめろ!!」

 その時、離れた所より叫ぶ声が聞こえた。彼女は一瞬希望をよみがえらせ、直ぐにまた絶望を、それも先程までよりも更に大きな絶望を抱いた。
 それはその声に心当たりがあったから、その声が誰のものであるか気付いたから。自分の予想が間違っていて欲しい、祈りを込めながらその声のした方を見て、そして彼女は今度こそ絶望した。そこに立っていたのは一人の男性。予想した通りの相手。彼は足を振るわせながら、女性を襲う男達を睨みつけていた。

「ヤン……」

 その男は彼女の恋人だった。彼がここに来た事は彼女にとって救いでは無い。最悪の事態だ。彼がごろつき達に殺されることは無いだろう。ごろつき達も殺人までは犯さない。殺人が起きてしまえば、管理局も流石に無視できないことを知っているから。けれど、その一歩手前までは彼は傷つけられるだろう。そして傷ついた恋人の前で彼女は犯されるのだ。

(どうして……?)

 彼女は内心で答えの返ってこない疑問を呟く。どうして、魔導師でないというだけで自分達はこんなにも苦しまなければいけないのかと。管理局による質量兵器の排斥、管理しやすい魔法という力のみが残ったことで、確かに一時的には争いは減った。しかし、その力が次第に本局に独占されていく内に地方の治安はどんどん悪化していった。それは当然のことだろう。たった一人、ランクの高い魔導師が悪意を持っただけで、それに対抗する手段は何も残されてはいないのだから。他の全ての魔導師が理性的だったとしてもたった一人の悪意で砕ける平和、それが今の管理世界の実情だった。

「ぐっ」

「おらおら、どうした?」

 彼女の予想通りごろつき達に嬲られ、口から血を吐く恋人。彼女はそれを見ていることしかできない。そしてその後におとずれる最悪をただ待つことしかできない。絶望のあまり、彼女は舌を噛み切って自殺しようとまで考える。

「まったく、どうしようも無い奴等はどこにでもいるものじゃな」

 しかし、そこで再び第3者の声が彼女の耳に入った。今度の声は彼女も知らない相手のもの。その声の聞こえた先、そちらを見るとそこに居たのは一人の老人だった。手には杖を持っている。それを見て一瞬彼女はそれがデバイスかと思い、ついに待ち望んだ管理局の応援が来てくれたのだと喜びかける。しかしよくそれを注視し、それがただの杖であることに気付くと彼女の表情が再び絶望に代わる。

「ふむ。お嬢さん、こいつらがあんたを無理やり襲い、助けようとしたそこの坊主に暴力を振るっていると、そんなところでよいかな?」

 しかし絶望に彩られた彼女とは対照的に老人は余裕な調子で尋ねてくる。老人の言ったことは事実その通りだったので、彼女は思考を働かせないままそれに頷く。

「そうか。それじゃあ、ちょっと懲らしめてやろうかの」

「なんだ。じじい、てめえは」

 軽い調子で言う老人の態度に苛立ちながら、ごろつきの一人が老人に向かってデバイスを向ける。しかし、攻撃はしない。非殺傷設定とはいえ、老人に向けて撃てばショックで殺してしまう恐れがあるからだ。だが、そんな彼等に向かって老人は挑発をかける。

「ほれ、撃つんならさっさと撃ったらどうじゃ?」

 言葉と共に手招きするかのように手を振る。それを見て、あまり太くない上、日頃自分達以外の全ては自分達にへつらうのが当たり前と思っているごろつき達の堪忍袋の緒が切れた。

「このくそじじい!!」

 魔力弾が発射される。そしてその魔力弾は老人に直撃し、貫いた。そう“貫いた”。

「!?」

 その光景にごろつき達は驚愕する。ごろつき達は非殺傷設定で魔力弾を撃った。そうであれば、体を貫くなどある筈が無いのである。そして、貫かれた老人の体が虚空に書き消える。

「残像じゃよ」

「!!」

 その声はごろつき達の後ろから聞こえた。そして、次の瞬間、ごろつきの男達の一人の首筋に手刀が入れられ、その意識が断ち切られる。慌てた残り二人は素早く反転すると魔力弾を放つ。しかし再び老人の姿が掻き消え、そして今度は離れた場所から老人の声が聞こえ、ごろつき達の耳に入った。

「大丈夫じゃったか?」

「は、はい」

「あ、ありがとうございます」

 老人はごろつき達から100メートル以上離れた場所に移動していた。しかも、その側には女性とその恋人の姿もある。つまり老人は二人を抱え、一瞬でそれだけの距離を移動したことになる。呆気に取られるごろつき達。いや、ごろつきは最早一人だった。何時の間にかごろつきの一人が地面に仰向けに倒れ、気を失っている。その顎には靴の跡があり、どうやら老人は離れ際に置き土産とばかりに一撃見舞って言ったらしい。

「うむ、それじゃあ、お礼にパイパイを……っと言いたいとこじゃが、流石に自重して置くかの。それとお主、敵わぬまでも恋人を守ろうと悪漢に挑むその姿、立派じゃったぞ。お主さえその気ならわしの弟子にしてやろう」

「弟子?」

 ごろつき達を倒したことなど何でも無いと言った態度をし、女性にむかって一瞬すけべ顔を浮かべた後、さっと真顔に戻り、男を真っ直ぐに見て褒める老人。男はその老人が言った弟子という言葉に興味を惹かれる。

「うむ、こう見えてもわしは“武術の神様”等と呼ばれておるからのう。まっ、前に鍛えた弟子達にはとっくの昔に追い抜かれてしまったんじゃが。しかし、さっきからどうも体が軽いのお。どうも体が200歳ばかり若返っておるようじゃ。こりゃ、思い切ってわし自身ももう一度鍛え直してみるかのう」

 話しかけている途中でぶつぶつと呟き出した老人に、思わずこの場に現れた救世主がぼけてしまったのではないかと失礼なことを考えて、不安になってしまう女性。そこでごろつき達の叫びをあげ、彼女は正気に戻らされる。

「てめえ!!」

「うむ、それじゃあ、まずは、さっさとお前達を片づけるとするか」

「なめんじゃねえぞ。俺はAランク魔導師だ。ノックやタップとは格が違う!!」

 倒れた仲間を指して自分が格上であると主張する男。しかしそれを聞いても老人はまったく気負った様子を見せない。

「かわらんよ。お主の腕の方はさっき見せてもらったが、その程度ではわしの足元にも及びはせん」

「てめえええ!!!!!」

 老人の言葉がごろつきの無駄に高いプライドを刺激する。そして完全に切れたごろつきは自身の最大魔法を使うため、老人にバインドを仕掛ける。

「むっ?」

 突然、現れた魔力のロープに、老人は初めて攻撃を回避できず、受けてしまう。魔力のロープに拘束される老人。そしてそれを見るとごろつきはニヤリとした笑みを浮かべ、魔力を収束し始める。

「喰らえ俺の最強魔法、バーニ………」

「ふん!!」

 しかしその次の瞬間、老人が気合いの声をあげると共に、その筋肉がいきなり膨れ上がり、一瞬にしてバインドが断ち切られてしまう。そのあまりに非常識な光景に思わず、詠唱を中止してしまい、下に落ちてしまうのではないかと言う位に顎を開けてしまうごろつき。良く見ると、ごろつきばかりでなく、老人に助けられた二人までも同じような感じである。
 そして拘束を逃れた老人はと言うと、自由になったにも関わらず、ごろつきを妨害しようともせず逆にその場に制止する。

「どれ、せっかくじゃ、そのバーなんとかを見せてみんかい」

「な、何を!?」

「て、てめえ!! いいだろう、見せてやろうじゃねえか、俺のバーニングファイヤーショットを!!」

 老人の言葉に焦る二人と怒るごろつき。そして、何とかごろつきを止めさせようと老人に頼む二人を他所に、ごろつきが魔法を完成させてしまう。

「ははっ、今度こそてめえは終わりだ!!」

 老人達に向けたデバイスの先に魔力が集束する。それに対し、老人は両手を組み合わせ、器のような形にすると、それを腰の所にもっていく。

「か~め~は~め~」

「喰らいやがれ、バーニングファイヤー!!!」

 ごろつきの魔法が放たれる。自信を持って言うだけあって、それはかなりの威力と速度だった。魔法ランクにすればAA-程度はあるだろう。その砲撃が自分達に直撃する事を想像し、思わず目をつむる二人。しかしこの程度の一撃は老人を相手にするには足りなすぎた。

「波!!!!!!!!」

 老人の手のひらに“気”が集中し放たれる。そして、ごろつきの放った魔砲を遥かに圧倒するそのエネルギーは軽々と魔砲を貫き、そしてごろつきの頭の直ぐ真上を通りこし、空に消えた。

「……」

 その光景に誰も声が出せない。ごろつきはその場にへたりこみ、小便を漏らす。肉体的に傷は無いが、恐らくは精神的にショックが大きすぎて再起不能だろう。

「うむ、それじゃあ、こいつらを警察に引き渡すとするか。っと、この世界に警察はあるのかの?」

「あっ、はい。管理局という組織が。あの、その、あなたは一体何者なんでしょう?」

 女性が老人に尋ねる。魔法とは明らかに違う力を使い、魔導師3人を圧倒し、管理局の事も知らない。自分達の恩人とはいえ、その素姓はあまりに怪しすぎた。そしてその問いに対し、老人はニッカリと笑ってこう答えた。

「わしか。わしは武天老師、またの名を亀仙人と言うものじゃ」


(後書き)
最近、リリカルロボット大戦WとSEEDcrossの方がどうも上手く書けないので気分展開に短編を書いてみました。クロスキャラはご存じDBの亀仙人こと武天老子様です。かなり好きなキャラなんですが、原作ではインフレに飲まれ、完全戦力外になってしまい、SSとか動画とかでもほとんど見た事ないので書いてみました。



[19760] 実は管理世界に放りこまれたのは武術の達人”達”だった
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/26 21:42
 第1管理世界ミッドチルダにある管理局の地上本部でその防衛長官に任命されたばかりのレジアスは手元にあるデータを見て頭を悩ませていた。ミッドチルダの治安が悪化する一方なのに対し、ここ数年で急速に治安を向上させている管理世界があるのだ。それも複数。そしてそれらについて調査させた所、全てに対し、共通の答えが返って来た。

『武術の達人が現れた』

 最初、それは何の冗談かと思った。魔法を使わぬ武術など、精々がFランクの魔導師相手位にしか通用しない。それが管理世界の常識だった。しかし、それは冗談ではなかったのである。
第6管理世界アルザスでは流派東方不敗という武術の、第7管理世界ナックでは北斗神拳と南斗聖拳という武術の、そして第14管理世界ペッパーでは亀仙流という武術の使い手が現れ、更に彼等はその世界の住人の中から幾人かの弟子を取り、その弟子を中心とした自警団を結成している。そしてそれが治安向上に繋がっているのだと言う。
 更に第9管理世界マルドゥークでは管理世界で認められたというか、問題にならないとして禁止されなかった数少ない質量兵器である“刀剣”を用いる御神流と飛天御剣流という剣術の使い手が現れている。御神流は他に比べると個々の力は弱い、最も他が規格外過ぎるだけなのだが、その代わり数十名の集団で現れ、そのほとんどがCランク程度の魔導師を上回る戦闘力を持っているらしい。それに対し飛天御剣流は伝承者とその弟子の二人のみだが、伝承者の方は御神流の中で頭抜けた強さを持つ当代の男と互角かそれ以上の強さであるそうだ。それと他に波紋法なる技を使うものがこの世界では確認されている。
 そして第11管理世界テンプルでは我流X、Mr.カラテ、ナイトマンを名乗る仮面をかぶった格闘家3人組が犯罪組織を潰して回っているとの情報が入ってきている。また、これと関係あるかどうかは未確認であるが、風林寺隼人、タクマ・サカザキ、新宮十三という名の3人によって梁山泊なる道場が開設され、「史上最強の弟子育成計画パート2」なる詳細不明な計画が立てられている。

「うーむ」

 レジアスは考える。報告が確かならば、その力を是非とも地上本部に欲しいと思う。何より、レアスキル嫌いの彼にとっては場合によって魔法に勝り、努力によって手に入る力と言うのはとても魅力的だった。

「しかし、これ以上情報を集めても拉致があかんな」

 しかしながら上がってくる情報はあまりに眉唾過ぎて、これをもとに動くと言うのはあまりにも勇気がいる。そして悩んだ末に彼は決断した。

「ここは百聞は一見に如かずという言葉もあることだし」

 つまり自らの目で見て確かめるという結論であった。





 今をさかのぼること4年前、元の世界において350歳で大往生を迎え死んだ筈の亀仙人は何故か気がつくと100歳位の頃に若返っており、彼にとって異世界であるこの世界の森に佇んでいた。そして当ても無く彷徨っているとごろつきの魔導師に襲われていた恋人達、ヤンとユンファを見つけ二人と遭遇し、彼等を助けたその後、二人の住む町ジェイハンを訪れたのである。
そして、そこで、ごろつき達を亀仙人が倒したことを二人が町の人達に話し、初めはその話を信じなかった彼等だったが、やがてそれが真実だと知ると亀仙人は英雄だともてはやされ大歓待を受けた。そして町全体をあげた宴が終わりに差し掛かった頃にヤンが亀仙人に近づき、こう言ったのである。

「武天老師様、あの時、俺が望めば弟子にしてくれるとおっしゃいましたね」

「うむ、言ったのお」

 真剣な表情で真っ直ぐに言うヤンに酔っ払った亀仙人は軽い調子で答える。ヤンはそんな彼の態度を気にすることも自分の思いの丈をぶつけ、弟子入りを志願した。

「でしたら、お願いします!! 俺を弟子にしてください。俺は貴方のように強くなりたい。そしてユンファをいや、ユンファだけじゃない。町の人達を二度とあんな目にあわせない!! そのために俺を強くしてください!!」

「生真面目な奴じゃのお。じゃが、お主のような奴は嫌いではない。よいか、ヤンよ。武術は人を傷つけるためのものでは無い。お主の今の気持ちを忘れることの無いようにな」

 一瞬で素面に戻ったかのように真剣な、そして慈愛の籠った表情で語りかける亀仙人。その姿にヤンが大声で弟子入りを申し込んだことで二人を注目していた町の住人達が感心した表情を浮かべる。そしてヤンは亀仙人の言葉を受け取り神妙に頷く。

「はい、心に置いておきます」

「いいじゃろう。わしの弟子にしてやる。じゃが、一つだけ条件がある」

「はい!! なんでしょう!?」 

 ヤンの言葉に亀仙人は頷き返すと、真面目な表情を浮かべ、指を一本たてるとヤンに顔を近づけて言う。ヤンは弟子入りを認められそうなことに意気込み何でも言う事を聞くとばかりに条件を尋ねようとする。そして、亀仙人はその表情をすけべ顔に崩して言った。

「ユンファちゃんのパンチィ1枚だけでいいからくれんかのぉ?」

「はっ?」

 その後、周りのあまりの視線の冷たさに慌てて冗談だと誤魔化した亀仙人だったが、その後しばらくの間、彼の評価が暴落し、ヤンも弟子入りを後悔しかけたことは言うまでも無い。





「それでは、ヤンよ。早速修行を始めるぞ!!」

「はい!!」

 スケベでも変態でも実力は確かと気を取り直し、亀仙人の指導を受けようと考え、意気込んで修行に望むヤン。しかし、そこで亀仙人が言った修行内容は彼の予想を大きく覆すものだった。

「うむ、それでは手刀で畑を耕すのじゃ!!」

「はい!!……はっ?」

 その後もスキップで移動してピザの配達のアルバイトをやれだの色々とふざけているのではないかと思える修行ばかりが課せられる。その修行姿を周りに笑われ、肉体的にも精神的にも辛い内容にヤンは段々と疑念を募らせていった。そしてある日遂に激昂して彼は亀仙人に詰め寄ったのである。

「武天老師様、もっと武術の型などを教えてください!!」

「かー、武術の型などお前には10年早いわ!!」

 しかし、武天彼はまるで取り合わない。代わりに彼の目の前で重さ数百キロはあるのではないかと思われる大岩を押して動かせてみせて、これが出来たら型を教えてやると告げる。その姿に改めて亀仙人の力を実感したヤンは屈辱に必死で耐え、修行を続けた。そして修行を初めて半年がたった頃のことである。

「ヤン、甲羅を外してよいぞ」

「えっ、あっ、はい」

 唐突にそう告げた亀仙人の言葉にヤンは戸惑いながら甲羅を外す。修行を初めてから半年間彼は寝る時やフロに入る時すら重さ15キロの甲羅を背負わされ続けてきたのである。それを何故、急に外してよいと言われたのか疑問に思いながら外すと彼は自分の体があまりに軽く感じるのに驚かされた。

「それじゃあヤンよ。わしの手に向けて思いっきりパンチを撃ってみろ」

 そして甲羅を外したヤンに対し、亀仙人は右手の手のひらを開けてヤンの前に差し出す。

「しかし俺はまだパンチの打ち方も!!」

「いいから、やってみい」

 戸惑いながら、促されたヤンは適当な構えをとる。そして、彼は拳をひき、思いっきり力を込めてパンチを撃った。その拳が亀仙人の掌にぶつかった瞬間。

「!!」

 その時、聞こえた音が一体何の音なのか彼には瞬時に理解できなかった。あたりに鳴り響く程に大きな音。それは強烈な打撃音だった。ヤンが打ったパンチによってそれが発生し、鳴り響いたのである。

「ふむ、なかなかじゃな」

「あっ、あの、今のは……」

 一体何故、自分にそんなパンチが打てたのかまるでわからず尋ねるヤンに亀仙人が解説する。

「いままでの修行は体を鍛えると共に、体にとって最適な動きを極自然にだせるようにするためのものだったのじゃ。手刀で畑を耕すのは辛い。だから、少ない力で深く掘れるように無意識に自分の力を最大限に生かす動きをするようになる。スキップで形の崩れやすいピザを崩さずに素早く運ぶためには重心を常に安定させなければならない。他の修行にもそう言った意味がある。修行を繰り返すことで、お主は知らぬ間に身体の最適な使い方を学んでいたのじゃよ」

「……申し訳ありません。俺は今まで、修行の成果を疑っていました」

 説明を聞いて修行の意味を知ったヤンは首を垂れて謝罪する。そんな彼を亀仙人はからからと笑って言った。
 
「何、気にすることはないわ。それよりも、今日から本格的な型の稽古を始めるぞ。お主は前の弟子達と違ってその辺のことを何も知らんからの。身体の使い方と技、そして何よりも己に負けぬ心、それらを合わせて強くなるのじゃ」

「はい!!」

 そうして更に修行すること半年、達人とは言えぬまでもヤンがこの世界の常人の域を超え始めた頃のことである。近くの町で嘗てのジェイハンと同じように魔導師が狼藉を働いているという話が伝わってきたのである。

「武天老師様!!」

「ふむ、そうじゃの。放ってはおけん。行くとするかの」

 ヤンの言葉に真剣な目付きで答える。しかし、その数秒後、だらしなく表情を崩し、スケベ顔になる。

「それに町を救えばヒーローじゃからピチピチギャルにももてもてじゃしのぉ。パイパイ位は揉ませてくれるかもしれんのぉ」

「ははっ」

 その亀仙人の姿を見てヤンは渇いた笑いを漏らす。けれども、彼は知っている。そんな打算などなくても自分の師は人を見捨てたりするような人でないことを。いや、まあ、言っている事自体は本音と言うか、実際にその場で言うだけ言ってみそうだし、OKがでれば間違いなく実行するスケベな人だと言うことも理解しているが。
なにはともあれ、こうして、二人は魔導師達が暴れる近くの町、チュンハイへと向かうのだった。


(後書き)
予想を遥かに超えた応援を頂きましたので続きを書いてみました。今、亀仙人が居る第14管理世界ペッパーは地球の中国っぽい感じの世界で初期のDB世界観ともちょっと似てる感じの設定です。
後、今回、色々な漫画の武術の達人を出しましたが、前々から書いて見たかったこととして、魔法資質という生まれついての絶対的な才能差のある管理世界に努力次第で誰でもある程度強くなれる武術を、それも魔法に匹敵するチート武術を広めたいと言うのがありまして、1話で好評いただいたのに便乗させていただいて、彼等を登場させてみました。蛇足と思われる方も居るかもしれませんが、基本的に亀仙人は他の管理世界に呼ばれた達人達とは絡みません。他の達人達については広い視点でみれば同じ世界に存在するだけでそれぞれが個別に歩む独立したサブストーリーと言う形で書いて行きたいと思います(ただ、亀仙人VS東方不敗とか位は面白いかなーとか考えてしまっていたりしますが)

ただ、ここまで色々言って置いてなんですが、他の途中な作品もありますので、後、長くて2,3話で一旦一段落としたいと思います。続きはリリカルWが一段落するか、またスランプになった時に気分変えに書こうかと思っています。



[19760] 管理世界を達人が暴れまわっているようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/27 11:58
 10人のデバイスを持った魔導師達。彼等はチュンハイで暴虐を繰り返す犯罪者集団だった。そして彼等に対し、管理局の制服を着た一人の魔導師が向かい合い、彼等に杖を向ける。

「おいおい、いい加減諦めたらどうだ?」

 その魔導師に対し、挑発というよりも呆れたと言った言葉を投げつける犯罪者達。しかし、それに対し、管理局の魔導師、ライは勇ましく吠える。

「うるさい!! お前達こそ、大人しく捕縛されるんだ。こんな暴虐は何時までも続かないぞ!!」

 しかし、それが虚勢であることは誰の目にも明らかであった。良く見ればライの足は震えているし、デバイスを構えながら管理局の制服のままの格好の時点で彼が戦闘時にバリアジャケットにまわす魔力量の無い低ランクの魔導師であることも予測できる。それに対し、相手の魔導師は10人。勝ち目があるとは思えないし、実際に彼は何度もこの犯罪者達にやられていた。それでも町の住人達を守るため、この町に居る唯一の管理局員として彼は何度もやられても立ち向かい続けてきたのである。

「いい加減うっとうしいな」

「足の一本位折っちまうか」

 犯罪者達の声に苛立ちが混じり始め、悪意を持った言葉が飛び出てくる。しかし、ライは引こうとはしない。それを見てリーダー格の男が指示を出す。

「そうだな。管理局員に怪我させるとうるさいと思って見逃してきたが、どうせもうそろそろ次の町を狙うつもりだったんだ。最後に盛大に行くか。足一本と言わず両手両足折っちまう位の気でいくか」

 それは今まで以上の暴虐を犯すという宣言。無論、その対象はライだけに治まりはしない。町全体に及ぶだろう。絶対にそんなことはさせないと、ライはデバイスを強く握りしめる。しかし、現実は残酷だ。彼が10人の魔導師全てを倒すことは不可能に近かった。

「それじゃ、まずは邪魔者を片付けるとするかな」

 リーダー格の魔導師が管理局の魔導師がデバイスに魔力を集束させる。それを見て管理局の魔導師も動こうとする。

「おいおいさせるかよ」

 しかし、そこで別の魔導師、しかも二人がかりのバインドに拘束されてしまう。ライは必死にそれを解除しようとするが、彼の魔導師ランクはE、それに対し、バインドをかけた二人のランクはD。とても逃れられるものではなかった。

「じゃあな。今までうっとうしかったけど、これでお別れかと思うとちょっと寂しいぜ」

「勿論、嘘だけどな」

 そして彼等は管理局の魔導師を嘲笑う。ライはもがき続けるが、彼を拘束するバインドはびくともしない。悔しさに思わず涙を流し、それを見て犯罪者達は更に彼を笑う。

(悔しい。何故、何故、俺はこんなに弱いんだ)

 人を守る仕事がしたい。そう思い、管理局に入った。しかし現実にはEランク、それも努力でそうなっただけで資質的にはFランク程度の魔導師でしかないライに大した仕事は回って来なかった。回ってくるのはいつも雑用や事後処理ばかり、そして貧乏くじとして辺境であるこの地に飛ばされたのである。
 それでも腐らなかった。自分のやるべきことを精一杯やるのだと魔法の腕を磨き続けた。だが、それは何の役にもただず、町を荒らす犯罪者達に一太刀すら浴びせかけることはできなかった。

「あばよ」

 そしてリーダー格の男のデバイスに魔力がたまってしまう。それを見てライは遂に諦め力を抜いてしまい、デバイスから魔力弾が発射される。

「ほいっとな」

 その瞬間、リーダー格の男が数メートル吹っ飛んだ。照準が外れ、魔力弾は明後日の方向に飛んでいき、吹っ飛んだ男はそのまま町の壁に激突する。その勢いで壁のタイルの一部が剥がれ落ち、激突した男の方は完全に目を回し、気絶しているようだった。

「しまった。ちょいとやりすぎちまったの。あー、すまんが、修理費はこいつらにつけといてくれ」

 それを見て禿げた自分の頭を軽く叩き、男を蹴り飛ばした犯人、右手に木で出来た杖を持ち、背中に亀の甲羅を背負うと言う奇抜な格好をした老人は犯罪者達を指差してそう軽く告げる。そして老人はバインドに縛られているライを見て嫌そうな顔を浮かべた。

「緊縛プレイか? 男同士でそういうのとはわしにはようわからん趣味じゃのお」

「てめえ、ふざんけんじゃねえ!!」

 リーダー格をいきなり蹴り飛ばされた上、ふざけた言動をする老人に犯罪者の一人が怒り狂って飛びかかる。デバイスに魔力を付加し、老人を殴ろうとする男。

「ほい」

 しかしそこで老人が突き出した杖がカウンターのタイミングで男の顎に入り、男はふらついた後、白目をむいてその場に仰向けに倒れる。余程いい角度で入ったのか、完全に気を失ったようだった。

「まったく、老人のちょっとしたお茶目で、きれてしまうとは気の短い奴じゃ」

 やれやれとでも言いたげに首を振る老人に今度は残りの犯罪者達が老人に攻撃を仕掛けようとして、彼等は制止した。それは老人の右脇に自分達が捕えていた筈のライの姿があったからだ。

「ほれ、今、自由にしてやるぞ」

 一体何時の間にと思う犯罪者達を他所に老人はバインドを引きちぎった。素手で。
 そのあまりに非常識な光景に彼等は目を丸くする。バインドは一応魔力が半分物質化したものであるから単純な腕力で引きちぎれない訳ではない。しかし、それはあくまで理屈の上での話だ。太いロープを素手でひきつるなど人間技ではないし、バインドの物理的な強度はDランクの魔導師程度が生み出せるものでも下手なロープよりも上なのである。

「武天老師様!!」

「おお、ヤン、遅いぞ」

 そこで一人の男が老人を追いかけてくる。老人、亀仙人はそれに答え、青年、ヤンの方を向く。その瞬間、老人の視線が完全に犯罪者達から外れてしまう。

「!!」

 それをチャンスと見た犯罪者達の一人が亀仙人にデバイスを向ける。しかし、撃とうとしたその瞬間、何時の間に拾ったのか、彼は手に石を持っており、視線をヤンに向けたまま投げつけ、それは見事に老人を狙った男の頭に直撃する。脳震盪を起こしたその男はその場に昏倒をする。

「こいつらが、例の……って、もう3人も倒しちゃったんですか!?」

「うむ、お主が遅いからのう。残して置くのは苦労したぞ」

「えっ、残しておく?」

 倒れている犯罪者達を見て驚くヤン、しかし亀仙人の言葉にそちらの方を気にかかったようで尋ねると、亀仙人は頷いて答えた。

「こいつら全然たいしたことないようじゃからの。ちょうどいい実戦経験じゃ。お前、二人程、相手にせい」

「えっ、おっ、俺がですか!?」

 亀仙人の言葉にヤンが驚愕する。いや、彼ばかりではないライもまた驚愕の表情を浮かべている。非魔導師が魔導師に挑む。それは普通、あり得ないことなのだ。しかしヤンの方は続く亀仙人の言葉にはっとさせられる。

「なんじゃ、お主、そのためについてきたのではないのか? お主の夢は町を守ることなのじゃろう? 戦えなければそれは何時までも敵わんぞ」

「!!……わかりました。やります」

 一瞬怖気づいてしまったが、自分がこの場所に来た理由を思い出したヤンは犯罪者達に向き合い、構える。それを見てライは慌てて老人を説得しようとした。

「無茶です!! 魔導師でない人が魔導師に立ち向かうなんて」

「ほっほっ、それを言うならばわしだって魔導師ではないぞ」

「えっ? あっ!!」

 魔導師を次々倒す姿に無意識に亀仙人を魔導師だと思い込んでいたライは言われて初めて彼に魔力が無いことに気付く。その事実に信じられないと言った気持ちで困惑する彼を他所に亀仙とヤンは並んで犯罪者達に向き合った。

「いくぞ」

「はい!!」

 亀仙人の掛け声に合わせて二人同時に飛び出す。それに対し、犯罪者の一人がヤンに向かってデバイスを向け、残りが亀仙人に向ける。

(えっ?)

 その時、ヤンは魔導師達ふざけているのではないかと思った。何故ならばその動きがあまりにゆっくりに見えたからである。発射される魔力弾、それをドッジボールでもよけるかのような感覚で軽くかわす。そして自分の攻撃がかわされ驚愕する男のもとに近づきその腹に一撃を見舞った。

「!?」

 殴られた男は悶絶し、その場にうずくまる。そしてそれを見て仲間の男の一人が青年に飛びかかる。恐慌状態に陥ったのか、非殺傷設定不能な斬撃の魔法できりかかる。しかし青年は軽くバックステップを踏んでそれをかわし、回し蹴りでその男の頭を蹴り飛ばした。

「ふむ、まあまあじゃの」

 あっという間にノルマの二人を倒してしまった自分に信じられない気持ちで一瞬呆然としかかってしまったヤンはその言葉に正気に戻り亀仙人の方を見る。
 そして改めて驚愕した。彼の周りには残った5人の犯罪者達が全て倒れていたのである。自分が強くなったと自惚れかかった彼はまだまだ師の頂きが遠い事を思い知らされ、しかし今は敵を全て倒した喜びを分かち合おうと駆け寄ろうとする。
 だが、そこで彼は亀仙人の表情がまだ真剣なままであることに気付いた。

「さてと、ヤンよ。一旦下がっておれ」

「えっ?」

 亀仙人に身体を突き飛ばされるヤン。そしてその次の瞬間それまで青年が居た場所を魔力弾が通り過ぎる。その魔力弾は地面に激突し、大爆発を起こした。

「なかなか、いい感をしてるじゃねえかよ」

 そしてそこに一人のガラの悪い男が現れる。それはつい最近になって、犯罪者達に加わった男でライも見た事の無い男だった。その格好は特異で右手に鉄鋼のようなデバイスを付け、足にはローラブレードのようなデバイスを履いている。それを見たライがその正体に気付き叫びをあげた。

「まさか、シューティング・アーツの使い手なのか!?」

「シューティング・アーツ、なんじゃそれは?」

「陸戦魔導師の一部が使う武術です。けど、普通の砲撃魔導師になるよりも危険が大きくなるし、習得が難しいのであまり使い手は居ないってことですけど。その分、使い手は実力者が多いって聞いたことがあります」

 亀仙人の疑問に答えたライの解説に男は機嫌よさそうな表情をする。そして自身満々な態度で語り始めた。

「良く知ってるじゃねえか。その通り。俺は元管理局のAAランクの魔導師様よ!!」

「AA……!!」

 男の言葉にライが絶句する。AAランクと言えば彼にとってはまさに雲の上。管理局でも本局以外にはほとんど居ないレベルである。亀仙人の強さは見たが、それでも勝てるとは彼には到底思えなかった。

「ふむ、なるほど。確かに雰囲気からしてさっきの奴等とは一味違う感じじゃの。しかし、そんな大層な立場に居たものが何故、盗賊如きに落ちぶれておるのじゃ?」

 背中に背負った亀の甲羅を地面に置き、疑問を発する亀仙人に男が嫌な顔をする。そして愚痴にも聞こえる自らの境遇を語り始める。

「はっ、あの馬鹿管理局に愛想がつきたんだよ。あいつら、今まで散々管理局貢献してきた俺に対し、魔力資質が高いってだけで12歳のガキを上官にしやがったんだ。おまけにそのガキは俺を顎でこき使いやがる。あんな所に居られるかってんだ!!」

「なるほどのぉ。まあ、気持ちはわからんでもないが、だからと言ってそれが他者に暴力をふるっていい理由にはならんじゃろうて」

 男の話を聞いて亀仙人は納得の意を示す。しかし、それは管理局に不満を持ったことに関してだけだ。そこで見返してやろうともせず管理局を辞めたことに対してでも、ましてや狼藉をふるう犯罪者になった事に対してでもない。

「はっ、知る……」

 “知るかよ”男はその言葉を最後まで言うことはできなかった。気付いた時に、亀仙人が直ぐ目の前にまで迫っていたから。

「少し反省せい」

 亀仙人が静かに告げる。次の瞬間には男は空高く舞っていた。そして、地面から蹴りあげた筈なのに亀仙人は何故か男の真上に居た。

「ほぅ!!」

 亀仙人の両手を組んだ拳が男を高速で地面に叩きつける。バリアジャケットのおかげで死ななかったものの、凄まじい衝撃に気絶する男。そして亀仙人は地面に着地し、亀の甲羅を背負い直し始めた。

「ふぅ、やれやれじゃわい」

「「……」」

 その光景をヤンとライは呆然と見ていた。いや、正確には離れた場所にいたにも関わらず、亀仙人の動きはほとんど見えなかった。AAランクの魔導師を瞬殺したその強さにヤンは師の底知れなさを改めて実感し、ライはその正体不明の強さに畏敬を抱いた。

「さて……」

 そして甲羅を背負いなおした亀仙人が二人の方を向いた瞬間だった。

「きゃああああ!!!!」

「うぉおおおお!!!!!」

 町中から一斉に叫び声が上がる。そしてそれと同時に建物の中に隠れ、様子を伺っていた者達が一斉に飛び出してきた。そして町を守るために戦った英雄である3人のもとに人々が集まる。

「うほほ、こりゃ役得じゃわい!!」

 亀仙人は感極まった美人数名にキスの嵐を受けている。そしてその近くで町の感謝を受けながら、ライは彼を見ていた。

(俺も、あの人のように強くなりたい)

 ライが管理局を休職し、亀仙人の弟子になる半年前の話である。


(後書き)
疑問なんですが魔導師ってDBのキャラが気を読むように相手の魔力量とかって読めるんですかね?ヴィータ達はできるみたいですけど、ユーノはなのはが魔力を見える形で放出するまでなのはの魔力量がどの位か分かっていなかったみたいですし、ヴォルケン達の特殊技能って気もするんですが。一応この話ではある程度わかるけど、DBの気の探知に比べればかなり大雑把なレベル、ヴィータ達はかなり精度のいい方っていうように設定しています。



[19760] 管理世界で達人が弟子を育てているようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/28 20:58
 第14管理世界ペッパーの町、ジェイハン。そこには亀仙流の道場があった。3年前、チュンハイの町で魔導師達と戦った後、更にいくつかの町で同じようなことをした亀仙人の名はペッパー全体に知れ渡り、彼の強さに憧れるもの、町を守るための力を求めるもの多くが彼に弟子入りを希望した。
 亀仙人はその内、邪悪な心が強いものを除き、その全ての弟子入りを認め、その後逃げ出したものも多いが、残っているもので現在20名が彼の弟子となっている。またその内、8名はある程度の実力を身につけ、故郷の町に返って町を守るためにその力使っている。また1名だけ力に溺れ、武術で得た力を悪用してしまった者がいるが彼は亀仙人直々にお仕置きし、今は刑務所の中。ただし、破門はしておらず、出所後はみっちり性根から鍛え直してやるつもりでいた。
 そして残る11名の内、2人しかいない女の弟子の一人、赤い長髪と豊満な胸を持ち、チャイナに似た服を着た、紅 美鈴(ホン メイリン)が亀仙人に来客を告げるために彼の部屋を訪れていた。

「老師様、お客さんですよ」

「んっ、客、誰じゃ?」

「何か、管理局の人みたいですけど」

「ほう、管理局がわしに何の用かのう?」

 立ちあがって案内するメイリンの後をついて歩く。その視線は彼女の胸を向いている。そして視線だけでなく、手をのばし、その胸を*鷲掴みにした。その行為に彼女が悲鳴をあげる。

「きゃ、きゃあ!!」

「おほう、あい変わらずええ乳しとるのお」

「老師様の変態!!」

 崩れ切った表情をする亀仙人の顔に、その行為に怒った回し蹴りが炸裂する。それを喰らって壁に叩きつけられる亀仙人。更に、メイリンは両手を器形に構える。

「か~め~は~め~」

「こ、こりゃ、メイリン、ちょっと待て!! それはちょっと洒落にならん!!」

「波!!!!!!」

 弟子の中で最も気を扱う才能にたけ、亀仙人以外で亀仙流奥義とも言えるかめはめ波を唯一使うことのできる彼女の一撃が炸裂する。その一撃に道場が大きく揺れた。

「な、なんだ!?」

「ああ、気にしないでください。いつものことですから」

 その振動に待合室で待っていたレジアスが驚き慌てるが、応対を務めていた若い弟子は慣れたもので平然としている。

「まったく、武天老師様もあれさえなければ立派な人なんですけどねえ。まあ、その辺の人間臭さが好かれる要因の一つと言えばそうなんですが。でも、女の子の弟子が少ないのはやっぱあれが原因かな……」

「あ、ああ」

 弟子の男のぼやきになんだかよくわからないまま適当に相槌を打つレジアス。そして数分後、ドアが開きそこに全身ボロボロになった亀仙人と頬を膨らせて顔を赤くして彼の後ろに立ったメイリンが現れるのだった。

「すまんのう、お待たせてして」

「い、いや、約束も取らずに押し掛けたのはこちらだ。取ろうと思ったのだが、ミッドチルダからこちらへの直通の通信手段がなかったのでな。し、しかし、その怪我は大丈夫なのか!?」

 亀仙人の姿を見て慌てるレジアス。それに対し、亀仙人は何でもないとばかりに元気に笑い飛ばしてみせた。

「いや、これ位はたいしたことないわい。鍛えておるからのう」

「そ、そうか」

 そういうものなのかと納得いかないものを無理やり納得させる。そして亀仙人が彼の前に座ると、レジアスは表情を引き締め直した。

「それで、今日は何の用じゃったかの?」

「単刀直入にお願いする。あなたの力を見せていただきたい」

「ふむ、わしの力とな。何故じゃ?」

 亀仙人の疑問に対し、レジアスは今の地上本部の現状を包み隠さず説明する。そして亀仙人の力が本物なら、是非とも地上本部に招き入れ、その力を平和のために振るってもらうと共に、地上を守る武術家達を鍛えて欲しいとの要望を伝えた。

「ふむ、事情はわかったわい。しかし、わしはここを離れる訳にはいかん。まだまだ未熟な修行中の弟子達もおるし、このあたりも最近は少しはマシになってきたとはいえ、未だに狼藉な行いをするもの達も絶えん。今、わしがこの地を離れれば今、大人しくしとる奴等までまた暴れ出すかもしれんしのう」

「だが、地上本部には力が必要なのだ!!」

 レジアスの要望に対し、亀仙人の答えはあまり芳しいものではなかった。レジアスは彼の意思を何とか変えようと説得をする。しかし、亀仙人の次の言葉で口を詰まらされる。

「だからと言ってわしを無理やり引き抜くようではお主の嫌う本局と変わらんぞ?」

「むっ」

 数の理論から言えば亀仙人にミッドチルダに来てもらった方が多くの人が救われるだろう。しかし、それを言ってしまえばまさしく彼の嫌う海軍や管理局本局と同じになってしまう。だが、だからと言ってレジアスの方も黙って引き下がる訳にはいかなかった。何か妥協点は無いかと考える。すると、亀仙人の方から提案を切りだしてきた。

「そこでわしの代わりにわしの弟子を管理局にやると言うのはどうじゃ?」

「むっ、あなたの弟子を?」

「老師、もしかしてライさんを?」

 亀仙人の言葉にピンと来たのかメイリンが一人の名前をだす。チュンハイの町で管理局員を務めていたライ。彼は管理局を休職し、亀仙人のもとで修行に励んでいたのだが、休職中のある日、突然解雇を言い渡されたのである。元々魔導師として評価の低かった彼が長期休職を取ったことで必要のない人材として判断されてしまったのだ。強くなって、その力を管理局でふるい人々を守ろうと意気込んでいた彼はその事態におおいに消沈した。しかし、周囲の励ましもあり、立ち直った彼は目指す強さに辿りついた後、改めて管理局への入局を希望しようと修行に励んでいるのである。

「うむ、あ奴も、もうそろそろ一人前じゃからの」

「そのライという男の実力は確かなのか?」

 レジアスが尋ねる。ライの実力が亀仙人に匹敵すると言うのならば問題は無いが、実力の無いものに来てもらっても意味は無い。尋ねられた亀仙人はしばし考えて答えた。

「そうじゃの。まあ、今ここにいるメイリンとこの世界のわしの一番弟子のヤン、それと今、武者修行に出とる弟子についで4番目と言ったところじゃろう」

「ふむ」

 微妙な答えだ。亀仙人があげた他の3人の弟子の実力がわからないので何とも言えない。いや、そもそも亀仙人の実力自体、噂以上にはレジアスは知らないのだ。

「実力を疑っておるのならが、実際にその目で見てみてはどうじゃ。そこのピチピチギャルのお嬢さんに相手をしてもらうとかのお」

 そこでまたも亀仙人の方から提案が投げかけられる。彼が指名したのは念のために護衛としてレジアスに連いてきた魔導師だった。それも地上では片手で数えられる程にしかいないAA-ランクの魔導師、クイント・ナカジマである。レジアスとしてはそんな貴重な戦力を自分の護衛になど使う気はなかったのだが、今回の訪問に当たり、本人の方から強い申し出があったのだ。認められないのならば、有給扱いでも構わないという彼女に折れ、護衛として連れて来たという訳である。

「私はかまいません。ただ、一つ聞きたいことがあります」

 亀仙人の申し出に対し、寧ろ望むところとばかりに答えた彼女は前置きした上で、真剣な表情になると一つの質問をした。

「あなたが、アベルに勝ったというのは本当ですか?」

「誰じゃそれは?」

 沈黙が訪れる。しかし亀仙人としても彼女の出した名前には全く心辺りが無い。そこでその場に残っていた若い弟子が彼に口添えした。

「あの、武天老師様、確か老師様が3年前にジェイハンの町で倒したというAAランクの魔導師がそのような名前だったかと」

「あー、あいつのことかい。あいつ、名前何か名乗らんかったからのう。ちっとも知らんかったわい」

 亀仙人がAAランクの魔導師を倒した逸話は有名だ。故にその倒された魔導師の名前も結構知られているのだが、亀仙人本人にしてみれば別にたいしたことではないので、全く注意を払っていなかったのである。

「ごほん、それでは本当なのですね?」

「うむ、本当じゃよ。じゃが、それがどうかしたのかいのお?」

 気を取り直して尋ねなおしたクイントの問いに亀仙人は頷く。それを聞いて彼女は少し眉をひそめた。

「恥ずかしながら彼は私の兄弟子です。私は昔、彼に一度も勝てませんでした。彼の素行の悪さは当時からでしたが、実力は本物でした。その彼に勝ったというあなたの実力に興味があります。もし、あなたの弟子に私が勝てばあなたとも戦わせていただけませんか?」

「ふむ、かまわんよ。その代わり、ちょっとパイオツを……」

「駄目ですよ。老師様」

 嫌らしい手つきを見せた亀仙人の頬をメイリンが強くつねる。そのやりとりに疑念や不安と言った感情を抱くレジアスとクイントだったが、その場にライが呼ばれ、二人の対決の準備が整うのだった。









「開始の合図はわしがする。二人とも準備はいいかの?」

「はい!!」

「何時でも」

 亀仙人が審判として両者の真ん中、試合場の外の位置に立ち、試合場ではライとクイントが向き合う。そして試合開始の合図がなされた。

「はああ!!」

 開始の合図と共にクイントが飛び出す。シューティングアーツの真髄はローラ・ブレード型のデバイスによる高速機動。彼女は一気に距離をつめ、魔力を込めた籠手型デバイス“リボルバーナックル”をつけた右腕を振るう。

「はっ!!」

 それをライは上方に飛んでかわした。垂直に10メートル近くジャンプし、その攻撃を回避する。

「くっ」

 ローラ-ブレード状のデバイスを履く関係上、前後の動きには滅法強いシューティングアーツだが、どうしても真横や上下には弱くなる。攻撃をかわされた彼女は少し前方に進んだ後反転し、地面に着地しようとするライを右拳で狙う。

「てい!!」

「はっ」

 しかしライは着地して直ぐに反転して拳を振るう。両者の拳が激突。その結果速度に乗っていた分、クイントの方が勢いが強く打ち勝ち、拳を弾かれるライ。そこに更にクイントの左拳が迫る。

「ぐっ」

 それをサイドステップでかわすライ。横に弱いクイントはそれをすぐに追撃出来ない。左斜め方向に移動し、一旦距離を取って体勢を立て直す。

(やりにくい!!)

 クイントが内心で叫ぶ。魔導師の近接戦闘は魔力による推進力を利用している場合がほとんだ。そのため、ライのように範囲の狭い小回りをする相手とは彼女は戦った事の無いのである。そのため、横や上下に弱いシューティングアーツの弱点が今まで経験したこと無い程にはっきりとでてしまっていた。そこで彼女は得意の近接戦闘を一旦捨て、遠距離からの攻撃に切り替えることにした。

「くっ」

 あまり得意な方ではないが、AA-ランクの魔導師だけあって彼女は誘導弾も使える。これは武闘家であるライには極めて不利だった。避けても追撃してくるのでガードするか、石などを投げて迎撃するかしかない。彼は一応魔導師でもあるが、杖状のデバイスは邪魔になるので、デバイス無しでも使いやすい自身の身体強化にしか彼は魔力を使っていなかった。非殺傷設定の魔力弾を何度も受け、彼の身体に疲労が蓄積していく。

「やああああ!!!」

 しばらくの間、一方的に守りをかためていた彼だったが、一か八かの勝負にでたのか前に飛び出してくる。それに対し、クイントも砲撃をやめ、迎撃の構えを取った。

「はああ!!!」

「たあああ!!!」

 両者の拳がまたもや激突……することはなかった。ライは途中で拳を止める。フェイントをかけたのだ。そしてそのまま、彼女の側面に回り込みしゃがみこむ。

「しまっ!!」 

 側面で下方向。シューティングアーツにとって最も狙い辛い位置に移動されてしまう。慌てて、前方に移動して手足の届く範囲から逃れようとするが、それは少し遅かった。

「とりゃあああ!!!」

 ライの足払いを受けて倒れるクイント。そして起き上ろうとする彼女の眼前に彼の拳が突きつけられていた。









「まさか、本当にAA-ランクの魔導師が……」

「まあ、多分に相性もあったがの。相手が砲撃魔導師であれば恐らくあ奴は勝てなかったじゃろうて」

 その試合を観戦していたレジアスが呆然とした声をあげる。それに対し、亀仙人は冷静に批評する。しかしそれを聞いて尚、レジアスは興奮する。聞いた話によればライは魔導師でもあるそうだが、Eランク程度でしかない。そんな人間が例え相性が良かったにしてもAA-ランクの魔導師に勝利する。しかも亀仙人の話によれば、彼は修行を初めてまだ3年程度。そして彼の兄弟子であるヤンに至っては完全に非魔導師であるのに彼と互角以上の実力だと言う。これで興奮しない訳はない。

「わしが直接赴く場合に比べれば成果は落ちるかもしれんが、どうじゃあいつで?」

「わかりました。彼をお借りします」

 ライの意思は戦いの前に既に確認している。彼は認められるのならば喜んで行くと宣言していた。亀仙人を得られなかったのは残念だが、十分以上の収穫だと喜ぶ。敬意を払ったのか口調も丁寧なものになっていた。ところが、そこで亀仙人が以外なことを言いだした。

「じゃが、その前に1月程待ってはもらえんかの?」

「え? ああ、それは勿論。準備も必要でしょう」

「いや、そうでなくてな。あのお嬢ちゃん、人妻さんか、あれを一カ月程お借りしたいんじゃ」

 その言葉にレジアスは顔をしかめた。そして先程の亀仙人の行動から推測して、少し軽蔑の混じった表情になる。

「まさか、弟子を差し出す代わりに彼女の身体をとでも?」

「言うかそんなこと!! いや、おっぱい位なら見せてくれると嬉しいがのお。じゃが、そうじゃない。彼女を少しの間、鍛えたいと思うのじゃ?」

「彼女を?」

 あまりにも予想外な申し出にレジアスは困惑を示す。そして亀仙人はサングラスを外すとレジアスと目を合わせ、真剣な表情で言った。

「ああ、あの娘はかなり筋がよい。基礎は出来ておるし、少し指導してやれば劇的に化けるぞ」

「まさか!?」

 AA-ランクから更に劇的に強くなるとしたら、それはどれ程のものになるのか。レジアスにはあまりに信じ難い言葉だった。

「本当じゃ。どうする?」

「わかりました。よろしくお願いします」

 亀仙人の言葉が本当ならば願っても無い申し出である。1ヶ月彼女の戦力が失われるのは痛いが、その後のメリットを考えれば十分に有益な選択だ。

「ああ、それとじゃ」

「まだ、何か?」

 付け加えるように言う亀仙人。そして続く言葉にレジアスは今度こそ呆気に取られた。

「折角じゃから、お主もここで少し鍛えていかんか?」

「はっ?」


(後書き)
次回で亀仙人編一旦完結です。
今回はクイントさんをオリキャラに負けさせてしまってすいません。ただ、今回は少年漫画で言うところの強敵に負けて、パワーアップという所の前の方の回ですんで。次回にご期待を。
それと、今回、でてきた紅 美鈴、はい、東方の美鈴です。原作の500年程前という設定です。まだ、レミリアは生まれてもいません。元々亀仙人の嫁兼女弟子としてメイリンという名前のオリキャラを出す予定だったのですが、「あれ、そういえば東方のメイリンと同じ名前じゃん」→「武術家キャラってことも共通してるな」→「亀仙流気を使うな」→「いっそ当人にするか」ってことで登場になりました。当初の予定通り嫁になるかは読者様の反応を見て決めようかと思っています。反応にかなりひやひやです。ちなみに彼女の詳細な設定は下記の通り。

紅 美鈴
第14世界ペッパーに元々存在していた妖怪。文明社会の発展によって妖怪の大半が滅びかかっている中、細々と生き残っていた。お腹を空かせていた所、彼女の住処の近くを通りかかった亀仙人とヤンを見つけ襲おうとしたが返り討ちに会った。元々あまり強く無い妖怪。人間を食べないことを約束させられ、その代わり食事の面倒を見てもらうことで亀仙人の弟子になっている



[19760] 管理世界のお星様に達人がなったようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/30 20:42
「一体何の冗談ですか。私が武術を習うなど……」

「お主、強くなりたいのじゃろう? 顔にでておるぞ」
 
 亀仙人のその言葉にレジアスはギクリとする。確かにその言葉通りの願望が彼にはあった。自分の全てを見透かしたかのようなその言葉に彼は思わず、畏敬にも似た感情を覚える。そして自分を真っ直ぐに見る彼に隠し事は無駄と悟ると、自分の気持ちを吐露することにした。

「確かに憧れる気持ちはあります。しかしわしはもう40を軽く過ぎている。多忙で訓練に多く時間を取ることもできないでしょう。今から鍛えても、とても魔導師と戦えるような達人には……」

「別に達人になる必要はなかろう。亀仙流は別にそんな堅苦しいものでは無い。お主はお主なりに強くなればそれでよいのではないかな?」

 言い訳になっていた言葉を諭され、彼は思い出す。まだ、世の中のことを良く知らなかった幼い頃、現場に立って戦う管理局の職員に憧れていたことを。そして彼等のように人々を守る人達になりたいと思っていたことを。その時に憧れていた彼等は別に高ランク魔導師のような特別な存在ではなく、街を守るために戦う、普通の管理局員達であったことを。

「わしはわしなりにですか……」

 その時の気持ちを思い出し、呟く。そして考える、自分が本当になりたいものとはなんなのかを。

「そうじゃ。武術は己自身に負けぬために習うものじゃ。それを見失わなければ達人に成れずとても学んだことは決して無駄にはなるまい」

「……よろしくお願いします」

 亀仙人の言葉に心を動かされ、レジアスは膝をついて頭を下げた。ミッドチルダを守るとか管理局の体制を変えるとか、そういう大きなことは防衛長官としてのレジアス・ゲイズに任せておけばいい。ただ、一管理局員として犯罪者の危険にさらされる者が居た時、前に立って庇い、相手に立ち向かえる程度の勇気と強さが欲しい。
 彼はその強さを手に入れるため、そして自らに負け、道を誤らぬように武術を学ぶことを願いでた。亀仙人はそれに満足げに頷き彼の弟子入りを認める。
そして約束の1ヶ月の時は瞬く間に過ぎるのだった。











「はっ!!」

 1月前の時と同じように足払いをかけるライ。しかしクイントはそれを片足を上げて回避する。そして残った片足でアイススケートのスピンのような動きをしてみせ、身体を90度回転させ、向き合った状態へと戻した。そしてそこで一旦バックステップし、間合いを取るとライに向かって拳を突き出す。

「くっ!!」

 しゃがみこんだままの状態では魔力弾をもろに喰らってしまうと素早く立ちあがるライ。それを見たクイントは魔力弾を使わず、急接近し、突撃をしかける。ライはサイドステップでそれを回避しようと右に移動する。

「なっ!?」

 しかしローラブレードという足元の不安定なその状態で、クイントはそれに追随してみせた。そして右拳に魔力が集中する。

「たあ!!」

 放たれる必殺の一撃、辛うじてガードをするものの威力におされ吹っ飛ぶライ。そのまま場外に叩き落とされ、決着となった。

「見事なものだな」

 戦いに関しては素人である筈のレジアスにもクイントの小回りが1ヶ月前に比べ、格段によくなり、機動性が向上していることが見て取れた。亀仙人も意見を述べる。

「うむ、このまま、鍛えて行けば更に強くなれるじゃろうて」

 亀仙人がした修行は足腰とバランス感覚の強化。修行内容としてはローラブレード以上に安定性の悪い、アイススケートで片足で立った状況で左右に重りを背負い滑り続けると言ったものであった。元々レベルとしては低く無かったそれらを鍛え直すことで片足でも安定した姿勢を保つことができるようになり、今までよりも遥かに自由な方向転換を可能とし、その長所を殺すことなく弱点だった横方向への動きを克服させたのである。今はまだ多少のぎこちなさが残っているが、このまま鍛えて行けば、正に縦横無尽な機動を実現できるようになるだろう。
 そして身体の重心を完璧にコントロールできるようになれば、一つ一つの技の威力が向上することも期待された。

「まいりました。まだまだ、修行不足であることを実感しました」

「うむ、あまり天狗になってはいかんからのう。やらせてよかったわい」

 立ちあがり前回の勝利で少し自惚れていた自分を反省をするライ。それに対する亀仙人の言葉にレジアスは彼の思惑に気付く。

「もしや、この試合は彼女のためだけでなく、彼を戒めるために?」

「うむ、ま、そういうことじゃな。じゃが、彼女を鍛えたかったのも嘘ではないぞ」

「はい、それは分かっています。まさか、こんなに上手く身体が動くなんて。身体が凄く軽く感じました」

 クイント自身、あまりによく思い通りに動く身体に驚いていた。ただ、この時点では彼女自身気付いていなかったが、単に身体のバランスが良くなっているだけでなく、実際に彼女の身体能力は上がっていたのである。今まで鍛え続けてきた彼女がここに来てその身体能力を上げた理由、そこには亀仙流のある秘密が、そしてこの世界に多くの達人が呼ばれた意味が隠されていた。しかしこの時点でそれに気付いているのは亀仙人と、他の世界に呼ばれた一部の達人のみである。

「少将の方はどうです? 修行の成果の程は」

「元から基礎の出来ていた君と違い、わしは全くの素人から1ヶ月鍛えただけなのだ。そんな劇的な成果がある筈もなかろう……っと言いたいところだが。ちょっと待っておれ」

 レジアスの方を向いて尋ねるクイントに対し、彼は答えるとあるものを探しだす。そして目的のもの、拳台のサイズの石を見つけると彼女達の前に戻り、眼前でそれを左手に握り、右手を握り拳にして見せた。そして、石に向かって思いっきり拳を叩きつける。

「……あの、少将、今、素手で石を殴りましたよね?」

「殴ったな」

「……少将って魔法は使えませんでしたよね?」

「魔力資質の欠片も無いな」

「もしかして手品とか得意です?」

「若い頃、宴会の余興にと練習したことがあるが、結局、向いていないとわかり諦めた」

 それが何かの間違いである可能性を全て否定され、クイントはようやくその事実を認めた。

「石……砕けてますけど。それも、粉々に」

「最初は軽めの訓練をしてもらっていたのだが、調子良く慣れて行ってしまったのでな。どんどん厳しくしてもらって行ったら何時の間にかできるようになっていたのだ」

「ほっほ、思ったより筋がよかったわい」

 亀仙人がレジアスに才能があると評価する横で、クイントは彼が砕いた石を拾い確認する。硬い、軽石などではなく、間違いなく硬い石だった。

「この程度出来た所で魔導師相手には役に立たんだろうが、少しは自分に自信がもてたるようになったな」

((いや、こっちの方が自信失いそうです))

 クイントとライが同時に同じ事を心の中で叫ぶ。一ヶ月でこんなに成長されては二人共立つ瀬が無い。そして油断していると本気で彼に追いつかれるかもしれないと思い、改めて修行に励むことを誓うのだった。

「さて、そろそろじゃな。ライ、向こうでは頑張るのじゃぞ」

「はい!!」

「それと、修行の時は自主練などさせず必ず一緒につくようにせい。それとなるべくなら修行時は共同生活をした方がよい。あー、あと、レジアスとクイントもなるべくなら一緒に修行せい。無理なら、見学だけでもしないよりマシじゃぞ」

「? わかりました」

「はい」

「承知しました」

 亀仙人の忠告にその意味がよく理解できないまま、3人は頷く。亀仙人の修行内容は怪しいものが多いが、常に成果があるのは確かである。そして理由を聞いても教えてくれないことが多いのだ。これも何か意味があるのだろうと彼等は黙って頷くことにした。

「それでは、元気でな」

「「「はい!!」」」

 3人同時に答える。そして3人は管理局地上本部へと返って行った。亀仙人達はその姿が見えなくなるまでそこに立って見送る。

「ライさんが居なくなってちょっと寂しくなりますね」

 ライ達の姿が見えなくなったのを確認して、亀仙人の後ろに立っていたメイリンが話しかける。それに対し、亀仙人は振り返ると、驚いたように言った。

「なんじゃ、もしや、お主ライに気があったのか?」

「えっ!? いや、そんなんじゃ無いですって」

「そうかそうか、この胸をライの奴に渡すのは惜しいからのお」

 亀仙人の言葉に顔を赤くして、手をパタパタと振り否定するメイリン。それを見て彼は楽しそうに笑うと、メイリンの胸に顔を埋めてそのままこすりつけた。その行動に一瞬硬直し、そしてその硬直が解けると一回元に戻ったメイリンの顔が見る見る赤くなる。

「老師様のばかあああああ!!!!!」

「ひょえええええええ!!!!!」

 思いっきり蹴られ、お空のお星様になる亀仙人。
 これは地上本部で非魔導師と低ランク魔導師のみで結成された特殊部隊ができる3年前の話である。


(後書き)
今回はエピローグ的感じでかなり短めになりました。この後、後日談としてレジアス主役の3年後、武道家のみで結成された特殊部隊設立後の話をほんのちょっと書いて亀仙人編を一旦完結としたいと思います。



[19760] タイトルは作中に
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/02 10:15
 ミッドチルダ市街地から少し外れた場所にある裏道。そこは狭い道であったが、それなりに人通りのある場所だった。しかしそんな通りで速度を出して走る一台の車があった。しかも運転手は通話しながら注意力散漫な状態で。そして、彼の走る道の前に子供が飛び出してしまう。運転手が気付いた時には子供は直ぐ目の前に迫っていた。

「!!」

 運転手がブレーキを踏むが既に減速は間に合わない。そしてその次の瞬間、その場に居た人達は息を飲んだ。そこに見えたものは顔を青くした運転手。ボンネットを大きくへこませた車。そこについた血。ぐったりした子供。それともう一つ。

「速度違反に脇見運転、その電話で管理局を呼んでたっぷりと絞られるんだな」

 左手で子供を抱え、右拳を車に叩きつけた姿の管理局地上本部防衛長官、レジアス・ゲイズの姿だった。




―――――――レジアスの休日――――――――――




「く、車を殴って止めた!? 魔導師か!?」

「いや、まて、まさか、あの男は!!」

「知っているのか雷電!?」

「いや、誰だよ雷電って。あれだよ、防衛長官のレジアスって人」

 レジアスが暴走した車を拳で止めると言う行為をしてのけたことに周囲が騒然とする。そしてTVで見た彼の顔を覚えていた一人が彼の名をあげる。それを聞いて他の者達も彼のことを思い出す。

「ああ、確か武闘一課とかいう部隊を立ち上げたって言う人でしょ?」

「そうそう、魔法ではなく、武術を主体にした防衛部隊って奴。結成前は予算の無駄だって散々叩かれたり、笑われたりしたけど、結構活躍してるって話、最近よく聞くよね」

「最近は隊長のライってのがAAランクの魔導師を捕まえたって話だぜ。まあ、ライってのはランクが低いとはいえ魔導師でもあるらしいけど。しかし、どっからそんな発想が出てきたのかと思えば当人があんなとんでも無い人だったとは……」

 魔導師至上とも言える管理世界に置いて、武術を主体にした防衛部隊という奇抜過ぎる発想の出所に対しレジアスの姿を見て納得したり呆然としたりする人達。そしてレジアスのもとに彼が抱えた子供の母親が駆けよる。

「マイク!! ありがとうございます!! あの、手は大丈夫ですか?」

「心配いらん。この程度の怪我、訓練の時もよくあることだ」

 車を殴ったレジアスの手には血がにじんでいたが、本当に血がにじむ程度で数日もしてしまえば完全に治ってしまいそうな怪我だった。逆に彼が殴った車の方はボンネットが大きく陥没し、エンジンの一部までも破損してしまっている。そして、そうこうしている内に、事故の連絡を受けた管理局の職員が現場に現れる。

「レジアス中将!?」

「ああ。一応、私も事故の当時者だ。後は、そこの運転手と他に轢かれそうになった子供がいるが、事故のショックもあるだろう。少し、休ませてからにしてやれ」

 地上本部のトップが居た事に驚く職員にレジアスが答え、調書作成に協力をする。そして、それを終えると、レジアスは目的を再開することにした。

「さて、どこに行くかな」

 ミッドチルダの散歩、それが彼の今日の予定である。多忙な毎日に休日が取れた時は修行をするか、ミッドチルダの街を当ても無く散策するのが彼のお決まりのパターンでとなっていた。そうして街とそこに住む人を見る事で自分の守るべきものが何なのかということを改めて心に焼き付けるのである。

「しかし、さっきは間一髪だった。やはりわしももっと足の速さを鍛えるべきか?」

 歩きながら先程の事故のことを考える。あそこを通りかかったのがライやクイントならばレジアスのような派手な真似はする必要が無く、普通に子供を助けて、車を避けることができていただろう。しかし、鈍足のレジアスには時間的に間に合わず、仕方なく車を止めて子供を庇うことで救ったのである。最も、100メートルを9秒フラットで走る彼を指して鈍足と言うのは何かが間違っている気がするが。

「だが、中途半端に鍛えた所で……。スピードを鍛えるべきか、パワーを伸ばすべきか」

 短所の克服か、長所を伸ばすか、そんな風に考え事をしながら歩いていた所為だろうか、気がつけば彼は見知らぬ場所に、しかも荒れ果てた場所に迷いこんでしまっていた。

「この辺は廃棄都市の近くか?」

 ミッドチルダには幾つかの廃棄された区画がある。原因はさまざまで、高ランク魔導師の暴走によって一瞬で瓦礫の山と化したり、治安の悪化により放置された場所なども存在する。周囲を見渡し、そのどこかに迷いこんでしまったらしいと気付いたレジアスは思ったよりも遠くに来てしまったと思いながら、廃棄都市について考えを巡らせ始めた。

「この辺もその内、どうにかせねばならんな」

 治安の点からも地価や交通の便などの点からも廃棄都市を放置して置くことのデメリットは多い。しかし、再開発等を進めるにしても、不法占拠している住民がいるなど解決しなければならない問題が中々多いため、今の管理局地上本部にはそこまで手を回す余裕はなく対処できないで居た。
 将来の課題と思いながら、引き返そうとするレジアス。しかしそこで彼は人の声を耳にする。悲鳴にも聞こえるその声に彼は少しだけ奥へ進んでみることにした。

「くそ。ふざけんなよ、何で俺が左遷されなくっちゃなんねえんだ!!」

「頼む、もう、やめてくれ!!」

 声を辿って行くと、壁に囲まれた狭い通路で、その先は袋小路の場所に二人の男の姿を見つける。そこで一人が一人に対し、一方的に暴力をふるっていた。暴力を振るわれている方は必死に泣いて謝っているが、もう一人はやめようとしない。やりすぎと思えるその行為に、レジアスは制止に入ることを決める。

「何があったか知らんがその辺にしておいたらどうだ?」

「あっ? げっ!!」

 暴力をふるっていた男の方がレジアスの顔を見てまずいものを見たと言ったような表情を浮かべる。レジアスはその男の態度に怪訝な顔をするが、男の顔にどこか見覚えがあるような気がし、顎に手を当て考えて気付く。その男はつい最近本局から異動されてきたBランク魔導師の男であった。送られた当初は本局にしては珍しく気前のいいこともあるものだと思っていたものだが、直ぐにその理由があまりの素行の悪さに厄介払いされてきたのだと判明する。そして、本人はその辺を全く反省しておらず、寧ろ本局から地上本部への異動を都落ちしたと荒れ、周囲に当たり散らする始末であった。

「お前か。彼にも管理局の人間が市民に暴力をふるうとは」

「い、いや、こいつが、先に金を脅し取ろうとして来たんですよ」

「だからと言ってやりすぎだろう。そもそも、お前は何故こんな所に居る? さっきお前が言っていたことも聞いていたぞ」

 レジアスのように迷いこんだのでもなければ普通は来ない場所である。八つ当たりの言葉を発していた事といい、苛立ちをぶつけるためにわざわざこんな所にまで来たのだろうと当たりをつける。そしてそれはずばり的中していた。

「うっ、それは」

「まあ、お前の言う通り、その男が先に脅迫を仕掛けてきたと言うなら酌量の余地はあるが、だからと言ってここまでやってしまっては処罰はさけられんぞ」

 呆れた表情で溜息をついて言うレジアス。その言葉に男が怒りの表情を浮かべる。そしてレジアスの前では今まで一応丁寧語で話していたのが、完全に汚い言葉遣いに変わって叫び出す。

「ふざけんじゃねえ!! 非魔導師の分際で偉そうに説教しやがって!!」
 
 その言葉にレジアスは今度こそ完全に呆れた。非魔導師を見下す魔導師は少なくないが、それを口に出さない程度の分別は犯罪者でも無い限り持ち合わせているのが普通である。にもかかわらず仮にも上官である自分に対しそんな発言をするとは、非常識にも程がある行為だった。いっそこのまま首にしてやろうかとも考えるが、それでクイントの先輩だった男のように犯罪者になられても問題である。

「少し、指導してやろう……選べ。大人しく処罰を受けるか、わしと戦うかを。わしに勝ったら今日のことは不問にしておいてやる」

 そこで彼は口で言ってもわからない相手には拳で言って聞かせることにした。男に選択を与え、戦いを持ちかける。

「なっ、本当かよ!?」

「ああ。どうする?」

「ああ。勿論、戦う!! 勝ったら本当に見逃してくれるんだろうな!?」

 提案に対して男は当然のようにレジアスと戦うことを選んだ。先程の言動からもわかるように彼は完全に魔導師以外の人間を見下している。武闘一課のことやレジアスが一緒になって鍛えているらしいという噂は一応彼も耳に聞いて知っていたが話し半分にすら信じていなかった。武闘一課の活躍は情報操作された嘘、一部が真実だとしても精々がE、Fランクの魔導師を集団で捕えた程度の話を誇張しているのだと鷹をくくり、仮に自分が戦えば確実に勝つと頭から信じ込んでいたのである。故に、レジアスの行動は調子の乗った馬鹿の戯言としか捕えておらず、馬鹿のおかげで助かると浮かれていた。

「ああ、本当だ」

 そう、レジアスが右袖をまくり、その下につけられていた”重り”を外すまでは。外れた重りは床に落ち、明らかに重量物が落ちた鈍い音を立てる。

「!?」

 中年男がそんなものをつけていたことに対して驚く男を他所に、レジアスは左腕、右足、左足と次々と重りを外して行く。合計重量35キロ、彼はそれだけの重量を日常、訓練時と常に背負い活動していた。尚、100メートルを9秒フラットというのはこの重りをつけた状態でのタイムである。

「そ、その程度で魔導師と非魔導師の差は埋まられねえぞ!!」

 レジアスが重量物を背負っていたことを知った男が動揺を隠すように叫ぶ。それでもまだ彼には余裕があった。レジアスが身体を鍛えていることは分かったが、身体を鍛えた程度の非魔導師に自分が負ける訳は無いと考える。
そして、男の言葉に対し、何とレジアス本人がそれを肯定してみせる。

「そうだろうな。普通に戦えばわしがお前に勝てる可能性は低いだろう」
 
 しかしその後で彼は一つ付け加える。彼には勝算があったのだ。そして彼の身体に変化が起こる。

「だが、運が悪かったな。この場所で戦う限りにおいてはわしは圧倒的に有利だ」

 筋肉が膨れ上がり、身体が突然一回り大きくなったのだ。正に筋肉の鎧に覆われたと言っていい体つきになる。その異常な変化に先程はまだ余裕のあった男が後ずさりをする。

「お前の今、立っている場所は左右を壁に囲まれ、後ろも行き止まり。薄暗く、狭く、出っ張った障害物の多いこの場所では激突の恐れがあり、いきなり高速で空に飛び立つこともできない……」

「ひっ」

 そしてレジアスから発せられるプレッシャー。本能的にそれを感じ取り、男は更に後ずさる。そしてレジアスは彼に対し、腕を上げ、拳を見せた。

「わしは技もスピードもないが、これだけにはそれなりに自信があってな。逃げ場の無いここでは攻撃を避けられず防ぐしかないが、さて防ぎきれるかな?」

「う、うわあああああああ!!!」

 恐怖の悲鳴と共に前方にシールドを展開し、身を守ろうとした。しかしそれはある偉業からその名を名付けられたレジアス必殺の一撃の前にはあまりに脆弱過ぎた。

「アイアンクラッシャー!!!!!!!」

 レジアスの拳はシールドを叩き割り、そのまま男を殴り飛ばす。殴られた男は、車にひかれたかのように跳ね飛ばされ、あえなく気絶する。そしてその後、減俸半年にプラスして謹慎3ヶ月の処分を受けるのだった。








「ふう、昨日は休日だと言うのにかえって疲れてしまったな」

 休日から一夜明け、長官室の椅子に腰かけ、肩をもんだ後で首を振って鳴らす。2件も騒動に巻き込まれ、できれば一日位休みを延長したいところであったが、やるべきことが彼には数多くあった。
 まずは武闘一課に続く武闘家部隊の設立。武闘一課が成功したとはいえ、それはあくまで実験部隊。これを始めとして人数を増やしていかなければ意味が無いのである。しかし、それに当たって抱える問題は、予算や希望者を集めることを始めとして山積みであった。

「今の所、本局がうるさく言って来ないのが幸いだが……」

 精神的に余裕が出来たおかげで最近のレジアスは本局や海の人間ともそれなりに親しくなり、友人と呼べる相手も何人かできていた。そしてその友人達の話では、未だに本局や海では魔導師至上主義が蔓延っており、武闘一課の成功についても、地上が戦力をよこせとうるさく請求して来なくなった、と喜んでいる位でまるで脅威とは見なされていないと言う事らしい。正直腹は立つし、将来的に戦力が充実してくれば口をだしてくる可能性が高いと言うことであるが、それはまだ先の話である。

「問題は身内だな。全く……」

 今、厄介とするのは、地上にこそ武闘一課を疎ましく思う人間が多いことであった。その大半は魔導師で、今まで魔導師と言うだけで安泰だった自分達の立場が脅かされるのではないかと危惧しているのである。海や本局との反応の違いは平均的な魔導師ランクの違いによる武闘家達との力の差とその活躍を直接目にしているかどうかが要因であろう。その危惧をいい方向に働かせ、武闘家に追いつかれないようより一層の努力をしている者達もいるのだが、今の所、何とか武闘家を戦力から排除しようとしているものの方が多数である。そう言った考え方をいつまでも変えようとしないような奴等は将来的には辞めてもらってもいい、寧ろ辞めてもらった方がいいのだが、現状ではまだまだ武闘家の数も揃っておらず、彼等も必要な戦力である。何とか宥めて使って行かなければならない。
 そもそもレジアスの最終的な目標としては魔導師を排除し、そこに武闘家を当てるのではなく、両者が連携し活動していくことである。嘗てはレアスキル嫌いだった彼だが、現在の彼にはそれを希少な技能者として評価するだけの懐がある。武闘家に比べ、能力に多彩性のあるところ等、魔導師の長所を認め、両者の長所を生かして行こうとするのが彼の構想なのだ。

「全く、問題は山積みだな」
 
 溜息をつきながら、しかしその表情はやる気に満ちていた。防衛長官についた打開策が全く見えなかった頃に比べれば今の状況は遥かにいい。少なくとも先に希望の可能性が見えているのだから。

「さて、まずはどれから片づけるか!!」

 レジアス・ゲイズ、彼は武と知を持ってミッドチルダを守る地上の守護者である。


(後書き)
レジアス魔改造しすぎたかも(汗)
何はともあれ、亀仙人編一旦閉幕です。
後は、残りの作品の方を再開しながらちょこちょこサブシナリオを書いていこうかと思うのですが、現在5本構成までできていてどれから書こうか迷っています。タイトルだけ出しますのでもしよろしければどれが読みたいかアンケートをお願いします。希望が上がればそこから優先して出して行きたいと思いますので。

① 三達人の無敵暴走突撃発進、管理局○○支部最後の日?
② 『水心』ティアナ・ランスター
③ 極悪の華の散る時
④ 御神と御剣
⑤ ツェペリ・誇り高き血筋(時間軸的には④のAfter story)



[19760] 管理世界に機動六課?が設立されたようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/12 07:25
注意書き:ここから先は時間軸上外伝シリーズよりも後になります。設定が変わっているキャラが居たり、外伝を読んでいないと違和感を感じる部分があるかもしれませんので、そちらを先に読むことをお勧めします。


「機動六課、緊急時の即時対応を目的とした少数精鋭の特別部隊、その実験部隊か……」

「はい。了承いただけますでしょうか?」

 緊張した面持ちで地上本部防衛長官レジアス・ゲイズ大将の回答を待つ、八神はやて二佐。地上本部内に本局所属の新部署をつくりたいという要望、本局の重鎮数名と聖王教会という後ろだてがあり、これが10年前であれば地上本部の許可を取るまでもなく、強権を発動し設立することは可能だったであろう。
 しかし、この数年で状況は大きく変化したのである。
 武闘一課の設立からスタートした武術家による防衛部隊の構想がスタートして8年、亀仙流以外に現在では南斗白鷺拳を取り入れ、部隊は9番隊まで結成、Dランクの魔導師と対等以上の実力を持つものだけを数えても総人数は100名を超え、現在も増え続けている。非魔導師や低ランク魔導師に武術を教えることで戦力を絶対数を増やすこの試みは見事に成功したと言え、更に競争原理により魔導師達の質も10年前に比べて向上し、特に能力以上に職業意識が向上したのは大きな成果であった。
 これによりクラナガン市の犯罪件数は10年前に比べ、2割弱減少し、検挙率は1.2倍程度に増えている。更に、クラナガン市に留まらず、ミッドチルダ各地への部隊単位での派遣、各地での武術家の育成と言った次の段階も既に開始され、今後はミッドチルダ以外への管理世界への展開も視野に入れられていた。
これらの成果と今後の期待、そして拳でトラックを粉砕するという強烈なインパクトを持ったレジアスのキャラクターはある種のスター性を生み出し、地上本部と彼の人気は管理世界内で大きく高まりつつあったのである。
 そしてここまで人気の上がった地上本部やレジアスを蔑な扱いにすることは管理局のスポンサーたる管理世界の各国政府にとっても国民感情の反発を招きかねないため許容できないこととなった。そのため、各国政府から管理局本局へと圧力がかかることになる。如何に管理局と言えども、スポンサーが結託して圧力をかけてきたらその意向に逆らうことは難しい。長年の慣習もあり、いきなり対等とは行かなかったものの、本局も軟化した姿勢を示さない訳にはいかず、無闇に強権を発動出来ない程度には海と陸との立場差は埋まることとなった。

「いいだろう」

 ここで初めてその話を聞く訳でも無いのに、はやての要望に対し、しばらく考える姿勢を見せるレジアス。そして彼が返したのは肯定の意思だった。その言葉にほっとするはやて。しかしレジアスの言葉はまだ終わってはいなかった。

「ただし、条件がある」

「条件……ですか?」

 その言葉にどんな無理難題を突きつけられるのか身構えるはやて。だが、レジアスのだした条件は彼女の予想を大きく超えるものだった。

「この部隊を地上本部と本局の合同部隊とすることだ」

「合同……部隊ですか?」

 あまりに予想外なその言葉にはやては思わず呆然とした口調で返してしまう。レジアスはそれに頷き、細かい説明を話し始めた。

「そうだ。勿論、対等な立場等とは考えていない。こちらは後から入る形だ。主体はあくまで本局側、指揮権の優先権もそちらにある。こちらからは魔導師を含む人材と予算を幾らか提供する。代わりに部隊が成果を上げればその一部はこちらの成果となる。当然、失敗した時はこちらも責任の一部を追う。これは地上本部と本局の間にある軋轢を考えての提案だと思ってもらいたい。知っての通り、地上と本局は長きに渡る対立があり、連携に問題を発生させる恐れがある。だが利害が一致してしまえば、余計な諍いを引き起こす訳にもいかなくなるであろう?」

 説明を聞いてはやては納得した。とは言ってもレジアスの言葉を額面通りに捕えた訳ではない。要するにレジアスは自分達を信用していないのだと彼女は理解する。主導が本局側にあるとは言え、合同部隊となればどうしたって行動に制限がかかる。責任の一部を負うと言うのは言いかえれば「お前達が下手なことをすればこっちにまで責任が来るのだから気をつけろ!!」と言う意味だ。
 しかし、裏を理解したからと言ってその条件をただ拒絶する訳にはいかない。そんなことをすれば「迷惑をかけます」「裏があります」と言っているようなものだからだ。断るのならば、正当な理由を提示するか代替案を上げるかしなければならない。そうでなければ、部隊の設立自体が認めてもらう事ができなくなる。

「それに合同部隊にはもう一つメリットがある。実質的には1部隊でも形式的には2部隊になるから、魔導師の保有制限が2倍になる。こちらから派遣する魔導師はA+ランクの魔導師だが、保有制限が2倍になれば問題なく受け入れられる筈だ。そちらが提示した候補メンバーのリミッターを緩めることもできるだろう」

「!!」

 レジアスの提示したメリット、だが、しかしそれははやてにとってはそれほど大きなメリットではない。元々、リミッターを解除する権限は彼女にその保有が認められているのだ。平常時の保有制限等、実の所はさしたる問題では無いのである。だが、それはあまり大きな声では言えない話だ。そして合同部隊のメリットを一つ増やされた以上、断るのはますます難しいことになった。

「わかりました。その話お受けします」

「うむ、よろしく頼む」

 悩んだ末に話を受ける事にしたはやては、内心の苦々しい感情を表に出さずにレジアスに手を差し出し握手をする。こうして、地上本部と本局の合同部隊機動六課は誕生したのである。










「はあ、やられてまったなあ」

 長官室を立ち去り、気分をリフレッシュするため、昼休みを利用して街にでたはやては街のカフェで大きな溜息をついてぼやきを漏らした。

「まっ、しゃあない。前向きに考えよっか」

 レジアスの話の中で一つだけ嬉しい報告があった。それは彼が六課に派遣すると言うAランクの魔導師がはやてが前々から目をつけていた人物だったことである。半年前にAランクに昇格したことで部隊に保有制限に引っ掛かると言うことで諦めていたのだが、思いがけず、その人材が手元に入ることとなったのだ。
 無論、レジアスの差し向けた人物と言うことでスパイである可能性は疑わなければならないが、それは誰が刺し向けられても同じこと。ならば、少しでも優秀な人物である方がいい。また、洗った人物像からは例え裏があったとしても戦闘中に味方を裏切るような人物でないことが伺えた。

「ティアナ・ランスター16歳。去年、陸士学校を歴代トップの成績で卒業。卒業後、直ぐにBランク魔導師の昇格試験を受け合格。半年前にAランク昇格試験に合格。執務官志望。高い判断能力と驚異的な回避能力、レアスキルである“収束”を高度なレベルで使いこなす技量を持つ……か」

 経歴を改めて読み上げる。それは機動六課の隊員として文句のつけどころの無い能力の持ち主と言えた。しかもまだ16歳、伸び代は十分にある。問題は彼女の実力が特出しすぎて他と釣り合いのとれない可能性があること位だが、そちらについては既に対処案を考えてあった。

「折角、保有制限が増えたことやし、こっちの子もスカウトさせてもらうかな」

 ティアナとは別の人物の経歴が書かれた書類を叩く。そこに書かれているのはティアナとは陸士学校時代からコンビを組んできた少女で彼女同じくA+ランクの魔導師。実技の成績に関してはティアナに並ぶ成績で、二人して教官以外に相手になる者がおらず、特に卒業真近には教官の方が負け越す位であったと記載されている。総合でも次席卒業、この10年で見ても5本の指に入る優秀な成績で陸士学校を卒業している。

「スバル・ナカジマか。確かナカジマ三佐の娘さんやったな」

 知り合いの娘の少女、彼女を口説き落とせればティアナとのバランスも取れ、機動六課は想定以上の強い部隊になる。

「うっし、やるか!!」

 気合いを入れ直すはやて。その時、彼女の耳に大きな声が聞こえ、振り向くとそこにはピンク色の髪をした少女の姿があった。

「お父さん、見て、凄い凄い!!」

「こら、キャロ、あんまりはしゃぐな」

 その少女ははやての居るカフェの一つ上のフロアの柵から半分身を乗り出して目を輝かせ街を眺めている。その後ろからは彼女の父親らしき人物の姿。それと少女の肩には何やら翼を生やした小動物の姿があった。微笑ましい光景だとそれを眺めていたはやてだったが、次の瞬間彼女は身を凍らせた。身体を乗り出し過ぎたその少女が柵を残りこえて落ちてしまったのだ。

「!!」

 あまりに突然なことではやては直ぐに動けない。普段、現場に出る事の無い彼女にはこう言った場合の瞬時な行動が取れなかった。そして、魔法を使わなければと彼女が考えた時には既に動きを開始している者がいた。

「キャロ!!」

 少女の父親と思われる金髪の男性が、少女のものと思われる名を呼び、柵を飛び越え追いかけたのだ。少女が落ちた瞬間、その思考だけは周囲の全てがスローモーションに感じられる程に速くなっていたはやての視界の中で、彼だけは高速で動く。
そして男は落下する少女に追いつくとその身体を受け止め、そのまま地面に向けて落下する。そこで更なる変化が起きた。少女と一緒に落下した小動物、小型の姿になっていた竜が巨大化したのである。父親は少女を抱きかかえたままその背中の上に着地した。

「キャロ、興奮するのは分かるが、気をつけないと駄目じゃないか」

「ごめんなさい」

 竜の背中で父親は少女を下ろし、父親に叱られ小さくなる少女。その姿は反省している感じではあったが、高い所から落ちたことにショックや脅え等はまるで感じていないようだった。

「今度から気をつけるんだぞ」

「はい」

 一通りの説教を終えた後、父親は少女の頭を撫で、それでしまいにする。そしてまだ、地上まで5メートル位あるにも関わらず、二人は竜の背中から地面に向けて飛び降りた。

「!?」

 そして何でもない様子で人の居ない所に着地する。すると巨大化していた竜も再び小さな姿に戻り、呆然としている周囲の人間を尻目に二人はその場を立ち去るのだった。

「な、なんなんや、あれ。もしかして、あれが噂の武術家って奴なんかなあ……」

 親子が立ち去った後、魔力反応も見せずに超人的な動きをして見せた二人にはやては噂に聞いた武闘一課の事を思い出す。そして気付くのだった。

「しまった、あの二人、名前だけでも聞いとくんやった!!」

 竜使いな上に驚異的な身体能力、得難い人材をスカウトするチャンスを逃したかもしれないことにはやては一人その場に落ち込むのであった。



(後書き)
予告と違うものを書いてすいません。予告した番外は次回に書きます。
今回はSTS編のスタートでしたが、どうだったでしょうか?



[19760] 管理世界でなのはがアップを始めたようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/25 07:30
 機動六課、結成されたばかりのその部隊は総部隊長に八神はやてを置き、高町なのはが指揮する「スターズ分隊」、フェイトテスタロッサが指揮する「ライトニング分隊」そして後方支援の部隊によって構成される。スターズ分隊には副隊長にヴィータが置かれ、隊員に地上本部からの出向扱いのティアナ・ランスターとスバル・ナカジマが、ライトニング分隊には副隊長にシグナム、隊員に本局所属のBランク+の魔導師二人との構成となっていた。

「まったく、また、あんたとの腐れ縁が続く訳ね」

「はは、よろしくね、ティア」

 はやてのスカウトに対し、スバルはあっさりと了承をしていた。理由としては彼女にとって、機動六課の隊長であるなのはが命の恩人であり尊敬する人物であることと、親友と言えるティアナが所属することが大きい。
 A+ランクともなれば、地上では正にエース。ティアナとスバルは普段、別々に行動することの方が多くなっているが、それでも難度の高い事件を捜査する時はコンビを組まされた状態で対処に回されることが多い。そして、そう言ったケースでは命の危険にさらされることも多く、陸士学校時代からの長い付き合いでもあることとお互いの命を預け合い、共に死線をくぐりぬけて来た仲であることから、二人の絆は深く結びついたものになっていた。ティアナの言葉も表面だけ捕らえれば嫌がっているように聞こえるが、実際は嬉しさの照れ隠しである。

「これからよろしくな」

「よろしくお願いしますね」

 そんな二人に挨拶をするのは本局の魔導師二人、ガドルとチェスター。それぞれが近接型と砲戦型の魔導師でガドルは茶髪で少し軽い感じの男、とはいえ、軽薄と言った程ではなく、人当たりのいいスポーツマンと言ったようなタイプと言った感じ、チェスターは黒髪で真面目そうな優等生タイプの男である。

「ええ、よろしく」

「よろしくお願いします!!」

 年もほとんど違わず、階級も同じということでティアナは軽い感じでスバルは元気よくお互い気安い口調で答える。ちなみにティアナとスバルは陸曹、バルトとチェスターは空曹となっている。一昔前なら、空士は陸士よりもワンランク上に扱われるのが普通であったが、現在は地上本部の権威向上と共にほぼ対等の扱いへと変わってきていた。それでも、昔ながらの差別的味方をするものもいるが、空士の二人はそう言ったタイプではないらしく傲慢な感じは見受けられなかった。代わりに美少女な二人に対し、多少の下心が見える。とは言え、それほど嫌らしい感じではなかったし、ティアナの方は慣れていることなので特に気にはしなかった。ちなみにスバルの方はそもそもそう言った好意に気付いてもいなかったりする。

「それじゃあ、まっ、初訓練頑張りましょうか」










 ティアナの宣言通り、本日は機動六課の初訓練の日だった。内容は隊員達の能力把握を兼ねた実戦形式の模擬戦。訓練場所である廃棄都市に四人が並び立つ。

「それじゃあ、訓練内容を説明するね。撃墜対象は魔道機械ガジェットドローン。データをもとに再現したダミーだけど能力は本物と同等。これを全機撃墜すれば終了。ただし、内容があんまり酷いようだったらこちらから制止をかけて強制終了にするから」

 なのはが訓練内容を説明する。四人は真剣な表情でその説明を聞いて頷いた。そして、説明を終えるとなのはがその場を立ち去り、訓練が開始される。

「まずは、私が右から先行するね」

「わかった。俺が反対方向から挟み込む」

「うん、よろしく。よおし!!」

 最初にガジェットと遭遇するのは当然、前衛の二人であるスバルとガドルの役割になる。簡単な打ち合わせを終えると、気合いの声と共にスバルが先行した。

「速!?」

 それを見てガドルが驚愕の声をあげた。シューティング・アーツは管理世界で人気のある武術だからその機動力の高さは彼も分かっている。スバル先行を承認したのも、それを理解する故、その方が効率的だと思ったからだ。だが、しかし、その速度は彼が想像したものよりも格段に速かった。あっと言う間にガドルの視界からその姿を消してしまう。そして高速で移動するスバルの目にガジェットの姿が映った。

「あれだね!!」

 今回の訓練では隊員達の判断能力の確認、及び自分で考え判断する能力を育成することを目的として、あえて隊員達にはガジェットの能力が知らされていない。そのため、まずは様子見とばかりにスバルは遠距離からの魔法を一発放つ。だが、その攻撃はガジェットに回避されてしまう。

「意外と速い」

 見た目とは裏腹に機敏な動きをするガジェットに少し驚くスバル。だが、別にそれは捕らえられない程の速さでは無い。ローラーブレード型のデバイスを更に加速させ、逃げるガジェットと距離を詰める。

「てやああ!!」

 接近してきたスバルに対し、ガジェットは熱線を放ち迎撃を仕掛けてくるが、彼女は左右に移動してそれを回避する。そして近づいた彼女は拳を一撃お見舞いしようとした。しかしそこで予想外なことが起きる。

「えっ?」

 ガジェットに拳が届く瞬間に拳に纏った魔力が消えたのだ。不意をつかれ、つい拳の勢いを緩めてしまうスバル。次の瞬間、金属同士がぶつかりあう音がするが、ガジェットに損傷は無い。そしてガジェットから再び熱線が放たれようとする。

「やば!!」

 飛びあがって熱線を回避するスバル。そして一回転して地面に着地するがその間にガジェットは移動し、距離を引き離されてしまう。

「あっ、しまった!! に、しても、魔力が消された!?」

 自らの失態に声を上げ、先程起こった出来事を反芻するスバル。そしてそこになのはから念話がスバルのみならず、隊員達全員に入る。

『スバル、ちょっと迂闊な接近だったね。減点だよ。まあ、評価は後にして、今のでみんな分かったと思うけど、ガジェットにはちょっと厄介な性質があるの。AMF、魔力を分解してしまうフィールド。対処する方法はいくつかあるから考えてみて』

 念話を聞いて、AMFへの対処の浮かばないガドルは無理に攻撃を仕掛けることができず、仕方なく対策を考えながら一旦後方へと移動する。しかし、ガジェットの機動力は彼の飛行速度を上回っており、彼を追い抜いたガジェットが後衛メンバーの居る場所にまで辿りついてしまう。そしてそこでは後衛メンバー二人が対処を話し合っていた。

「AMFね。チェスター、あんたは何かいい手思いついた?」

「いえ、まだ……」

「そう。じゃあ、私の方はいくつか思いついたからまずは私から行くわ。威力強化お願い」

「わかりました」

 チェスターの答えを確認するとティアナはビルの上からガジェットを狙って射撃する。放つのは威力強化された魔力の弾丸を圧縮したもの。それを超高速で放つ。その弾丸はAMFの展開された領域をその分解速度を超える速度で通過し、ガジェット本体に辿りついて見せた。弾丸はガジェット内部で爆散し、その機体を吹き飛ばして見せる。

「この手は有効ね。じゃ、次は」

 ガジェットの破壊を確認すると、ティアナは手を変更することを選択する。そのまま同じ手を続けて敵を全滅させることもできるが、折角なのでこの機会に有効な手を全て見つけ出してしまう方が今後のために役に立つと判断したのだ。そして彼女が次に試したのは弾丸を膜状のフィールドで包み、フィールドによってAMFから本命の弾を守る方法。

「ヴァリアブル・シュート!!」

 その弾丸は、ガジェット一体を貫き、さらに別の一体に直撃した所で消滅する。それを離れていた所で見ていたなのはは感嘆の声をあげた。

「凄いね。多重弾核射撃はAAランクの魔法。しかも、今の弾丸四重に弾核を重ねていた。あれをあの短時間で精製するとなると私でも無理かな」

「なのはさんでもですか!?」

 なのはの言葉に機動六課のデバイスマスターであるシャーリーが驚愕の声をあげる。なのははS+ランクの魔導師、それもSSランクに近いと言われるレベル。その彼女でもできない高度な技能をA+ランクの魔導師であるティアナが見せたことは驚くべきことだった。

「ティアナ・ランスター、噂以上だ。っと、今度はスバルの方が何か見せてくれるのかな?」

 そして、ティアナがガジェットを撃ち落としている間にスバルが追いついてくる。そして彼女は、そのまま突っ込んでガジェットを殴りつけた。すると拳がガジェットにめり込み、火花を吹いて爆発する。それについて原理がわからず、シャーリーがなのはに尋ねた。

「あれは、どうやっているんですか?」

「多分、単純な物理的な攻撃力で壊しているんじゃないかな?」

「物理的なって……えっ!?」

 ガジェットは金属で出来ている。金属製のデバイスを身につけているとはいえ、魔力無しで殴っても普通、簡単には破壊できない。最低でも壁や床で挟み込むなどの応用等が必要だ。しかしスバルは普何の工夫も無く、普通に殴ったり蹴ったりして壊していた。

「うちのお兄ちゃんやお姉ちゃんも刀があれば同じ事、多分できるしね」

「えっ、ちょっと、あの、なのはさんのお兄さんやお姉さんって何者ですか?」

 なのはや最近のクラナガン市民にしてみれば、武術を一定レベル以上に極めた人間の身体能力、破壊力が一般人から比べればちょっと異常な領域に達することは当たり前になりつつあるが、本局に普段住んでいる人間にはまだその常識が行き届いていない。その認識の差に混乱するシャーリー。そんな彼女を他所になのははスバルの動きに注目する。

「さっきはちょっと迂闊だったけど、いい動きしてるね」

 達人級の兄、姉、叔父等と何度も模擬戦をしているなのはは自身は武術を使えずとも、その練度を読み取ること位はできる。そんな彼女から見てスバルの動きはなかなかのレベルに達していると判断できた。

「ほんとうに有望だ。けど、二人にはちょっと下がってもらおうかな」

 この訓練は新人達の能力を確認するためのものだが、ティアナとスバルの能力が特出し過ぎてこのままでは他二人が何もしないまま敵が全滅してしまいそうな状態である。そこでなのはは二人に対し、一旦下がるよう指示をだすことにした。

『ティアナとスバルはそこで攻撃を中止して、一旦待機。ガドル君、チェスター君、貴方達も何か対処方法を考えて見て』

 その指示にスバルとティアナは戦闘を停止する。結局その後、建造物を破壊してその瓦礫で破壊すると言う方法を、チェスターは無機物コントロールで瓦礫を弾丸にしての方法でAMFを攻略することを二人は思いつき、実行して、ガジェットを全滅、訓練が終了となる。
そしてそれを確認するとなのはがシャーリーに尋ねた。

「データは取れた?」

「そうですね。ガドルさんとチェスターさんは十分かと。けど、ティアナさんとスバルさんはまだ、余力を残している感じ何で、できればもう少し見たいですね」

「そう……」

 シャーリーの言葉を聞いて、なのはは少し考える仕草を見せる。今回の訓練は新人達の能力を把握し、その能力に合わせてデバイスを改造すると言った目的も含まれていた。しかし、ティアナ達の実力を引き出すのに、ガジェットでは力不足だったため、十分なデータが集まっていないのである。
本来なら困ったその事態に何故かなのはは何故か楽しそうな表情を浮かべた。そして念話で全員に指示をだしたのである。とんでもない指示を。

『ガドル君とチェスター君はそこで訓練終了。ティアナとスバルは……私と模擬戦してもらうよ!!』




(後書き)
バルトとチェスターは数合わせで最初は全く個性とか無い影のようなキャラにするつもりだったんですが、何となく性格付けとかしてしまった……。キャラ多くて困ってるのに増やしてどうすんよ俺……。ティアナやスバルとは仲良くなってもくっついたりは多分しないです。
さて、次回はティアナ&スバルVSなのはです。
ちなみにデバイスですが、二人は地上本部のエースで地上の予算もちょっとアップしてたのでこの時点でもまあまあいいデバイスを使っています。



[19760] 管理世界でなのはとスバティアが激突したようです(前編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/08/08 20:30
 なのはは興奮していた。目的はデータを集めるため。ガジェットでは力不足だから自分自身が戦う。これは紛れもなく本当のことだ。しかし、二人との戦いを望んだのにはそれ以外に彼女の個人的な理由があった。その理由は部隊にとっても有意義で公私混同と取られることはないだろうが、人によっては歪んでいると感じるものかもしれない。だが、なのはにとってはそれは極自然で、とても重要な理由だった。

「どう、問題ない? 場合によっては後日でも構わないけど」

 ティアナとスバルの二人に模擬戦の意思を確認する。万一、ティアナ達の消耗が激しかったり、自信が無いと言うのなら無理強いするつもりはなかった。それでは、十分なデータも取れないし、なのはにとっての個人的な理由の方も果たせない可能性が高くなるからだ。しかし、その心配は杞憂だった。ティアナとスバルの二人は自信を持った表情で答える。

「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします」

「はい、お願いします!!」

 その二人の答えになのはは満足気に頷く。そして、模擬戦の準備がされ始めた。その準備がされている間にガドルとチェスターの二人がティアナ達に話しかけてくる。

「おい、大丈夫なのか? お前達が強いのはわかったけど、相手はあのエース・オブ・エースだぞ。リミッターを付けているとはいえ戦うってのがどういうことなのかわかっているのか?」

 心配そうに声を言うガドル。彼の言葉には意味がある。模擬戦のルールをなのははこう説明したのだ。

『勝負方法は2対1。決着は貴方達の内、どちらかが戦闘不能になるか、ギブアップするまで。勿論、私が戦闘不能になったり、ギブアップしても終了。遠慮はいらないから全力で来て』

 つまり非殺傷設定は使うが、模擬戦と言う枠の中ではかなり実戦に近いルールと言うことである。通常の模擬戦、それもランク差も立場差もある者同士の戦いのルールとしてはかなり特異だ。またリミッターを付け、魔力を制御しているとはいえ、それでも現在のなのはの魔導師ランクはAAA相当、レジアスの取った裏技によって保有制限が緩められた結果、当初の予定から見れば大幅に緩められている。A+ランクのティアナ達から見れば素の差は5ランク差。魔導師ランクは必ずしも強さと一致する訳ではないが、5ランク差があると平均して7~8倍の戦闘力差があると言われている。つまり、ティアナやスバル達と同等の実力者が後5~6人加わって、更に完璧とは言わないまでもそれに近い位の連携を見せてようやくなのはと互角と言うことだった。
しかし、そんな絶望的な試合条件なのに二人の表情には不安はまるで感じられない。

「心配してくれてどうもありがとう。けど、私は勝つつもりでやるから」

「うん。頑張ろうね、ティア」

 その答えに男二人は驚く。そして、スバルの反応にティアナは少し意外そうな顔をした。

「なのはさんはあんたにとって憧れの人じゃなかったっけ?」

「それはそれだよ。やっぱり、やるからには勝つ気でいかなくっちゃ!!」

「好い答えじゃない。頼りにしてるわよ」

 スバルの答えにティアナはニヤリと笑って言った。そんな二人に男二人は呆気に取られ、そして全ての準備が整うのだった。










「それじゃあ、模擬戦開始」

 廃棄都市で空に浮かぶなのはが試合開始の合図を出す。それと同時にスバルがウィングロードを展開してなのはが居る場所に向かって飛び出した。そしてある程度なのはに近づいた所で、ウィングロードが二又に分岐する。

「!?」

 予想外なその変化になのはが僅かな驚きを浮かべる。その二又の路の片方を選んでスバルは進行を続け、なのはに近づいて行く。彼女が狙うのは得意の接近戦、当然、なのははそれを妨害する方に動く。

「アクセルシュート!!」

 なのはが無数の誘導弾を生み出し、それがスバルを襲う。それを見てスバルは速度を更に上げて回避しようとするが、なのはは更に追加で誘導弾を生み出す。前と後ろから挟み込まれるような形。それを見て、スバルは先に生み出した別の分岐路に跳び移った。

「!!」

 これこそが彼女が分岐路を生んだ理由であった。ウィングロードは陸戦魔導師が空戦魔導師に対抗できるようにする手段の一つであるが、路をつくるというその行為は進行方法を限定してしまう。その為、路を二つ生み出して分岐させ、状況に応じてそれらを渡ることで、空中でも自由に動ける範囲を増やすことに成功したのである。
 とはいえ、これは言う程簡単なことではない。一本の路なら自分の進行方向の前に作ればいいが、二本となると片方を自分から離れた場所に生み出さなくてはならない。魔力の遠隔操作が必要となり、その制御力も必要な魔力量も二倍では効かない位になるのだ。更に高速で移動しながら、二本の路を行き来するには相当にボディバランスが優れていなければならない。ウィングロード自体が先天魔法であることもあり、その難易度の高さ故、従来誰も思いつかない、思いついても実行しようとしない方法だった。
 しかしスバルの母、クイントは3年をかけてこの戦術を完成させ、その成果を持ってAAAランクに昇格、娘二人にその技術を教え込んでいたのである。

「てやあ!!!」

 移動したもう一つの路からなのはに対し再度接近を仕掛けるスバル。その拳が届くところまで近づいた彼女は一撃を放つ。しかし、そこでなのはの姿が彼女の目の前から書き消えてしまう。

「えっ!?」

「スバル!!」

 拳が空を切り、驚きの声をあげるスバル。そしてウィングロードを走って追いかけてきていたティアナが叫びをあげ、同時に魔力の弾丸を放った。そして、その魔力弾となのはが放った魔力弾が激突し、スバルのすぐ近くで爆発を起こす。

「うわっ」

 声をあげながらも体勢を立て直すスバル。そして彼女が見上げた先にはなのはの姿があった。スバルの攻撃が届こうとする瞬間に、高速移動魔法であるフラッシュ・ムーブで攻撃回避をし、彼女から距離を置くと、そこから反撃に移ってきたのである。状況から推察して、その出来事をほぼ正確に把握するスバル。自分をカバーし、なのはの攻撃を防いでくれたティアナに対し礼を言う。

「ティアありがとう」

「礼はいいからそれより、あれ行くわよ!!」

「わかった!!」

 ティアナの示したものを理解したスバルはその目を金色へと変化させた。そして二人は連携技を繰り出す。その場に展開された光景になのはは驚愕をあらわにした。

「分身!?」

 彼女の目に飛び込んで来たもの、それは無数に分裂したティアナとスバルの姿である。ティアナの得意魔法の一つである幻覚魔法と、網膜に映る残像を利用した武術技『残像拳』を組み合わせた二人の連携技。しかも分裂したティアナは本体以外幻覚魔法だが、スバルの方は残像と幻覚が混じっていて、相手の混乱を誘うという意味では抜群の効果を誇る二人の切り札の一つであった。

「くっ」

 本体を一瞬で見切ることのできないなのはは仕方無しに全方向展開のシールドを張ることで相手の攻撃に備える。そして多方向に存在するティアナから一斉に攻撃が放たれた。当然、そのほとんどは幻覚だが、その中に混じっている本物の彼女の攻撃がシールドを貫通しなのはに突き刺さった。

「ぐっ」

 苦悶の声をあげるなのは。だが、流石は高ランク魔導師、流石はエース。ダメージは受けるもののその程度で落ちたりはしない。しかしティアナ達の方も最初からそれが本命の狙いではなかった。真の狙い、それは混乱に乗じてスバルに接近させること。

「ディバイン……」

 スバルのデバイスのカートリッジが一つ消費される。
 子供の頃見た魔法。それを真似て完成させた必殺技。その必殺技がそれを見せてくれた命の恩人相手に今、放たれようとする。

「ディバイン……」

 だが、そこで言葉が重なる。なのははティアナ達の狙いを読んでいたのだ。ティアナの攻撃ではなのは相手には火力不足。何度も攻撃を与えれば倒せるだろうが、時間をかけ過ぎてしまえば幻覚や残像が見破られてしまう危険性がある。少なくとも攻撃の瞬間には、実際に効果のある攻撃と無い攻撃で本体の居る方向は確実に悟られてしまうのだから。ならば、相手が混乱をしている間に致命的な一撃を狙うのは必然。ティアナ達にとって計算外だったのは、なのはが混乱から立ち直り狙いを見破るまでの早さであった。

「バスター!!!」
「バスター!!!」

 スバルの一撃とカウンターで放たれたなのはの一撃、二つのディバインバスターが激突する。力負けしそうになるのを必死に堪えるスバル。
 そして互いに魔力をぶつけ合うなか、なのはスバルに対し質問をした。

「ねえスバル、一つ聞いてもいい。あなたが魔導師になったのは強くなりたいと思っているのはどうして?」

「えっ?」

 戦闘中に相手に対し尋ねることではないし、あまりにも唐突だ。相手が上官とはいえ、スバルもこの状況で答える義理がある訳ではない。だが、驚きながらも何故か彼女の口は自然に開き、答えていた。

「空港火災の時、なのはさんに助けられるまで私は本当に不安でした。そして助けられた時は本当に嬉しかったんです。だから私は管理局に入りました。昔の私と同じように誰かが不安で怖い気持ちに誰かがなった時、その人を助けてあげたいと思ったから!!」

「そう……。スバルならきっとなれるよ。人々を不安から救ってあげられる人に!!」

 スバルの想いの丈を聞いて、満足そうに頷くと、言葉と共になのはがカートリッジを一つ使用し、ディバインバスターの威力を一段階上げる。それがスバルの放ったディバインバスターを弾き飛ばし、彼女を飲み込んだ。

「うわあああ!!」

 魔法の直撃を受け、気を失うスバル。そんな彼女にゆっくり落下するよう制御魔法をかけると、なのははティアナの方へと向き合った。彼女の方はスバルが気絶したことでウィングロードが消えたため、地面に落下の最中だったが、その落下の速度から制御魔法をかけているらしく、手助けは必要そうにない。それを確認してからなのはは問いかけた。

「ティアナも聞いていいかな? 強くなりたい理由」

「いいですけど、どうして聞きたいのか教えてもらってもいいですか? それと私が強くなりたいと思った理由も」

「戦っていて、何となく伝わって来たの。スバルとティアナの強くなりたいって思いが。レアスキルって訳じゃないんだけど、いつの間にかそういうのがわかるようになっていたんだ」

「……」

 普通なら馬鹿にしていると感じる答えだが、ティアナ自身、水の心で相手を投影している時には相手の考えがある程度読める。何より、今、戦っていて、なのはの心を感じられる自分にティアナは気付いていた。だから、戦っていて伝わってきたなのはの想いを口にだす。

「なのはさん、私達のこと知りたいって思っています?」

「うん、知りたい」

 素直に答えたなのはにティアナは軽くため息をついた。そんな風に言われたら答えない訳にはいかないじゃないかと。

「私の理由はスバルみたいな立派なものじゃないです。ただ、憧れの人に追いつきたくて、だから強くなりたいんです。それと、世の中には理不尽なことが一杯あって、その理不尽に大切なものを奪われたくないから、私は強くなりたい」

 力が無ければ守れないものがある。力が無ければ失うしかない時がある。兄を罵倒した男に対し、それを止める力すら嘗ての自分にはなかった。そんなのはもう嫌と思うから、ティアナは強さを望んでいるのである。

「立派だよ。私なんかよりずっと」

 ティアナの強くなりたいと願う理由に対し、なのはがそう答え、そこでティアナが地面に着地する。二人は話しながら、互いに自分の魔力を最大限に溜めていた。

「じゃあ、なのはさんが魔導師をやってる理由とかも話してもらえますか? 私達だけ話すのもちょっと不公平だと思うので」

「そうだね。この戦いの後でゆっくりと話そう。スバルも交えてね」

 軽く言葉を交わし合うと、なのは地に向けて、ティアナは空に向けて互いの武器を構えた。

「これが私の全力全開!!」

「必殺必中!!」

 なのはのデバイス、レイジングハートにピンク色の魔力光が収束する。ティアナのデバイスにオレンジ色の魔力光が収束し、さらに螺旋を描きだす。

「スターライトブレイカー!!!」
「スパイラルシュート!!!!!」

 互いの持つ最強魔法同士のぶつかりあい、勝敗はどうあれ、これで両者の戦いに決着がつく。その一撃が放たれるのだった。



(後書き)
次回決着です。
PS.ランク差による戦闘力差は原作から判断した作者の独自設定です。



[19760] 管理世界でなのはとスバティアが激突したようです(後編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/08/16 10:59
 なのはのスターライトブレイカーとティアナのスパイラルシュートが正面からぶつかり合う。そして、スターライトブレイカーは呆気なく、スパイラルシュートごとティアナを飲み込んでみせた。そしてそればかりでなく、周りのあらゆる建物を飲み込んでいく。これが非殺傷設定でなければ廃棄都市の数分の一を消し去っていただろう。それだけの威力がありながら、尚、なのははリミッターにより魔力を半分以下に抑えているのである。

「凄い、あれがなのはさんの……」

 なのはの全開の一撃を直接目にするのは初めてのシャーリーが驚愕の表情を浮かべる。模擬戦を観戦していたガドルとチェスターもそれは同じ。誰もがそれで決着はついたと思った。しかし、そんな中、只一人だけ厳しい表情を浮かべるものがいた。それは勝利した筈のなのはであった。

「くっ」

 顔に汗を流し、魔法の威力を弱めない。彼女は圧力を感じていた。自分の魔法を押し返す圧力を。それが示すことは只一つ。彼女は、ティアナはまだ、なのはと撃ちあっているということである。








「ぐぅぅぅ!!!!」

 スターライトブレイカーによる魔力の奔流の中、ティアナは魔力を放出し続けていた。彼女となのはでは絶対的な魔力量の差があり、総合的な威力ではどう頑張っても彼女になのはのスターライトブレイカーを超えることはできない。だが、点の圧力だけであれば話は別だ。収束魔法を得意とするなのはを更に超える収束率と更に魔弾を回転させることによる貫通力の上昇で、彼女はスターライトブレイカーの中に穴を“掘って”いたのである。そしてその魔力を削った穴が安全地帯となり、彼女は直撃を受けることなくすんでいたのであった。

「うっ……」

 しかし、そこで彼女は膝をつきそうになる。直撃を受けないとはいえ、床にぶつかり、乱反射した魔力の奔流に身をさらされては居るのだ。それによる魔力ダメージは直撃に比べれば遥かに低いとは言え決して馬鹿にはできない。加えてなのはの砲撃を貫く程の威力の魔法を使用し続けることによる消耗。彼女は、何時気を失ってもおかしくない状態であった。そうなれば、いや、そこまでいかずとも“水の心”を乱し、集中力が保てなくなれば、収束率が下がり、彼女はなのはの砲撃に飲まれることになる。
彼女の勝ち目はただ一つ、そうなってしまうまでになのはの魔法を完全に貫き、彼女を倒すことのみである。

(集中して!! もっと穿つように鋭く)

 ティアナが自分自身に叱咤し、スパイラルシュートの収束率が更に高まり、スターライトブレイカーを掘る速度が速まる。しかし、それはその分魔法の直径が更に小さくなり、安全地帯が狭くなるということでもある。当然、彼女があびる魔力も多くなるが、どのみちこのままでは後、数秒も持たない故、彼女はそれに賭けるしかなかった。

「いけ、行け!!」

 限界まで意識を集中する。そして、彼女の身体をぎりぎりに覆う位にまで収束されたその一撃はなのはの放った魔力の奔流を貫いてみせた。貫かれたピンク色の魔力の先になのはの姿が現れる。そしてティアナの目になのはリボンがはじけ飛ぶ姿が入った。










「おう、スカリエッティ、何時までこんな退屈なことさせやがるつもりだ?」

 胴着のような服を着て、分厚い筋肉に身を包んだ男が、紫色の髪をした一見優男風の男に話しかける。胴着を着た男の目の男にはぎらぎらとした殺意のようなものが浮かんでいた。

「ふむ、そんなに退屈かね?」

「ああ、どいつもこいつも骨が無いったらありゃしねえ」

 紫色の髪の男、スカリエッティが胴着を来た男にさせている任務、それはレリックというロストロギアの回収。実の所、スカリエッティにしてみれば、男にそんなことをさせる必要は無い。彼が造ったガジェットドローンと呼ばれる自動機械だけで事足りる。だが、だからと言って男を待機などさせておけば、暴れ出しかねないので適当な仕事を当てがっているに過ぎなかった。そうして当てがった仕事で男は魔導師と何度も戦うことがあったが、しかしその程度の事では男のストレスを発散させるには不十分だったらしい。

「仕方無いね。なら、少々タイミングが早いが、君に大きな仕事を依頼しよう」

「ほう、今度は俺を満足させてくれるんだろうな?」

 期待と疑いと挑発の混じった声で問いかける男に対し、スカリエッティは不敵な笑みを浮かべ、飛んでもないことを口にした。

「ああ、君には管理局の地上本部を襲撃して欲しい」

 その言葉は流石に男にしても予想を上回るものだったらしく、呆気に取られた表情をする。そして苛立ちとからかいの混じった態度で再び問いかける。

「おいおい、骨がある仕事とは言ったが、幾らなんでもそりゃ無茶だぜ」

 男は自他共に認める戦闘狂で自信家だ。しかし馬鹿と言う訳ではない。管理局の地上本部、仮にも軍隊の総本部に一人で乗り込むなど正気の沙汰ではない。それに、もし仮にそれができると思っているのなら、男はわざわざスカリエッティに雇われたりはしていなかっただろう。己の力だけを頼りに思うままにすればいい。

「わかっているさ。何も君一人でと言う訳じゃない。ガジェットを好きなだけ連れて行ってくれ」

「あの鉄屑をか?」

「鉄屑とは心外だね。だが、まあ、君にとってはそうでも魔導師相手にはそれなりに役立つのは君も知っているだろう? 数合わせにはなると思うよ」

 スカリエッティの言葉に男はまだ乗り気にならないようであった。魔法を使わない男にとってはAMFが使えることを最大の長所としたガジェットはその口に出した通り、鉄屑と言う印象しかない。
そしてスカリエッティの方も平然とした態度で答える。自分が作ったものを馬鹿にされても気にした様子はなかった。彼にとっても、ガジェットは山を賑わす枯れ木程度としか考えるものではないからだ。最も、言い換えるなら枯れ木程度には役に立つと思っている。その主張は男にとっても納得できない訳ではなかった。
 そしてスカリエッティは更に口を開く。

「それと、君以外にもう一人行かせるつもりだ」

「もう一人、ボーの奴か? それとも戦闘機人とかいうサイボーグのお嬢ちゃん達か?」

「いや、ミケロ君だ」

 スカリエッティの出した名前に男は露骨に嫌な顔を浮かべた。ミゲロは男と同様にスカリエッティに金で雇われた者で、男とはどうにも馬が合わない、一言で言えば気にくわない相手であった。ただ、実力は確かであるのは男も認めるところで、一度戦ってみたいと考えている程であった。

「それとだ。別に基地を壊滅させてこいと言う訳じゃない。君にやって欲しいことはただ一つ。地上本部に居るある男を殺して来てほしい。まっ、適度に被害を与えてきてくれると助かるのは確かだがね」

「あっ、殺す? 誰をだよ?」

 男の問いスカリエッティには再び不敵な笑みを浮かべ、目標の名を、そして男の名を口に出した。

「レジアス・ゲイズ大将、地上本部の総司令官だ。頼んだよコウ・カルナギ君」








「!!」

「惜しかったね。ティアナ、これから……よろしく!!」

 ティアナの一撃、それをなのはは紙一重で避けて見せた。そしてティアナが開けた穴がふさがり切る前の一瞬になのはは声をかける。それが戦いの決着だった。なのはが十数秒に渡る撃ちあいの勝者になり、彼女の砲撃が今度こそティアナを飲み込んだ。









「いやー、なのはちゃんも無茶するなー。けど、驚いたわ。地上本部の秘蔵っ子とは聞いてたけど、まさかあそこまでやるなんてな。これで、レジアス大将のスパイ疑惑さえなければ最高なんやけど」

 模擬戦の後、はやてがなのはを相手にそう話す。なのはが初日から新人相手に模擬戦を仕掛けたと聞いた時には驚いたが、その戦いの映像を聞いてそんな驚きなど吹っ飛ぶ程の彼女は受けた。リミッターを付けているとは言え、それでもAAAランク、エース・オブ・エースと呼ばれるなのは相手に10代であそこまで戦えるものなど、本局にもそれほど居ない。それだけにティアナの凄さに彼女は心底驚いていた。

「うん、正直、私も期待以上だったかな。あの二人なら安心して背中を任せられそう」

「おっ、そこまで言うか」

 なのはは昔からあまり人に頼るという事ができない人間だった。幼い頃は、“周りに迷惑をかけたら嫌われる”と言う一種の強迫観念によって。それが解消されてからは、立場と周りとの実力差故。エースたる彼女は切り札であり、周りに頼られる存在だ。多少の手は借りることがあっても、最終的にはなのはの行動如何で成否が決まることが多く、彼女は人に頼ることができない立場だった。愚痴と言った程では無いが、そう言った悩みごとを以前に聞かされていたことがあったはやてはそれ故になのはの言葉に微笑ましい笑みを浮かべ、しかし一言注意する。

「けど、あんまり信用すぎちゃあかんよ。スバルはともかく、ティアナはレジアス大将のスパイかもしれんのやから。まっ、通常業務中はともかく、戦闘時はそこまで警戒する必要もあらへんとは思うけど、一応な」

「うん、わかってる。けど、多分、大丈夫だよ」

 はやての懸念になのはは笑顔で答える。直接戦ってみて、実際に言葉を交わしてみて、二人はそんな心配はいらない相手だと。根拠無いがそう確信することができた。そんななのはの答えにはやては呆れた表情をする。

「なのはちゃんは甘いなあ。まっ、そういうのは上役たるわたしの役目やけどな」

 部下の信頼することと疑うこと、それを両方しなければいけないのが上に立つものの役割と言える。それは自分が引き受けたとばかりに答えるはやて。そして、そこでなのはが席を立つ。

「それじゃあ、はやてちゃん、そろそろ」

「うん、部屋に戻るん?」

「ううん。ティアナとスバルと話す約束をしてるから。二人共そろそろ目を覚ますと思うしね」

「わかった。気をつけてな」

「うん!」

 そしてなのはが部屋を出て行く。それを見送り彼女の姿が見えなくなるとはやては溜息をついた。

「いい笑顔やったな。なのはちゃん、あの二人を本当に信頼しとるんやなあ」

 それだけに二人が彼女を裏切るようなことにはなって欲しく無い。そうはやては祈るのだった。
 

(後書き)
ティアナが今回やったこと、ちょっとうしとらが混ざってます。



[19760] 管理世界で狂科学者が回想しているようです
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/08/22 16:27
「おいジェイル、どういうことだ!?」

 スカリエッティに怒声が浴びせかけられる。それが誰かなど考えるまでもない、彼をジェイルと呼ぶ人間はここには一人しかいない。
 声の相手を察し、どことなく、楽しそうな表情でスカリエッティが答える。

「おやおや、ボー君、どうかしたのかい?」

「どうかしたのかではない。管理局襲撃等と言う大仕事を私に任せないとはどういうことだ!? しかもカルナギはまだしもミケロを行かせるとは!?」

 ボーはカルナギの自分勝手な部分を嫌い度々衝突していたが、同じ組織に属する連帯感もあり、それなりに上手くやっていた。しかし卑劣を絵に書いたような男であるミケロには強い軽蔑を抱いており、そのミケロが自分を差し置いて重大な役割を担ったことに腹をたてているのである。しかし、スカリエッティにとってはそれは完全に的外れな話であった。

「君は誤解をしているね。君を生かせなかったのは君を信頼していないからではない。寧ろ、君を信頼しているからこそだ。金で雇われただけの彼等と違い、君は私の大切な友人で、娘達も慕う存在だ。万一にもこんな所で失っては後悔してもしきれないよ」

 スカリエッティの言葉、そこに嘘は無い。暑苦しく直情的なボーは彼とは対照的な存在だが、にもかかわらず彼は妙にボーのことを気に行っていた。彼が娘と呼ぶ、ナンバーズ、スカリエッティが生み出した戦闘機人達も、その暑苦しさを疎ましく思うものは居ても嫌っているものは居なかった。
 そんなスカリエッティの言葉に対し、自分を信頼していると言われて少し照れたような表情になりながらもボーは反論しようとする。

「むっ、だが、しかしこのような重要な役目を奴等だけにやらせる訳には……」

「それが勘違いなんだよ。今回の本部襲撃は重要な役目なんかではないのさ。目的はこの10年で増強した地上本部の実力を知ること。別に彼等を捨て駒にしようなどとは思わないが、ここでこちらの手札を見せてやるつもりはまだないのさ」

 スカリエッティがボーの言葉を遮って答える。カルナギとミケロが如何に強くても二人とガジェットドローン数十体だけで地上本部を落とすなど土台無理な話。いや、万一にも落とせてしまったら寧ろ困るのである。この10年で差が縮まったとて、本局と本部の力の差は未だ大きい。何せ本局には後方に退いたものを除いてもAAAランク以上の魔導師だけで数百名以上が揃っているのだから。今、この時点で本局の本格的介入を許してしまってはスカリエッティ陣営に勝ち目は無くなってしまう。その事態はこちらの切り札が揃うまでは防がなければならない。だから、今やることは適度に管理局を牽制しながら戦力を揃えること。 
その意味でレジアスの命を狙うのは最も効果的な手段だった。部下からの信頼も含め、彼の代わりになれる人間は居ない。レジアスが死ねば組織の統率力は一気に失われる。もし代わりに本局から人材や応援がおくられてでもすれば、組織内で対立が起きることも硬くない。本部を何時でも潰せるようになり、本局の戦力も削れるようになる。
 成功すればそれでよし。失敗したとしても信頼できる戦力を伏せたまま、相手の戦力がしれる。これはそういう策だった。
そして、単純なボーと違い、カルナギやミケロはその辺まで含めて理解しているだろうから、分が悪くなれば適当な所で引き上げてくるだろうとスカリエッティは予測していた。

「むう」

 単純ではあるが、頭の巡り自体はそれほど悪い訳では無いボーは説明を聞いて完全に納得はしないまでも意図を理解し、反論できなくなって唸る。そんな彼を見ながらスカリエッティは心の中で思う。

(まさか、彼に、いや他人にこれ程の親しみを持つ日が来るとは2年前は思いもしなかったな)











 第41管理外世界、知的生命体がおらず、管理局が付けたナンバー以外に正式名称を持たないこの世界の森の中で、ボーは一人途方にくれていた。

「むう、ここは一体どこなのだ? 暁の奴は?スプリガン達は? それに私は傷を負っていた筈だが……」

 義を見て助けざるは勇無きなり、弱者を見捨ててはおけないと元は敵であったスプリガン達に協力し、COSMOSと呼ばれる戦闘集団と戦い、重傷を負った。そこまでは覚えている。しかし、その後の記憶が彼にはなかった。気がつくと森の中に立っていて、負っていた筈の傷も治っていたのである。まさか、自分が一度死に、この世界に召喚されたとは思いもしない彼はなんとか仲間達と合流しようと、とりあえず適当な方角に向けて歩きだそうとした。するとそこでつま先に何か硬いものがあたる感触を覚える。

「んっ、なんだこれは?」

 その感触の正体を確かめると、赤い正八面体の石であった。明らかに人工物で宝石か何かのようにも見えるが、地球の常識ではこのサイズの宝石などそうそうあるものではない。更によく見るとちょうどその石がおさまりそうなケースが傍に落ちていた。

「だれぞの落し物か? まさか、超古代文明の遺物ということはないと思うが」

 とりあえず拾っておくかと思い、ケースに石を入れて、再び歩き始める。それから30分程歩くが、彼の周囲の景色はあまり変わらないでいた。

「むう、まずいな」

 流石のボーもその状況に焦り始める。何でもいいから変化が欲しいと内心で祈りを上げた。そして、その祈りが通じたかのように聞こえてきた木々や葉っぱを揺するざわめく音が彼の耳に入る。どうやら何者かが彼に向かって近づいて来ているようだった。

「むっ」

 その音に警戒しボーは構える。味方や一般市民ならば大歓迎だが敵であれば、いきなり殺されてもおかしくない。油断なく、音の方に視線をやるボー。そして現れたその存在は彼が予想した何れにも当てはまらぬ姿だった。

「なっ!?」

 地面から僅かに宙に浮いている丸い機械が2体。それが茂みから現れた存在だった。その姿に思わず驚きの声を漏らしてしまうボー。そして現れたその存在はセンサーと思われる中央の黄色い球体の部分を反応させ、ボーのポケット中にあるレリックの存在を突き止めた。

「なっ、何なんだこいつらは!? 米軍の新兵器か!? それともアーカムの!?」

 超古代文明の技術を流用している彼等ならこう言った存在をつくれる可能性が無い訳ではない。実際、超古代文明にはバーサーカーと呼ばれる高度な自律戦闘機械も存在することをボーは知っていたので、まさか異世界に来てしまったとは夢にも思わない彼はその考えたのである。
一方、丸い機械達はと言うと彼の持つレリックを奪うために攻撃を仕掛けてきた。

「むっ!! 私を殺す気か!? 舐めるな!!」

 半ば直観でその攻撃を避けるボー。その一撃は気に命中する。その破壊跡を見て、バーサーカーの撃つレーザーに比べれば威力や速度は落ちるようだが、それでもまともに相手をするのは生身の自分には中々に厄介と判断するボー。ならばとばかりに彼は一気に距離を詰めて攻撃をしかける。

「喰らえ!! 竜巻風陣脚!!」

 ボーの丸太のように太い足をヘリコプターのプロペラのように回転させ、丸い機械、ガジェットドローンを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたガジェットは木々に勢いよく叩きつけて2機とも停止した。それを見てボーは吐き捨てるように叫ぶ。

「ふん、こんなガラクタでは私は倒せん!! おい、こいつらを差し向けた奴、近くに居るのだったら出てこい!!」









「な、なにもんすか、あいつは」

 ボーの姿を少し離れていたところから見て居たウェンディはガジェット2体をあっという間にスクラップに変えて見せたボーに驚愕の表情を浮かべていた。そして考え込む。ボーがレリックを持っていることは彼女も既に気付いている。しかし、こちらは既に攻撃を仕掛けてしまった身。今更交渉は難しい。
しかし、自分一人で果たして目の前の男に勝てるかどうか。稼働してからの期間が短く、経験の浅い彼女にはその自身がもてなかった。

「とりあえず、ドクターの指示を仰ぐっす」

 自分一人では答えがでなかったため、創造主の判断を仰ごうと通信を入れる。その通信には直ぐに応答があった。

『おや、ウェンディどうかしたかね? レリックはみつけたかね?』

「あっ、ドクター、実は……」

 目撃したことを一通り説明するウエンディ。話を聞き終えたスカリエッティは少し考え込むような仕草を見せた後、答えた。

『ふむ、それはもしかすると噂に聞いた武術家という奴かもしれないね』

「武術家っすか?」

『ああ、何でも、魔法も機械の力も関わらず、訓練によって超人的な力を発揮できるようになった者達らしい。正直、眉唾な存在だと思っていたが、君がその目で目撃したとなるとどうやら本当だったようだ。それにしてもこんな無人世界に一人とは、もしかすると次元漂流者なのかな?』

 ウェンディの報告からボーには魔力が無く、そして彼女が自分に対し、嘘をつくとも考えられなかったことからスカリエッティはそう推察する。そして彼はある企みを思いついた。

『これは興味深い存在だ。ウェンディ、彼を私の所へ招待してくれ。勿論、乱暴にではなく、客人として丁重にね』

「えっ、けど、大丈夫っすかね。ガジェットが攻撃しかけちゃってるんすけど」

『何も、馬鹿正直に真実を明かすことは無いよ。自分も襲われていて、巻き込んでしまったとでも言えばいい。そのお詫びと助けられたお礼に招待するとでも言うことにしよう』

「あっ、なるほど」

 ドクターの提案に感心するウェンディ。最も、少し、感のいいものや警戒深いものならば、見破られてもおかしく無い嘘なのだが、その辺は世間知らずだって彼女はそれに気付かない。

『もし嘘だと見破られた時は正直に事実を明かして謝ればいい。その時は私も口添えしよう。それでも駄目なら仕方無い。改めて接触方法を考えることにして退却するんだ。君のISなら逃げるだけならば何とかなるだろう』

「了解っす」

 それについてフォローするスカリエッティ。アドバイスを受け取り、ウェンディはボーのもとへ向かった。そして結果から言えばすんなりとボーは騙されてくれ、招待を受けるのだった。









「まあ、その後が大変だったがね」

「んっ、何がだ?」

 昔を回想しながら、招待した後、ガジェットドローンの正体がばれてしまいボーが怒り狂った時のことを思い出し、思わず口にだしてしまうスカリエッティ。それに突っ込みを入れるボーの問いかけを誤魔化すと、その時のことをより深く思いだす。
ボーが真に怒ったのは自分を攻撃したことではなく、無抵抗の人間を攻撃するような機構を作ったことであった。ボーと言う男にとって弱者を虐げるような行為は絶対に許されないことであったのだ。
結局、その後、スカリエッティはガジェットドローンに無抵抗な人間には攻撃しないようにし、例え抵抗してきても、非力な相手には必要以上の危害を加えないよう、非殺傷兵器などをガジェットドローンに組み込むことで彼の怒りをおさめることになった。もし、そうしていなければ、彼の鎮圧と引き換えにナンバーズを何名か失うことになっていたかもしれない。
 とはいえ、彼はボーを自分のもとに招いたことを後悔してはいなかった。何せ彼によってもたらされたメリットは多い。
まず、ボーが元居た組織であるネオナチスが壊滅した時、何時か組織が再建されることを信じて彼が持ち出していた超古代文明の産物『賢者の石』を世話になる謝礼として彼が一部提供してくれ、おかげで高い硬度と強度を合わせもち、他にも幾つもの優れた特性を持つ金属であるオリハルコンが精製でき、お陰でナンバーズの性能を大幅に向上させることを可能とした。
 次に、彼の教えを受けることで、ナンバーズのメンバーの一部の近接戦闘力が大幅に向上した。
 この二つだけで戦力は数倍になったと言える。最もこの二つも最後のメリットに比べれば遠く及ばない。

(優れた指導者による政治か……)

 ネオナチスの理想、優れた指導者が力無き民を率い、代わりに指導者はそれに相応しき努力と責任を追う。それが正しいものであるかどうかは分からない。ネオナチスの指導者が本当にそう考えていたかも今となっては知れない。しかし、彼のために、その理想をかなえて見せてもいいかもしれない。無限の欲望と言われ、ただ己の欲望に従って動いていた男は初めてできた“友”のためにそう考えるのだった。



(後書き)
次回は番外の続きを書く予定です。禁書編は多分後2話で終わりです。(浜面編後編と一方通行編の予定)



[19760] 管理世界で地上本部が襲撃にあったようです(前編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/08/30 23:15
 ティアナ達は機動六課結成以来の初任務の最中であった。リニアレールを襲撃したガジェット達を撃滅し、輸送物を守ること。なのはとフェイトが飛行能力有した新型ガジェット、ガジェットドローンⅡ型を相手にし、のこりの新人隊員達がリニアレール内のガジェットを撃退と輸送物であるレリックを確保すること、それが彼等の役割である。

「マッハキャリバー凄いよ!! 絶好調だ!!」

[Thank you. However it is natural. Because I am to help you. (ありがとう。しかし、当然のことです。私はあなたのためにあるのですから)]

「うん、一緒に頑張ろう!!」

 初任務であるにも関わらず、そこに危なげは全く無かった。何せティアナとスバルは地上のエースとして困難な任務を何度も経験しているし、他の二人の隊員も本局で活動していた人物で、全くの新人という訳では無いのだからそれも当たり前である。更に各自のデバイスが強化されていたのも大きく、ガジェットⅠ型程度ではまるで彼女達の傷害になっていなかった。
 機動力の高いスバルが単独で先行し、敵を倒すことよりも移動することを優先し、レリックを一直線に目指す。そして残りのメンバーは後から追いかけて行き、残った敵を破壊していく。行動はスムーズに進み、既に任務達成は間近であった。

『スバル、そっちはどう?』

「問題ないよティア。もう直ぐ着くから」

 スバルがレリックのある車両にまで辿りつく。しかし、そこに最後の関門とばかり、巨大なガジェット、ガジェットドローンⅢ型と呼ばれる機体が立ちふさがっていた。でかいだけあって装甲も厚く、何よりもAMFの出力がⅠ型とは比べ物にならない強敵である。とはいえ、それは並の魔導師ならばの話だ。

「たああ!!!!」

 ガジェットⅢ型に対し、スバルは真っ向から突撃した。魔力を全開にすることで、AMFに抵抗しマッハキャリバーを全開にし、加速を最高にする。

[sorry(すいません)]

 しかし距離が直ぐ近くにまで寄ったことで、AMFに抵抗しきれなくなり、マッハキャリバーの加速が停止してしまう。だが、それに対しスバルに動揺は無い。足場の不安定な筈のローラブレードを履いた状態で高速で走っているにも関わらず、片足をあげて踏み込んで見せた。その勢いに地面が陥没し、体が急停止させられる。そしてそのまま体の速度を、その運動エネルギーを腕へと移行してみせた。

「十分だよ。ありがとう、マッハキャリバー!!」

 普通であれば、とんでもなく体に負担のかかる行動をしながら、平然とした表情でスバルは相棒であるデバイスに礼を言い、そしてもう一つの相棒、右手のリボルバーナックルに魔力を展開した。

「ディバインバスター!!!!!」

 一気に展開された魔力、そして加速していた速度と彼女自身の腕力が加わり、圧倒的な破壊力を持ったその拳は一撃でガジェットⅢ型をその拳は見事に貫き、その機体を爆発させたのである。

「よし!!」

 敵の破壊にガッツポーズを取ると、スバルは奥に進み、レリックを回収する。そこで再びティアナから通信が入った。

『スバルそっちはどう? ちゃんとレリックを確保した?』

「大丈夫。ちゃんと確保したよ。ティアナ達の方は」

『こっちも、ちゃんと全滅させたわよ。後は、なのはさん達の方だけね』

 レリックを確保したことを伝えるスバルに対し、ティアナからはガジェットを全滅させたことを告げられた。そこでなのはの名前を出した瞬間に、狙ったかのようなタイミングで彼女から通信が入ってくる。

『こっちは後、少し。先を越されちゃったね』

 負けず嫌いな所があるなのは少し悔しそうな口調で言う。勿論、本気で嫉妬している訳ではなく、それ以上に四人を頼もしく思い、賞賛している訳だが。
そして数分後、なのは達はガジェットⅡ型を全滅させた。彼女達が現場に到着してから15分。事件の規模を思えば、まれにみるスピード解決と言えた。犠牲者も無く、機動六課初任務はこれ以上無い位の成功で終わったのである。だが、彼女達にはそれを喜んでいる暇は与えられなかったのである。

『大変や!! 皆、直ぐに戻って!!』

 部隊全体にはやてからの通信が入る。そして管理局の地上本部が何者かによって襲撃を受けているという驚くべき事実を告げられるのだった。
 







「くっ、なんということだ!!」

 管理局のそれも地上本部が襲撃される。通常ではありえない異常事態に流石のレジアスも動揺を隠せなかった。とえいえ、何時までもそのままでいては組織の長など務まる筈も無い。直ぐに冷静さを取り戻し、状況を把握するため、部下に報告を求める。

「敵の規模は!?」

「に、人間は二人です。他に、例のガジェットとかいう機体が多数。Ⅰ型とⅡ型が60体ずつ程度。Ⅲ型はありません」

「二人? と、言うことは高ランク魔導師か?」

 高ランク魔導師なら一人で何百人もの魔導師に匹敵する戦力になる。たった二人でも軽視できない戦力だ。しかし返ってきた答えは予想と異なり、そして更に最悪なものだった。

「いえ、二人共魔力反応が一切なく、魔導師ではありません。武術家、おそらくは達人クラスと思われます。素手のみで魔導師を相手にし、二手に分かれ、施設内を侵攻しています!!」

「なんだと!?」

 レジアスが悲鳴にも近い声をあげる。高ランク魔導師と武術の達人とではどちらが強いということも言いきれない。しかし今回の条件、ガジェット同行するという条件であるならば、より厄介なのは後者だった。何せ、魔法を使わない武術家は魔導師とは違いAMFの影響を受けないのだから。
 この状況に対し、レジアスは目には目をと、こちらもAMFの影響を受けない戦力で対抗することを選ぼうとした。しかし、そこで更に悪い答えが返ってくることとなる。

「なら魔導師部隊と武闘一課の半数でガジェットの相手をする。 武闘一課の残りのメンバーで対処だ!! 状況に応じてゼスト隊やクイント隊に援護させろ!!」

「そっ、それが、ゼスト隊とクイント隊、武闘一課の各体は別件で出払っていて、残っているのは五番隊、六番隊、八番隊、九番隊の4部隊だけです」

 クラナガンに常時滞在している武闘一課の部隊は7部隊、その半数近く、しかも主力部隊ばかりが不在だと言うのが部下の答えだった。これは全くの不運であり、誰の計算でもなかった。機動六課が出払わせた上で、襲撃をかけたのは地上本部の実力を知りたいというスカリエッティの計略だったが、それ以外は彼には全く関係の無いところで大きな事件ばかり起きたのである。とは言え、それがわかったところで何の救いになる訳でもないが。

「くっ、何と言うことだ。止むを得ん。ガジェット相手には二番隊と五番隊を援護に向かわせろ!! 武術家相手には六番隊と九番隊をそれぞれ向かわせる!!」

 人数が多い五番隊と他に比べ戦力の劣る部隊である八番隊を強敵で数の多いガジェット達に向かわせ、同時に今、地上本部に残っている中では間違いなく最強の実力者であるシバが隊長を務める六番隊を向ける。そして9番隊は魔導師と武術家を組み合わせ、両者の連携により個々の実力が高くなくても強敵相手の対抗や困難の任務の達成ができるよう考えられた実験部隊である。武術家達の攻撃やガジェットを排除できれば、連携によって達人相手でも十分に対抗できる、不安はあるが、現状ではそれがベストだとレジアスは判断した。
これは適切な判断である筈だった。しかし、一つ計算違いがあった。乗り込んで来た二人の達人は切り札を持っていたのである。








「ちっ、スカリエッティの野郎、騙しやがって。雑魚ばかりじゃねえか」

 周囲に数体のガジェットを引き連れ、カルナギは地上本部内を進んでいたカルナギは苛立ちの言葉を口にだす。その時だった。彼の周りのガジェット数体が爆発したのだ。

「いくぞ!!」

 ついで掛け声があがり、それと同時に5人の人間が残りのガジェットに向かって突撃する。そして蹴りや拳を放ち、ガジェットを破壊していく。彼等は武闘一課の九番隊、最初にガジェットが爆発したのは、金属製の弾丸を魔導師が魔法を使って飛ばし、そして残ったガジェットを武術家達が破壊したのだ。
そしてガジェットを全滅させると、魔導師5人と武術家5人、計10人がカルナギを取り囲んだ。

「お前の切り札はもう無い。他のガジェットも我々の仲間が抑えている。大人しく投降すれば、弁論の機会が与えられるぞ」

 策を成功させた隊長の男がカルナギに向かって勧告する。しかし、カルナギは脅えるでも警戒するでもなく、笑みを浮かべた。

「くくっ、どうやら少しはマシなのがでてきたみたいだな」

「!!」

 その言葉に九番隊のメンバーが敵意有りと判断し、隊長の男は部下に攻撃を仕掛けるよう指示を出そうとする。だがその時、カルナギの姿が掻き消えた。正確には部隊の人間達にはそのように見えた。

「危ない!!」

 辛うじてその動きを捕らえた隊長の男が叫ぶ。しかし彼が叫んだその時には既に、九番隊の一人がカルナギの強烈な蹴りを受け、壁に叩きつけられていた。そして蹴りを受けた女隊員は全身の骨が砕け、全身から血を噴き出すとその場に崩れ落ちる。

「サム、リンダに回復魔法を!!」

 隊長の男は部下に隊員の治療の指示を出し、自分は突撃する。そしてそれに合わせるように副隊長の男が彼に魔法をかけた。男のかけた魔法は一時的に他者の身体能力を強化し、バリアジャケットのような防御膜をまとわせるようにした魔法。九番隊発足にあたり、開発された魔法の一つであり、必殺のコンビネーションの一つである。

「うおおお!!!!」

 しかしその強化された拳をカルナギは右手一本の掌で受け止めて見せた。そしてカルナギは掌に隊長の拳を置いたまま指を閉じようとする。

「くっ!!」

 拳を握りつぶされる自分の姿を幻視し、隊長の男は素早く手を引いた。そしてそこに魔導師三人が射撃魔法を放つ。カルナギはそれを真上に跳んでかわすが、魔法は誘導魔法だったらしく、方角を変えて彼を追っていく。如何にカルナギが強かろうと空中で軌道は変えられない筈である。魔法は彼に命中すると思われた。そこで追撃を仕掛けようと武術家達が構えを取った。だが、それに対し、カルナギは何を思ったか左手を下に向けて伸ばして見せる。
そして次の瞬間、彼を追っていた魔力弾が掻き消えてしまった。

「AMF!?」

 隊長の男がその現象の正体に気付き叫ぶ。カルナギは携帯用のAMF発生装置をスカエリッティに与えられ、両手に取りつけていたのだ。予想外な事態に九番隊のメンバーは一瞬硬直をしてしまう。それが致命的な隙を生んでしまった。

「おりゃああ!!!」

 魔力弾を打ち消し、そのまま上昇を続けたカルナギは今度は右手を伸ばし、天井に届かせるとそのまま右手一本の腕力で構えていた武術家達の方向に体全体を飛ばして見せたのだ。その行為に対し、彼らは対処をしようとするが間に合わず、固まっていた二人の武術家が纏めて彼の蹴りによって吹き飛ばされる。
そしてカルナギは更に行動を続ける。地面に着地すると一気に加速し、隊長の男に向かって飛び出したのだ。

「隊長!!」

 副隊長の魔導師が彼の前にシールドを張る。しかし、AMF発生装置を身につけた彼の拳は脆くなったそのシールド貫き、隊長の男に叩きこまれた。

「ぐううう」

 通路奥に向かって拘束で吹き飛ばされる隊長。10メートル以上も飛ばされ地面を転がるが、シールドのおかげで、速度がほんの少し緩み、威力が落ちたこととガードが間に合ったことで、何とか致命を免れていた。よろよろとした足取りながらも彼は立ちあがって見せる。

「そうこなくっちゃな」

 それを見て嬉しそうな表情を浮かべるカルナギ。彼に向かって突撃を仕掛けようとする。隊長を守ろうと二人の魔導師がバインドを展開するが、それはAMFとカルナギの筋力により一瞬でちぎられてしまう。そして隊長に迫る拳。

「くっ」

 己の死を覚悟しながら、せめて一死報いようと残った最後の力を込めて、構えをとる隊長。だが、彼の拳もカルナギの拳もお互いが狙った相手に届くことはなかった。
 カルナギの体が第3者の拳によって吹っ飛んだからだ。

「なっ!?」

 その原因を確かめた時、隊長の男は信じられない想いだった。カルナギを殴り飛ばした人物、それはこの場に決して居る筈の無い地上本部にとって、とても重要な人物だったからである。

「ど、どうしてあなたがここに!! 分かっているですか!? あなたにもしものことがあれば……」

「たった二人の襲撃者に本部を荒らされた上、わし一人逃げ出したとなればどの道。失脚は免れんだろう。それでは、ここで生き延びたところで意味などあるまい。ならば、命を賭けてでもここでお前達を生かすことこそが、地上の守り手であるお前達を死なせないことこそが、真に地上の平和に繋がる、そう判断したまでだ」

 思わず責めるような言葉を発してしまった隊長の男に対し、現れたその存在はそう答え、カルナギに向き合った。カルナギは最初、その存在の正体に驚きを通り越した呆然としたような表情を浮かべていたが、次第にそれが楽しそうな表情へと変わっていく。

「くくっ、まさか狙いの奴が自分の方から現れてくれるとはな。しかも、一番いい獲物がまさか一番のお偉いさんとはな」

「獲物かどうかは知らんが、わしより強い奴などここにはゴロゴロ居る。運悪く大半が出払ってしまっているだけでな」

「そうか、そいつは確かに運が悪かったみてえだな。まっ、そいつらは次の楽しみにさせてもらって、今日はあんたに相手してもらうぜ。レジアス大将さんよ!!」

 そしてカルナギは歓喜の声と共に現れた存在、レジアスに向かって飛び出すのだった。

(後書き)
カルナギはティアナのライバルと考えた人が多かったようですが、実は今回の展開通り、レジアスと戦わせるために出したキャラでした。今後、ティアナと戦うことになるかどうかは未定です。

PS.次回久々にある達人が再登場します。さて、誰でしょう?



[19760] 管理世界で地上本部が襲撃にあったようです(中編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/03 21:48
 恐るべき速さで放たれたカルナギの拳。レジアスは左手のガードを上げてそれを受け止める。拳の速さに対しガードは辛うじて間に合うものの、その威力を前に一撃を受けただけで左腕には鋭い痺れが走る。
 しかし左手に走るその痺れと痛みを無視し、レジアスは右拳で反撃の一撃を見舞った。直撃すれば岩をも砕く剛腕。しかしその拳は空しく空を切る。首を軽く動かしただけでそれをかわして見せたカルナギは嘲るように言った。

「おいおい、そんな大振りじゃ当たらねえぞ」

「ならば、当たるまで振るい続けるだけだ」

 挑発するカルナギに対し、今度は左拳を振るうレジアス。しかしそれもまた、当然の如くかわされる。
そして今度はこちらの番だとばかりにカルナギが蹴りを放った。胴体を回転させてのその一撃が無防備になったレジアスの左脇腹に叩きこまれる。

「ぐっ」

 激しい衝撃に苦悶の声を上げるレジアス。しかし、まともに蹴りを受けながらも彼は倒れずその場に踏みとどまってみせた。そして体勢を崩しながらンアッパー気味に右拳を顎を狙って撃ちこむ。

「うおっ」
 
 まさか堪えて見せるとは思っていなかったのか、そこで初めてカルナギは驚きの声をあげた。しかしそれだけだった。上半身をのけぞらせ、攻撃を回避してみせると、体を戻す反動を利用して勢いをつけ、レジアスの胴体を目がけて思いっきり殴りつける。

「ぐぅぅぅ」

 自分の拳の破壊力を上回るような一撃を受け、レジアスの巨体は数メートル弾き飛ばされた。背中から地面に倒れる全身に衝撃が走るが何とか立ちあがる。しかしそんな彼に対し、カルナギは失望と嘲りが混じったような表情を浮かべて言った。

「タフさとパンチ力はたいしたもんだが、他はとんだ期待外れのようだな」

「……そういう台詞は鼻血を拭いてから言うんだな」

 挑発するカルナギ。しかしそれに対し返ってきた言葉にカルナギは鼻先を触れ、自分が鼻血を流していることに気付いた。先程のレジアスの拳が鼻先をかすっていたのである。それに気付いたカルナギは一瞬不意をつかれたような表情を浮かべると、流れる鼻血を舌で舐め取り、獰猛な笑みを浮かべた。

「おもしれえじゃねえか。前言撤回するぜ。てめえは久しぶりにやりがいのある獲物だ」

「ふん、逆に貴様が狩られんようにするんだな」

 挑発を返すと、構えるレジアス。しかし、内心では自らの不利を彼は悟っていた。そもそも彼は武術家でありながら、実は武術家相手を苦手としていた。先程までの大振りばかりの攻撃、これは大振りばかりしかしていないのではなくできないである。
何故なら彼はボクシングにおけるジャブのような牽制や相手の隙をつくるための攻撃をほとんど訓練したことがなかった。彼が訓練したのは全て一撃必殺を狙う大振りの攻撃ばかりだった。あまりにも偏ったその戦闘スタイル、それは彼が想定するのが対魔導師の戦いであることに起因した。ジャブが牽制として機能するのは、それが当たれば多少なりともダメージを与えることのできるものだからだ。当たれば痛い、その当然の理屈があるからこそ、牽制は牽制として機能する。しかし、バリアジャケットを纏う魔導師にはそれが当てはならない。牽制程度の一撃でも相手にダメージを与えられる程の基本スペックか、あるいは防御をある程度透過できる御神流の“貫”のような技術を基本攻撃レベルで実現できる技量がなければ牽制は牽制として機能しないのだ。
 レジアスが想定する相手は犯罪者、この管理世界においてはほとんどの場合、魔導師か原始的な武器しかもたない一般人になる。その内、碌な武器も持たず、武術も使わぬ一般人ならば駆け引きも何も使わずとも大概の場合は勝てる。故に彼は対魔導師に主眼を置き、破壊力のある攻撃ばかりを鍛えてきたのである。

「ふんぬ!!」

 まともに戦えば勝ち目は無い。相性は悪い、そうでなくても目の前の相手は自分より格上。そう悟ったレジアスは唯一、自分が相手に匹敵するところである腕力を最大限に生かすことにした。気合いを入れると筋肉を巨大化させて、パワーを最大限にする。

「うおっ、どういう芸だ。そりゃ?」

「芸かどうか試してみるがいいがいい。お前自身の体でな」

 膨れ上がった筋肉を見て驚くカルナギに対し、今度はレジアスの側から挑発を仕掛ける。その言葉にカルナギは再び獰猛な笑みを浮かべそれに応じた。

「いいぜ。その挑発、乗ってやろうじゃねえか」

 構えを取る両者。そしてカルナギが飛び出した。獣のような、否、獣を遥かに超える敏捷性で。亜音速に達する程の速度の超突進、一瞬で両者の間の距離が詰まる。

(どうする? カウンターで来るか? それとも、あえて一撃受けて止まってみせるか?)

 レジアスの手を推測するカルナギ。どちらの対処方法を取って来たとしても、彼はそれを力づくで破って見せるつもりだった。カウンターで来るならば、その拳が届く前に殴り飛ばし、一撃耐えて見せるつもりなら、耐えきれないような一撃を。だが、レジアスの取った手はそのいずれでもなかった。

「とりゃあああああ!!!!!!!」

「んなっ!?」

 レジアスはその拳をカルナギに向けることなく、代わりに足元の床を砕いて見せたのだ。崩壊する地面。予測もしていなかった事態に足場を失ったカルナギはなすすべも無く落ちていく。そしてレジアスはそれを追いかけた。そして落下するカルナギに向かって自分も落下しながら全力の拳を叩きこむ。

「たあああ!!!!!」

「ぐぅお!!」

 ノーガードの所に放たれる一撃。そして重力と拳の圧力の両方を受け一階下の地面に叩きつけられたカルナギは床をぶち抜き更に一つ下の階の床にまで叩きつけられた。そして拳を放ったレジアスはその一つ上、先程まで戦っていた階の一つ下に何とか着地する。

「はあ……はあ……」

 荒い息をつくレジアス。渾身の力を込めた2発のパンチで彼はかなりの消耗をしてしまっていた。戦いが終わったという安堵もあり、思わずその場に膝を付いてしまいそうになる。
しかし、そうすることはできなかった。

「!!」

 何故ならば、そうしようとした瞬間に、一つ下の階から飛びあがって来たカルナギに蹴り飛ばされていたのだから。

「今のは流石に効いたぜ」

 体のあちこちから血を流し、首が痛むとでも言うように抑えながら、しかしカルナギは未だ健在で、戦闘継続が可能な状態だった。
そしてそんな彼が力をほとんど使い果たしたレジアスの前に立ち塞がる。先程と同じ目に合うのを警戒してか、ゆっくりと近づいてくるカルナギ。その表情は今までのような愉悦の浮かんだ者では無く、怒りの混じったものに変わっている。

「ぐっ」

 迫ってくる相手に対し、レジアスは何とか立ちあがろうとする。しかし、ダメージと疲労で足に力が入らず、片膝をついた状態からそれ以上立ち上がれない。

「どうやら、限界のようだな。まあ、楽しめたぜ、ありがとよ」

 言葉と共に拳が迫る。だが、その拳がレジアスに届くことはなかった。先程、レジアスが割って入ったように今度もまた第3者の助けが入ったから。思いもしない、そう思いもしない相手の。

「なっ、馬鹿な、何故、貴様が!?」

「悪いがその男を殺させる訳にはいかんよ」

 レジアスは信じられない思いだった。それはここに居る筈の無い男。仮に居るとしても、万が一にも自分を助ける筈の無い男の筈だった。何故ならば、レジアスは助けた男は中華風の服を来て、みつあみの髪型をした黒髪の男は管理局の人間であるレジアスとは天敵同士の筈なのだから。
 故にレジアスは叫んだ。その男の名を。

「何故、貴様がここに居る!? 次元犯罪者タオパイパイ!!」

 数年前、クロノ達を危機に追い詰めた、次元手配されている殺し屋の男。それが、今、レジアスの命を救い、カルナギの前に立ちふさがるのだった。



(後書き)
短いですが、あえてここでひきにさせてもらいます。

PS.
<Limoneさんへ>
感想の返信が抜けていました。
失礼しました。
書きなおしておきました。



[19760] 管理世界で地上本部が襲撃にあったようです(後編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/04 23:24
「タオパイパイ、聞いたことあるぜ、確か次元世界一の殺し屋を名乗ってるんだってな。しかし殺し屋が人を守ろうとするなんて、またどういう風の吹きまわしだ?」

 疑問を発するというよりも嘲るような口調で言うカルナギ。それに対し、タオパイパイは表情を全く変えずに答えた。

「簡単なことだ。そこの管理局防衛長官殿はわしが殺しを依頼された相手なのでな。お前に殺してしまわれては、わしが報酬を受け取れなくなってしまうではないか」

「!! ……なるほどな。納得したぜ」

 人を殺すと言うことをあまりにあっさりと言って見せる。裏の世界で生きたカルナギにしてもその口調はあまりに平坦で一瞬、虚をつかれのものの直ぐに納得したとばかりにニヤリと笑ってみせる。
すると彼はゆっくりと歩きだし、タオパイパイとレジアスの間に割って入った。そして、まるでレジアスを庇うかのように、タオパイパイに向き合う。その行動に、タオパイパイが鋭い目つきで彼を睨みつけた。

「……なんの真似だ?」

「別にもうこんな死にぞこないに興味はねえがな。だがらと言って横から入ってきて獲物をかっさらわれるのは気に食わねえんだよ!!」

 怒りの表情で言うその言葉はカルナギのタオパイパイに対する宣戦布告と同義であった。先程までと立場が逆転し、今度はタオパイパイが命を狙い、カルナギがタオパイパイを庇う形になる。その奇妙と言えるやりとりを眺めるレジアスは状況の変化を見守りながら、じっと自分の体力の回復に努めていた。

「やれやれ、面倒が増えるな」

「心配するな。てめえをぶっ殺して、てめえの代わりに俺がそこのおっさんを殺してやるよ」

 言葉と共に両者が同時に跳び出した。先制攻撃を仕掛けたのはカルナギ。振るわれる剛腕。タオパイパイはそれを右にかわす。それを見て、カルナギは即座に左回し蹴りを放つ。その一撃はタオパイパイを直撃する。

「!?」

 だがそこで直撃した筈のその蹴りはタオパイパイの体をすり抜けてしまった。まるで幽霊に触れたかのように伝わってこない手ごたえ、そして状況を掴めない彼の右耳に声が入ってくる。右耳のある位置の、直ぐ側から発せられた声が。

「残像拳という技だ」

 言葉と共にタオパイパイの舌が伸び、カルナギのこめかみを貫く。激しい痛みにカルナギは飛び引こうとするが、そこで彼の膝がガクンと落ちる。

「!!」

 先程、レジアスに殴られた一撃。それによるダメージが最悪のタイミングで効果を表したのである。
 そしてその一瞬後、カルナギは白目を剥き、その場に横たわった。舌を抜いたタオパイパイは最早興味はないとばかりに彼を背にする。

「さてと、お待たせしてしまったかな」

「ぐっ」
 
 レジアスの体力はまだほとんど回復していない。それでも何とか立ちあがり構えを取る。自分に勝ちかけていた相手を僅かな時間で殺した相手、勝ち目が無いことは分かっていた。しかし彼はまだ希望を失っていなかった。この場に赴く前、彼は出動中の各部隊に救援を要請していたのだ。時間を稼ぎさえすれば、ゼスト隊や武闘一課のメンバーがこの場に現れ、対抗できる可能性が生まれるのだ。
だが、まるでその思惑を読んだように希望を断ち切る言葉が発せられる。

「それでは、無駄な時間も食ったことだし、10秒で終いにしよう」

 時間稼ぎさえ許さないと言わんばかりの無情な言葉。二人の間に、否、レジアスにだけ緊張が走る。そしてタオパイパイが一歩前に足を踏み出した時、雄叫びがあがる。

「うおおおおおおおお!!!!」

「「!!」」

 それはレジアスのものでもタオパイパイのものでもなかった。死んだかと思われたカルナギが雄叫びと共に勢いよく立ちあがり渾身の一撃を見舞う。完全な不意打ちにそれをまともに受け弾き飛ばされたタオパイパイは腹から天井に叩きつけられるが体勢を立て直し、地面には綺麗に着地してみせた。
そして着地した彼は直ぐにカルナギの方を振り返る。

「どうやら、思ったよりも頭蓋骨が頑丈だったようだな」

 そこで初めて浮かぶ怒りの表情。先程までとは違い、全身から殺気が発せられる。それに答えるように殺気を放つカルナギ。だが、そこで両者は同時にレジアスの方を見た。正確にはレジアスの後ろから飛んできた存在を。

「おい、てめえら、そこまでだ!!」

「次元犯罪者タイパイパイ、並びに地上本部襲撃犯、貴方方を拘束します」

 レジアスが待ち望んだ救援、ただしそれは少しばかり予測を外れた相手メンバーだった。
 赤い髪と服を着、大きなハンマーを持った見た目10歳以下の少女。
 同じく赤い髪をして、どこか鎧を連想させる服を着た大きな剣を持った胸の大きな女性。
 金髪をリボンで縛り全身黒い服を着た光の鎌を持った女。
 そして、茶色の髪を2ヶ所で縛り、白い服の印象的な最後の一人。

「機動六課か……」

 機動六課隊長陣、ヴィータ、シグナム、フェイト、なのは、この場に駆け付けた四人の魔導師が二人の武術家に向かい、揃って武器を突きつける。

「なんだ、女子供ばかりじゃねえか。おいおい、怪我したくなかったらさっさと帰んな」

「むっ、お前達、どこかで見覚えがあるな?」

 それに対して四人、特にヴィータを見た目で侮るカルナギとフェイトとシグナムの二人に対して、記憶を掘り起こすタオパイパイ。そんな二人に答えたのはヴィータとフェイトだった。

「馬鹿にすんじゃねえ!! なんなら思う存分あたしらの力見せてやる」

「覚えていません? 7年前、あなたと戦った時のことを」

 叫ぶヴィータ。そして言葉使いは割と丁寧だが、敵意のにじみ出た口調で言うフェイト。その言葉にタオパイパイの方は彼女の正体に気付く。そして先程のフェイトにも負けない憎々しげ表情と口調で言った。

「なるほど、あの時の小娘等か。それにしても、そっちの女はまるで容姿が変わってい無いな」

「それはこちらの台詞だ。お前こそ、まるで変わっていないな」

 シグナムの姿がまるで変わっていないことを指摘する。魔道生命体であるシグナムは老化をしないのが当たり前だが、人間である筈のタオパイパイが同じ位に変わっていないことに彼女は少しばかり驚く。最も、今、気にするべきはそんなことではない。

「7年前の屈辱晴らさせてもらうぞ」

 結果だけ見れば痛み分けとはいえ、“一対一なら負けは無い”と豪語するベルカの騎士が得意の接近戦では完敗したのである。しかもこちらが多数の状況で。その屈辱を彼女はこの7年忘れたことはなかった。

「昔とは違うこと見せてみせます」

「ふん、こちらこそあの時の借り返させてもらおう」

 タオパイパイに対し、フェイトとシグナムが向き合う形ができる。互いに雪辱を晴らそうとする戦い。そして二人の意を組んだヴィータは自らの相手をカルナギに定める。

「あんたの相手はあたしが相手をしてやる」

「私が3人をフォローする。だから思いっきりやって」

 最後に残ったなのははあえてどちらにも加わらず、遊撃の位置を取る。そして彼女を除く3人が同時に飛び出した。

「やああ!!」

「紫電一閃!!」

ソニックムーブを発動させたフェイトが左からカートリッジを使用したシグナムが右から飛びこむ。タオパイパイはそれに対し、両腕を用い、片腕ずつでそれぞれの攻撃を防ごうとする。

「むっ」

 二人同時攻撃、それも左右挟撃の圧力に僅かに眉をひそめるタオパイパイ。流石の彼にも簡単には押し返せない。しかし二人もまた押しきれず拮抗状態が生まれる。
一方、ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムに変化させ、上方からギガントハンマーを叩きつけ、カルナギはそれを両手で受け止める。膨大な圧力にカルナギの足元の床が大きく陥没する。

(んなっ!? リミッターがついてるとはいえ、こいつあたしの全力を素手で受け止めやがった!!)

(こんなガキがなんてパワーだ!? こいつが高ランク魔導師って奴か!!)

 ヴィータは武術の達人と、カルナギは高ランク魔導師と直接戦った経験は無く、くしくも初体験同士、互いに驚愕を露わにする。
そして、そこで圧力に耐え切れず、カルナギの足元の床が崩壊をした。落下していく瓦礫。しかしその直前にヴィータが飛び引き、カルナギも一瞬遅れて飛び引いていたため、二人は落下を免れ、そして互いに距離を置いて構え直す。

「くくっ、いいぜ、一日に何人もこんな上等な相手とやりあえるとはな!!」

本日何度目かになる獰猛な笑みを浮かべると腕に取りつけられたAMFの出力をあげ、全開の構えを見せるカルナギ。それを見て警戒を引き上げるヴィータ。しかし、二人が再度、ぶつかり合うことはなかった。

「んなっ、何だと!? おい、ミケロ、てめえ!!」

 突然叫び出したかと思うと、つまらなそうな表情を浮かべるカルナギ。

「わりいが、今日はここまでだ。ヘタレな連れが逃げ出しちまったもんでな。しかも、ご丁寧に残った鉄屑を全部囮に使ってよ。たく、おかげでこんな物に頼る嵌めになっちまった」

 そう言って懐から掌から少しはみ出る位のサイズのものを取りだす。それを見て突然、戦っていた筈のタオパイパイが叫び始めた。

「そ、それは、まさか!?」

「あんっ?」

 “それ”に似た形をしたもので死にかけたことを知らないカルナギはトラウマを刺激され、逃げの体勢に入ったタオパイパイを見て訝しげな顔をする。一方、フェイト達はそれの正体がわからず戸惑う。そして、兄達からそれを教えられて知っていたなのはと、武術を習う前に質量兵器の導入を検討していたレジアスの二人だけがその物体の正体と危険性に気付き、表情を変える。
そしてカルナギはその物体に刺された“安全ピン”を外し、その場に転がした。それを見て二人が叫ぶ。

「危ない!!」

「目と耳を塞ぐんだ!!」

 二人が注意を発するのと、その物体が強烈な光と轟音を発するのはほぼ同時だった。スタングレネード、それはそう呼ばれる兵器。激しい光と音で視力と聴力を一時的に奪い、ショック症状を引き起こす兵器。

「「「っつつつ!!」」」

 目や耳を塞ぐのが間に合わなかった3人は目や耳に走るあまりの痛みに声にならない悲鳴を上げる。そして防御が間にあったなのはとレジアスが目を開いた時、そこにはカルナギの姿もタオパイパイの姿も無いのであった。









「中将に降格か。まあ、防衛長官の任は解かれなかったことだしこの程度なら恩の字だな」

 地上本部襲撃の後、レジアスはその責任を取られ処罰を受けて居た。とは言え、被害に比べ軽い処置だったのは実は機動六課が関わっている。襲撃者の基地内部への侵入を許したこと、更に襲撃者達を取り逃したこと、これらの責任を強く追及した場合、その責任の一部は現場に居た機動六課にも及ぶ。それはつまり、彼女達の後見人も恥をかかせるということだ。クロノやリンディはともかく、聖王教会の重鎮であるカリムや非公式とはいえ後見人となっている伝説の3提督に恥をかかせると言う行為は、大部分の管理局員にとって、余程の覚悟が無ければできないことである。
 結果として、襲撃犯の戦力の高さから今回の被害は止む負えないものがあるが、責任者としてレジアスは最低限の責を負うと言う形に治まったのであった。

「大将……いえ、中将なら直ぐにまた元の階級に戻れますよ。それよりも、多数の死傷者による戦力の低下の方が深刻ですね……」

 レジアスの娘であり、秘書であるオーリスが被害状況を報告する。不幸中の幸いにも死者はほとんどでなかったものの、重軽症者は多数でていた。特に深刻なのが、精神に傷を負ったもの、こればかりは時間をかけて治療していくしかなく、魔法でもどうにもならない。

「ああ、前回の襲撃者達の力。例えこちらに万全の状態の戦力があったとしても十分とは言いきれない状態だ。ここは手段を選んでいる余裕はないだろう」

「っと、言うことは?」

「ああ、達人の方々に協力を依頼する」

 レジアスの言葉はオーリスに取って、予想通りのものであった。実際、この10年の間にそれは幾度か切られたカードである。達人は世の明るい所に出るのを拒み、組織に入るのを嫌うが、短期の間の雇われと言うことであれば、応じてくれるものも何人か存在する。
とは言え、外部の人間に頼るこのやり方を、レジアスはあまり好んでいない。例え自分達以上の力を持っていたとしても、本来は自分達が守るべき立場にある民間人を戦わせると言うのは気が咎めるのだ。
とは言え口に出した通り、手段を選んでいられる状況では無く、レジアスはその応じてくれそうな人間の名を順番に挙げて言った。

「師匠と梁山泊の達人の方々、それにゼファ-・ル・ルシエに声をかけてみようと思う」

「ゼファ-と言うと、第3回天下一武道会の優勝者の?」

「ああ」

 天下一武道会とはレジアスが師である亀仙人の話を聞いて考えた地上本部開催の武道大会である。懐疑的な視線を向けられる武術家の実力アピールと武闘一課への希望者の異動希望者の増加を目的とし、更に日々研鑚を積む管理局の武術家達に対してもより一層の励みとなるとして考えられたその催しは過去に4回行われている。
第1回大会は武術家の実力をアピールするため、非魔導師のみ参加とし、現二番隊隊長が優勝。
第2回大会は武闘一課全体の実力アピールのため、魔力資質の有無に関わらず参加可能とし、一番隊隊長であるライが優勝。
そして第3大会は武術家達に対し掛かっていた、イカサマやトリック、やらせではないかという疑惑を晴らすため、Aランク資質以下のものであれば、地上本部は勿論、本局、果ては民間人であっても参加可能と参加枠を大幅に広げて行われた。その結果、地上本部の台頭を疎ましく思っていた本局の人間、やらせを証明しようと考えた腕自慢の魔導師等が数多く参加したが、それらの相手を蹴散らして決勝に残ったのは共に魔導師では無く武術家であった。ライ・シンフォニーとゼファ・ル・ルシエ、二人はそれまでの風評を吹き飛ばし、武術家達の力を観客達に印象づける素晴らしい戦いを繰り広げ、そして最終的に激戦を制し優勝したのがゼファ-であった。

「この状況だ。彼等を全員招くつもりでいる」

 そう言ってレジアスは交渉の準備を始める。そしてそうしながら、彼はどうにも言葉に出きない不安を覚えて居た。今回の地上本部襲撃者すら、まだ前触れに過ぎない。管理世界に何かとんでも無いことが起こる。そんな根拠の無い予感を。

(馬鹿馬鹿しい)

 カルナギ戦でのダメージでまだ怪我を負っているからそんな弱気を覚えるのだと彼は自分に言い聞かせる。しかし、彼は知らなかった。聖王教会で彼の予感を裏付けるような予言がなされていたことを。

“無限の欲望と異世界の闘士ぶつかりし時、別の世界の邪悪の塊が降臨し、管理されし世界、混沌の渦に落ちる”


(後書き)
天下一武道会は書かないと以前、感想で言いましたが、もしかしたら外伝でその内書くかもしれません。ただし、メインは弟子キャラやリリカルキャラになりますが。



[19760] 管理世界で雑誌が創刊されたようです<最新話?>
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/20 08:28
※おまけっていうか番外ミニエピソードって言うかそんな感じの話です


 魔導師に対し、非魔導師は勝てない。これは管理世界に置いて、つい数年前まで常識とされていたことであった。しかし、ここ10年程の間に武術の達人と呼ばれる者達がこの世界に数多く現れたことにより、努力次第で、非魔導師であっても魔導師に勝てる可能性が生まれた。さらにそれは戦闘に限定されたものでは無い。武術の中には“気”やその亜種“波紋”と呼ばれる力を操ることができるようなものが存在し、様々な応用の可能性が存在し、従来魔法でしかできなかった多くのことと同じような結果を生みだすことも不可能ではない。
 そして武闘一課の誕生。これにより武術の習得によって社会的な立場を得ることができる土壌が生まれた。今は、武術家が最も得意とする戦闘という分野に限られているが、今後はレスキューや魔力強化を使った魔導師主体で行われていたダイナミックなプロスポーツ競技への参加など様々な分野で、活動の機会が与えられることが計画されている。回復系の“気”の使い手等は少ない上、秘匿性の高い武術の使い手に多いこともあり、現状では構想でしか無いが将来的には医療も視野に入れられていた。
 つまり今までは魔導師で無ければ付けなかった多くの職業に付ける可能性がでてきたという訳である。無限書庫の司書長の使う魔法のようにどうやっても魔法には敵わない分野と言うのも勿論存在するが、非魔導師の前に閉ざされていた多くの道が開かれたのだ。とは言え、それらの夢をかなえるには魔導師がそれを目指す場合以上の努力やその他の要素を必要とはするだろう。それでも夢を持ちながら、非魔導師であるということでそれを目指す前の段階で敗れた者達は、失った希望を再び持つことができるようになったのである。
 その結果、管理世界では自分も武術を習いたいと考えるもの、単純に憧れるもの、興味を抱くものが増え、じわじわとした武術ブームが起きようとしていた。そんなニーズに答えて、『月刊武術マガジンは』創刊されたのであった。







『月刊 武術マガジン 創刊号   特集:四大武術大公開!!』

 そう見出しの付けられた本。その内容は、武闘一課の活躍やレジアス中将のインタビュー記事が載せられている。そして特集ページには異世界から伝わった武術についての紹介が載せられていた。
 その最初のページには亀仙流のことについて書かれている。

<亀仙流>
紹介文:
 管理外世界から伝わった武術の中で、最も名の知られた武術と言えば間違いなくこの亀仙流であろう。管理局の武闘一課で採用される武術で、その活躍が知られている。この武術のマスター武天老師氏、通称亀仙人氏は武術の達人の中でも最強クラスの一人と言われ、“気”と呼ばれる力を行使する。“気”とは人間の生命のエネルギーであると言われ、亀仙人氏はこれを操り、高ランク魔導師の砲撃魔法に匹敵する秘技を持ち、最近になって空を飛ぶ秘技を完成させている。砲撃と飛行、管理世界に住む多くの人が一度は憧れたことがあるものであったが、非魔導師の人にとっては敵わぬ夢であった。しかし魔法資質が無くても夢がかなうかもしれないと言う事で彼のもとには弟子入り志願者が殺到している。
 しかし残念なことに亀仙人氏は亀仙流の道場を開いているが、現在ではヤン・スエ氏を始めとする弟子達に指導を任せ、直弟子は取っておられないとのことである。ただ亀仙人氏は非常に女性が好きな方で、女性には甘いということなので、容姿に自信が有り、武術を本気で習いたいという女性であれば、望みをかけて弟子入りを志願してみるのもいいかもしれない。それと男性諸君も諦めるのは早い。亀仙流の道場は入門条件が緩く、そこで見込みがあれば、直弟子への道も開かれる可能性があるそうだ。
 亀仙人氏の実力を証明するエピソードとして元管理局員のAAランクの魔導師、アベル・アウアー(当時27歳)を一撃で倒したことがあげられ、この件については管理局の公式文書にも記載されている。

 紹介文の後にはピースする亀仙人や亀仙流の修行風景の写真等が掲載されている。牛乳配達のような関係者以外には冗談に見えるようなものから、組手の風景まで。そして最後に道場の住所、連絡先が書かれていた。
 そして次のページをめくると今度は流派東方不敗に関する紹介記事が載せられていた。

<流派・東方不敗>
 
紹介文:
 亀仙流と並ぶ強さを持つ武術と言われるがその詳細は謎に包まれている部分が多い。その理由としては亀仙流が門戸を広く開いているのに対し、こちらは流派のマスターである東方不敗氏が少数の直弟子しか取っていないことがあげられる。
 しかしその分少数精鋭とも言え、現在まで確認されている彼の弟子は3名だが、そのいずれもが素晴らしい実力者である。中でも一番弟子であるゼファ-・ル・ルシエ氏は第3回天下一武道会の優勝者であり、準決勝でAランク魔導師であるヴォルフ・マイアー氏を破ったことや、決勝戦で武闘一課総隊長にして亀仙流の使い手であるライ・シンフォニー氏と名勝負を繰り広げたことは今でも語り草となっている。

 紹介文の後にはゼファ-が天下一武道会で優勝時の写真が載せられ、彼の傍には彼に抱きつくキャロの姿が見られた。そしてその下には彼のインタビュー記事が書かれていて、東方不敗との出会いのエピソードなどが一部書かれていた。
 そして更にページをめくると今度は南斗白鷺拳の記事が書かれている。

<南斗白鷺拳>
紹介文:
 足を刃のように、否、刃以上に鋭くし、達人ならば真空波を生み出し、金属さえも切り裂くことを可能とすることがこの武術の特徴である。この武術は南斗聖拳という108の流派に分かれる武術の中で、南斗6聖拳と呼ばれる特別な流派であり、南斗聖拳とは元の世界では暗殺拳であったことが武術のマスターであるシュウ氏の発言によって明らかにされている。武器を持たないことによって、相手の隙を突き、その昔は暗殺拳の言葉通り暗殺に用いられ、近代ではボディガード業を営む者達等の間に使われてきた武術であり、暗殺拳ではあるが世を正すことを目的として存在し続けた流派だとシュウ氏は語る。
 質量兵器の禁止によって魔導師犯罪者に対し、非魔導師が抵抗する手段を持たないこの管理世界において、元の世界でのように暗殺拳として存在するよりも護衛手段として世に広めることこそ世のためになるとシュウ氏は考え、現在では武闘一課で使用されるもう一つの武術であると共に、第7世界ナックでは門戸が開かれている。

 紹介文の後の写真や記事は前2件に比べると少ない。門戸が開かれているとは言え、元は暗殺拳であるため、目立ち過ぎるのは嫌ったのかもしれない。
 そして最後に極限流の紹介文が掲載されている。

<極限流空手>
紹介文:
 亀仙流や流派東方不敗と同じく“気”を使う武術であるが、その主体は拳での突きや蹴りと言った打撃とされている。亀仙流、南斗白鷺拳と同じく、門戸の開かれた武術で、第11世界テンプルには各地にその道場支部が存在し、その門下生は現在200名を超えている。
 この武術のマスターであるタクマ・サカザキ氏は過去に幾度か民間協力者として管理局地上本部に貢献しており、幾人もの犯罪者の魔導師が彼によって敗れ去っている。第4回の天下一武道会に出場し、その驚異的な強さの片鱗を見せてくれたものの、ハプニングにより途中辞退となってしまい、その強さの真髄を十分に見ることができなかったのは多くの武術ファンが悔しがるところである。

 タクマについて、彼が梁山泊の一員であることは触れられていない。実は梁山泊に関してはその存在が秘匿されており、取材陣が噂を聞きつけて近づくと長老によってその記憶や記録媒体が消去されてしまうためである。また、同じ梁山泊の達人の一人である新宮流古武術の使い手新宮十三については道場を開いてはいるものの、護身レベルの技しか教えていないため、現状では一般には達人として認知されていなかった。
 そしてこの記事の後には記者のコメントが載っており、それで締めくくられていた。

コメント:今回、四大武術として銘売って武術を紹介させていただきましたが、これらの武術は現在知名度の高い武術と言うことで選出しました。実際には他にも数多くの超人的武術の使い手が噂されています。今後、引き続きの調査をし、次刊移行で紹介して行かせていただきます。
(意訳:そういう訳ですのでこれから毎月購読してください)



(後書き)
管理世界で武術がどんな感じに広まっているかを書きたくなって書きました。正直、小説と呼べるかどうかは怪しいかもしれないが許して欲しいです。
批判やアドバイス、要望等があったら是非遠慮なくお願いします。



[19760] 外伝1:受け継がれる流派東方不敗(前編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/26 00:35
 第6管理世界アルガス、その地で二人の男が拳を撃ちあっていた。しかし、二人は争っている訳でも稽古をしている訳でも無い。二人にとってそれはただの挨拶でしかない行為だ。二人の名は東方不敗とゼファー・ル・ルシエ、流派東方不敗の師弟である。


「行くぞ、ゼファー!!」


「はい、師匠!!」


「流派!東方不敗は!」


「王者の風よ!」


「全新系列!」


「天破侠乱!」


「「見よ!東方は赤く燃えている!!」」

 
 拳と共に気合いの掛け声を飛ばしあい、最後に両者はお互いの拳を突きつける。そして、修行の締めたる挨拶を終えた二人は構えを崩し、向き合った。

「うむ、ゼファーよ。なかなか腕をあげたな」

「いえ、俺などまだまだです」

「何、そう謙遜することもあるまい」

 弟子の成長を褒める東方不敗。するとそこで彼の耳に彼を呼ぶ声が入る。

「おとうさーん、おじいちゃーん」

 声のする方を見るとピンク色の髪をした幼い少女が二人を目指して駆けよってくる姿見えた。それを見て東方不敗は相好を崩し、彼女に優しい声をかけた。

「おお、キャロではないか。どうした、こんなところに」

「お父さんとおじいちゃんを迎えにきたの!!」

 答えながら東方不敗の胸に飛び込む少女。東方不敗はその小さな身体を受け止め、そっと抱きしめる。

「おいおい、俺じゃなくて師匠に飛び込むのかよ」

「男の嫉妬はみっともないぞ。ゼファー」

 父親の自分ではなく、東方不敗に抱きついた娘を見て少し不機嫌な顔を浮かべるゼファーとそれをたしなめながらどこか勝ち誇ったような表情を浮かべる東方不敗。するとキャロが東方不敗の胸から顔をあげて言った。

「お父さんのことを先に呼んだから。抱きつくのはお爺ちゃん。だって、私、お父さんもおじいちゃんも大好きなんだもん」
 
 その言葉に二人は顔を見合わせ、そして大笑いをした。

「くくくっ、これはキャロに一本取られてしまったな」

「まったくですね」

 そして、それからしばらくして日差しのいい土手に座り、眠ってしまったキャロを膝に寝かせる東方不敗。二人はその寝顔を優しい表情で見守る。

「この子も随分大きくなったものだな」

「ええ、もう直ぐ5歳ですから」

「そうか、では竜召喚の儀式を行うのだな」

「ええ、俺と違って、この子は魔法の才能に満ちていますから」

 ル・ルシエの民は多くが竜召喚の特殊技能を持つ。そして素質あるものは5歳の誕生日の日に初めて竜を召喚するよう村の掟で決められていた。

「しかし、5歳か。わしがお前を弟子にとってもう5年になるのだな」

 そう呟き昔を思い出す東方不敗。二人が初めて出会ったのはまだ、キャロが母親のお腹の中に居る時のことだった。








「はあ……」

 ゼファーは一人溜息をついて道に座り込んでいた。妻の妊娠、彼はそれを知って以来ずっとそんな感じだった。決して嬉しくない訳ではない。しかし、彼には不安があった。初めて、子供が出来た時は誰しも多かれ少なかれそんな感情を抱くだろうが、彼には特に不安を抱くある理由があったのである。

「はあ……」

 また、溜息をつく。その時、その暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように空から人が降ってきた。
そしてその振ってきた男はゼファーの目の前に着地し、彼に向かって話しかけてくる。

「こんな天気のよい日にお主、何をそんなに溜息ばかりついている」

「えっ、あなたは、って言うか、あなた一体どこから……」

 奇抜な登場の仕方をした見知らぬ男に躊躇うゼファー。それに対し、男は薄く笑うと大仰なポーズをとって名乗りをあげた。

「わしの名は東方不敗!! またの名をマスターアジア!!」

「は、はあ。マスターアジアさんですか。俺の名はゼファー・ル・ルシエと言います」

 その迫力と言うか勢いに押され、思わず名乗り返してしまうゼファ-。しかし、東方不敗はそれを気にいったようで満足気に頷いた。

「うむ、名乗られたら名乗り返す。小僧、中々礼儀ができておるようだな。では、改めて聞こう。何故、そう溜息ばかりつく?」

「あの、そのですね。妻に子供ができまして」

「なんだ、目出度いことではないか。何故、溜息など……むっ、もしやお主の子供ではないのか?」

 ゼファーの態度から勘ぐった推測をした東方不敗に彼は慌てて否定する。彼は妻を深く愛していたので、その妻の名誉を傷つけるような誤解をさせておくことは決してできなかったのだ。

「ち、違います!! 俺とメルフィは幼馴染で昔からずっと愛し合っていて、あいつが浮気なんかする訳はありません。間違いなく、お腹の子は俺の子です!!」

「ふむ、ならば、何故、そう溜息をつく?」

「はい、あの、その、俺は村で一人だけ魔法の資質が無い落ちこぼれなんです。そんな俺が本当に子供の父親として立派にやっていけるのかって……」

 彼の住むル・ルシエの村では魔力資質者が生まれる可能性は非常に高い。そんな中、魔法の才能を全く持たなかった彼は落ちこぼれ扱いされ、魔法の才能が高く、美人な彼の妻と結婚した時も、随分と酷いことを言われたものである。そしてそれは彼ばかりでなく、彼の妻も愚図な夫を選んだ女と陰口を叩かれていることを彼は知っていた。そんな自分が本当に父親になっていいのか、娘も妻と同じように自分の所為で見下されてしまうのではないか。いや、恐ろしいのはそれだけではない。もし娘から、周囲と同じような侮蔑の視線を向けられたら……。そう思うと彼は不安で仕方無かったのである。
 その辺の事情を彼は一通り説明する。後で考えて見れば何故、見知らぬ相手にそこまで話したのかゼファー自身不思議であったが、多分、誰でもいいから気持ちを打ち明けたかったのだろう。
 そして、事情を全て聞いた東方不敗は身体をブルブルとふるわせ、そして爆発した。

「何と、何と、情けない!! そんな様で人の子の親になろうとは!!ええぃ、それほど自分に自信がもてないと言うのなら、わしがお主を鍛えてやる!! 流派東方不敗の教え、たっぷりと叩きこんでやろう!!」

「えっ? えっ!?」

 いきなりの展開に戸惑うゼファ-。そんな彼を東方不敗は半ば無理やり弟子入りさせ、厳しい修行を課すのだった。それに対し、最初は嫌々だったがゼファーだが、次第に東方不敗の強さに惹かれて行き、真面目に修行に打ち込んでいくようになった。
 しかし、この時点ではまだ、彼の強さに惹かれていただけだったゼファ-が彼を心底崇拝するようになったある事件が、それから数カ月後に起きた。それはル・ルシエの民が竜召喚の技術を応用して危険な獣が入らないようにした安全地帯の筈の場所で起きた出来事である。修行中のゼファ-が獣の唸り声が聞こえた気がして振り向くとそこには竜の姿があった。

「なっ、なんで……、こんなところに……竜が!?」

 竜の存在に当然の如く驚き、恐怖を感じるゼファー。しかも、その竜は明らかに気がたった状態で、凶暴化していた。そしてゼファ-を視線に入れた竜が激しい雄叫びをあげ、彼に対し襲いかかってきたのである。

「グゥオオオオオ!!!!!!!」

「あっ……あっ……」
 
 恐怖で身動き一つ取れなくなった彼に向かって竜の爪が振るわれる。その瞬間、彼は死を覚悟した。しかしその爪が彼に届き、その身体を引き裂くことはなかった。

「これ、腹が空いている訳でもないのに無闇に命を奪うものではないぞ」

 思わず閉じてしまったゼファ-が目を見開いた先に見た者は、竜の爪を片手で受け止め竜に語りかける東方不敗の姿。そして彼はそのまま竜の腕を弾き飛ばすとゼファーの身体を抱えると後ろに飛び引いた。

「お前は、ここで少し隠れておれ」

 そう言ってゼファ-を少し離れた所におろすと竜に対し向かい合って構える東方不敗。

「どうした、何をそんなにもいきりたっておる?」

「グルゥゥゥゥ」

 唸る竜を前に全く臆することなく悠然と立ちはだかる彼は竜は爪を振るい、牙で噛み砕こうとするが、その攻撃は軽々と彼に回避されかすりともしない。その動きは見事なものだったが、その戦い振りを傍から見ていたゼファ-はある疑問を覚えていた。

(どうして、東方先生は攻撃しないんだ?)

 東方不敗の圧倒的な強さを出会ってからの数カ月で十分に知っていた彼にしてみれば、ル・ルシエの守り神である真竜ヴォルテールのようなもので無い限り、竜が相手でも素手でも十分にしとめることが出来ることがわかっている。にもかかわらず攻撃を回避するばかりで自分の方から攻めようとしない東方不敗の行動が彼には不思議でならなかった。

「ふむ、それが原因か」

 そして攻撃を回避し続けていた東方不敗がポツリと呟いたかと思うと初めて前にでる動きを見せる。そして竜の右足を掴み、そのまま足を持ち上げ、竜の身体を背中から転ばせて見せた。

「やった!! っつ……あれは!!」

 竜の巨体を倒して見せた東方不敗に喝采を上げるゼファーだったが、そこで竜の右足の裏に巨大な金属片、破砕した機械のようなものが深く突き刺さっているのに気付いたのだ。それを見て彼は悟る。竜はその痛みの所為で凶暴化し、理性を失っていたため、本来は立ち入らない筈の領域にまで飛び込んできてしまっていたのだと。

「不法廃棄物か何かか。嘆かわしい。このような自然豊かな地でそのようなことをするものがおるとはな」

 それを見て東方不敗は怒りと悲しみの混じった表情を浮かべると、竜に視線を向ける。そしてその足に突き刺さった金属片に手をかけた。

「今、楽にしてやろう。少し大人しくしておれ」

 そう言って、金属片を一気に引き抜く。そして引き抜いた後に血が流れる傷口に手を当て、気功を放ち始めた。すると、傷口が見る見る塞がって行く。竜の身体のサイズがサイズなだけに一瞬とは流石にいかないが、自分を手当てしてくれていることがわかるのか、その間竜は東方不敗を襲うことなく、じっと静止している。ほどなくして傷口がふさがり、彼は傷口から手を離した。

「これでよかろう。さあ、元の場所へ変えるといい」

「グゥ」

 東方不敗の言葉に頷くように短い唸り声をあげ、去っていく竜。彼はその姿が見えなくなるまで見守り続け、ゼファーも隠れていた場所から姿を出す。そして彼に向かって気になっていたことを尋ねてみた。

「あの、東方先生はどうして竜の怪我がわかったんですか? もしかして、東方先生は竜の言葉がわかるとか?」

 非常識の塊のようなこの男ならその位出来ても不思議はない、そう思って尋ねるが、東方不敗はそれを否定する。

「馬鹿を言え。いくらわしとて竜の言葉などわからんわ。だが、拳を交えた瞬間、奴の気持ちがわしには伝わってきたのだ。奴は獲物を求めているのでも、殺戮を楽しんでいるのでもなく、ただ苦しみ助けを求めているだけだとな」

「凄い……ですね」

 ゼファ-はその言葉にそうとしか答えられなかった。拳を通して相手の想いを汲み取る。相手に想いを伝える。東方不敗との修行の最中、彼の口から何度も聞いた言葉だったが、正直な所、今の今まで信じてはいなかった。けれど、今ならば心の底からそれを信じることができた。
 そしてゼファ-は思い出す。自分を庇い、竜の爪を受け止めた時の、竜と戦っている時の、そして竜の怪我癒していた時の東方不敗の背中を。その背中はとても大きく見えた。

(なんて凄いんだこの人は。何て強くて……、そして何て優しい人なんだ)

 竜と戦い、竜の気持ちを悟り、竜を思いやる。そんなことができる人がこの世にどれだけいるだろうか。竜召喚師にだって実の所それほど多くないのではないかと思う。
 彼のように自分も生まれてくる子供に大きな背中を見せることができる人になろう。そう決意しゼファ-は背筋を正し、頭を下げて言った。

「東方先生、いえ師匠!! これからも、ご指導の程、よろしくお願いします」

「なんじゃ、改まって。まあよい、厳しくいくから覚悟して置くのじゃぞ!!」

「はい!!」







 竜との一件以来、ゼファ-はそれまでよりも遥かに熱心に稽古を積み、メキメキと成果を伸ばして行った。そして、遂に彼の妻が出産を迎える。だが、その時の難産が原因で妻は命を落としてしまったのである。

「メルフィ……」

 冷たくなった妻の手を握り締め、ぐっと目を閉じるゼファー。そんな彼の肩を叩き、東方不敗は語りかける。

「無理をせず泣くがいい。愛するもののために流す涙は決して恥ずかしいものではないぞ」

 しかしゼファーはその言葉に首を振って拒んだ。そして、メルフィの隣に寝かされた生まれたばかりの娘に目をやって答える。

「いえ、俺は泣きません。俺には守るものがあります。だから、この子の前ではどんなに辛くても決して泣きません」

「……そうか。ゼファーよ、お前ならば必ずや流派東方不敗を立派に継げる。この子に恥じない親となれ」

「はい、師匠」
 
 それから5年、ゼファーは流派東方不敗の使い手として半人前位の強さを身につけ、村人にも馬鹿にされることはなくなり、キャロの父として立派に胸を張れる男へと成長した。しかし、キャロの竜召喚の日、新たな悲劇が彼等、父娘を襲うのだった。


(後書き)
希望の多かった東方不敗とキャロの話です。けど、キャロの出番が少なくてすみません。オリキャラのキャロの父が邪魔と思われるかもしれませんが、追放されたキャロを東方不敗が拾うって展開を書いても既にやり尽くされたパターンを踏襲することしかできそうにないんで。せめて、後半はもう少しキャロと東方不敗のいちゃつき場面を増やせるようにします。
予定より話数が多くなってしまいましたが、この後半と亀仙人編序章最終話、あとおまけ一本をかいて一旦きりとしたいと思います。



[19760] 外伝1:受け継がれる流派東方不敗(後編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/11 21:34
「なんですって!? キャロを村から追放する!?」

 ゼファ-が叫ぶ。それは竜召喚の儀のあとのことであった。その儀の際、キャロが召喚したのは真竜ヴォルテール、5歳の少女が召喚するにはあまりに規格外な存在であった。

「そうじゃ。きちんと制御方法を仕込んだとしても、ヴォルテールを制御できるようになるまでは、後数年はかかる。もしそれまでの間に、あの子が誤って召喚をしてしまえばどうなるかはお主にもわかるじゃろう?」

「くっ、しかし」

 召喚の儀の時は、即座に送還もできるような準備がされているため、何の被害も無く、ヴォルテールをもとの場所に戻すことができた。しかしもしそうでない場所で、ヴォルテールが召喚されたとしたら、送還するのにどれだけの被害がでるか想像もつかない。最悪の場合はル・ルシエの村が全滅すると言った恐れもある。
 今のキャロは言わば強力な歩く爆弾のようなものだった。

「それに、ヴォルテールの力を狙って、犯罪者達が村を襲ってくる可能性もある。いずれにしてもあの子を村には置いておけない」

「くっ」

 理屈はわからない訳でもない。しかし、納得できる筈が無い。ゼファ-はキャロの父親なのだ。我が子が疫病神の如き存在であるなどと認められる筈が無い。嘗ての自分が無能のレッテルを張りつけられたように、娘をそんな存在に貶めるようなことを許す訳にはいかない。そしてゼファ-はある決断をした。

「一度だけチャンスを下さい」

「チャンスじゃと? まさか、あの子がヴォルテールを制御できるかどうかを試すとでも言うのか?」

 長老の問いにゼファ-は首を振って否定する。確かにそれができれば一番であるが、不可能であることは自身は竜召喚できないとはいえ、長年村に暮らし、多くの竜召喚師を目にしてきた彼にもわかっていた。

「いえ、それは長老のおっしゃったように後、数年は無理だと思います。しかし、逆に言えば後、数年もあればあの子はヴォルテールを制御できるようになる筈です。要はそれまでの間、例え誤って召喚したとしても何とかできる保証があればよいのでしょう? 犯罪者達にしてもヴォルテールの力が制御できるようになれば撃退は簡単な筈です」

「まあ……、それはそうじゃが、どうするつもりなのじゃ?」

 ゼファ-の言ったことは確かに筋が通っている。正面から攻める以外の方法で犯罪者達が攻めてくる可能性も無論あるが、それはいままでも同じこと。自身は比較的弱く、ヴォルテール程で無いにしても強力な竜を召喚できるル・ルシエの民を狙ってくる輩は今までにも当然の如く存在した。その為、それに対する対策はいくつも立てられている。ヴォルテールの暴走が無いのなら確かにリスクとしては大して増えない。寧ろ、最強の戦力が加わることで村の安全がより強固になるとも言える。
 問題は、それをどのような手段で成し遂げるかだ。数年の間、ヴォルテールを抑える方法が無ければそれ等は絵に描いたもちでしかない。

「俺がヴォルテールと戦って勝ってみせます!!」

「なんじゃと!? 無茶じゃ!! 確かに今のお主なら並の竜なら相手にできるじゃろう。しかし、ヴォルテールは普通の竜では!!」

「わかっています。ですが、例え命に代えたとしても「喝!!!!!」」

 ゼファ-の言葉に割り込む叫び声。そして、長老の家の天井を破壊し、空中から一人の男が飛び込んでくる。その男の正体は言うまでも無い。

「この、馬鹿弟子があああああああ!!!!」

 そしてその飛び込んできた男、東方不敗は怒りの声と共にゼファ-を殴りつけた。殴られたゼファ-の身体は吹っ飛び今度は長老の家の壁を粉砕した。いきなり殴られた理由がわからず、身体を起こすとゼファ-は師に問いかける。

「し、師匠、何故?」

「まぁだ、わからんのかあああああ!!! 娘のために戦うことを決意したのは認めよう。もし、あのままお前が黙って従っておればわしはお前を破門にするところだったわ。じゃが、“命に代えても”とは何事じゃ!! お主は生まれて直ぐに母を亡くしたあの子から父までも奪おうと言うのか!!!」

 東方不敗の言葉にはっとさせられるゼファ-。確かにキャロのことを思うのならば自分は何としてでも生き延びなければならない。しかし、ヴォルテールを相手に命もかけずして勝てる自信がどうしても浮かばなかった。

「しかし、俺は……」

「だからお主はアホなのだ!! 何故、一人でやろうとする!? 何故、わしに頼らん!? 我等流派東方不敗が二人して挑めば例え真竜ヴォルテールと言えど恐るるに足らんぞ」

 それに対し、東方不敗は自らも戦うことを提言する。その言葉にゼファ-は慌てた。

「そんな、師匠にご迷惑をおかけするには……」

「迷惑じゃと? 全くお主は……」

 ゼファーの言葉を聞いて東方不敗は溜息をつく。そして声の調子を落とし、出来の悪い子に言い聞かせるように優しい表情で語り始めた。

「よいか、お主はわしにとって可愛い弟子じゃ。そしてキャロはわしにとって孫同然の存在。弟子と孫のために戦うことになんの理由が居る?」

「し、師匠……ありがとうございます」

 その言葉を聞いて、膝をつき、東方不敗の手を握り締め涙を流すゼファ-。東方不敗はそれを見守り、そして視線を長老の方に向けた。

「話は聞いておったじゃろう。わしもこ奴と共にヴォルテールと戦う。そして勝ったならばキャロをこの村に置くことを認める。よいな?」

「う、うむ」

 勢いについていけず、部屋の隅で黙っていた長老は、突然話を振られ東方不敗の声の迫力に押されて頷く。
 そうして承諾を得た二人が部屋をでていくと、残されたのは長老と東方不敗の行動によって半壊しかかった家のみだった。








 数日後、ゼファ-と東方不敗の二人がヴォルテールと戦う日が訪れた。そしてキャロを加えた三人がかたまり、開始の時を待っている。

「お父さん……おじいちゃん……ごめんなさい、私のせいで……」

 不安そうな顔をするキャロ。二人はキャロにはなるべく事を明かさないよう心がけていたが、人の口に戸は立てられないもので、彼女は知ってしまっているのだ。自分が厄介者扱いされていることを。そんな彼女の頭を東方不敗は優しくなでる。

「何も謝ることは無い。お主は何も悪い事などしておらぬのだからな」

「でも……おじいちゃん達が……」

「ふふふ、わし等が負けるとでも思うか?」

 涙目で見上げるようにして心配するキャロだったが、東方不敗の言葉に全力で首を振って否定する。そして東方不敗は最後にぽんとキャロの頭を叩くと、ゼファ-と向き合った。

「覚悟はよいな?」

「はい!」

「うむ」

 そして全ての準備が整い、張られた結界内にヴォルテールが召喚される。二本の足で立ち、外観からして他の竜とは一線を引く真竜ヴォルテール。その圧倒的な威圧感にゼファ-が気押される。

「ゼファ-よ。戦う前から相手に飲まれておっては勝てる戦いも勝てなくなる。己の力を信じよ。お前の5年の修行は決して無駄ではないぞ」

「はい!!」

 師の言葉を聞くだけどその威圧感が和らいだような感じを受ける。そして戦いが始まった。開始の口火を切ったのは東方不敗の蹴りの一撃。

「とりゃあああ!!!!!」

 気合いの叫びと共に放たれたその一撃がヴォルテールの胸に直撃する。並の竜であれば、その一撃で倒れても不思議はないが、流石は真竜ヴォルテール。身体をぐらつかせるもののその場に踏みとどまる。そして反撃とばかりに右手を振るうヴォルテール。東方不敗はそれを受け止めるが、如何に彼であってもふんばりの効かない空中で重量の差を覆すことは不可能である。地面に叩きつけられるが、何とか足から着地する。

「たああああ!!!」

 ついでゼファ-が飛び出す。しかしヴォルテールが尻尾を振るい、それによって払いのけられてしまい、地面に転がるゼファ-。そこにヴォルテールのブレスが放たれ、彼の身体が飲みこまれる。

「お父さん!!」

 それを見て叫ぶキャロ。しかし、ブレスが消えた時、そこにゼファ-の姿はなかった。代わりに空中に彼を抱えた東方不敗の姿が現れる。

「大丈夫か、ゼファ-」

「す、すいません。師匠」

 東方不敗は地面に着地し、ゼファ-も彼の腕から降りて体勢を立て直す。そして東方不敗は構えをとって己の気を高め始めた。

「流派東方不敗、十二王方牌大車輪!!」

 彼の手からまるで彼が分身したようなミニサイズの東方不敗が12人現れる。そしてそれらが複雑な軌道を描いて、ヴォルテールの身体のあちこちに取りつく。それに動きを阻害され思うように動けなくなるヴォルテール。

「いまだゼファ-よ」

「はい!!」

 そのチャンスに二人が同時に飛び上がり、ヴォルテールの胸に拳の乱打を叩きこむ。そして二人が地面に着地した瞬間、取りついていたミニ東方不敗が一斉に爆発し、ヴォルテールに追加のダメージを与えた。

「ゼファ-よ、今度はお前が拘束せい!!」

「はい!!」

 東方不敗の指示を受けゼファーが布を投げる。その布はまるで拡大化したように大きくなり、そしてその布を自在に動かして、ヴォルテールの身体を縛り上げて見せた。

「超級覇王……電、影、弾!!」
 
 東方不敗の身体が自らの身体を弾丸とし、回転しながら体当たりをしかける。ヴォルテールでなければそれで胴体を貫かれていただろう。しかし、ヴォルテールはそれに耐えて見せた。それどころか布を引きちぎり、拘束から逃れてしまう。そして今までに無い強力な攻撃を仕掛けようと口を両翼に魔力を貯め始めた。

「ぐっ」

 魔導師ではないがそのエネルギー量を本能で感じ取り、一旦退避しようとするゼファ-。しかし、東方不敗がそれを引き止めた。

「待て、ゼファ-よ。我等があれを回避すれば恐らくは結界が破壊されてしまう。そうなってしまえば、我等の負けぞ」

「!! しかし、では、どうすれば……」

 結界が壊されてしまえばその時点で失敗とみなされ、キャロの追放が決まってしまう。それでは何の意味も無い。だが、その攻撃を避けずに受ければただではすまないのは明らかである。その事態に対し、東方不敗は決断をした。

「流派東方不敗の最終奥義を使う」

「石破天驚拳を!? しかし、あの技はまだ、俺には到底……」

「確かに今のお前ではまだ一人で使うことはできぬだろう。しかし、強い友情や愛、信頼関係を持つもの同士が心をあわせることで石破天驚拳は更なる力を発揮するのだ。わしにあわせい!!」

「は、はい!!」

 そして二人は重ね合わせたかのように同じ構えを取る。気を集中し最終奥義を放つために練り上げる。


「我等のこの手が真っ赤に燃える」


「キャロを守れと轟き叫ぶ!!」


「石破」


「究極!!」


「「天驚拳!!!!!!」」


 そして二人の気が合一された一撃が放たれる。同時にヴォルテールの最大攻撃も。両者のエネルギーは拮抗し合い、真ん中でくすぶりあう。

「ぐっ、我等二人の力をもってして互角とは、見誤って負ったか!?」

 東方不敗が苦悶の声をあげる。ヴォルテールは長きに渡り召喚者がおらず、戦いをすることがなかったため、内部に魔力を貯め込んでいた。それによりまさしく真竜に相応しきその真の力を発揮できていたのである。だが、二人は決して負ける訳にはいかない。気合いを入れ直そうとしたその時だった。

「お父さん!! おじいちゃん!!」

「なっ、キャロ!?」

 結界の中にキャロが飛び込んで来たのだ。張られた結界は戦いの余波が外に及ばぬよう、そしていざという時、直ぐに送還できるよう張られたもので、外から中に入ることは簡単にできる。しかし、だからと言ってそれがこんな危険な場所に飛び込んでくる理由にはならない。

「キャロ、何故ここに来た!? ここが危険だと言うことがわからんのか!?」

「わかってる。でも、でも、私もお父さん達と一緒に戦う!! だってお父さんとおじいちゃんは私のために戦ってくれているんだもの。私もお父さんとおじいちゃんのために戦いたいの!! それにヴォルテールは私が従えなくちゃいけないんだもの。お父さんやおじいちゃんといっしょにヴォルテールに勝って、ヴォルテールに言うことを聞いてもらうんだから!!」

 二人を真っ直ぐに見て語るキャロ。その姿に二人は可愛い娘が、可愛い孫が、自分達が思っていた以上に成長していたことをそこで初めて知る。

「ふふ、そうか」

「わかった。お父さん達と一緒に戦おう」

「うん!!」

 二人がキャロを認め、キャロは二人の間に入り、腕を真っ直ぐあげて立つ。そして3人が同じ構えを取った。


「「「我等のこの手が真っ赤に燃える、幸せつかめと轟き叫ぶ!!!」」」


「石破」


「「超越!!」」


「「「天驚拳!!!!!!!!!!!!!!!」」」


 3人の気、更にキャロの魔力を上乗せした一撃、まさしくその名の通り天をも驚くその一撃はヴォルテールの放った魔力砲を簡単に飲みこみ、そしてヴォルテール自身をも飲み込んだ。当然、結界など跡形も無く吹き飛ぶ。そして全ての衝撃が治まった後。

「グゥ」

 地面に仰向けになって倒れていたヴォルテールがよろよろと立ちあがる。それを見てゼファ-とキャロを庇うようにして構える。
 しかしヴォルテールは攻撃するような素ぶりを見せず、3人に対し、かしづくような姿勢を取った。

「どうやら、ヴォルテールは我等のことを認めたようだな」

「えっ、それじゃあ!?」

「ああ、わし等の勝ちということじゃ。こ奴がわし等の意思に背くと言う事は恐らくこの先無いだろう」

 つまりそれはヴォルテールを暴走を止められることを示したどころか、一足飛びにヴォルテールを制御してしまったと言うことである。それの示す所は一つ。

「それじゃあ、私は……」

「ああ、もう村を出て行く必要などどこにもない」

 その言葉にキャロが東方不敗に思いっきり抱きつく。こうして問題は解決した。しかし、その数日後のことであった。東方不敗が旅に出ると言いだしたのは。







「師匠、いきなり旅に出るなんて、どういうことですか!?」

「キャロはもうヴォルテールを制御でき、新たに召喚したフリードもあの子に懐いておる。そしてお前に教えることはもう何も無い。このまま修行を積んでいけば、やがて石破天驚拳も使えるようになるだろう」

「でも、だからと言ってこの村をでていく必要なんてどこにもないではないですか!?」

 東方不敗に詰め寄るゼファ-。しかし、東方不敗は彼の方を見ようとしない。代わりに空を見上げながら、語りかけてきた。

「わしはあのヴォルテールとの戦いで久々に血がたぎる感覚を思い出したのじゃ。そして思った。更なる高みを目指したいとな。そのために、わしは広い世界を見て回ることを決めたのじゃ」

「更なる……高み……」

 その言葉はゼファ-にとってあまりに予想外なものだった。彼にとっては東方不敗こそ目指すべき頂だったから。その更に上など想像もしたことはなかったものであった。

「我等武道家にとってそこで終わりというものは無い。目指すべき高みはどこまでも無限に高い。わしが元の世界に残してきたわしを超えた弟子も今頃は更なる高みへと上り詰めておるじゃろう。わしはその弟子に負けぬようもっと己を鍛えたい、そう思ったのじゃよ」

「……でしたら、私も師匠や師兄に負けぬよう己を鍛え続けます」

 東方不敗の言葉にゼファ-は拳を握り答える。その時、彼の中で東方不敗に対する崇拝の意味が変わった。神のように届かない存在に対して向ける憧れから、同じ道を行く先達に対し向けるものへと。

「そうか。ならばこの先、我等は師弟では無く、ライバルじゃな」

「いえ、例えあなたを超える日が来たとしても俺にとってあなたは永遠に師匠です!!」

 東方不敗、彼がゼファ-に道を示してくれた存在であることは変わらない。例え、師の強さを超える日が来たとしても、道が僅かに違えても、それは永遠に変わらないのだ。

「ふふ、わしを超えるか。言うようになったな。ならば!!」

 その言葉を合図に両者が飛び出す。

「流派東方不敗は!!」

「王者の風よ!!」

「全新系列!!」

「天破侠乱!!」

「「見よ!東方は赤く燃えている!!!」」

 拳を突きつける二人。そしてゼファ-は口を開いた。

「最後に一つだけお願いがあります」

「何じゃ?」

「時々は遊びに来てください。あの子にキャロに会いに」

「……わかった」

 そう答え、東方不敗は姿を消す。そしてそれと入れ違うかのようにキャロが現れ、ゼファ-のところへ駆け寄ってくる。

「おじいちゃん!!! お父さん、おじいちゃんは!?」

「師匠は旅にでたよ」

 その言葉を聞いた瞬間キャロは目に涙を一杯に浮かべて言った。

「どうして、私のことが嫌いになったの?」

「違うよ。その証拠に師匠はキャロに会いに時々は遊びに来てくれるって約束してくれた」

 ゼファ-はその場にしゃがみこみ、キャロと同じ高さの目線になって語りかける。しかし、それでもキャロは泣きやまず父に対し問いかける。

「じゃあ、どうして?」

「どうしてもやりたいことがあるんだって。ほら、元気をだすんだ。言っただろう。時々は会いに来てくれるって。けど、キャロがあんまり情けないようだったら遊びに来てくれなくなってしまうかもな」

「嫌!! だったら、私泣かない」

 大声で叫び必死に涙を止めようとするキャロ。この時、ゼファ-が言った言葉が原因か、その後年齢以上に礼義正しく、しっかりとした子へとキャロは成長して行った。


 そして5年の月日が流れる。


「行くぞ、キャロ!!」

「はい、お父さん!!」

「流派!東方不敗は!」

「王者の風です!」

「全新系列!」

「天破侠乱!」

「「見よ!東方は赤く燃えている!!」」

 第6管理世界アルザス。そこでゼファ-とキャロ、二人の父娘、そして流派東方の修行を行っていた。そしてそこに一人の男が近寄ってくる。

「うむ、やっとるようだな」

「あっ、おじいちゃん!!」

 久々に遊びに来た東方不敗にキャロが抱きつく。それを5年前と同じように東方不敗は優しく抱き止める。

「頑張っておるか?」

「はい、頑張ってます。フリードも最近は私と一緒に流派東方不敗を習っているんですよ。ヴォルテールにも教えようかと思ったんですけど、何故かそれだけはやめてくれって村中の人に止められちゃいました」

 近況を報告するキャロ。それを笑顔で聞く東方不敗。そしてゼファ-が二人に近づいてくるのに気付き、彼は鋭い目つきをして視線をそちらにやった。

「ゼファーよ。修行は怠けておらんな」

「ええ、勿論です。後少しで石破天驚拳も会得してみせますよ!!」

 ゼファーの自信の持った言葉に東方不敗はニヤリと笑い構えをとる。

「ふふっ、そうか。ならば修行の成果を……っと、言いたいところじゃが、今日はやめておこう。代わりにキャロよ、今日はたっぷりとわしの飯を食わせてやろう」

「本当ですか!! おじいちゃんのご飯美味しいから大好きです」

「キュクルウ」

 しかし構えを崩し、そう言った。その言葉にキャロとフリードが大喜びする。そうして3人と一匹は家に帰る。それは嘗てヴォルテールとの戦いの際に宣言した通り、幸せを掴んだ姿だった。


(後書き)
キャロが追放された理由は後付けで犯罪組織がヴォルテールを狙っていたから、管理局に伝えなかったのも管理局の情報管理能力を信頼していなかったから、キャロに制御方法を教えなかったのも制御方法の機密漏洩を防ぐためってことになっている設定があるそうなのですが、かなり無理がありますよね。そこまで徹底し、冷酷にならなければならなければならないのならいっそキャロを殺した方が確実な筈ですし、それ位の覚悟を集落が持っていなければおかしい筈です。ですんで、その辺の設定は半分無視して書きました。
あと、前半で宣言した東方不敗とキャロのいちゃつき少なかったのでちょっとだけおまけを。あっ、言っておきますがあくまでおじいちゃんと孫してのいちゃつきの範疇ですからね?


(おまけ)
――東方不敗がたまに帰って来た日の夜はこんな感じ――


「おじいちゃん、久々に一緒にお風呂に入りませんか?」

「なんじゃ、キャロ。十にもなって甘えおって。まあよい、入るか」

 普段会えないからと両手をちょこんと前に添えて甘えるキャロに対し、口調は文句を言いながら表情は嬉しそうにし答える東方不敗。

「はい!! あっ、背中流しっことかしてもいいですか?」

「あー、わかったわかった」

「頭も洗ってください」

「洗ってやる洗ってやる」

 仲良く談笑を交わしながら風呂に向かう二人。一方その隣の部屋では。

「うっうっ、キャロ、最近、俺とは一緒に風呂に入ってもくれないのに……」

 いじけるゼファーの姿があった。



[19760] 外伝2:『水心』ティアナ・ランスター
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/25 07:31
 私、ティアナ・ランスターには尊敬する人が二人いる。一人は私の兄、ティーダ・ランスター。もう一人はその兄を助けてくれた人。
 兄は管理局の首都航空隊所属の一等空尉で執務官志望のエリート魔導師で、幼い頃に両親を亡くした私を親代わりに育ててくれた人だった。けど、私が10歳の時、違法魔導師の追跡をし、そこで交戦となった結果、兄は敗れ大怪我を負ってしまった。
 けれど、その時に兄を救ってくれたのが私が尊敬するもう一人の人。偶然に通りかかった彼はその違法魔導師を捕獲し、兄を救ってくれた。けれど、その人がその場に現れた時、兄は既に重傷を負っており、10歳の私が聞いたのは意識不明の重体の兄が病院に運ばれたと言う知らせでした










「兄さんは、兄さんは大丈夫なんですか!?」

「勿論全力を尽くします。けど、助けられる保証はできません……」

「そんな……」
 
 病院で医者の人に聞かされた言葉に私はその場に座り込んでしまいました。ずっと一緒だった唯一の肉親だった兄が死んでしまうかもしれない。そんな現実が私の心に冷たく突き刺さり、けれどその病院に来ていた兄の上司だという人の言葉はそんな状態の私の心を更に絶望につき落としました。

「まったく、犯罪者にやられた上、非魔導師の民間人に助けられるとは、空の恥さらしが!! こんな奴は死んでおればよかったのだ!!」

「!!」

 私はその言葉がショック過ぎて口を開く事さえできませんでした。そんな時でした。“彼”が現れたのは。

「人を恥さらし扱いする前に、自分の発言を振り返ってみてはいかがだろう? 私にはとても病院で、しかも手術中の患者の幼い親族の前でする発言とは思えないが。少なくとも恥を知っている人間のする発言とはね」

「なんだ。貴様は!?」

 スーツを来て、左手に帽子を抱えた男性。“彼”は兄の上司に対し、静かな態度で非難する言葉を発し、それに怒った兄の上司が“彼”に詰めよろうとした時、私は一瞬自分の目がおかしくなったのではないかと疑いました。

「少し周囲を見てみてはいかがかな?」

 兄の上司の目の前に居た筈の“彼”はいつの間にか彼の後方に回っていたからです。一瞬たりとも眼を外していなかったとまでは言いませんが、それでもずっとそちらの方を見ていた筈の私にも何時彼が移動したのか全くわからず、兄の上司も目を見開いた姿になっていました。そして、“彼”の言うように周囲を見ると、医者や看護師、病院に入院していると思われる人達の冷たい視線が兄の上司に集中していました。

「それと、非魔導師の民間人に助けられるのが恥だと言うのなら、非魔導師の民間人に命を握られてしまうのはもっと恥ではないかと私は思うのだがね。私がその気なら君の首は切り裂かれている」

「き、貴様……」

 そうして再び目をやると“彼”はいつの間にか兄の上司の首筋に何か突きつけていました。兄の上司は顔色を悪くし、顔中に脂汗を流しています。そして、彼は腕を引きました。兄の上司は直ぐ様、飛び引き、反転すると彼を指差し、叫びます。

「貴様、管理局員に対し、刃物を突きつけるとは……」

 そこで兄の上司の言葉が止まります。彼が兄の上司にさっきまでつきつけていた右腕に握られていたのはキャップが付けられた只のペンでした。周囲から忍び笑いの声が響き渡ります。兄の上司は顔を真っ赤にして、その場で右足の裏を何度も床に叩きつけると、そのままその場を去って行きました。

「あの、あなたは?」

「私は君のお兄さんを助けたものだよ。最も、助けたなどと偉そうなことはまだ言えないがね」

 兄の上司が居なくなって、私は“彼”に近づき話しかけました。すると“彼”が兄の恩人であることがわかりました。“彼”は手術室のドアに目をやり、本当に辛そうな表情を浮かべて、この人にとっては他人である筈の兄のためにどうしてそんな表情が出来るのか気になって私は尋ねました。

「どうして貴方がそんなに辛そうな表情をしているんですか?」

「そうだな。辛いのは君の方だ。ただ、思い出してしまってね。昔、息子が命に関わるような大怪我を負ったことがある。私の人生の中であの時程に辛かったことは無い。すまない、君に同じ思いをさせてしまった」

 私の疑問に“彼”はそう答えてくれました。その後に発した自分の言葉が彼を励まそうとして言ったのか、あるいは自分が希望を欲しかったのかは今でもわかりません。とにかく、私は口を開いて言葉を発していました。

「その息子さん、今は?」

「元気で生きているよ。私の一番の自慢、誇りだ」

「なら、私の兄さんもきっと助かります。兄さんは私の誇りですから。こんな所で死ぬ筈はありません」

 私の言葉に“彼”は驚いた顔をして、そして優しい表情を浮かべ私の肩に手を置いて言いました。

「そうだな。信じよう君のお兄さんの強さを」

 その後、手術が終わり、兄は一命を取り留めましたが、意識を取り戻すことはありませんでした。
そして私は兄が現場には二度と復帰できない身体になってしまったことを病院の人達から聞かされました。
それから私は“何時、意識を取り戻してもおかしくない”と言う医者の言葉を信じ、兄が目を覚ますのを待ち続けながら、同時に自分を鍛え始めました。兄の誇りを取り戻すために、ティーダ・ランスターが決して恥ではない事を示すために。二度と魔導師として現場に立てない兄の代わりとなって兄が目指した執務官に私がなってみせることでランスターの銃の強さを証明してみせようと誓ったのです。
そんな私の前に、ある日また“彼”が現れて言いました。

「よかったら、手伝わせてくれないか? 私には魔法は使えないが、動く的になる位ならできる」

 私は迷った後、その提案を受けました。私の目に兄の上司に対してしたあの時の“彼”が目に焼き付いていたからです。いつの間にか後ろに周り、いつの間にか首筋にペンを突きつけた“彼”の動き。ランスターの銃の強さを証明すると言っても当時の私が兄から教わっていたのは魔法の基礎とそこから少し進んだ程度、兄が目を覚まさない状態で独力だけで強くなることに限界があることを既に悟っていた私は、その動きを少しでも学習したいと思ったのです。けれど、“彼”の実力は私の想像を遥かに超えていました。
“彼”を狙って魔法を撃つ私に対し、“彼”は私の攻撃を巧みに回避してみせ、ほとんどあたることはありませんでした。いえ、今にしえ思えば本当に巧みだったのは、私の攻撃に巧みに“当たって見せた”ことだったかもしれません。私が少しいい攻撃をして見せた時には“彼”は完璧に回避出来ず、攻撃に対し、かすることが何度かありました。けれど、当時の私が、直撃では無いとはいえ、“彼”に攻撃を当てることができたとは思えません。今の私ですら難しいでしょう。恐らくは私が自信を失わないようわざとそうしてみせたのだと思います。当時の私にまったく気付かれないようにして。

「どうして、そんなに上手く私の攻撃を避けられるんですか?」

「心を“水”のように穏やか状態にすることで、“水”は鏡のようになり、君の心を映し出す。そうすることで君の狙いが全て読めるようになるのだよ。君ならば、いずれ同じことができるようになる筈だ」

 “彼”言ったアドバイス。当時はその意味がわかりませんでしたが、今は理解できるようになりました。完全に理解しているかと言われればあるいはまだ、極めてはいないのでしょうけど。
そうして兄が意識を取り戻さないまま1年が過ぎ、時々現れては私の相手をし、一言二言アドバイスを残すといつの間にか立ち去ると言う事を“彼”は繰り返していきました。その1年で私の実力は大きくあがり、そして1年立った時、兄が目を覚ましたのです。私は喜び、弱った身体の兄に抱きつきたいのを必死で我慢しなければいけませんでした。しかし、次第に暗い影が私達、兄妹を覆い始めたのです。

「兄さん……」

怪我の後遺症で現場に復帰できない身体になり、執務官としての夢を断たれたことを知った兄は絶望し、全てにやる気を失った姿を見せるようになってしまったのです。当時の私は兄が誰よりも立派な存在で、決してそんな情けない姿を見せる存在だとは思っていなかったのですが、考えてみれば当時の兄は21歳、今の私よりも5歳上なだけの若造でしかありません。その年で夢を失い、身体を満足に動かすことすらできなくなった絶望から簡単に立ちあがれる方が不思議なのですが、当時の私は情けない程に子供で、兄を美化しきっており、そんなことすらわからないでいました。ですから、もしそのままであれば私は兄への尊敬を失い、失望してしまっていたかもしれません。けれど、そこでまたもや私達を救ってくれたのは“彼”でした。

「私は管理局地上本部の防衛長官、レジアス・ゲイズと言うものだ。ティーダ・ランスター、君を地上本部の教導官として招きいれたい」

 ある日、そう言って兄をスカウトに来た人が訪れたのです。兄の実績や訓練時の成績は非常に優秀で、その経験を基に後進を指導して欲しいという申し出でした。身体の上手く動かない彼でも知識や経験を人に伝えることはできます。兄は驚き迷った後、その申し出を受けました。後で知ったことですが、防衛長官であったレジアス中将に兄を推薦したのが“彼”だったそうです。“彼”と防衛長官との間に一旦どう言った繋がりがあったのか本人に尋ねてみたところ、“彼”が昔世話になった人とレジアス中将が習っている武術の師匠が2,3度面識があるとのことでした。ほとんど他人も同然なそんな繋がりでどう言ったやり取りをしたのかはわかりませんが、とにかく兄は陸の教導官となり、それを新たな生きがいとするようになりました。立ち直った兄は厳しいリハビリを乗り越え、身体をある程度動かせるようになると、仕事について教え子達を熱心に鍛え始め、彼等は今、陸で、海で、そして空で活躍し評価されています。今では、兄のことを恥と呼ぶ人など誰もいないでしょう。










 私の目の前には今、10人の魔導師が居る。その全員が私に対し、攻撃の意思を見せている。けれど、恐れはまるで無い。“彼”と出会ってから6年。私は“彼”が教えてくれたその“水”の心の意味をようやく理解した。今は相対している10人の魔導師の狙う攻撃の軌道が全て読める。高速弾、誘導弾、それらを私は紙一重で回避していく。

「フルスピード……」

 魔力弾を圧縮し、通常の10分の1程度の体積にする。これは魔力量が然程多く無い私がそれを補うために生み出した技術。元々持っていたレアスキルである“集束”を“水”の心の集中力で磨き上げ、完成させた私の“必殺技”。

「シュート」

 私の撃った弾丸は高速で直進し、そして直撃した魔導師のバリア・ジャケットを紙を貫かのように貫通して一撃で戦闘不能にさせる。更に2撃目、3撃目と相手の攻撃を回避しながら私は次々撃って他の魔導師達を落としていった。

「6……7!」

 少し大きな声をあげてしまうがこの程度では心は乱れない。残るは3人。この3人は他に比べて少し手強い。二人が低めに撃った魔法の弾丸を飛び上がってかわす。その際に身体が反転し、上下逆さまになる。そして残った一人が私の頭部を狙う。

「8」

 それを私は足を下げ、反動で頭を上げることで回避する。そして回転しながら、私は更に一人を射撃し、撃墜する。

「9人目! クロスファイアシュート」

半回転し、上下が元に戻ると地面に落下を始める。そこで私は今まであえて使わずに居た誘導弾を左右に分かれ両側から挟み込むような形にして6発撃つ。集束高速弾ばかり撃ってそれに目を慣れさせていた相手は私の狙い通りそれに反応出来ず、全弾直撃を受けて倒れる。これで残るは一人。魔力の詠唱を開始する。

「ラスト!」
 
 地面に着地し瞬間に右に飛び引き、相手の攻撃を回避する。そして詠唱の終わった魔法を放つ。

「ウェイブシュート!!」

 魔力の波が相手を飲み込む。そこでアナウンスが部屋に響き渡った。

『試験終了、ティアナ・ランスター一等陸士の“Aランク”昇格試験はここまでとする』









 兄の名誉が回復し、私が執務官を目指す理由は無くなりました。けれど、私は今、執務官を目指しています。兄が目指したように執務官になって多くの人を助けたいから、憧れの人である兄や“彼”に追いつきたいから。魔導師のランクだけは追いついて、けれど目指す先はまだまだ先にある。それを私はこれからも追いか続ける。
 だから、見ていてください。兄さん、“高槻巌”さん。


(後書き)
今回はちょっと形式変えて一人称です。「悪の華の散る時」もこの形式で書こうと思っています。

PS.リリカルWの方再開して書き始めたが、進まず息抜きにこっち書いたら一瞬で書きあがってしまった……。



[19760] 外伝3:極悪の華の散る時
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/08 22:49
 弟に殺された筈の俺は気がついたら見知らぬ場所に居た。世紀末の世では見られぬような自然豊かな場所、喉の渇きを覚え水の流れる音に気付いた俺はそちらに近づき川を見つけた俺は川を覗き込み、そこで俺はその澄んだ水に驚き、そしてそれ以上にそこに映ったものに驚かされた。

「顔が……元に戻っている?」

 弟にやられて潰れた筈の顔が元の通りに治っていた。ただ、そのことに驚きはしても特に喜びや感慨はなかった。いや、喜びや感慨だけではない。弟への憎しみも流派の継承者への渇望も何もかも失われていた。残っていたのはただ、空虚な気持ちと疑問だけだった。自分は弟に負けた。負けたのは二度目、一度目は不運なアクシデントの所為だと思っていた。しかし、そうではなかったと指摘され、二度目は言い訳のしようもない完全な敗北をした。それで張り詰めていた何かが切れてしまったのだろう、全てを失った自分が何故生き延びてしまったのかという疑問だけが残っている。

「とりあえず、他の所へ行ってみるか」

 普通なら心が落ち着くだろうこの自然豊かな場所は、自分にとっては心をかき乱す様な場所でしかない。俺は当ても無く歩き始めた。そして数時間程歩いた先に俺は街を見つけた。

「何だ、こりゃ!?」

 その街を見て俺は驚いた。近代都市と言ったその感じの街は世紀末の世界では決して見られぬ筈のもの。地球上にそのような場所が残っている筈は無いと思いながら、俺は街の中に入っていく。そしてその場所で俺は知った。今、自分が居るのが地球ではなく、全くの別の世界であることや、この世界には『魔法』と呼ばれる力が存在していることを。

「まったく、冗談みたいな話だ」

 思わず呟くが、死んだ筈の自分が生きていること自体冗談のような話だと気付く。それにここが異世界であることも、魔法が存在していることも今の自分にはどうでもいい。ただ、この街は自分にとって気に障る場所であるということが問題だった。この街の人間は皆、のんきそうに笑い、幸せそうにしている。その光景が先程の場所以上に自分の心をかき乱す。俺は、逃げるようにその街を立ち去り、別の場所を目指し再び歩き始めた。

「この世界にもこんな場所があるんだな」

 最初の街を出て、数日後に辿りついた街、それはスラム街と言った感じの街で、中に暮らす人間達も薄汚れた格好をしていた。世紀末の世に比べればマシかもしれないが、それでもその世界を思い出させるその荒れた風景は、今の俺にとっては自然豊かな場所や、繁栄した街よりも遥かに心を落ち着かせる場所だった。
俺はその街に入り、そして適当にぶらついていると、女が5人の男に組み伏せられているのを見つけた。女は悲鳴をあげて逃げようとしているが、身体をがっしりと捕えられて逃げられないでいる。俺はそれをどうでもいいと思い、無視して立ち去ろうとした。

「……」
 
 だがそこで何故か足が止まった。今更男達の行為に嫌悪感を持つような道徳や正義感なんて持ち合わせている筈もない。世紀末の世では何度も見た光景だ。俺自身ももっと酷いことを何度もした。女の方に同情している訳でもない。世紀末の世では弱いことが悪だった。この世界は世紀末の世とは別世界だが、その理屈は変わらないものであると思っている。少なくともこんな所で暮らしているのだ。わからなければただの馬鹿、襲われているのもあの女の自業自得の筈だ。
しかし、何故かあの男達の行為がどうにもいらついてしかたなかった。俺はそのいらつきを消す為に男達のもとへ向かう。

「おい」

 俺が男達に声をかけるとお楽しみを邪魔され、不機嫌そうな顔を見せる男。俺はその顔をいきなり蹴り飛ばしてやった。

「ぐへっ」

 俺の蹴りで顎がつぶれ、その場に仰向けになる男。それを見て、女を襲っていた男達は素早く立ちあがると一斉に刃物を抜いた。そして襲われていた女は俺に礼を言うことも無く一目散に逃げ出す。別にそれはどうでもいい。元から襲われていた女に等興味がなかった。ただ、男達がどうにもムカついてしょうがなかった。

「てめえ、何しやがる!!」

 男の一人が俺に対し、叫びつける。しかし、俺は全くそれに動じない。男の威嚇は世紀末の世では雑兵以下の迫力でしかない。

「うるせいぞ、吠えるな」

 俺はそう言って、懐から取り出した銃を一発発射する。弾丸は男の一人の腿に直撃し、男は激痛の悲鳴をあげ、その場に転げまわった。

「うぎゃああああ!!!」

「し、質量兵器!?」

 俺の銃を見た男の仲間の一人が妙に動揺した声をだす。そう言えば、この世界では魔法を使った武器か刀や鈍器と言った原始的な武器以外が禁じられているらしいことが最初の街で目にした書籍に書かれていたことを思い出す。

「こいつが怖えか?」

 俺は男等に銃を見せつける。それに対し、答えを聞くまでもなく、明らかに脅えた様子を見せる男達。それを見て俺は銃を懐にしまった。

「なら、こいつは使わないでおいてやる。それで、この俺様に勝てれば見逃してやるよ」

 両手を広げて余裕のポーズを見せる俺、俺が銃をしまったことに余裕を取り戻したのか先程まで脅えまくっていたくせに強気な態度を取り戻す男達。

「くっ、舐めんじゃねえ。おい、お前達、やっちまうぞ!!」

 俺に顎を割られた男と足を撃たれた男以外の3人が一斉に飛びかかってくる。それを見て俺は再び懐から銃を取り出した。

「ばーか、嘘だ」

 そして俺は三人の一人を撃つ。銃弾は男の脇腹を貫通し、男はその場にうずくまって、他の二人はその場に立ち止った。そして男達が吠える

「て、てめえ、卑怯だぞ!!」

「勝てばいいんだよ。勝てば!!」

 卑怯なんて言葉は世紀末の世には無い。こんなところで暮らして居ながら、そんなこともわからない当たり、こいつ等は生粋の馬鹿らしい。そして、俺は再び銃をしまう。

「今度こそ銃を使わないでやる。さっ、かかって来な」

 俺が挑発するが、男達は警戒して動かない。だが、今、言った言葉は本当である。こいつら程度にもう銃は必要無い。

「なら、こっちから行くぞ。北斗羅漢撃!!」

 俺は飛び出し、一気に男達と距離を詰めると、鋭い連続の突きを発ち、男達の秘孔つく。

「な、なんだ。へっ、なんでも……」

 突きを喰らって痛みを感じなかっただろう。男達は余裕の表情を浮かべようとして、その瞬間、男達の両腕が本来曲がる方と逆方向にへし曲がった。

「うわあああああ!!!」

 両腕が折れ、骨が肉を突き破った痛みと通常あり得ない異常事態に男達が叫び狂う。その姿を見て何故か苛立ちが強くなるのに気付いた俺は、とどめを誘うとして男達に近づき、そこで一人の男の顔を改めて見て、俺はようやく感じていた苛立ちの意味に気付いた。

「こいつは……」

 男達の一人、そいつの顔が親父にそっくりだったのだ。出会ったばかりの頃と親父と比べてすら若いし、髭も無いし髪型も違っている。しかし、その基本的な顔の造形自体は瓜二つと言ってもいい程によく似ていた。

「あははははは!!!!」

 俺は笑った。こんなに滑稽なことがあろうか。親父と同じ顔をした男が地面に這いつくばり、俺を恐怖の目でみあげているのだ。親父を憎み、ずっとそうやってしてやりたかった。そして本人ではないとはいえ、同じ顔をした相手に対し、それを実現したのだ

「ひぃひぃ!!」

 笑い過ぎて息がきれる。それでも笑うしかない。長年の望みをかなえてこんなにも、こんなにも“不愉快な気分”だなんて。

「くくっ、結局、そういうことかよ」
 
 俺は自分の本心に気付く。結局の所、俺は親父を未だに慕い続けていたのだ。憎んだつもりで、認めて欲しいと思い続けた頃の自分のままだったのだ。だから、そんな親父と同じ顔をしている男が下種な真似をしているところを見ていらついたのだ。情けない姿を見せているのを見て、不愉快な気分になったのだ。全てを失い、全てをぶち壊しにした後になって、ようやく気付くだなんてこんな道化は世界中、いや異世界であるこの世界にだっていないに違いない。

「はは」

 俺は渇いた笑いを漏らす。俺は今度こそ空っぽになった。何の感情も湧いて来ない。男達にとどめを刺す気にもなれず、ふらふらとその場を立ち去ろうとする。

「おい」

「あっ?」

 その時、俺は後ろから誰かに声を駆けられた。反射的に振り返ろうとしたその瞬間、俺は何かに胸を貫かれた。

「ぐはっ……」
 
 口から血を吐き、その場に倒れそうになるのを何とかこらえる。そして振り返った俺の目の前には杖のようなものを持った一人の男がいた。いや、杖じゃない。それがデバイスとかいう魔法を使うための道具だと言う事を俺は思い出す。

「人の子分を可愛がってくれたじゃねえか」

「あ、兄貴!!」

 デバイスを持った男は俺がぶったおした奴等の仲間だったらしい。そしてその男の持ったデバイスか得体のしれない光を放つ。最初に受けた一撃で胸に穴のあいた状態の俺は身体を上手く動かせず、それを回避できない。まともに喰らって地面に転がされるが、痛む身体を抑え、何とか立ちあがってみせた。

「ぐっ、これが魔法って奴か」

「へえ、俺の魔法を喰らって立つなんてなかなかタフじゃねえか」

 魔法の威力を身をもって理解する俺に対し、男は再び手に持ったデバイスに光を生みだす。今度、まともに受けてしまえば流石に立ちあがることはできないだろう。だが、それでいいかもしれないと思う。どの道、自分にはもう何も残っていない。ここで死んでしまったところで構わない。だが、頭でそう思うのとは別に、身体が勝手に動く。

「北斗……」

 何故かと考え、そして自らが使おうとした技の名前がその答えを教えてくれた。伝承者争いに敗れたとはいえ、俺は偉大な北斗神拳の使い手。相手が魔法使いとはいえ、こんな三下相手に敗れ、その名を汚すことなど絶対に許せないのだと。

「羅漢撃!!!!!!!」

「なっ!?」

 男が驚愕の声をあげたその瞬間には既に男の秘孔をついていた。そして男に対し、3本の指を突き出し言ってやる。

「お前の命は後3秒だ」

「何!?」

「1、 2……3」

「ひでぶぅ!!」

 俺が3本目の指を折った瞬間、男の身体が爆散する。そしてそれと同時に力尽きた俺はその場に崩れ落ちた。意識が遠のき、いよいよ最後かと思って目を閉じたその時だった。

「ジャギ!! あんたジャギだろう!?」

 俺の名を呼ぶ声がした。俺を知る者など誰も居ない筈の異世界で何故と思い、目を開け、相手の姿を見た瞬間、俺は硬直した。ここにその“女”が居る筈は無かった。いや、どこにも居る筈はない。何故なら、その“女”は死んだのだから。だが、死んだ筈の自分が今はまだここに生きて存在している。ならば、その“女”が生きていたとしてもおかしくはない。少なくともこの世に奇跡なんてもんがあるのなら、自分よりはずっとその恩恵に預かるのに相応しい筈だ。

「ジャギ、ジャギ、しっかりして!! 今、手当てするから」

 もしかしたら、目の前の“女”は死に際の自分が生み出した幻覚なのかもしれなかった。だが、それでも良かった。肉体だけなら愛した女は幾らでもいた。けれど、自分が心から愛したのは一度さえ抱いていない目の前の“女”だけだった。その女の胸で死ねると言うのなら悪党の自分としては上出来すぎる。

「ジャギ、ジャギ、ジャギ!!」

 俺は最後に一度だけその女の名前を呼んだ。残った最後の力を全て込めて・

「会いたかったぜ。アンナ」

「ジャギィィ!!!!!」
 









 一つの噂話がある。それは第7管理世界ナックのスラム街に救世主と呼ばれる男が現れた男だった。その男は必ずしも善人と言う訳ではなかったが、その男に統治されたことによってスラムの治安は格段によくなったと言われている。そしてその男の傍には常に一人の女の姿があると言う。



(後書き)
結局、また、こっちを先に書いてしまった……。
結末はあえてはっきりと明示せずぼかす形にしました。
最後の救世主がジャギであるかは皆様のご想像にお任せします。

PS.設定でいくつか聞きたいことがありますので、知っている方がいましたら教えてください。

管理局本局はどこにあるのか?
海や空の本部はどこにあるのか?
エリオが初めてデバイスを手にしたのはいつか?



[19760] 外伝4:3達人と白い魔導師(補足追加)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/18 07:21
 第20管理世界、オーフェン。管理世界の中で最も辺境とされるこの世界に他の幾つかの世界と同じように武術の達人が現れていた。
 達人は全部で3人、その名は、アミバ、石動雷十太、呂塞五郎兵衛と言う。
 アミバは南斗六聖拳の一つ、南斗水鳥拳の継承者を争うものの、継承者争いに敗れ、その後、我流で北斗神拳を会得し、その継承者候補の一人であったトキの名を語った男。
 石動雷十太は殺人剣こそ剣術の本道と主張し、その復活を唱えながら、実は本人は一度も殺人を犯したことの無かった男。また大富豪を自分が雇った襲撃者達に襲わせ、それを助けるという自作自演を演じることで取り行った男でもある。
 呂塞五郎兵衛はDofDと言う20歳未満しか参加できない大会に年齢を偽って参加し、賞金を得ようとするも、我流Xにその企みを見破られ、敗北した男である。
 3人共、己を偽っていた者達である。しかしその実力は常人を超えており、達人と呼べる力の持ち主達であった。元の世界で死んだ筈だった彼等は気がつくとこの世界で生き返っており、そしてそこで魔導師をリーダーとした盗賊集団に襲われた。互いに見も知らぬ3人だったが、状況がわからぬまま襲われたその事態に共闘し、襲ってきた盗賊集団を返り討ちにしてみせる。そこまでは特に問題の無い話だ。しかし、問題なのは、その後3人達はその盗賊団の首領という立場に治まってしまったのである。
 自分達の力に溺れ、暴虐を引き起こす彼等に対し、辺境で魔導師自体ほとんど居ないこの地でそれを止められるものはいなかった。管理局は何度か小規模な戦力を送ったものの撃退され、そして今回もまた3人の魔導師が破れ去ろうとしていた。

「ぐっ、な、なんだ、身体が動かない」

「貴様はもう肉人形だ。さあ、たっぷりと実験してやろう」

 アミバに秘孔を突かれ、訳も分からず身体を動けなくされてしまう男。

「こっ、こいつ、魔導師でもないのに!?」

「飛飯綱、古流剣術の技よ。魔法等というものに頼る貴様等にはわかるまい」

 雷十太の剣が生み出す不可視の斬撃、カマイタチによって身体中を切り刻まれてしまう女。

「うわああ」

 そして五郎兵衛の岩をも砕く蹴りをまともに受け、胸の肋骨を砕かれてしまう男。管理局から送られた3人の魔導師はもはや戦闘不能の状態だった。圧倒的な力を見せる達人達。しかし、そこに一人の少女が現れる。

「酷い……」

その場の惨状を見て呟く白い服を着た12歳位の少女。彼女の姿を見て達人達はどこの子供が迷いこんだのかと考える。

「子供か、大人と比較してのいい肉人形になりそうだ」

 舌舐めずりをするアミバ。それに対し、興味が無いようで特に手を出す気もないが、アミバを止めるつもりも無いと言った様子の残り二人。そんな三人に対し、少女は睨みつけて問い詰める。

「どうして、こんな酷い事をするんですか!?」

「理由など無い。強いて言うならばこ奴達が弱者だからだ」

 弱者が強者の下になるのは当然と言った理屈を展開する雷十太。その言葉に少女は怒りの表情を強くし、杖を取り出し向けると宣告する。

「貴方達の行動は法に反しています。抵抗せず、速やかに投降すれば、減刑の余地があります」

 その行動に魔力を感じ取ることの出来ない達人達は、そこで初めてその少女が魔導師であるらしいこと、そして管理局員であるらしいことに気付く。管理世界の常識に慣れていない彼等はこんな子供がそう言った立場であることに驚くが、完全に侮った様子だった。

「くくっ、お嬢ちゃん、あんまり調子に乗らない方がいい。怪我したくなかったらな」

 笑い威嚇した態度を見せる五郎兵衛。しかし、少女は臆した様子を見せない。その態度に少し腹を立てた五郎兵衛は少女の頭のある位置の直ぐ横を狙って蹴りを放ち、脅しつけようとした。

『Protection』

 だがそこで少女の持つ杖から声が発せられ、魔法のシールドが展開される。シールドに蹴りが弾かれ、飛び引いて地面に着地する五郎兵衛。それを見て他の2人の表情が変わる。

「どうやら、ただの子供ではないようだな」

 少女に当てるつもりで十太郎が飛飯綱を放つ。不可視の攻撃に少女は反応することができず、その一撃をまともに受けてしまう。しかし、そこで十郎太は驚愕の声をあげた。

「なんだと!?」

 飛飯綱を受けた筈の少女は無傷であったのだ。飛飯綱の正体はかまいたち。その速度と不可視なことが脅威であり、初見でかわすのは至難で、しかも威力もかなりのものである。並の魔導師にとっては恐るべき攻撃だ。しかし今、彼が目の前にしている少女は高ランク魔導師。その纏うバリアジャケットの強度は並ではなかった。

「ならば、俺が!!……馬鹿な、天才のこの俺の拳が!!」

 そして今度はアミバが飛び出す。そして少女の秘孔を突こうとする。だが、それもまた、やはり少女のバリアジャケットによって防がれ効果をもたらさない。外部からの破壊の力が弱い北斗神拳にとってバリアジャケットと言う常時の防御手段を持つ魔導師は極めて相性の悪い相手だ。剛の拳や柔の拳を極めた使い手ならば対抗策もあるが、所詮彼の拳は見様見真似の浅い拳。相性の悪さを乗り越える程の力がある筈も無い。

「アクセルシュート!!」

 そしてそこで今まで攻撃を受けてばかりだった少女が反撃に移る。彼女は複数の魔力弾を同時に生み出し、それらを操作して達人達に向ける。

「ぐわっ!!」

 アミバと十郎太はその攻撃を拳と刀で迎撃し、防ぎきるが、他の二人に比べ集中砲火を受けた五郎兵衛が何発もの魔力弾の直撃を受けて地面に沈む。
彼にだけ攻撃が集中したのは、一度に全て倒しきれないレベルの相手を複数同時に相手どる時はまずは一部に攻撃を集中して、数を減らすのが常道という戦術を最近少女が学習しており、それを実践したためであった。
 そして自分達の攻撃が防がれたことや、五郎兵衛が倒されたことで、残った二人の達人達の雰囲気が再び変わる。アミバは北斗神拳を使うのを諦め、代わりに南斗水鳥拳を雷十太は飛飯綱をやめ、纏飯綱を使う構えを見せる。水鳥拳は岩やコンクリートを軽々と切り裂き、纏飯綱は大振りで回避しやすいが、真剣を持って使えば、ダイヤモンドさえも切り裂く威力があり飯綱を超える。バリアジャケットだけでは、これらを確実に防ぎきれる保証は無い。
 両者は挟み込むようにして、じりじりと少女に近づき距離を詰めて行く。
 それに対し、少女は浮かび上がり、空に移動した。

「「なっ!?」」

 空に飛ぶことを予想していなかった二人の驚愕の声が重なる。
3人の達人には三つの敗因があった。一つは知識不足、認識不足。彼等が今まで、相手にしてきた魔導師はランクの低いものばかりで、バリアジャケットが常時張れないか、張れても強度の低いものしか不可能な者達ばかりであったこと。空戦魔導師とは戦ったことがなかったこと。

「エクセリオンモード起動」

 二つ目の敗因は単純に彼等の実力不足。確かに3人は常人を遥かに超えた達人と呼べるだけの実力を備えている。しかし、その心も技も体も、達人と呼ばれる者達の中では下位のものでしかなく、真の達人達と比べれば所詮彼等は紛い物なのである。

「ディバイン……」

 そして三つ目。彼等が相手にしていたのが、若干12歳にしてAAA+ランクの魔導師である高町なのはであったこと。その火力、センスは魔導師の中でも抜群で、加えてある理由から対武術家に置いて、最も経験のある魔導師の一人でも彼女はあったのだ。故に油断もすることも、その気迫に飲まれることも彼女はなかった。

「バスター!!!!!!!!」

 そして彼女の放った巨大なピンク色の魔力光が彼等をその意識毎、纏めて飲み込むのだった。











「ふう、あの人達の怪我、酷いことなくてよかった」

 3人の達人を倒し捕獲した後、達人達にやられた管理局員を病院に運んだなのははその診断結果を聞いてほっと一息つく。今回の捜査ではなのはは自らの意志で応援を申し出ていたのだが、情報の行き違いにより3人の魔導師が先行して現場に赴いてしまっていたのだ。そして彼女が辿りついた時には既に彼等がやられた後だった。

「それにしても、魔導師じゃなくても強い人って結構いるんだ。また、お兄ちゃんや叔父さんに相手してもらおうかな」

 そしてなのはは安心した所で今回の戦いを思い出して呟く。一年程前、彼女はそれまで行方不明で死んだと思われていた義理の叔父に初めて出会った。そしてそれ以降、叔父やその叔父に鍛えられて格段に強くなった兄や姉、更には親戚一同としょっちゅう模擬戦を行っていたのである。これこそが、彼女が武術家相手に慣れている理由だった。
 ちなみに模擬戦の内容はと言うと、流石に一対一の制限無しならば、彼女の方が圧倒的に有利なので、多対一、しかも建物の中など、彼女の空戦能力や長距離砲撃が十分に生かせないフィールドで行っている。この条件だと彼女も楽勝とは行かず、何度も敗北しており、非常に緊張感のある実りの多い訓練になっていた。
 また、この模擬戦により、彼女が長年の間、家族との間に感じていた溝は一気に解消されている。今や高町家は表面だけでなく、心の奥底でまで深く繋がった仲の良い家族だ。武闘家は拳と拳で分かりあう者達であると言うが、デバイスと刀でぶつかり合って分かり合うあたり、彼女には武術家の家系の血が色濃く流れているらしかった。

「そう言えばお兄ちゃん、雫ちゃんがもう少し大きくなったら御神流を教えるって言ってたっけ。ちょっと楽しみだな」

 最近生まれた姪。彼女と戦う日を楽しみに思いながら、彼女は家族の待つ家へと帰るのだった。


(後書き)
今回はちょっと実験作です。達人無双ばかりでは一本調子になってしまうと思い、今までと方向性を変えた話を書いて見たのですがどうだったでしょうか?

PS.雷十太については完全版では変な方向に覚醒したそうですが、この話では原作後、獄中で死亡しアニメ版の雷十太のような感じになったという設定です。
PS2.前々から言ってる方の3達人の方はもう少しお待ちください。今、話を考え直している最中です。
PS3.なのはが静馬と再会した時やその前の話もいずれ書くつもりではあります。


(補足)
感想を見るとなのはが御神流を学んでいると勘違いされてしまっている人が多いようなので補足します。
なのははあくまで御神の剣士を相手に模擬戦をして経験を積んでいるだけで彼女自信は御神流を学んでいません。っと、言うか御神流はそう簡単に習得できるものでもないので、砲戦魔導師である彼女が学んでも両方とも中途半端になってしまい、総合的には強さが低下してしまうと考えます。
その代わりと言っては何ですが、御神の剣士と恒常的に試合をすることで、心構えを含め、対武術家のスキルの向上と近接戦闘者に対する対応能力の向上(間合いの取り方等、ボクシングで言う所もアウトボクシングスタイルを極めるようなものと考えてください)などが得られると思います。
それと、ある意味これが一番の収穫なのですが、戦うことによって相手に想いを伝える、相手の想いを知るスキルがレベル3からレベル4位にアップしています。尚、レベル3はフェイトの苦しみにおぼろげながら気づいた無印の時の状態です。
ちなみに原作終盤の東方不敗や無敵超人でレベル7、この話には出てないですが中平ストリートのリュウでレベル8位です。レベル6以上はほとんど超能力の領域と思ってくださいw



[19760] 外伝5:執務官と殺し屋(前編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/12 23:31
 時空管理局執務官クロノ・ハラオウン、管理局のエリートである彼は今、一人の殺し屋を追っていた。その殺し屋は数年前から管理世界にその名が知られるようになり、要人、民間人問わず多くの人間がその男に殺されていた。
 そして驚くべきことに、その被害者の中には元武装局員で現提督のSランクの魔導師だった男すら含まれていたのである。また、暗殺は毒殺や不意打ち、狙撃等の手段ではなく、正面から戦い命を奪ったと見られる形跡が幾つかの現場に残されていることから、その殺し屋は高確率でオーバーSランクの魔導師、最低でもニアSランクの魔導師と推察されていた。
 クロノはもう直ぐ艦長への昇進することがほぼ決まりとなっている。艦長となれば、魔導師として戦場に立つ回数は減る。故に魔導師としての自分の力を最後に役立てたいと自ら志願し、その事件の捜査を担当していた。そして捜査の末、遂に彼と接触をとることに成功する。そこで彼自身が依頼者になりすました囮操作を実施することを計画した彼は、第一世界ミッドチルダのとある街の港の倉庫街で罠を張り、殺し屋を待ち構えていた。

「今日は来てくれてありがとう。頼りにしている」

「気にするな。お前には色々と恩もあるしな」

「うん、そうだよ兄さん」

 倉庫で最後の打ち合わせをしながら、クロノが二人の助っ人、シグナムとフェイトに礼を述べる。件の殺し屋は現場を退いてブランクがあったとは言え、元武装局員でSランクの魔導師であった管理局の提督を殺した男である。AAA+ランクのクロノ一人で立ち向かえば返り討ちにあう恐れがあった。そのため、助っ人として彼と同じAAA+ランクであり、気の知れた二人が呼ばれていたのである。加えてAランクの魔導師を隊長とした二部隊、計20名が殺し屋の逃亡を防ぐための結界を張る支援役として控えている。相手がオーバーSランクの戦闘魔導師であっても十分に対抗できる戦力がこの場には揃っていた。

「わかった、それじゃあ存分に頼らせてもらう。事前にも説明したように二人は倉庫の外で待機していてくれ。相手に警戒されないようまずは僕1人で犯人と接触する。合図をしたら突入をしてくれ。そしたら三人で犯人を捕縛する」

「承知した」

「兄さんこそ気をつけて」

 最終確認を終え、二人が倉庫から出ていく。打ち合わせ通りクロノが倉庫の中に一人残り、殺し屋を待つ。
 そして殺し屋との待ち合わせの5分前になった時、倉庫の扉が開く音が響き渡った。クロノがそちらを見ると、第97管理世界の中国の民族衣装に似た感じの服装をした男が扉を開けて中に入ってくる。そして、男はクロノに近づいて来て言った。

「お前が依頼人か?」

「ええ、あの、あなたが本当にタオパイパイ氏で?」

 その男を見て、思わず疑念を浮かべた表情で尋ねてしまうクロノ。その理由は相手から魔力がまるで感じられなかったからだった。基本的に魔力は隠したりできるものでは無い。リミッターで抑えることはできても完全に消すことはできない。つまり魔力を全く感じない目の前の男は非魔導師と言うことになる。
 高ランクの魔導師と予測した捜査線上のイメージとかけ離れた相手にクロノは相手が偽物であることを疑い、罠が見破られてしまったのではないかと警戒する。するとそれに対し、男は無言でクロノから離れて倉庫に積まれたコンテナの方へと近づいて行った。
 そして男は自分の人差し指をコンテナに突きつける。

「?」

 男の突然の行動に、何をするのかと考えるクロノの前で彼はそのまま厚く硬い筈の金属製のコンテナに指を突き刺して見せた。

「!?」

 その異様な光景に目を見開くクロノ。
 それに対し男はさらに動きを見せる。コンテナに突きさした指をそのまま動かして、直径1メートル程の金属の円盤をくりぬいて見せたのだ。そしてその巨大な金属盤を軽々と放り投げてみせる。フリスピーのように飛ぶ円盤は高速で回転し、柱の一本である鉄柱の根元のあたりを切り裂いてみせた。
 そして最後にブーメランのように戻ってきた円盤を男はキャッチして見せる。

「これで、信用していただけたかな?」

「は、はい、疑って申し訳ありませんでした」

 目の前で展開された信じられない光景に対し、魔導師でも無い男がこのような真似をできるのを驚きながら、クロノは目の前の男が高ランク魔導師さえも殺した凄腕の殺し屋、タオパイパイであることを認めた。そして認めたその次の瞬間、シグナムとフェイト、そして他の部下達に合図を送り、自らもデバイスを抜いて、タオパイパイに突きつけ宣告した。

「次元犯罪者タオパイパイ!! 連続殺人の容疑でお前を拘束する!!」

 その宣告と同時に、倉庫の周りが結界で覆われ、シグナムとフェイトが壁を突き破って中に飛び込んでくる。そして彼等は三方向からタオパイパイに向けてデバイスを向けた。作戦は見事に成功。しかし罠にまんまと嵌められたにも関わらずタオパイパイは冷静な様子をして見せた。

「管理局の人間か。やれやれ、交通費が無駄になったな」

 軽くそう言って動く。そして気がついた瞬間には彼はクロノの直ぐ目の前に迫っていた。

「!?」

 そのあまりに速い動きに驚き、しかしそれと同時に彼の身体が反応をする。眼前に迫ったタオパイパイの拳に対し、シールドを展開し拳の進行を阻むと飛び引いて距離をとる。
 そしてシールドを解除すると同時に反撃の魔法を撃ちこんだ。

「スティンガ・レイ!!」

 だがその魔力弾は何とタオパイパイに素手で弾かれてしまう。驚愕しながら、2撃、3撃と連射し、接近を阻もうとするクロノ。
 しかし、タオパイパイはそれを意に解することなく、攻撃を弾きながら接近し、再びその腕がクロノに届く程にまで近付いて来てしまう。

「兄さん!!」

 そこでソニックムーブを使ったフェイトがタイパイパイに対し、後ろから追いついて見せた。そしてサイズフォームにしたバルディッシュをタオパイパイに向けて振り下ろす。フェイトのそのスピードに初めて驚いた表情を浮かべるタオパイパイ。クロノへの攻撃を中断すると、方向展開するとフェイトの攻撃を飛び引いて回避する。だが、そこに更に飛び込み追撃をしかける者が居た。

「紫電一閃!!」

 シグナムの必殺の一撃が炸裂する。タオパイパイはそれを腕を交差して防御する。生身の肉体に対し叩きつけられた剣の一撃。だが、普通なら圧勝の筈のその結果はタオパイパイの服の袖部分を切り裂き僅かな痣を残しただけだった。

「くっ」

 それを見て歯噛みすると一旦引いて間合い取り直すシグナム。そしてクロノ達3人は近づくと並び立ってタオパイパイに向き立つ。そこでシグナムがクロノに語りかける。

「クロノ」

「ああ、想像以上の相手だ。僕達一人ずつでは勝てない」

 シグナムが口に出す前にクロノが答える。先程の攻防から、タオパイパイの強さが自分達を大きく上回ることを三人は悟っていた。だが、自分達の力がまったく通じないと言う程では無い。一人一人では勝てなくとも、三人で力を合わせて挑めば勝機はあると判断する。彼等は僅かにあった慢心を捨て去り、全力の構えをみせた。
 しかし、ここで彼等は一つ思い違いをしていた。その思い違いにより、彼等の考え半分は正しかったが、半分は間違ったものになってしまっていた。そして、その間違いを犯した原因、それはタオパイパイが先程までのクロノ達と近い状態だったことにある。

「ふむ、それでは……・」

 クロノ達の油断は自分達の力に自身を持つが故のもの。今まで多くの強敵に勝ってきた経験による自信。
 そしてそれに対し、タオパイパイは、この世界で何人もの高ランク魔導師を殺してきている。
 すなわち自分の力に自信を持つが故に、手を抜いているとは言わないまでも、余力を残して戦っていたのは両者とも同じだったと言うことである。そして実際に交戦し、相手を強敵と判断し油断を捨てたのも同じ。すなわち、それに意味する所は一つ。

「久しぶりに本気で戦うとするか」

「「「!!」」」

 タオパイパイの動き、それは先程までを上回るものだった。その予想を超えた動きに真っ先に反応して見せたのは実戦経験の最も豊富なシグナム。シールドを展開しタオパイパイの拳を防ぐ。だが、その拳の威力はシールドの防御力を上回り、貫通しシグナムに迫る。

「!!」

 障壁により多少減速し、しかしまだ十分な威力を保っていた拳を受け、シグナムは吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられる。それを見てフェイトはバリアジャケットを高速機動形態のソニックフォームへと変化させてタオパイパイに挑む。

「やあ!!」

 更にソニックムーブを発動させ、超高速の一撃を放つ。しかしタイパイパイはそれに反応させてみせた。フェイトは連続して何度も切りつけるが、タオパイパイはそれを全て交わしてみせる。そしてソニックムーブを持続し続けられる限界時間が訪れる。

「くっ」
 
 ソニックムーブが解除され、通常速度に戻ったフェイトにタオパイパイの突きが迫る。それを何とか回避するが、体勢を崩した彼女に更に追撃の蹴りが迫る。

「ちょいやー!!!」

 シールドを張る余裕すらなく、辛うじてデバイスであるバルディッシュを盾にするフェイトだったが、その蹴りによってバルディッシュは砕かれ、彼女は高速で壁に叩きつけられてしまう。先程のシグナムと同じ状況だが、一つ違うことがある。ソニックフォームのバリアジャケットを変化させた彼女は速度を生かすために、防御力を捨ててしまっている。そのためシグナムよりも遥かに大きなダメージを受けてしまい、口から血を吐き、ぐったりとした状態で意識を失ってしまう。そしてそんな彼女にタオパイパイは追撃を仕掛けようとした。

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

 だがそこでクロノが自身の最強魔法を放ちそれを妨害した。クロノではフェイトとタオパイパイの高速戦闘についていくことのできず下手に割り込めば、フェイトを巻き込んでしまう恐れがあった。そのため援護をすることができずに居たのだが、何もその間、彼は呆然と観戦し時間を無駄してしまっていた訳ではない。その時間を活用し、詠唱を行い大魔法を発動できる態勢を整えていたのだ。詠唱時間が僅かに足りず、全開の場合に比べれば多少本数が減っているが、それでも100に近い魔法の刃がタオパイパイ目がけて放たれる。

「はあ!!」

 だが次の瞬間、クロノは目を疑った。タオパイパイは何とその100近い刃に対し、手を高速で動かし、全て明後日の方向へと弾き飛ばしてしまったのだ。あまりに驚愕的な光景にクロノは呆然としそうになる自分を何とかふるいたたせ構え直す。そんな彼を前にしてタオパイパイは袖口に目をやって呟いた。

「お気に入りの服が台無しになってしまったな」

 見るとタオパイパイの服には先程シグナムに切られたのと反対方向の袖口や他に2、3ヶ所、切れている箇所がある。普通ならタオパイパイの言動に切れそうになる所だが、寧ろそれは彼の折れそうな心を支えた。少なくともそれはこちらの攻撃を余裕で防いだという訳では無いと言う証拠だからだ。

「さて、これ以上の赤字はごめんだ。そろそろ終わらせていただこう」

 とは言え、現状はクロノにとって圧倒的不利なことは変わらない。クロノ一人ではタオパイパイの動きについて行くことはできない。
 そしてタオパイパイが三度クロノに接近をしかける。指を一本立て、クロノに額に向かって真っ直ぐに腕を伸ばすタオパイパイ。早過ぎるその動きにクロノは反応できない。その一撃に込められた力はバリアジャケットも頭蓋骨も貫通し、クロノの脳を貫く威力。クロノに絶対絶命の危機が迫る。
 
「!!」

 だが、タオパイパイの指がクロノを貫くことはなかった。二度目の接近の際、フェイトが彼を救ったように、今度もまた、彼を救うものが現れたからである。

「ザフィーラ!!」

「危機一髪だったようだな」

 それはこの場に居ない筈のヴォルケンリッターの一人、盾の守護獣ザフィーラだった。



(後書き)
今回もちょっと実験作、書き方の方とかも少し変えてみたのですがどうだったでしょうか?



[19760] 外伝5:執務官と殺し屋(後編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/16 23:08
「飛竜一閃!!!」

 突然のザフィーラの乱入に驚きを表情に出すタオパイパイ。そこにシュランゲフォーム、連結刃に変化させられたシグナムのレヴァンティンが炸裂する。

「くっ」

 不意打ちに対応しきれず、頬を切り裂かれるタオパイパイ。更に、シグナムはレヴァンティンをシュベルトフォーム、剣の形に戻し突撃を仕掛ける。

「紫電一閃」
「スティンガーレイ!!」
「たあ!!」

 それに合わせて、攻撃を仕掛けるクロノとザフィーラ。3人の攻撃を同時に受け、流石に防ぎきれず、吹っ飛びコンテナに叩きつけられるタオパイパイ。激突の衝撃でコンテナが破壊され、中の荷物が崩れてその中に生き埋めになる。

「はあ、はあ……」

 死の緊張感から解放され息をつくクロノ。そして息を整えると突然現れたザフィーラに対し、疑問を問いかけた。

「ザフィーラ、何故ここに?」

「私がここに呼んだのだ」

 そしてその疑問に答えたのは問われたザフィーラでは無くシグナムだった。彼女の身体には先程タオパイパイの攻撃によって受けた傷がいくつかあるが、戦えない程酷いものではなさそうである。予想外な答えに今度は彼女に問いかけるクロノ。

「シグナムが?」

「ああ、奴が予想以上に手強いと分かった時点で念のため主に連絡を入れておいたのだが……」

「主はやては、その報告を受けた時点でいざと言う時のために転送魔法の準備をして、我をいつでも送れるようにされたのだ。ヴィータも居ればよかったのだが、今は高町なのはと共に任務でマルドゥークに行っているからな」

「そう言うことだ。そして奴の攻撃を喰らって直ぐに動けなくなってしまった時に転送をお願いした。この場の責任者のお前の意見も聞かずに悪かったな」

 互いに補足しあって説明するシグナムとザフィーラ。事情を知り納得するクロノ。シグナムの行動は越権行為とも言えるが、無論彼にそれを攻めるつもりなど無い。

「いや、ナイス判断だった。おかげで助かったよ」

 その判断で命を救われたのだから文句等言うつもりは無い。叱責の代わりに感謝の言葉を述べる。
だがそこで、生き埋めになったタオパイパイが自らの力で抜け出し、その姿を再び現した。それに対し、3人は即座に警戒を示す。
 しかし、先程ザフィーラが突然現れ、手痛い反撃を受けたためか、直ぐに戦いを再開せず、こちらの様子を伺うような仕草を見せてくる。それに対しクロノは構えながら部下と二人に念話で指示を送った。

『結界を一旦解除してくれ。第一部隊全員と第二部隊8名は結界の範囲を広域に変更して再度結界を展開。残り2名はフェイトの保護を。人選はそちらに任せる』

『えっ、そんなことをしたら、逃げられてしまうのでは』

『構わない。責任は僕が取る』

 この作戦に置いて結界は当初この倉庫一棟だけを範囲に張られていた。これは絶対に犯人を逃がさないための工夫である。
 Aランクの魔導師2人とBランク魔導師18人が狭い範囲に絞って張った結界となればSランクの魔導師でも力押しで破るのは困難である。加えて、味方にはフェイトとシグナム接近主体でトップクラスの魔導師が二名もおり、クロノも遠距離型ではあるが接近戦をある程度こなせるタイプ、戦闘の面でも戦う範囲を狭くするのは不利にはならない。そう、それが普通の相手ならば。
 だが、今回は数少ない例外のケースだった。彼等が敵対したタオパイパイは接近戦において、シグナムやフェイトを上回る戦闘力を持っており、有利な筈の条件が不利なものになってしまっていたのである。

『奴は強い。だが、魔導師で無いのならば砲撃や飛行は出来ないかもしれない』

 クロノは自らの推測を述べる。事実、今までの戦いでタオパイパイは必ず接近戦を仕掛けて来ていた。使う必要が無かっただけとも考えられ、希望的な観測が混じっているのはクロノ自身自覚しているが、例え予測が間違っていても空は空戦魔導師である彼等の領域である。戦場を移すことが不利にはなる可能性は低い。部下が言ったようにタオパイパイに逃げられる危険性はあるが、それはこの際、優先度としては下位である。この場の最優先はまず、自分と味方を生き残らせること。クロノはそう考え、決断する。

『10秒後に結界を解除。それと同時に屋根を突き破って空に飛び出す。ザフィーラ、しんがりは任せてもいいか?』

『了解した』

 この場で最も防御力の高いザフィーラに移動時に敵の攻撃を防ぐ役割を与える。そしてタオパイパイが様子見をやめ、再び攻撃を仕掛けようとしたその一瞬前、結界が解除される。

「行くぞ!!」

「!!」

 同時に高速で空に向かう3人。それを見てタオパイパイが妨害しようと、跳び上がり3人目がけて蹴りを放つ。

「させん!!」

 それを防御するザフィーラ。彼の張ったシールドからタオパイパイの蹴りの圧力によって軋む音がする。しかし張られたシールドは辛うじて蹴りの威力を上回り、勢いを失って地面に着地するタオパイパイ。そして空に飛び出したクロノ達はタオパイパイの跳躍力を持っても簡単には跳びあがれない高さまで上がると、そこから攻撃を開始した。

「くっ!!」

 歯噛みするタオパイパイに空から次々と降り注ぐ砲撃魔法の嵐。クロノの狙いは見事に当たり、タオパイパイを避ける一方とすることに成功する。
しかし防戦一方になりながらも、タオパイパイは一度も攻撃を受けず攻撃を全て回避してみせた。その状態に、このままでは拉致が明かないとクロノは再び指示を出す。

「シグナム、ザフィーラ、少し時間を稼いでくれ。エターナルコフィンを使う」

 エターナルコフィン、それはデュランダルを用いた場合のみ使える魔法で、通常のデバイスで扱える最強魔法であるスティンガー・エクスキューションシフトを遥かに超えたクロノが使える中での究極魔法である。その効果は広域に展開し、威力も絶大。一度、凍りついてしまえば余程特殊、または人を遥かに超えた絶大な能力の持ち主で無い限り、永久に凍りついたままにしてしまう必殺の魔法である。如何にタオパイパイとて、これを使われれば避けることも防ぐことも不可能であろう手段だった。

「わかった」

「任せろ」

 クロノの指示に頼もしく答え、二人は攻撃を続ける。砲撃、バインド、連結刃、地面に向かって次々と攻撃が振り注ぐ。そしてシグナムはそこでレヴァンティンをボーケンフォーム、弓の形へと変化させた。

「これで行く」

シグナムが選んだのは彼女の最速にして最強の魔法、シュツルムファルケン。音速を遥かに超える速度で矢を放ち、例え回避されたとしても巻き起こる衝撃波と爆発で足止めをするには十分な役割を果たすことができる。

「翔けよ……」

 そして彼女は弓を構える。しかし、そこで今まで回避してばかりだったタオパイパイが突然急停止し、空のシグナムを見上げ、彼女に対し指を向けた。

「どどん……」

 タオパイパイの指先に気が集中し、力が高められていく。

「隼!!」
「波!!」

 そしてシグナムが矢を放つと同時にタオパイパイの指から気の塊が、彼の必殺技、どどん波が発せられる。両者が放った弾丸はそのほぼ中間で正面から激突しあった。

「何!?」

 シグナムがあげた驚愕の声。打ち勝ったのはどどん波だった。矢を貫き、気の塊がシグナムに直撃する。

「ぐっ」

 打ち勝ったと言ってもほとんど威力は殺がれていたのか、軽い衝撃を受け、一瞬ふらつく程度のダメージで済む。しかし、そこで彼女が回復するよりも早くタオパイパイがクロノ達の攻撃によって折れた鉄骨を一本掴み、そしてクロノに向けてそれを力一杯に投げつけた。

「なっ!?」

 あまりに非常識な攻撃。だが、高速で飛ぶ巨大な鉄骨の威力は生半可なものではない。詠唱中で動けないクロノに代わってザフィーラがフォローに入る。

「ぐっ」
 
 シールドを張り、鉄骨の重さに押されながら何とかそれを受け止めようとするザフィーラ。しかし彼とクロノの目にもう一本、鉄骨を掴むタオパイパイの姿が見えた。盾の守護獣と言われる彼と言え、流石にこの状況でもう一本は受け止めきれるかどうかわからない。仕方なく、クロノは詠唱を中断し、防御に回ろうとする。
 だが、そこでタオパイパイはクロノ達に向かってではなく、明後日の方向に向けて鉄骨を投げ飛ばした。そしてその後で自らも跳躍し、その鉄骨に飛び乗るとそのまま高速で飛び去っていく。

「!?……しまった!!」

 予想外な行動に一瞬呆けてしまった彼だったが直ぐにその意図を理解し、部隊の人間に念話を送る。

『結界は!?』

『すいません、まだ時間がかかります』

 返ってきた問いにクロノは歯噛みをする。つまり、彼は逃げられたのだ。タイパイパイに。

「まさか、あんな手を使って逃亡するとはな」

「ああ、だけど覚悟していたことだ」

 結界を解除した時に逃げられる可能性も考えていたのだから、これは仕方の無い結末とも言えた。とは言え、一度は有利な状況に持って行けただけにやはり悔しさが募る。その悔しさを押し殺し、代わりにもう一つの懸念点について彼は尋ねた。

『それで、フェイトの方は?』

『そちらは大丈夫です。今、治癒魔法をかけていますが、命に別条はありません。数日は入院が必要でしょうが、怪我や後遺症が残ることも無いと思います』

『そうか』

 返ってきた答えにクロノはほっと息をつく。そして安心した彼はある決意を固め、それを言葉に出した。

「タオパイパイ、この借りは必ず返す。今度こそお前を捕まえてみせる」

 その後、高ランク魔導師4名と他に20名の魔導師を投入して置きながら、犯人に逃走され、更に高ランク魔導師の1人に重傷を負わせてしまったクロノはその責任を取らされ、予定されていた昇進を取り消しとされた。
 しかし彼はそれを寧ろ望む所とし、その2年後、再度の艦長昇進の話が持ち上がるまでに、今まで以上の訓練と経験を積んだ彼はSランク昇格試験に合格するのである。


(後書き)
後編です。前編で批判もいただきましたが、結末はこのような形になりました。少し不完全燃焼な形になりましたが、今回は痛み分け決着は次回に持ち越しと言うことで。一応、今回、書きたかったこととしましては魔導師の方が優れているところもあれば、武術家の方が優れている所もあると言う事で前半の陸戦ではタオパイパイ有利、後半の空戦では魔導師有利と言った感じで書いたつもりだったのですが、上手く書けているといいのですが。(若干魔導師側が負け描写が多いのは主役側は初戦負けるって言うお約束のつもりです)次回は、この話と同じ時間軸で起こったなのはとヴィータの話か、達人が地上本部に乗り込んでレジアス達が戦う話を書こうかと思っています。そしてその次は今度こそ3達人の話を書きます。
 それでは皆様、失礼いたします。



[19760] 外伝6:思わぬ出会い
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/19 20:44
「おい、なのは、しっかりしろ!!」

「ヴィータちゃん、ごめんね……」

第9管理世界マルドゥーク、その地を任務で訪れた二人、高町なのはとヴィータ。普段ならば、特に問題の無い任務の筈だった。しかし、二つの悪い要素が重なってしまった。一つはなのはが無茶を重ね、彼女自身がそれを表に出さない性格であったため、周囲の誰も気づかぬ間に疲労が溜まってしまっていたこと。そしてもう一つは未知の敵の襲撃を受けたことである。二つの悪条件が重なり、結果なのはは撃墜され重傷を負うこととなった。
今、彼女はその血によって白い雪に覆われたマルドゥークの大地を染めている。

「救護班、早く来てくれよ!! こいつ死んじまうよ!!」

 大量の出血、低い気温、バリアジャケットの維持はインテリジェンスデバイスであるレイジングハートによって行われていたが、それも何時までもつか分からない。直ぐに適切な治療が必要だった。けれども救護班はなかなか現れず、下手に動かせば、かえって状態を悪化させてしまう可能性があるためヴィータの方から動くこともできない。己の無力感をかみしめながら、彼女はただ助けを待つしかなかった。
 しかし、そんな彼女に対し、更なる絶望が訪れることとなる。

「こいつら、まだいやがったのか!?」

 なのはを襲撃した相手、自律行動が可能な自動機械、後にガジェットドローンⅣ型と呼ばれるその機体、ヴィータが破壊した筈だったが、それと同型機が大量にその場に出現したのである。それだけではない、別タイプの、後にガジェットドローンⅠ型と呼ばれる機体も大量に現れ、その総数はざっとみただけでも100体近くに及んでいた。

「こいつらあたしとなのはを狙っているのか!?」

 そしてその100体の機体は二人に向けて近づいてくる。ヴィータ一人であれば、この危機を乗り越えることも可能かもしれないが、ここには傷ついたなのはが居る。彼女を庇いながらその全てを撃墜すると言うのは如何に彼女と言えどあまりに絶望的な課題であった。

「おまえら、こっから先は一歩も通さねえぞ!!」

 その危機を理解できない訳ではない。しかし、彼女はそんな弱音を一切見せずに吠えて見せた。そして己の命に代えてもなのはを守り抜くことを決意し、なのはを雪の上に寝かせると、一人でガジェット達に向けて突撃をしかけようとする。

「いい叫びだ。こんなところで死なせるのには惜しいな」

 だが、そこで彼女に対し声をかける者が居た。あまりに予想外なその声にヴィータは足を止めそちらを見る。するとそこには三人の男の姿があった。
 一人は長身でがっしりとした体格をした長髪の男。白と赤の混じった外套のようなものを来ていて、腰には一本の日本刀が指されている。
 一人はやはり長身で一見ほっそりとした、しかし良く見ると引き締まった体格をした短髪の優男。短めの刀を複数所持しているのが見える。
 一人はシルクハットをかぶり、クラシックなスーツを着て髭を生やした古典的なイメージの英国紳士と言った格好をし、ぱっと見、胡散臭く、しかし見る者が見ればそれだけでは無い何かを感じさせる男。
 三人に共通するのはいずれも魔力を感じないことだった。

「何もんだてめえら」

 もし援軍なら、この状況では喉から手が出る程欲しいものであったが、だからと言って、突然現れた得体の知れない連中に背中を預ける気にはなれない。また、仮に信用できるとしても魔導師でも無い者達が戦力になるかどうかも分からないと、ヴィータはガジェットと男達の両方に警戒の態度を示す。一方ガジェット達の方も男達の出現は予測外だったのか、一時、動きを停止している。

「そうだな。名前位は名乗って置くか。比古清十郎、ただの通りすがりだ。手を貸してやろう」

「御神静馬、同じくただの通りすがりだよ」

「ウィル・A・ツェペリ。わし等はこの近くにある医者の居ない村に行く所でな。道中の護衛に知り合いの二人に付き添ってもらっているところじゃよ」

 自己紹介をする三人。その中に混じっていた“医者”と言う言葉にヴィータは反応を示した。

「医者の居ない村に行くって、もしかしてあんた医者か!?」

「まっ、そんなようなもんだな」

 男の答えにヴィータは希望の光を抱く。
 なのはの命は幾許の余裕も無く、救護班はまだ現れない。このまま戦闘を行えば、その余波だけで更に怪我を悪化させてしまう恐れもある。この絶望的な状況で男が医者であると言うのならば、それは援軍以上にありがたい。
 後、問題となるは男が信用できるかどうかだったが、事前の調査でこの近くに小さな集落があることをヴィータは覚えていた。それは男の説明と矛盾しておらず、嘘をついていないのではないかと考える要素になっている。
 総合的に判断し、一か八かヴィータは男達を信用する道を選んだ。

「だったら頼む。怪我人が居るんだ!!」

「うむ、分かっておる。清十郎、静馬」

「ああ」

「こっちは、俺達に任せておけ」

 短く言葉をかわし、三人は同時に飛び出した。ツェペリはなのはのもとへ、比古と静馬はガジェット達のもとへ。そしてその場に展開された光景にヴィータは目を見張る。

―――御神流奥義之歩法・神速―――

静馬の姿がヴィータの目の前で書き消えたのである。いや、それは正しく無い。正確には書き消える程の速度で動いた、いや、それも完全には正しい回答ではなかった。確かに静馬の動きは瞬間的に消えて見える程速く、生身でそれだけの速さを出すのは驚異的だったが、ずっと見失い続ける程の速さがある訳ではない。高ランク魔導師のトップスピードに比べれば遅い速度である。彼が真に凄いのはその身のこなし、反転速度、高速のまま次々と移動方向を変えて見せるその機動、その動き故に先読みが追いつかず、動きが捕らえきれないのだ。
そして静馬はその機動のまま次々にガジェットを切り裂いていく。

―――飛天御剣流・土龍閃―――

 一方比古は刀を地面でえぐり雪と土とを巻き上げてあびせかせる。それによりガジェット達の温度センサーや視界センサーを一時的に妨害し、その間に一気に接近する。

―――飛天御剣流・龍翔閃―――

 刀の届く距離にまで近付くと空に跳び上がる。そして跳び上がり様に一体のガジェットを切り裂いて行く。そして上空に移動した比古を狙って一体のガジェットが熱線を放つが、いまだ雪と土の妨害壁は生きており、その攻撃は狙いを外れる。そして通り過ぎる攻撃を無視し、地面に落下する勢いを利用しながら、剣を振り下ろした。

―――飛天御剣流・龍鎚閃―――

 その一撃は熱線を放ったガジェットを真っ二つに切り裂く。そこで更に別のガジェットが彼を狙う。だが、その一撃を回転するかのような動きとかわすと、そのまま流れるようにガジェットの背後に周りこんで切り裂いて見せた。

「ほんとに何者なんだ、こいつら……」

 呆然とした声を漏らすヴィータ。魔力も使わない人間が刀で金属の塊であるガジェットを切り裂いてみせたことや、その超人的な身体能力にも驚かされたが、何よりもヴィータが驚愕したのは二人の技量だった。
 彼女自身ベルカの騎士として並の魔導師とは比べ物にならならい近接戦闘の技量をもっているからこそわかる。二人の剣技、そして身のこなしは既に神業の領域に達していることを。
 見惚れる程の動き、しかし、いつまでもそうして居られるだけの余裕はなかった。比古と静馬が戦闘を開始したことで動きを再開したガジェットがなのはやヴィータ達に対しても再び接近を始めたのである。

「てめえら!!」

 グラーフアイゼンで近付いてきたガジェットの一体を叩き飛ばす。そして高速で飛ばされたガジェットはその方向に居た二体のガジェットを押しつぶし、一度に三体を破壊する。それは偶然ではなく、狙い通りである。

「さっき言った通り、こっから先は一歩も通さねえぞ!!」

「ほう、なかなかのものだな」

 叫び、グラーフアイゼンを構え直すとガジェット達の前に立ちふさがるヴィータ。
 そしてその一連の動きを横目で見ていた比古はその手際と発せられる闘気に感心した声を漏らした。
 一方、ツェペリはなのはの治療を開始していた。なのはの傷に彼が手を当てると、そこから光が発せられ、回復魔法に比べればゆっくりとした速度ではあるが、彼女の傷が塞がり始め、出血が治まっていく。これは彼が修行によって会得した能力“波紋”。特殊な呼吸方法によって生み出す生命のエネルギーで“気”を変化させた力である。数分をかけた治療の結果なのはの傷は完全に塞がった。

「ふう、これで大丈夫だな。しかしこの子身体のあちこちに負担が来ておるな。こっちの方も何とかして置くか」

 傷が塞がったのを見てツェペリは一息つく。しかし治療の最中、ツェペリはなのはの身体の状態に気付いていた。全身に溜まった疲労、そしてその状態で重傷を負ったことで身体中のバランスが崩れてしまっていたのである。それを解消するためにツェペリは彼女の身体全身に波紋を流し始めた。回復速度と言った点では魔法に劣る“波紋法”ではあるが、生命のエネルギーを操るそれは、身体のバランスを整え、正常な状態に戻すと言ったことでは魔法や近代医学をも上回る。彼が初めて波紋の使い手に出会った時、その使い手は西洋医学の常識では切断するしかない壊死しかけた足を僅かな時間で正常な状態に戻してして見せた。それと同じツェペリの波紋によってなのはの身体は少しずつ整えられていくのであった。
 そして、そうしている内に戦いは決着を迎えようとしていた。

―――御神流奥義之肆・雷徹―――

 金属製の糸、鋼糸によって束縛されたガジェットに静馬が連続して小太刀を撃ちこみ、破壊する。そして機体が停止するのを確認し呟いた。

「片付いたな」

 三人の周りには破壊されたガジェットの残骸が大量に転がり稼働しているものはいなかった。流石にこれだけの数を倒すのは楽ではなかったらしく、三人共、息をついている。特に、肉体のリミッターを解放し、それ故に肉体への負担の大きい神速を連発した静馬は消耗が激しいようであった。

「あ、あんがとよ。お前等のおかげで助かった」

 息を整え治すとヴィータが二人に向けて礼を言う。言い方はぶっきらぼうなものであったが、その表情は顔が赤く、それが何よりも彼女の内心を物語っている。それを見て比古はニヤリとした笑みをうかべてみせた。

「な、なんだ、てめえ!!」

 それを見てヴィータが怒ろうする。だが、その時、突然その場に転送魔法が発動した。一瞬、救護班が来てくれたのかと思うが、直ぐにそれが間違いであることがわかる。その場に現れたのは先程までヴィータ達が相手にしていたガジェットを巨大化させたような存在が2体送られて来たのである。それは後にガジェットドローンⅢ型と呼ばれる存在の試作型だった。

「静馬、お前は下がっていろ。お嬢ちゃん、一体いけるかい?」

「お嬢ちゃんじゃねえ!! ヴィータだ!!」

「なら、ヴィータ、任せたぞ」

「おう!!」

 疲労の激しい静馬を下がらせ、言葉と目を交わすと比古とヴィータはガジェットⅢ型に向き合う。そして二人は互いに己の得意技を繰り出した。

―――飛天御剣流・九頭龍閃―――
[ラケーテンハンマー(Raketenhammer)]

 飛古がその全てを同時に放ったと見違いかねない程の速度で9連撃を放ち、ヴィータがカートリッジの魔力を推進剤として回転しながらの一撃を叩きこむ。
 それらの攻撃は2体のガジェットドローンⅢ型に対し、片方に9つの深い傷跡を、もう片方に深い陥没を残した。
そのダメージにより機体がショートし火花を散らす巨大な機体。そして程無くし、2体は完全に停止するのだった。

 







「そっか、こいつ助かったんだな!! おっさん、ありがとな!!」

 戦いの後、ツェペリからなのはの容態を聞いてヴィータは喜びを露わにした。そして今度は照れる事さえもなく、ツェペリに礼を言う。それに対し、ツェペリは髭をいじりながら答えた。

「いやいや、困った時はお互い様じゃよ。気にする事は無い。とはいえ、わしがしたのはあくまで応急処置。後で、ちゃんとした病院で見せた方がいいだろう」

「よかったな。この子……そう言えば君の名前は聞いたが、この子の名前は聞いていなかったな。なんて言うんだい?」

「ああ、こいつは高町なのはって……」

 そこでふと、なのはの名前を自分達が知らないことに気付いた静馬が尋ねる。ヴィータはそれに答えるために彼の方を向き、そして名前を教えたところで、彼の顔を見たまま押し黙った。

「どうしたんだ? 俺の顔になにかついてるか?」

 自分の顔をじっと見たまま押し黙るヴィータに静馬が訝しげな顔をする。それに対し、ヴィータが謝り答えた。

「あっ、わりい。いや、なんかあんたの顔、こいつの兄貴によく似てるなって思って」

「へえ、そいつは奇遇だな。彼のお兄さんは何て名前なんだい?」

「ああ、確か、恭也だっけかな」

 軽い気持ちで尋ねた静馬は返ってきたその名前に固まった。そしてまさかとは思いながらも、動揺した口調で更に問いかけをする。

「この子のお父さんの名前知ってたら教えてくれないか?」
 
「えっと、確か……士郎だったかな?」

「……さっきこの子の名字、高町って言ったけど、もしかして、この子のお父さん婿養子だったりしないかな?」

「あー、そう言えばそんな話聞いたことがあるような気がするな。って、あんた、何で、そんなこと知ってんだよ?」

 疑問の表情を浮かべるヴィータ。だが、それに対し、静馬は身を乗り出すように彼女に近づき、問い詰めた。

「な、なあ、美由希って名前に聞き覚えはあったりしないか!?」

「あ、ああ、確かこいつの姉貴がそんな名前だったと……」

 勢いに押され、答えたヴィータに対し、呆然とした表情になる静馬。それなりの付き合いになる比古やツェペリにも彼の態度の意味が分からず、尋ねた。

「一体どうしたんだ?」

 そして、静馬は呆然とした表情でなのはを指差して答えた

「この子、多分俺の姪っ子だ……」

「へっ?」

 これが、高町なのはとその義理の叔父、御神静馬との出会いの話である。



(後書き)
今まで、対戦ばかりでしたが、今回のテーマは武術家と魔導師の共闘です。今後は両者の長所を生かした共闘も書けていけたらと思います。

PS1.比古とツェペリの口調とかっておかしくないでしょうか?違和感あるところがあれば指摘いただけるとありがたいです。

PS2.ガジェットⅢがこの時期にあるのはおかしいかもしれませんが、最後の比古とヴィータの場面がどうしても書きたくて出してしまいました。個人的に比古とヴィータって結構にいいコンビだと思うんですよね。今後のこの二人は絡むかもしれません。

PS3.比古と静馬とツェペリが出会った時の話はいずれまた別の話で。

PS4.今回の話、一回全部書きあげた所でパソコンがエラーになり、書きあげた分のデータが消えて全部書き直しになりました……。書きなおし前は、もっと比古とヴィータの絡みが多かったりしました。

PS5.ちょいアンケートをば
カップリングについて皆様の意見を聞かせてください。ちなみに原作で既にきっちり相手が居る人(クロノやエイミィ等)をいじることはしません

①原作にないカップリングはちょっと……
②クロスカップルじゃなきゃOKだよ
③クロスカップルだって平気だよ。でも、クロスハーレムはごめんだよ
④その他



[19760] 外伝7:三達人大暴れ 管理局○○支部最後の日?
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/07/23 19:28
 とある世界にある管理局の研究所、重要な研究もされている施設であることから、多くの魔導師が駐在する堅牢な守りを持つ施設であった。しかし、今、この施設は壊滅しようとしていた。たった三人の襲撃者によって。

「梁~」

 襲撃者の中で特に印象的な容貌をした男。その男の身長2メートルを超え、その長身に負けない程の分厚い胸板と広い肩幅を持っている。そしてその顔には97管理外世界のヒーロー物ぽい感じの絵が書かれた安っぽいお面をつけられており、そこから金髪の髪が漏れている。

「山~」

 残り二人は真ん中の男に比べれば劣るががっしりとした体格をして、一人は黒髪に天狗のお面を空手の胴着を来ている。もう一人は西洋の甲冑を仮面のみかぶっている。そして、その三人に対し、多数の魔導師がデバイスを向けて居た。

「波!!!!!!」

 しかし、その次の瞬間、その大半が意識を失う。一番体躯の大きな男の放った必殺技ならぬ否殺技梁山波によって。ちょうど亀仙人のかめはめ波と同じような構えで放たれるその技は拳圧によって生じた突風と気当たりをぶつける技である。突風の方もかなりの威力があるが、問題なのは気あたりの方。殺気や闘気とも言いかえることのできるそれは、当然のことながらバリアジャケットや魔力のシールドで干渉できるような代物ではない。それを受け流す術を会得したものか、余程の気概を持つものでなければ、高ランク魔導師であろうが、関係なく気を失わせてしまえることができるのだ。それによって、20名近く居た魔導師はほぼ全滅。辛うじて四名のみがよろよろとした状態ながら、それを堪えその場に立つのみであった。

「ふむ、骨の奴等もいるようだな」

「残りはわし等が片づけよう」

 その四名に対し、我流X意外の二人、Mr.カラテとナイトマンが仕掛けた。まず、先にMr.カラテが攻撃する。

「覇王翔吼拳!!」

 Mr.カラテの放った巨大な気の塊は魔導師が張ったシールドを貫通する。そしてそのまま二名の魔導師を飲み込み、まとめて気絶させてみせた。

「な、なんでだ!? なんで、バリアジャケットの効果が無いんだ!?」

「馬鹿を言え。生身だったら、お主の内臓は爆発しておるわい」

 一方、ナイトマンは水の心で相手の攻撃を読み取り、そして相手が動く際、それに合わせて変形するバリアジャケットが、瞬間的に薄くなるタイミングと箇所を狙って豪打を撃ちこむ。そして、それを助けようとした最後の魔導師に対し、バリアジャケットの防御力を最も働かせない攻撃である関節技を用いて、後遺症が残らないように上手く骨を折り、その場に転がす。

「さて、先に行くとしようかの」

「うむ、目的地は直ぐそこの筈だ」

 魔導師を全滅させると三名は再び進み始め、目指す場所研究施設の中心部へと辿りつく。しかしその部屋は頑丈の扉によって塞がれており、外からの侵入を拒んでいた。当然のことながら彼等はその部屋に入る鍵など持ってはいない。

「無影無限突きぃぃぃぃ!!!!」

 しかし、そんなものは何の関係も無かった。我流Xによる音速を超えた突きの連続により、鋼鉄の扉は残骸と化す。彼等の行く手を阻むものは何もなくなり、悠々と侵入する三名。そこに居た研究者達にとりあえず、梁山波を浴びせかけて気絶させると、その場で研究対象となっていた子供達の拘束を解き始めた。

「まったく、警察機関がこのようなことをするとは世も末じゃのう」

「しかし、組織全ての人間がこうだと言う訳ではあるまい。わしの居た世界でもエグリゴリなる組織に警察機関が手綱を握られておったが、それでも己の意志を持ち続け、自らの正義を貫く者達がおった。この世界にもそう言った者達が大勢いる筈じゃ」

「確かにそうじゃの」

 我流Xとナイトマンが言葉を交わしながら、保護という名目で監禁されている特殊な生い立ちの子供達を解放していく。彼等の解放こそ、今回三人がこの研究所を襲撃した理由だった。子供達も研究者と一緒に先程の梁山波で子供達も気絶してしまっているが、暴れられても困るので寧ろ都合がいいとばかりに気にせず、拘束を解いて行く。そして三名の子供達を一箇所に集めた所で、Mr.カラテが部屋の隅に扉を見つけた。

「この先にも、誰かいるようだな」

 頑丈な扉の先に人の気配を感じ、彼は腕に気を溜め始める。

「虎煌拳! 虎煌拳! 虎煌拳!」

 気の塊を3連発で放ち扉を破壊する。すると、その先には薄暗く狭い部屋の中に拘束服を着せられた幼い男の子の姿があった。

「こんな子供に……」

 その痛々しい姿に憐れみとそれをやった相手に対する怒りを感じながらMr.カラテは拘束服を解いて行く。だが、解放された瞬間に少年は彼にむかって電撃を放った。電撃を受けとっさに離れるMr.カラテ。

「むっ!!」

「大丈夫か、タク……いや、Mr.カラテ」

「ああ、これ位なら大丈夫だ。元の世界でも気を電撃に変換する相手と戦ったことがあるからな。慣れている」

 ナイトマンの言葉にそう答えた通り、彼の傷は軽傷だった。しかし少年は三人に対し敵意を向け、威嚇行動を示している。どう対処すればいいか考えていると我流Xが前に出て言った。

「どれ、わしがなんとかしてみよう」

 そう言って仮面を外し、少年に対し素顔を見せる。そうしてから我流X、いや風林寺隼人は彼に近づいて行った。それを阻むように電撃を放ってくるが、それを無視して彼は両手を広げて優しく語りかけるように言った。

「そう警戒せんでも、わし等はお主を傷つけるようなことはせんよ」

 少年はそれを信じられないとばかりに電撃を放ち続け、それは風林寺隼人に命中する。如何に超人的な強さを持つ彼とはいえ、生身の身体に電撃を受ければ当然痛みはある。しかし、それを気にせず、更に近づくと少年の身体を抱きしめてみせた。

「!!」

 その途端少年は最大威力の電撃を放って抵抗する。その電撃は風林寺隼人の肌を焼き、焦がす。しかし、彼は手を離さなかった。それどころか、彼の頭に手を置くと優しく撫で始めた。

「脅えることは無い。わし等はお主の敵ではないぞ」

 そして身体を離すと少年に対しにっこりと笑顔を浮かべ、語りかけた。その言葉と笑顔に毒気を抜かれたのか子供の抵抗が無くなる。

「うむ、いい子じゃな」

 その言葉をかけられた瞬間、少年は風林寺隼人の胸に飛び込み、泣きじゃくる。隼人は黙って彼の頭を撫で続けた。その光景に残る二人も優しい笑顔を浮かべる。しかしその穏やかな空気をぶち壊しにするものがその場に現れる。

「お前達、抵抗はやめ、大人しく捕縛されるんだ!!」

 部屋に飛び込んできて、三人に向けてデバイスを向ける魔導師が現れたのだ。それに対し、風林寺隼人舌打ちをし、再び仮面を被って我流Xに戻る。

「KYな奴じゃのう」

「まったくじゃな。おい、お主、一つ聞きたい。お主はこの研究所で研究者達が
子供達に対し、どんな扱いをしておったのかしっておるのか?」

 ナイトマンの問いかけに魔導師は何を言っているのだとばかりの態度で答えて見せた。

「それがどうした!? こいつらはどうせまともな生まれ方もしてない化け物だ。管理局のため、平和のために役立てるだけ光栄なことだろうが!! それよりもお前等抵抗はやめて大人しく俺に従え!!」

 男の答えに対し、何かが切れるような音が三つ、その場に響き渡ったような気がした。そしてナイトマンがゆらりとした足取りで前に出て言う。

「この外道が……。我流X、Mr.カラテ、悪いがここはわしにやらせてはくれんかの?」

「うむ、久しぶりに見られそうじゃしの。ナイトマンの動の気。火の心が」

 口調は穏やか、しかしその声色は強い怒りの混じった声で我流Xが答え、Mr.カラテも頷く。そして、ナイトマンは構えて見せた。

「貴様、抵抗する気か!!」

 それを見て魔導師が魔力を集め始める。だが、ナイトマンは静かだった。彼が元居た世界で彼の孫に対し、彼が世話をした人間の一人である高槻巌が火の心に飲まれないようにと水の心の大切さを教えたことがある。
 しかし、ナイトマンは孫に対し、火の心と水の心の両方を教えた。水の心が火の心よりも優れているのなら両方を教える必要は無い。彼が孫に対し、火の心も教えた理由、それは単純だ。火の心にも水の心に勝る部分があるからである。しかし、未熟な心のものが火の心を身にまとえばたちまち、その炎に、怒りや憎悪と言った感情によって自らを失ってしまう。故に、高槻巌は水の心の大切さを教えたのだ。
 だが、例え火の心に身を包もうと、己にとって最も大事なものを見失わない強い意志を持つものがそれを使うのならば、例えばウィル・A・ツェペリの弟子の子孫で100年に渡る一族の戦いに決着をつけた少年のように、例えば、この世界に来て居ながら未だその存在が見つかっていない達人の弟子で自動で動く人形と戦った白銀の戦士のように、爆発的な力を生み出す起爆剤とすることができるのだ。

「うおおおおおおお!!!!」

 その瞬間、ナイトマンの拳は音を置き去りにした。魔導師の男は魔法を発動する余裕すらものなく、彼の拳を叩きつけられ、意識を断ち切られるのだった。












「さて、それでは脱出するとするか」

「うむ」

 魔導師の男を部屋の隅に寝かせ、タクマ以外の二人がそれぞれ二人ずつ子供を背負う。そこで我流Xに抱きかかえられた少年、最後に助けられた少年であるエリオが心配そうに声をかけた。

「あの、火傷の方は大丈夫ですか……」

 自らが付けた火傷を見て落ち込んだ態度を見せるエリオ。そんな彼に我流Xは仮面をまた外し、笑顔で答えた。

「なあに、心配はいらんよ。それに、家に返ればリニスに手当てしてもらえるからのう」

「リニス?」

「うむ、猫のお嬢さんじゃ。そうじゃ、よかったらお主わし等と一緒に家に来るか?」

 風林寺隼人の言葉にエリオが驚いた顔をする。そして不安気な顔で尋ねた。

「……いいんですか?」

「ああ、わし等はかまわんよ」

「男が多くてむさ苦しい所だがな」

 風林寺隼人が笑顔で答え、Mr.カラテ、いやタクマ・サカザキが冗談めかして答える。そしてナイトマンも甲冑を外し、新宮十三に戻るとにっこり笑って頷いた。
それを見てエリオは元気よく答える。

「はい、お願いします!!」

 その答えに三人は再度笑顔を浮かべる。そして軽い口調で宣言した。

「それじゃあ、帰るとするかの」

「ああ」

 そこでタクマが上方に向けて手をかざす。そして気を溜めて、一気に放出した。

「覇王獅咬拳!!!」

 獅子の形をした極太の気の塊が床も天井も纏めて貫き。そして、その先には青い空が見えるようになる。その光景に驚くエリオを他所に、三人は子供を抱えたまま跳び上がる。数十メートルの高さを三角飛びを繰り返すことでかけあがり、そして彼等は外へ飛び出すのであった。

 







 これが、管理局史上に残る襲撃事件の顛末である。尚、この事件で死亡者はいなかったが、研究資料は全て廃却され、研究者及び職員達は風林寺隼人の忘心波衝撃によってエリオ及び、襲撃者達の記憶を失わされていたため、その後彼等に追究の手は伸びることは無かったと言う。



(後書き)
今回は完全に達人無双。自重無しの回でした。これで残る外伝は後、2作になります。



[19760] 外伝8:家族の再会
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/11 19:16
※この話は外伝6の続きになります。


 私が目を覚ました時、そこにはヴィータちゃんの顔がありました。

「なのは!! よ、よかった、ほんとうに良かった……」

 ヴィータちゃんは顔がぐしゃぐしゃになる位に目から涙を流していました。どうして泣いているのか。そもそも自分は何故寝ているのか。原因を探るため、記憶を辿った私は撃墜されたことを思い出し、思わず体を起こそうとし、その瞬間、激しい痛みに襲われました。

「!!」

「おい、まだ、無茶するんじゃねえ!!」

 ヴィータちゃんが私の体を抱きかかえて、ゆっくりと体を倒してベットに寝かせてくれました。そして、そこでお医者さんらしき男の人が近づいてくるのが見えました。

「そうですよ。君は魔法を使っても全治1ヶ月の大怪我なんだから」

「1ヶ月……」

 死んでしまうかと思ったことを考えれば、それは軽い怪我だったと言えるかもしれません。魔法の存在を知って3年。魔法は凄い力だけど、決して万能の力ではなく、本当に重い怪我や病気には治療に何ヶ月もかかり、どうにもならないこともあること位は知っていました。
 けれど、私にはその1ヶ月という時間があまりに長い時間のように思えました。1ヶ月も仕事をしなければ、誰かの役に立たなければ、自分の居場所は無くなってしまうのではないか、幼い頃、家族の誰も居ない家で一人で過ごした時のことが思い出され、私の体は震え出しました。

「おい、なのは!!」

 それに気付いたヴィータちゃんが慌てます。お医者さんも一緒に。私は何でも無いと伝えようとして、しかし伝えられませんでした。私は自分の恐怖を抑えられなかったからです。するとその時でした。ヴィータちゃんでもお医者さんでも無い男の人が慌てた様子で私の傍に近寄って来ました。

「どうかしたんですか!?」

 その人の顔を見て、私はお兄ちゃんに似ていると思いました。家族に似た人の顔を見ておかげでしょうか、私の中にあった孤独の記憶が薄れ、気がつくと震えは止まっていました。それを見て、ほっとする3人を見て悪いことをしてしまったようで罪悪感を感じ謝ろうとしました。けれど、そうすることができませんでした。
何故なら、お兄ちゃんに似た人の発した言葉による驚きがあまりに強く、頭の中が真っ白になってしまったからです。

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は御神静馬、君の叔父だ」

「えっ?」










 俺がなのはちゃんと出会い、3日が過ぎた。彼女とであったことで第97管理外世界と呼ばれるところが、俺の出身世界であることがわかったので、毎日彼女の見舞いをしながら渡航許可が下りるのを待っていた。
 そして俺は今日も同じようにあの子の病室へと向けていた。

「入っていいかな?」

「あっ、はい」

 ドアをノックし、返事を聞いて中に入る。病室の中には二人の少女の姿があった。一人は勿論なのはちゃん、もう一人は彼女の友人のフェイト・テスタロッサちゃん。偶然にも、彼女はなのはちゃんとほぼ同じタイミングで捜査中に怪我を負ってしまったらしい。

「あ、静馬さん」

「やあ、なのはちゃん、それにフェイトちゃん調子はどうだい?」

「あっ、はい、私はもう直ぐ明日退院できるそうです」

 俺の言葉にフェイトちゃんが答える。彼女の怪我はかなり酷かった筈だが、それがこれほど短期で回復するあたり、改めて魔法と言うものの凄さを思い知らされる気持だった。そしてその魔法でも1ヶ月かかるあたりなのはちゃんの怪我は本当に重かったのだと思いながら彼女に視線をやる。

「?」

 友人の回復を聞いたにも関わらず、彼女は何故か不安気な表情を浮かべて居た。そして俺の視線に気づくと彼女は慌てたようにそれを消す。
 出会ったばかりの姪はとてもいい子であったが、少し気になるところがあった。時々妙な違和感と言うか、無理をしている、焦っていると感じる時があるのだ。そしてそれを家族の話をする時と怪我の状態を話す時によく感じられた。

「そう言えば、ここに来る途中で聞いたんだが、明日は士郎さん達が見舞いに来られるらしいぞ」

「えっ、本当ですか?」

 俺の言葉に嬉しそうな表情を浮かべるなのはちゃん。しかし、その表情にはやはりどこか陰りがあるように感じられる。俺の思い込みなのかもしれない。しかし、俺には管理外世界の住人が管理世界を訪問する際の申請の関係で、士郎さん達が直ぐに見舞いに来られないことを告げた時の彼女の言葉がどうにも耳から離れなかった。

『にゃはは、仕方ないですよ。それにみんな忙しいからどっちにしろ直ぐには来られないと思うし』

 家族が大怪我を負ったら直ぐに駆け付けようとするのが普通だ。勿論、現実にはどうにもならない状況だって存在する。今回の場合だってその一つだ。彼女は実際の年齢よりも遥かにしっかりとした子で単に物分かりがいいだけなのかもしれない。しかし申請というどうにもならない事情ではなく、“忙しい”という言葉を強調したような気がしたのがどうにも気にかかっていた。

「士郎さん達に聞いてみるしかないかな」

 考えても答えはでないし、ほとんど初対面の自分があまりに突っ込んだ所にまで踏み込んでもなのはちゃんは答えてはくれないだろうと一旦問題を棚上げすることにする。情けない話であるが、今の自分は他人のことばかり構っていられない立場でもあった。何せ俺は明日、9年ぶりに妻と娘に再会するのだから。








「なのは!!」

 私は病室で横たわるなのはに抱きつく。あの子が怪我を負ったことを聞いた時、私は士郎さんの時のことを思い出し、取り乱し、それからこの世界に来ることが許されるまでの数日間はどれほど長く感じたかしれない。

「お、お母さん」

 そして胸の中でもがくなのはの抵抗の強さに、思ったよりも元気であることを知り安堵する。そして数十秒程そうした後、落ちつきを取り戻した私は手の力を緩めた。

「ごめんなさい。直ぐに来られなくて。それに怪我してるのにいきなり抱きしめちゃって痛かったわよね」

「ううん、大丈夫だから、気にしないで!!」

 私の言葉にそう答えるなのは。だが、何故だろう。その顔はどこか無理をしているように思えた。そしてそんななのはの表情をどこかで見たことがある気がする。それはいつのことだったか。そう考える私に、声をかけてくる男の人が居た。

「桃子さんですね。妻と義兄、そして娘がお世話になっています」








 なのはちゃんに抱きついた女性、彼女から聞いていた彼女の母であり、士郎さんの結婚相手である桃子さんに挨拶をする。そして美沙斗と美由希の事について聞こうとした時、病室のドアの所から懐かしい声が聞こえてきた。

「静……馬……さん」
 
 その声の先に居たのは最愛の女性、9年、いやなのはちゃんの話では15年もの時間がたっているにも関わらず若々しく当時の面影をはっきりと残しているずっと生き別れになっていた妻、美沙斗の姿だった。

「すまない、今までずっと連絡できず……」

 異世界の、それも辺境に放りだされ、一族を守るため、生活基盤をつくるために奮闘しなければならなかったとはいえ、それでも9年もの間、元の世界に戻ることの出来ず、15年も彼女を一人にしてしまったことについて、詫びることにしかできない。

「いいんです。生きて、生きていてくれたんだから!!」

 美沙斗が俺の胸に飛び込んでくる。俺はそっと彼女を抱きしめた。そして更にもう一人ずっと会いたかった相手が病室へと入ってくる。

「あなたが父さんなんですか」
 
「美由希か?」

 黒髪の20歳位の少女。昔の美沙斗と比べても全体的に童顔な感じだが、確かにその面影を引き継いだその少女の姿を見て、一目で娘と気付く。そして同時に僅かな震えも。ずっと離れていた父親である自分の事を美由希はどう思っているのか。美沙斗と同じように受け入れてくれるのか、あるいは拒絶されるのか。俺は自らの不安をぬぐうことができなかった。けれど、そんな不安は美由希の次の一言で全てが吹っ飛んで行った。

「はい、あなたの娘の美由希です」

「!! 綺麗になったな。それに強くなった」

 9年ぶり、あるいは15年ぶりに再会する娘は美しく、そして強く成長していた。警戒をしている訳でもないのに、隙の少ない立ち振る舞いは、御神の剣士としてかなりの高みに達していることを教えてくれる。娘が生まれた時、自分は彼女が強い剣士にあるいは、淑やかな女性に成長してくれることを望み、美由希が望むのならば、どちらにでもして見せると誓った。
 だが、俺はその誓いは果たせなかった。しかし美由希は自分が居なくても、強く美しく、そして優しい女性に育ってくれた。それが何より誇らしく嬉しい。そしてそれを支えてくれただろう、士郎さんと桃子さん、恭也君、そして美由希の周りに居た多くの人達に感謝したい。

「父さん……士郎父さんや母さん、それに恭ちゃんに鍛えてもらいましたから。……父さん、これからはあなたにも鍛えてもらえますか?」

「……ああ。鍛えてやるさ」

 必死に涙を堪える。
 死んだ筈の自分をずっと愛し続けてくれた美沙斗。
 顔も覚えていない筈の自分を父と呼んでくれた美由希。
自分は幸せ者だと思う。だからこそ改めて誓った。これから先、自分にできる全てを持って彼女達を、家族を守っていこうと。
そして、そこで最後に二人の男が入ってくる。

「士郎さん、それに恭也君だね」

「ああ、静馬、まさか、お前が生きて居てくれるとはな。最初に聞いた時は信じられなかったが」

「お久しぶりです。静馬さん」

 士郎さんは少し老けていたが、昔とあまり変わってはいなかった。しかし、その動きにぎこちなさが見える。なのはちゃんの話だと大怪我を負ったことがあるらしいのでそのためだろう。そして恭也君は記憶の中にある幼い彼とは大分印象が変わり笑顔の優しい、しかし逞しさを感じられる青年に成長していた。強さも美由希と同じかあるいはそれ以上であろう。

「ええ、けど、俺よりもまず先になのはちゃんを見てあげてください」

 桃子さんが病室に飛びこんで来た時から二人の気配は感じて居た。恐らくは再会を邪魔しないために気を使ってくれたのだと推測できる。だからこれ以上、自分達のために、彼等を引き止めるようなことはしたくなかった。

「ああ、すまんな」

「お気遣いありがとうございます」

 軽く頭をさげ、二人はなのはちゃんの元へ近寄っていく。
そして彼女が思ったよりも元気なことを喜んでいた。

「美由希も行くといい」

 美由希はなのはちゃんとはずっと姉妹として過ごしていたのだ。俺のことと同じ、あるいはそれ以上に彼女のことが気にかかっていたに違いない。俺の言葉に頷き、美由希もなのはちゃんの元へ駆け寄っていく。自分で言いながらもそのことに多少の寂しさを感じる。
 けれども焦ることは無い。これから先、時間はあるのだから。まずは、この9年、彼女達にとっては15年の間にあったお互いの事を語り会おう。俺はそう考えるのだった。


(後書き)
読んでくださっているみなさんに連絡です。
次回からとらハ版の方に移行させていただこうと思っています。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
今後も頑張らせていただきますので、できれば応援よろしくお願いします。



[19760] 外伝9:家族の和解、その第一歩
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/12 22:23
「桃子さんに士郎さん、それに恭也君や美由希も。少し話したいことがあるんです。実はなのはちゃんのことについてなんですが……」

 再会を味わった後、なのはが検査のために離れたタイミングを見計らって静馬が桃子達に話しかける。そしてなのはのここ数日の様子と気になっていた点について説明をした。
 そして話を聞き終えた後、恭也と美由希はその理由がわからないようだったが、桃子には心当たりがあるらしく、表情を変え、顔色を青くする。
 それを見て士郎が彼女に問いかけた。

「桃子、何か心当たりがあるのかい?」

「ええ……さっき病室に入った時、あの子が浮かべた表情。どこかで見たことがある気がしたのだけど……」

 そして桃子は語った。いまから7,8年程前、士郎が大怪我を負い、喫茶店の経営や士郎の看病のため、家族は皆、幼いなのはに構うことができない状態になった。
 その時、最初は泣いたり我儘を言ったりして家族を引き止めようとしたなのはだったが、次第にそう言った態度を見せることが少なくなり、そしてある時、彼女は自分からこう言ったのである。

『私は一人でも大丈夫だから。心配しないでいいよ』

 その言葉が嘘であること、無理をして言った言葉であることは一目でわかった。けれど、桃子はその言葉に甘えてしまった。甘えざるを得なかった。どんなになのはが可愛くても、仕事を放り出す訳にはいかない。そんなことをしたら一家は路頭に迷ってしまう。無論、士郎の看病に手を抜くこともできないし、当時はまだ従業員やアルバイトを雇う余裕もなかったため、恭也や美由希に手伝いをしなくていいと言う訳にもいかなかった。
 故に、嘘と知りながらも彼女はそれに気付かない振りをした。なのはが辛い思いをしているのだと理解していながらも。当時の彼女にできたのは、せめて生活が落ち着いた後で辛い思い出を忘れてしまう位に楽しい思いをさせてあげるのだと誓うこと位であった。
 しかし、その誓いもまた今まで果たされることはなかった。当初は稚拙なものだった偽りの仮面は月日と共にその偽りの仮面は少しずつ精巧なものへと変わって行き、いつしか周りの誰もが、なのは自身すら半ば、彼女が心に傷を負ったままだと言うことを誰も気づかない程に精巧なものに変わって行ったからである。少なくとも士郎が退院する頃には彼がなのはの様子に違和感を気付けない程のものに。そのため誰も彼女が当時の事を引きずっているなどと思わず、彼女達家族は微妙な溝を残しながらずっと過ごしてきてしまっていたのだ。

「そう……だったのか」

 話を聞いて恭也と美由希が俯く。士郎が入院した頃にはまだまだ幼かった二人は、当時のことをそれほどよく覚えておらず、またそれ以前に当時の二人にはなのはに対し、それほど目を向けるだけの余裕が無かった。だが、知らなかったからと言ってそれで全ての責任が無いと言う訳ではない。特に恭也の方は当時既に10歳にはなっていたのだから幼いとは言ってももっとできることがなかったのかと自責の念に駆られていた。

「俺の怪我の所為であの子にそんな思いをさせてしまっていたんだな」

 そしてそれ以上に自責の念に駆られる士郎。そんな彼等に桃子はある決意を告げた。












 次の日、再び高町家の皆はなのはの見舞いに訪れた。
 初日は遠慮がちなところが見えたなのはであったが、人間弱っている時は誰でも人恋しくなるものである。同室であったフェイトが退院してしまったこともあり、その日は両親や兄、姉の見舞いを素直に喜んだ。
 その次の日には姉の美由希は学校のこともあり、地球へと帰って行ったが、他の3人は見舞いに訪れた。そしてその次の日には兄の恭也が来なくなった。

(きっと、その内お父さんとお母さんも来なくなっちゃうんだろうな)

 そのことを少し寂しく思いながらも、仕方の無いことだとなのははそう自分に言い聞かせる。だが、次の日もその次の日も二人は居なくならず見舞いに来る。予想を裏切るその展開になのはは嬉しくも思うが、心配な気持ちにもなってくる。
 仕事だってあるのに自分なんかに何時までも付き添って居ていいのか、そう思って思い切って尋ねるなのは。そして返って来た答えは信じられないものだった。

「お母さん、喫茶店の方は大丈夫なの?」

「そのことなら平気よ。お店の方、1ヶ月位の間休むことにしたから」

「!?」

 店を1ヶ月もの長期に渡って休む等普通では考えられない事態だ。なのはは混乱する頭を回転させ、その理由を考え、次々と上げて言った。

「もしかしてお店改装するの?」

「ううん、まだ店は綺麗だし、改装は当分先かな」

「近所で何か事件とか起こって、用心のためにとか」

「海鳴はいたって平和よ。それに家には頼りになる旦那様や長男が居るからね」

「それじゃあ、従業員の松尾さんが病気になっちゃったとか」

「まっちゃんは元気よ。彼女には悪いことしたけど、店を休むことを承諾してくれたわ」

「じゃあ、じゃあ……」

 思いつく理由は後、一つある。いや、タイミングを考えればそれが一番高い可能性であることは分かっていた。分かっていながらそれはあまりに信じられない回答で、その答えを予想し、外れた時のことを思うと怖くて言えなかった。
 “自分の傍に居るために両親は仕事を長期休むことにした”など。
 けれど、桃子はその信じられない予測をあっさりと肯定する言葉を放って見せたのである。

「お店休んだのはね。少しでもなのはの傍についてあげたかったからよ」

「嘘……」

 店を1ヶ月も休めば、当然、その間の収入は途絶えるし、下手をすれば店の評判にも関わる。にも関わらず自分のためにその選択を選んだと言うのだ。驚くなのはに対し、桃子はそれまで浮かべていた朗らかな表情を少し辛そうな笑顔に変え、なのはに顔を近づけると言った。

「なのは、お父さんが倒れた時のこと覚えてる?」
 
 その言葉になのははどきりとして頷く。その反応を確かめると、桃子は彼女を優しく抱きしめ語りかけた。

「あの時は寂しい思いをさせてごめんなさい。もう、そんな思いはさせないから」

 店を長期で休む。士郎が怪我をした当時はそれはどう頑張ろうと取れない選択だったけれど、今はそうではない。恭也は後1年で大学卒業。美由希も成人が近い年である。二人とも自分自身を支えていける年齢だ。そして店も一月休んだくらいではダメージはあっても潰れたりはしない。頑張ればできる無茶だ。だからその精一杯の無茶をしようと二人は、いや、高町家の皆はそう決めたのである。

「美由希はもう直ぐ受験、恭也も進級に必要な試験があるから一旦帰らせたけど、二人とも勉強用具を揃えて3日後にはまたこっちに来るそうよ」

「……いいの?」

 躊躇いがちに問うなのは。それは家族に迷惑をかけてしまうのではないか。その事で自分が疎ましく思われてしまうのではないかという脅え。その脅えを吹き飛ばすようにそれまで桃子の横で二人を見守るように立っていた士郎が口を開く。

「勿論だよ。寧ろ俺達はそれを望んでやっているんだからな。俺達は今まで、お前に辛い思いをさせていたことを気付かなかった。だから、その償いを……いや、違うな。その分まで愛させて欲しいんだ」

「あっ、あっ……」

 士郎の言葉に対し、なのはは言葉が出せない。けれど自分はもう我慢しなくていいのだ。家族はそれを受け止めてくれるのだ。そんな想いが体中を走って涙が流れてくる。そして今までため込んでいたものを吐き出すようになのはは両親を呼んだ。

「お、お母さぁぁぁん……お、お父さ……ん……」

 顔がくしゃくしゃになる位に涙を流し、桃子の胸に顔を埋めると、そのまま嗚咽を上げ続けるのだった。









 しばらくして、泣きやみ、ようやく落ち着きを取り戻したなのははどこか憑き物が落ちたような感じにも見え、それを見た士郎は一つの問いかけをした。

「なのは一つ聞きたい。今後も管理局の仕事を続ける気はあるのか? 今回のことで、怖くなったりはしなかったか?」

 なのはは危険な仕事をし、そして重傷を負った。そして重傷で済んだことは運が良かったとも言える。一歩間違えば、死んでいてもおかしくなかった。今まではなのはの意志を尊重してきたが、今回死にかけるという経験をした上で尚、仕事を続けるつもりがあるのかどうか、そして続けるつもりがあるのならば、何故そう考えるのかを士郎は親として確認しておかなければならなかった。
 そしてなのはの答え次第では無理やりにでも娘に仕事を辞めさせるつもりであった。士郎の問いになのはは少し考えて答える。

「うん……正直、ちょっと怖い。けど、続けたいの」

「それはどうしてだい?」

「怖いけど、あの時の気持ちは変わっていないから……。ううん、あの時よりもそう思っているよ」

 あの時の気持ち、それはなのはが管理局を入る時に語った動機であると直ぐにわかった。自分に人を助けられる力があると分かって、それで人を助けたいと思ったとなのははかって語った。それが御神の理に通じる所があると気付き、なのははやはり自分の子なのだと、その性を継いでいるのだと思い、士郎は彼女の管理局入りを認めた。けれどなのはの心の傷を他人に嫌われたくないからいい子でいようとしたなのはの歪みを知り、彼女の本心はそこにあるのではないかと懸念したのである。それは必ずしも悪いこととは言わないが、その気持ちが強すぎるのなら、それは危険なことで、そんな気持ちのまま危険な仕事をすればなのはは自分を犠牲にしてしまうかもしれない。事実、今回の件はなのはが休息をとらず、無理を続けたことが一因だ。
 けれど、桃子と士郎が迷惑を受け入れるという態度を見せ、トラウマの一部が解消されてもなのはの気持ちにまるで揺らぎは見られなかった。それは少なくとも語った言葉が嘘ではなく、彼女が戦うことを選んだ理由の一つであったことを示している。
 それになのはは“怖い”と言った。戦場で恐怖を持たない程、危険なことは無い。そう言った存在はどれだけ強くても何時か命を失う。けれどなのはは怖いと感情を認めている。そして認めながらも今まで同じ道を進むことを選択した。
だから、士郎はこれなら大丈夫だと思った。同時に、何を言っても決して彼女はこの道を変えることはしないだろうと言う彼女の強い決意を理解する。
 故に士郎はなのはを管理局から辞めさせる代わりに別の道を選ぶことにした。

「わかった。なら、一つ提案があるんだが。これから恭也や美由希と一緒に訓練する気はないか?」

「えっ?」

 あまりの予想外な言葉になのはは驚いた顔をした。士郎はその提案の意味を、自分の思いの丈を打ち明ける。

「俺は俺の知る身を守る術の全てを教えたい。なのはが少しでも危険な目に合わないようにな。実は地球にも魔法に似た力を持つ人が結構居たりするから、そう言った相手に対する方策も存在するし、魔法のある世界に俺達の世界を持ちこむ奴もいるかもしれない。きっと役に立つと思う。それに恭也達もなのはの魔法から学ぶことがあるかもしれないしな」

 自分達の裏を見せ、なのはを成長させ強くする。危険を乗り越えられる確率を少しでもあげる。そうすることが自分の進む道を決めたなのはに対し、自分達ができることだと士郎は考えた。同時に隠していた自分達の姿をさらけ出すことで、溝をもっと埋めるよう努力していこうとも。

「……うん!!」

 御神流を学ぶ兄姉とそうでない彼女の違いは高町家に存在するもう一つの溝と呼べるものだったので、一緒に学べるというその提案に士郎の提案になのはは勢いよく頷いた。そしてその後、中学卒業までの4年間となのはは高町一家と御神一家の訓練に参加し、親交を深めていくのだった。


 


(後書き)
公式でなのはが管理局で働く動機として“空を飛ぶのが好き”と言う理由がありますが、これはこの話ではあえて語らせませんでした。この空を飛ぶのが好きと言うのはなのはの歪みの象徴(地上を歩く人間との隔離等)という考察があり、私もそう言った印象を少なからず持っているからです。空を飛ぶ爽快感とかは想像できますし、実際単純に好きと言う部分はあるんでしょうが、本当にただ空を飛ぶのが好きなら、別に戦場に立たなくても他に選択肢が無いとは思えませんしね。
ところで今回の話ですが実はこの後、なのはがとある武術家(るろうに剣心の初期にでてきた強敵です)に襲撃されて、士郎がなのはを守って戦うと言うエピソードを考えていたのですが、蛇足ってか無理やり過ぎる展開かなあと思ってカットしました。このエピソードは形を変えて書きたいと思っています。敵の方が初期から登場させたいと思っていたかなりのお気に入りキャラなので。その場合相対するのは恭也か美由希に変更するかもしれませんが、なのはとの兄妹(姉妹)タッグか親子タッグで行こうと思っています。



[19760] 外伝10:高町の家・死闘(前編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/18 22:14
 第一管理世界ミッドチルダ、第一世界と呼ばれるだけあって、次元世界の中心として扱われるその世界では今、一つの大きな次元が起きていた。
 政府高官など要職に就く人間が次々と惨殺されると言う事件、しかもいくつかのケースでは十分な護衛を揃えた状態で、その護衛毎殺されるというケースが発生しているのだ。今までの被害者は政府高官6名、護衛について私兵、管理局の魔導師、合わせて46名が殺され、61名が重傷を負わされている。そして被害者の中にはAAランクの魔導師が6名も含まれていた。
 この事件と似たケースとしてタオパイパイの件があがるが、この二つには幾つかの大きな相違点が存在する。
まず一つに、殺された被害者のもとに“斬奸状”と書かれた脅迫文が送られてきている件。タオパイパイのケースではこのようなことは無く、被害者の数が多いのもこれが影響している。
 そしてもう一つ特異な点として、十分な防衛戦力を用意していたにも関わらず、護衛の魔導師達はまるで抵抗できなかったという点があげられる。それは相手が強すぎたとかそういう話では無い。生き残った者達は、まるで金縛りにあったように体が動かなくなり、身動きすらとれなくなった。そして動けないままに切られてしまったと証言しているのだ。バインドなどによる拘束とは根本的に異なる現象だった。
 正体不明、97管理外世界の江戸時代に帽子として使われた編笠を真っ黒にしたものを被っていることから“黒傘”と呼ばれ、恐れられる男。そしてその男から7通目の“斬奸状”が届き、その護衛の一人として高町なのはが選ばれたのであった。








「そう言う訳なんだけど、お父さん、何かわからないかな?」

 護衛の任務を受けたなのはが父、士郎に相談する。以前は仕事のことについてあまり家族と話すことはなかったなのはだったが、最近では機密に関わること以外は家族に相談することが多くなっていた。特に、今回は自分達の理解の及ばない範囲の話である。魔法とは違う特殊能力を持った人間とも戦ったことのあるという父のアドバイスを是非とも受けたかったのだ。

「そうだな。直接見た訳ではないから断言はできないが、その手の現象には二つ程心当たりがある。一つはHGS、フィアッセのことはなのはも知ってるな?」

「うん」

 HGS、高機能性遺伝子障害病、遺伝子の変質によって超能力と呼ばれる力を使える人間のことである。代わりに幾つかの障害等を持つケースが多いが、その力は並の魔導師の使う魔法に匹敵する。そして士郎がボディガード時代にその護衛対象だったアルバート・クリステラの娘である歌姫フィアッセ・クリステラもその一人であった。嘗て士郎が仕事中に彼女を守って大怪我を負い、そのことでなのはとフィアッセの間には確執が存在したこともあったが、現在では和解し、仲直りの際になのはは彼女の黒い翼をそしてその黒い翼が白い翼に変わるところとその力を見せてもらっていた。

「じゃあ、HGSの悪い人が犯人ってこと?」

「いや、HGSの使う念動力、それを使えば人を金縛りのような状態にすることは可能だ。しかし、今回の件についてはHGSの仕業では無いと思う」

「どうして?」

 なのはの推測に対し、士郎はその可能性は低いと考えていた。士郎はHGSの能力をある程度詳しく知っているが、それとすり合わせ、今回の事件にはHGSでは不可能な点があるのだ。

「なのはの話では30人以上護衛がついていた時もあったんだろう?それだけの人数を拘束することのできるHGSと言うのは確認されていない筈だ。ましてやなのは達のように魔法を使える存在ならなおさら難しいだろう」

 士郎の説明になのはは納得する。分割思考を使える魔導師でも、一度に30人同時にバインドをかけるとなると流石に難しい。ましてや力づくでは破れないような十分な強度を持たせるとなると必要な魔力量も増える。なのは自身には無理だし、なのはの知る限りの優秀な魔導師であるクロノやその手の魔法が得意なユーノ等にも無理だと思えた。

「まあ、俺の知らないだけでそんな規格外の存在が居ないとも限らないが、それを言い出したらきりが無いからな。一応、頭に置いておく必要はあるだろうが、お父さんはもう一つの可能性の方が高いと思う」

「もう一つの可能性……」

 ある意味前置きと言える説明が終わり、本題に入ろうとして士郎の顔つきが鋭くなり、なのはの緊張も強くなった。そして、士郎が無言で立ちあがる。

「まず、実際に少し見せた方が早いだろう。道場に行こう」

「えっ!?」

 まるで殺戮犯と同じことができると言っているかのような父の口ぶりに驚くなのは。無言で道場に歩いて行ってしまう彼を慌てて追いかけ、ついて行く。そしてなのはが道場へ辿りつくと士郎は木刀を持って立っていた。

「お父さんは今からなのはに向けて剣を振るう。ゆっくりだからかわしてみなさい」

「う、うん」

 なのはは父の行動の意図が分からぬまま頷いた。そしてお互いに向き合うと木刀をなのはに対し振り下ろす。ただし、その速度は言った通りに非常にゆっくりとしたものである。これならば、魔法で強化せねばそれほど運動神経のよくないなのはでも確実にかわせる筈だった。

「!!」

「!!?」

 だが、なのはが回避しようとした瞬間、士郎は強い殺気を娘にぶつけた。それほどの強い殺気を他者にぶつけられたことは今まで無く、一瞬なのはの体が硬直する。そして軽い勢いで木刀がなのはの頭に当てられる。

「今、一瞬、うごけなかったろう?」

「う、うん」

 呆然とするなのはに対し、士郎は木刀を床に置くと説明を始めた。

「強い殺気をぶつけられるとそれを感じ取ると人は威圧され一瞬、動けなくなる。それは、生物の本能で今、お前が体験した通りだ。そしてこう言った技法を極めた技の一つが二階堂平法の奥義、心の一方と呼ばれている」

「心の一方……」

 呟くなのは。士郎は頷くと説明をつなげた。

「お父さんも実際に見たことは無いが、その使い手の一人と御神の剣士が戦った伝承が残っている。どうやら一種の瞬間催眠術のようなものらしい。普通であれば、殺気で身をすくませるなんてことは、余程未熟な相手かさっきのなのはみたいに気を抜いている相手にしか効かないが、心の一方の使い手は視線を合わせただけで相手を動けなくし、それを破るには相手に匹敵する気迫を持って挑まなければならないそうだ」

「……」

 父の説明に恐怖を感じるなのは。もし彼がその気なら彼女は脳天を撃ち砕かれ、今頃息絶えていただろう。
 もう一度戦えば士郎相手であれば、精神的に戦闘体勢で挑むことで打ち勝つこともできるかもしれない。けれど、その技法を極めたという使い手相手に対抗できるのか、そんな疑問がなのはの心を渦巻く

「心の一方の使い手であれば今のなのはでは勝てないかもしれない」

 その不安を肯定してしまう父の言葉を彼女は否定できなかった。だが仕事を断ることは決してできない。それは自分の代わり護衛となる誰かと護衛対象を犠牲にすると言うことなのだから。葛藤するなのは、そこで士郎が驚くべき提案をした。

「そこでなんだが、何とか俺達を護衛に混ぜてもらうことはできないだろうか?」

「えっ!?」

「なのはが凄いのは知っている。正直言って、正面から戦えば俺達よりも強いだろう。だが相手が俺の予想通り、二階堂平法の使い手なら、それは俺達向きの相手の筈だ」

「でっ、でも……」

 提案に対し、躊躇いを見せるなのは。家族を危険に巻き込むことと、魔導師に非魔導師は勝てないと言うここ数年で彼女にも根付きつつあった管理世界の常識が迷わせる。けれど、自分達に我儘を言ってもいいと示してくれた家族と、この数カ月で改めて知ったその強さを思い出し彼女は決断した。

「うん、お願い。私からそうできるように話してみるから」








 なのはが士郎に相談して数日後、ミッドチルダの政治家、フォン・スタイナー宅にはなのは、士郎、恭也、美由希と他に10人の魔導師の姿があった。非魔導師である3人が護衛に混ざることに対し、管理局や護衛対象であるフォン・スタイナーは最初大反対し侮辱さえもした。しかし今回の依頼に対し主格であるなのはの強い推薦と管理局の護衛に混ぜて参加したフォンの子飼いの魔導師相手に勝負し、三人がその実力を示して見せることで相手を納得させていた。

「なのは、他の人の実力はどの位なんだ?」

「うん。Aランクの魔導師の人が二人とBランク人とCランクの人が四人ずつ。お屋敷の外にも同じ位の人がいるみたい」

「Bランクと言うとさっき恭也が戦った相手と同じ位か」

 士郎の問いかけに対し、なのはが答える。実力を示した模擬戦ではまず美由希と士郎があっさりと勝利し、これに剥きになったフォンがBランクの魔導師を出して来て、これに恭也がやや苦戦するも勝利した。実力で言えば3人の中で恭也は既に士郎よりも強い。試合結果から見て単純な戦闘力で言えば、士郎達はこの場では下から数えた方が早いことになる。これが全盛期の士郎であれば、少し話は変わってくるし、それを遥かに超える実力の持ち主である静馬が居れば頼もしかったのだが、彼は別口で仕事を受けて居たため、この場には参加できなかった。
 つまり相手が予測通り、武術家でなく、特殊な才能レアスキル等を持った魔導師であれば戦力としては数えられても主力にまではなり得ないということである。
 予測が外れた場合にはあまりでしゃばらずに援護に回った方が無難であろうと士郎は考え、その考えを恭也と美由希に伝え、そのまま犯人の出してきた脅迫状に書かれた予告時間を待つ。

「……」

「……」

 予告時間が近づくにつれ、緊張からか周囲が静かになって行く。そして予告時間である12時が訪れた時、部屋の扉が開いた。

「!! 撃て!!」

 そこには黒傘を被った暗い目をした男。それを確認し、隊長格の男が指示をだし、魔導師達は一斉に射撃魔法を放つ。逃げ場の無い程に放たれた攻撃。それに対し、黒傘は何もしなかった。何もせず、全ての魔法は彼を通りぬけた。

「!?」

「 幻覚魔法か!!」

 一人の魔導師がその正体に気付く。その瞬間に彼の横にあった壁が爆発した。

「危ない!!」

 なのはが防御魔法をあり、家族を含めた周囲の人を守る。彼女が庇いきれなかった内、半数は自力で防御魔法を張るが、数人は間に合わず、爆発した瓦礫の下敷きとなってしまう。

「うふふ」

 そして、その崩れた壁から、不気味な笑い声を出しながら、黒傘を被り右手に刀を持った男と全身黒ずくめでデバイスを持ったの魔導師の男が姿を現すのだった。



(後書き)
次回対決。ちなみに現時点での御神の剣士の強さは単純に技量や身体能力だけ見るとこんな感じです。

静馬>>士郎(全盛期)>美沙斗=>恭也>美由希>士郎



[19760] 外伝10:高町の家・死闘(中編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/22 23:26
※今回はちょっとだけグロイ描写があるのでご注意ください。



「生き残ったのは12匹か。案外多く残ったな」

 生き残った護衛の人数を数え黒傘が呟く。するとそこで彼の耳に呻き声が聞こえてきた。

「ううっ……助けてくれ」

 それは瓦礫で潰された男の声であった。纏っていたバリアジャケットのおかげで何とか生き残ったものの、全身に怪我を負っており、更にデバイスが壊れてしまっているため、下半身を挟まれたその状態から抜け出せないようであった。

「おや、13匹だったか」

 それを見た黒傘は無感情に呟くと刀を振り上げた。それを見て、その場に居た皆が目を見張り、何をしようとしているのかを悟る。なのはが、護衛の人間が、そして瓦礫に挟まれた男が叫びをあげる。

「駄目えええ!!!!」

「やめろおおお!!!!」

「や、やめてくれええええ!!!」

 しかし黒傘はそれらの訴えを完全に無視し、刀を振り下ろした。男は恐怖に彩られた表情に固まったまま、その首が胴体から離れその場に転がる。そして残された胴体から吹き出す血液。

「うふははは!!」

 それを見て黒傘は楽しそうに笑い、そしてべっとりと血の付いた刀を舐めた。その異様な姿にその場に居た者達が、恐怖に駆られる。しかし、真の恐怖はその後だった。

「それじゃあ、やろうか!!」

 黒傘が叫んだかと思うとその場の居た者達は一斉に動けなくなる。そして、動けない彼等に対し、刀を下げた状態でゆっくりと近づいて行く黒傘。動けない者達にとってそれはまさに恐怖でしかない。

「なるほど、これが心の一方か」

 だが、そんな黒傘の前に一人の男、いや、二人の男と一人の女が立ち塞がる。士郎とその後ろに立つ恭也と美由希であった。

「ほう、まさか知っているものが居るとはな。それに心の一方に打ち破るとは。この世界にも息のいいのがいるじゃないか」

「生憎、この世界の住人じゃないがね」

 心の一方を見破ったことに対し感心し嬉しそうな表情を浮かべる黒傘に対し、不愉快そうな表情で答える士郎。そして彼は小声で恭也と美由希に声をかけ、その状態を確認する。

「恭也、美由希、体の状態はどうだ?」

「少し体が重いが何とか動ける」

「私も……」

 士郎とは違い、二人は完全に心の一方から逃れた訳では無かった。その状況に士郎は内心で舌打ちする。

(予想外に悪い状況だ。あの男のデモンストレーションが効いているな)

 黒傘が最初に取った抵抗できない人間を惨殺し、その血を舐めるという異常な行動。狙ってやったのか、単なる悪趣味なのかは士郎には判別つかなかったが、相手の目論見はどうあれ、その行為によってこちらは恐怖に飲まれてしまっていた。心の一方は気合いと気合いのぶつかりあい、気持ちが飲まれればその効果はより強くなる。3人以外は全員身動きも取れなくなってしまっている。

「お、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん……」

 ところがこの場にはもう一人動けている者がいた。なのはである。その状態は恭也や美由希よりも更に悪いが、完全には動けなくなっておらず、ゆっくりとではあるが、なのはが士郎達のもとへ近づこうとしていた。

「ほお、子供にも関わらず耐えるか。それにしてもお父さんにお兄ちゃん、お姉ちゃん……か。うふふ、うふふ、お前達一家は最高の獲物らしいな」

 そんななのはを見て黒傘は先程以上に歓喜を強くし、不気味に笑い続ける。それを見て、士郎は改めて理解する。この男はイカレていると。そしてイカレながらにして正気と言う最も危険なタイプの人種であると。故に修羅場を潜った経験の足りない恭也達では、勝つ、負けるの前の時点で勝負にならないと彼は判断し、指示を出す。

「恭也、美由希、お前達はなのはとスタイナー氏を守れ」

「一人で大丈夫なのか? 父さん」

 士郎は既に現役を引退した身である。当然、全盛期に比べれば大きく衰えて居る。恭也はそれを心配するが、士郎はそれを切り捨てる言葉を放った。

「少なくとも今のお前よりは戦えるさ」
 
「っつ!!」

 その言葉に恭也は反射的に反論しようとして押し黙る。実際、士郎が完全に逃れた束縛に自分は捕らわれている。力では父を超えながら、本質的な強さの部分で未だその背中に届かぬことをその差を理解し、恭也は大人しく指示に従い、美由希もそれに習って下がる。

「まずは、お前が最初に相手になってくれるのかな?」

「ああ、そして俺で最後だ」

 士郎がそう言った瞬間、彼の姿が掻き消える。その光景に驚愕する黒傘。実際には士郎は消えた訳ではない。初っ端から奥義である“神速”、脳のリミッターの解除による体感時間の延長と、身体能力を向上させる技を発動させ、常人には不可能な高速、それ以上に驚異的な加速をしたことで、その場に居た者達が彼を見失ったに過ぎない。
 そして黒傘の目がその速度に慣れるよりに速く士郎は刃を振るい、その刃が黒傘を切り裂こうとする。

「むん!!」

 だがその直前に黒傘は見えない士郎に対し、心の一方を使った。正確には士郎が居るであろう空間に向けて、彼の存在を意識して。

「ぐっ」

 その行為に一瞬、ほんの一瞬だけ士郎の動きが鈍る。士郎は即座に気を入れて金縛りを解くが、その減速が致命的だった。彼の刃は一歩身を引いた黒傘にかわされ、更に黒傘は身をひねり反撃の突きを放ってくる。

「くっ」

 それを持続中の神速のスピードを生かし回避する士郎。しかし、そこで神速の限界時間が訪れる。神速は肉体にかかる負担が高く長時間持続することはできない。ましてや怪我によって引退し、その後遺症を残す士郎では2秒半程度が限度だった。

「うふふ、正面からで無ければ終わりだったな」

 神速が解除されたことによってその姿を確認できるようになった士郎に対し、黒傘が笑みを浮かべる。彼の言葉の意味は士郎が神速を使った時、正面から攻めず左右から周りこめば心の一方の影響を受けずそこで決着がついていたと言うことだ。
 とはいえ、これは士郎の失態とは言い難い。神速を知らない相手に仕掛ける場合、最短距離を詰める奇襲こそ通常、最も有効な使い方なのである。下手に横方向や背後から周りこめば相手が一流の剣士であれば、殺気などを読まれ対処されてしまう可能性がそれだけ増えることになるからだ。ましてや時間制限の短い士郎が最短ルートを選んでしまったのは必然であり、それを論じるのは結果論に過ぎない。

「そうだな、次はそうしよう」

 それでも結果的に選択を失敗したのは事実。士郎は反感と反省の言葉を放ち、同時にいつの間にか手に持っていた棒手裏剣“飛針”を投げつける。それを刀で弾く黒傘。その間に士郎は距離を詰める。

「どうした、さっきとは比べ物にならない遅さだぞ!!」

 士郎の動きは通常であれば十分に速い速度であったが、神速を使っていないため、先に比べれば格段に劣る。その動きを捕らえきった黒傘の刃が彼に向かって振り下ろされる。だがその刃が士郎を切り裂く寸前、黒傘の動き、正確には腕の動きが停止する。

「これはっ!?」

 黒傘の右手には、金属の糸、鋼糸が巻きつけられていた。その先は士郎の左手に握られている。小太刀二刀をベースとしてそれに暗器を組み合わせる。それこそが御神流の骨頂。そして右腕を封じられた黒傘に向かって士郎が刃を振るう。今度こそその刃が黒傘を仕留めるかと思われた。だが、黒傘は自由な左腕で脇差を抜き、それを受け止める。

「うふふ」

「甘い!!」

 してやったりとばかりに笑う黒傘。だが、士郎の方もそれで終わりではなかった。左手に握っていた鋼糸を手放し、代わりに小太刀を一刀から二刀に変えると連撃の奥義、虎乱を放つ。
 黒傘はそれを両手の刀で防ぐが、元より二刀使いの士郎とは違い、黒傘は一刀使い。当然、刀を扱う技量に差が生まれ、士郎の斬撃は黒傘の体に幾つもの裂傷をつくる。

「うふ」

 だが、そのまま仕留めようとする士郎に対し、黒傘は左手の脇差を放り投げた。それを刀で弾く士郎。黒傘はそこに片手平突きを放ってくる。士郎はそれを回避するが、そこで黒傘は突きを横凪の一撃に変化させてくる。

「くっ」

 その一撃も何とか回避する士郎。だがそこで彼は体勢を僅かに崩してしまう。そして攻撃を回避された黒傘は直ぐ様唐竹割りを放つ。一文字の型と十文字の型を組み合わせたその連撃。士郎は二度目の神速を発動し、それを後ろに飛んで回避。そして、その勢いを利用し構えをつくる。

「うおおおお!!!!」

 突きの奥義、射抜、二刀の突きは一刀目が黒傘の刀を弾き、二刀目が黒傘の胸を突き刺す。

「ふふ」

「なっ!?」

 だが、その刃が深く突き刺さるよりも早く弾き飛ばした筈の黒傘の刀が士郎の脇をえぐった。“背車刀”弾かれた刀を背後で右手から左手、もしくは逆に持ち帰ることで、崩された体勢から即座の反撃を可能とし、同時に相手に対し、隙ができたと錯覚させることで罠に嵌める技でもある。
 その一撃を受け、ダメージと神速による疲労が重なり、その場に崩れ落ちる士郎。それを見て大声で笑い声をあげる黒傘。

「うはははは!!!こんなに面白かったのはこの世界に転生してから初めてだ」

 胸に小太刀が突き刺さったまま、戦いの手ごたえを思い出し笑う黒傘。崩れ落ちた士郎は立ち上がれない。二度目の神速だけでも今の彼には無茶なことだったのである。そして笑い終わった黒傘は胸に動けない士郎に向かって、黒傘がとどめの一撃を放とうとする。

「やめろおおお!!!!!」

 その時、父の命の危機に恭也が叫びをあげた。そしてその身を捕らえていた心の一方を破った。そして刃を構え、何時でも動ける体勢を取ると宣告する。

「ここからは俺が相手になる」

「ホウ……」

 心の一方を破ったことで恭也に興味を示す黒傘。そして彼は胸に突き刺さっていた小太刀を抜き捨てた。当然、傷口から出血し始める。しかしそれを全く気にして居ないような態度で彼は、士郎に向けていた刀を自分の目線と水平な方向にして構えた。

「この男、確かに強かったが、その動きにどこかぎこちなさがあった。恐らくは古傷が何かを抱えているのだろう? それでありながら最初に見せたあの速度、貴様がこの男と同じ技を使えるのなら、このままでは分が悪い。こちらも切り札の一つを使わせていただこう」

 そう言って黒傘の目が心の一方を使う時と同じ、いや、それ以上の眼光を放ち始める。そしてそれに呼応するようにその筋肉が膨れ上がって行く。

「我!不敗!也!
 我!無敵!也!」

「なっ!?」

 それを見て驚愕する恭也。心の一方とは相手の思い込みに作用する催眠術の一種。それは他者にのみかけるのではなく、自分自身に対し、かけるのも可能な技である。そして自己催眠によって己の潜在能力を極限まで引き出す心の一方の“影技”。それが今、男が使用しようとしている“憑鬼の術”であった。

「我、最強なり」

 そして技が完遂する。先程までしていた出血はほぼ完全に止まっていた。筋肉の圧力で傷口が塞がれてしまっているのである。そしてその身を包む闘気は先程までを大きく上回っていた。その異様に気押されそうになる恭也。だが、彼の目には黒傘の足元に倒れた父の姿が映り、背後には二人の妹が居る。
 故に彼は決して退く訳にはいかない。その決意を口に出し、吠える。

「最強か。なら、こっちも教えてやる。守るべきものがあれば御神の剣士は……負けない!!」

 二階堂平方と御神流、二つの剣術の使い手の戦い、殺す者と守る者のの第二戦目を告げる言葉であった。


(後書き)
思ったより長くなったのでここで一旦切ります。



[19760] 外伝11(外典):魔法少女と元幽霊少女な修羅の嫁(前編)<最新話>
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/22 23:28
※外伝10の後編も書かない間に11を書いてしまってすいません。
※今回はクロスカップリングがあります。嫌いな人はご注意ください。
※今まで以上に実験作であり、冒険作です。広い心で見ていただけるとありがたいです。(でも、批判は受け入れます)


「うわぁ、いい景色」

 高町なのは、17歳の若さにして幾多の次元世界をまたがる大組織、時空管理局でエース・オブ・エースと呼ばれる少女は久々の休暇を故郷である97管理外世界、温泉宿で過ごしていた。
 彼女は一人、温泉につかり、そこから眺めることのできる景色を堪能する。

「フェイトちゃんも来られればよかったのに……」

 温泉につかりながら彼女は呟く。彼女の母である桃子が福引で当たった温泉宿のペアチケット、他の家族が全員その期限内に暇が明かなかったため譲られたもので、本来なら彼女はここに親友であるフェイトと共に来る筈であった。しかしフェイトの方に急な仕事が入ったため、彼女はここへ来ることができなくなってしまったのだ。それから慌てて他の友人も当たって見たものの、全員暇が無く、折角のチケットを無駄にするのも勿体無いと結局彼女一人で宿を訪れていた訳である。

「隣に入らせてもらってもいいかしら? ここが一番見晴らしよさそうなのよね」

「あっ、はい、どうぞ」

 その時、後から温泉に入って来た客が彼女に声をかけてきた。それに振り向き答えようとした彼女は彼女の姿を見て目を見開く。それは彼女の認識ではこの場には居ない筈の人物だったからだ。

「ア、 アリサちゃん!?」

 そこに居たのは地球に住む幼馴染。しかし彼女は今、家族と共に海外へ出かけている筈であった。その彼女がここに居ることに驚くなのは。しかしアリサの方も何故か訝しげな顔をする。そして彼女は予想外な言葉を口にした。

「んっ?あんた、なんで、あたしの名を知ってるのよ?」

 友人の口から飛び出したその言葉に思わず怒ろうとして、彼女はふと気付く。目の前の女性は確かにアリサによく似ていた。よく似ていたが、その姿にほんの僅かに違和感があるのだ。

(あれ、何かアリサちゃん、ちょっと大人っぽいような……)

 なのはがアリサと最後に会ったのは3日前である。幾らこの年頃の少女は成長が早いとはいえ、化粧や衣装を纏っている訳でもないのに、3日で印象が変わるというのは普通あり得ない。

「何、黙ってるの? 早く答えなさいってば!……あれ? もしかして、どっかであったことあった? 私の方が忘れてる? えと、ごめん、名前教えてくれる?」

 詰め寄るアリサだったが、ふと不安になったように彼女は考え込み、そしてなのはに対しその名を尋ねた。それに対し、なのはは戸惑いながらも答える。

「えと、私、なのは。高町なのはだけど……」

「なのは!?」

 すると女性は驚いた表情をし、そして小さな声で呟きだした。その声は小さすぎてなのはには聞き取れない。

「ただの同姓同名?けど、言われて見れば面影が……。まさか、この世界のなのはとこんなところで会うなんて。それにしても私の名前を呼ぶってことは、この世界の私は普通に生きてて、なのはと友達ってことか……。嬉しいような気もするけど、ちょっと複雑ね……」

 そして女性は顔を上げるとはっきりした口調で言う。

「ごめんなさい。知り合いに同姓同名が居たから驚いただけ」

「えっ、でも……」

「確かに、名前が同じで顔まで似てて別人なんて信じられないのは分かるわ。けど、私はあなたの知るアリサじゃない。私はアリサ・ローウェルよ、もしかしたら名字まで一緒なんて偶然もあるかもしれないけれど、私とあなたは初対面だから」

 絶感すら感じるほどの物言い、彼女の言葉と物言い、そこに籠る想いの強さから、信じられないながらも目の前のアリサ本当に自分の知っているアリサとは別人であることを理解する。しかし、理解はするが、その拒絶の強さになのはは何となく悲しい気持ちになった。
だが、そこでアリサは突然表情が軟化させ優しい声で言った。

「まあ、けど、折角こんな妙な縁があったんだし、よかったら仲良くしない? 高町さん」

 その態度の変化に虚をつかれるなのは。しかし直ぐに笑顔になる。彼女の申し出に対する答えは決まっていた。

「うん、アリサちゃ……じゃ、なかったローウェルさん」

「ええ、よろしく」











「へぇ、ローウェルさんって、私より2歳年上なんですか」

「ええ、だから、後、1歳上がればこの国でもお酒が飲めるわね。まっ、地元じゃしょっちゅう飲んでるけどね」

 風呂を上がった二人は宿を出て、温泉街を歩き、今は二人飲食店で会話を楽しんでいた。

「地元って、もしかして、普段は海外に居るとか?」

「まあ、そんな感じかしらね」

 なのはの問いかけに何故か、少し言葉濁したように言うアリサ。それに気付くものの特に気にせず、なのはは次の質問をした。

「じゃあ、海外から一人で来たんですが?」

「一人じゃないわ。旦那と子供が一緒よ」

「あっ、そうなんで……」

 そこで沈黙が落ちた。なのははアリサが言った言葉の意味を理解しようとし、そして理解した時、彼女は驚愕から思わず大声をあげてしまった。

「えええええええええええ!!!!!」

「ちょ、ちょっと、何、そんなに驚いてるのよ!?」

 慌てるなのはの様子を見て戸惑うアリサ。そんな彼女に対し、なのははまくしたてるように言う。

「だっ、だって、えっ、ローウェルさん、結婚してたんですか!? それに子供まで!?」

「そ、そうだけど、そこまで驚くことじゃないでしょうが!? 確かに多少早いとは思うけど、私位の年齢で結婚したり子供が居る人なんて幾らでもいるわよ!?」

 その言葉になのはは冷静さを取り戻した。言われて見ればなのはより2歳年上の19歳と言うのは結婚して居てもおかしく無い年齢である。なのはの知り合いで見てもクロノが同じ位の年齢で結婚し、その後、直ぐに子供を作っている。見た目がアリサそっくりなのでついそのイメージで考えてしまっていたようだった。

「ご、ごめんなさい、つい」

「まあ、別にいいわよ。そんなに気にしなくても」

 なのはが謝罪し、落ち着きを取り戻す二人。そして一旦落ち着くと、なのははアリサの旦那と子供について気になり尋ねた。しかし、そこで予想外な答えが返ってくる。

「ところで、旦那さんてどういう人なんですか? やっぱりローウェルさんの旦那さんだったらかっこいい人なんです?」

「そうね、見た目はまあまあだけど、一言で言うなら馬鹿ね。それも大馬鹿」

「えっ?」

 旦那を馬鹿だと言うアリサの答えに、なのはは戸惑い、そして躊躇いがちに尋ねた。

「えと、もしかして旦那さんのこと嫌いなんですか?」

「嫌いな訳ないじゃない。嫌いだったら結婚なんかしないわよ。それに一応、命の恩人だしね。強いし、頼りにはなるわ。抜けてるところはあるけど、その辺は私がフォローすればいいし。ああ、けど、あの鈍感というか朴念仁なところはちょっと、何とかしてほしいから。けど、時々、熱烈な所を見せたりもしてくれるから、その辺もまっ、いいかな」

 文句を言いながら惚気の混じった台詞を聞かされる。何だかんだでアリサとその旦那との夫婦仲はいいらしかった。しかし恋愛に積極的でないことが原因ではあるが、一人身のなのはとしては惚気話を聞かされるのは色々と辛いものがある。愛想笑いを浮かべながら、彼女の話を聞き続けるなのは。その時、そこでアリサの話を遮るものが居た。だが、それはなのはにとって決してありがたいものではなかった。

「そこの美人なお二人さん、俺と一緒にもっと面白い所いかないかい?」

 近づいてきたのは軽薄そうな男。所謂ナンパである。二人共、こう言ったように声をかけられる経験は少なく、アリサはそれを興味の無さそうな目で見るとあしらいの言葉を投げつけた。

「私は既婚者よ。んで、この子は私と話して楽しんでるの。邪魔しないでくれる」

「そんな連れないこと言わないでさ」

 アリサのその言葉を受けず、男の一人がアリサの腕を掴もうとする。だが男の手がアリサの体を触れる前に何時の間にか現れた別の男の手がその男の手を掴む。そして男は笑顔を浮かべながら掴んだ腕を捻る。

「その女は一応おれんのだからな。悪いが無闇に触れさせられないよ」

「いててててて!!!」

 腕を捻られた男が悲鳴を上げる。そして腕を捻りあげた方の男の方をアリサはじと目で睨みつけて言った。

「一応って何よ。一応って」

「ありゃ、てっきりもの扱いしたことに文句言われるかと思った」

「まあ、それもムカつくけどね。ところで、焔はどうしたのよ?一緒に温泉入ってたんでしょ?」

 そこで、笑顔を浮かべた男の後ろからその男に良く似た3歳位の子供がでてきて、アリサに駆け寄り抱きつく。アリサは抱き止め、笑顔でその頭を撫でた。そして男は少し不満そうな表情をする。

「おいおい、お前が勝手に居なくなっちゃうから二人で探してたんだぜ」

「あんた怠け者だからね。温泉でたらどうせ、部屋で寝転がってると思ったのよ。ところで、何時まで腕を極めてるの?」

「おっと」

 そこで、男は初めて気付いたようにずっと捻り続けて居た男の手を話す。解放された男は慌てて逃げ出して行った。その男の姿が見えなくなると、突然の展開に呆気に取られ続けたなのはの方を向いてアリサは言った。

「無視して話し続けちゃって悪かったわね。丁度いい機会だから紹介するわ。私の夫の雷(アズマ)・ローウェルと息子の焔(ホムラ)・ローウェルよ」

 
(後書き)
今回出て来た原作のキャラ、書かないと言いながら書いてしまいました。
感想で話がでて、懐かしくなって原作読んだら書きたくなってしまったと言うのが理由です。
この男なら○○の一族だけど○○の名字は背負ってないから、最強じゃないし、いいかなーっと。
アリサと夫婦にしたのは下記のような発想が思い浮かんだからです。

○○の一族の男はツンデレが好き
→ツンデレと言えばアリサ
→作者がアリサ・バニングスよりアリサ・ローウェルの方が好きだし、救済したい

後、実はもう一つあるんですが、その理由は伏せときます。
賛否両論あるかもしれませんが、発表したことに後悔はしません(多分)



[19760] 番外編:学園都市に武術の達人を放りこんでみた(浜面編・前編)(とある魔術×LIVE A LIVE)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/08/22 16:15
 学園都市、都市の外よりも10年以上進んだ科学力を持つと言われる特異な都市。その都市の特異性の一つとして超能力者と言われる存在がある。
 一定のカリキュラムに沿って脳を開発することによって、前世紀には空想の産物と呼ばれたテレパシーやサイコキネシスと言ったような超能力を実際に使えるようになるのだ。ただ、それは全員が同じ結果を得ると言う訳では無い。個人差によって差異があり、軍隊に匹敵、場合によってはそれ以上の力を持つレベル5と呼ばれるものから、微弱で何の役にも立たない力しか目覚めることができなかったり、全く能力の使えるようにならなかったレベル0と呼ばれるものまで存在する。
 そしてレベル0と認定されたものは落ちこぼれとして扱われる。そしてそう言った“落ちこぼれ”を狙った超能力者による犯罪と言うものが学園都市には存在する。強盗、レイプ、傷害、そして快楽殺人。勿論、そう言った行為は犯罪に当たり、そう言った事をする能力者は全体から見れば一部でしかない。しかしその一部が起きる確率は交通事故よりは高く、遭遇した場合、多くのレベル0の無能力者は能力者に全く対抗することができないという現実がある。
 そこで、スキルアウトと呼ばれる無能力者の中でも所謂、不良と呼ばれるような素行の悪い者達をまとめ上げ、そう言った心無い能力者から無能力者を守る集団、実はこの集団名も単なる無能力者の不良とは別の意味でスキルアウトと言うのが少々ややっこしいのだが、ともかくそう言った集団『スキルアウト』を作り上げた男が居た。それが、駒場利徳と呼ばれる男である。
 彼はレベル0、正真正銘の無能力者であったが、その戦闘力はレベル5の超能力者に匹敵すると言われていた。しかし、今回の話はそんな彼の話では無い。彼の右腕と呼ばれる“浜面仕上”と言う男の話である。







「はあ、なんで俺がこんなことしなけりゃならないんだか」

 浜面仕上、彼は今街の見回りをしていた。いや、させられていたという方が正確である。彼は元々単なる不良で別に駒場のように無能力者を守るだとかそんな高い志など持っている訳ではなかった。まあ、弱者を喰い物にするような真似は元々していなかったが。ある時、駒場に負けたことがきっかけでスキルアウトの一員に入れられ、更に彼が駒場に継ぐ実力者であったことと、妙な人望があったことから、あれよあれよと言う間に組織のNO.2として認識されてしまったのである。
 そして妙な所で責任感があると言うか、真面目と言うか、お人好しな所のある彼はなんだかんだと言いながら無能力者を心無い能力者から守るという組織の役割をしっかりとこなしているのだった。

「仕方ないじゃん。お前さんは英雄なんだからな。それとも投げ捨てて駒場にぶっ飛ばされる方を選ぶかね?」

「ぐっ」

 彼に同行していた、彼の親友にしてスキルアウトのNo.3、駒場の左腕と呼ばれる男、半蔵の言葉に浜面が呻く。超能力者相手に立ちまわる内に何時の間にか彼の名前は知れ渡り、一部では彼を英雄視するものすら現れてきていた。その結果、彼はますます今の立場を放りだせなくなっていたのである。

「ま、いい加減諦めるんだな」

「ぐっ、しかし、英雄扱いされているってのに何で俺には女が寄って来ないんだ!?」

 そこで怒りの矛先を別の方向に向ける浜面。彼は彼女居ない歴イコール年齢である。不良やアウトローと言うのは結構もてるイメージがあるが、この学園都市に置いて、スキルアウトは正真正面の落ちこぼれ、女性と言うのは案外シビアなので出来ない男には寄って来ないのだ。

「まっ、英雄っても所詮、表舞台に立てる立場じゃないしな」

「だったら、駒場の奴はどうなんだ!? あいつには美人の彼女に居るし、年下にも好かれてるじゃねえか!?」

 駒場には恋人がいる。それはもうとんでもなく美人の。更に襲われている所を助けた年下の少女がしょっちゅうくっついていたり、可愛い妹に好かれていたり、傍目にはプチハーレム状態であった。その突っ込みに対し、半蔵は少し考えて答えた。

「そりゃまあ、人徳じゃないか? いや、お前も人徳はあるな。うん、まあ、お前の人徳は男限定なんだろう」

「そんな人徳欲しくねえ!!!!!」

 魂の叫びをあげる浜面。それをさらりと流す半蔵。するとそこで半蔵の携帯電話が鳴り響いた。そこで半蔵は一旦足を止め、浜面に断りを入れると携帯を取り通話を始める。するとその表情が真剣なものになった。

「……他の見回りの奴等が能力者と交戦になったらしい。ちょっと応援に行ってくるわ」

「おいおい、大丈夫かよ。俺もついてった方がいいか?」

「いや、そこまで大した相手じゃないみたいだからな。お前はこの辺の見回りをつづけてくれよ」

 半蔵の言葉に心配する浜面だったが、半蔵に特に気負った様子は無い。それを見て彼は任せることに決めた。しかし、直ぐにこの決断を後悔することになる。ここでついて行っておけば、“自分”が面倒に巻き込まれることはなかったと。

「わかった。じゃ、気をつけてな」

半蔵を見送り、見回りを再開した浜面。そして、彼は路地を曲がった所で目撃した。道に倒れる少女とそれを足下にする男の姿を。

「……SMの野外プレイとかじゃないよな?」

 あり得ないと思いつつも、一人になった途端に起きた、このあまりのタイミングの悪さに浜面は思わず尋ねた。SMプレイにしては、少女はあまりにも傷を負い過ぎていているように見える。彼はその手のプレイに別に詳しい訳ではないが、それでも雑誌とか18歳未満お断りのゲーム等から、SMプレイに使うろうそくは火傷を負わない低温のものを使用するだとか、その手のプレイが痛みを与えつつも必要以上に相手を傷つけないものであると言ったことを聞いた事があった。ただ、もしかしたら、そう言った枠にはまらない超過激なプレイと言った可能性を期待するが、やはりそんな筈は無いようである。
 男は浜面に気付くと、その問いに答えることなく、問答無用で衝撃波のようなものを放ってくる。

「うおっ!?」

 不可視の衝撃波が地面にぶつかり、アスファルトをえぐる。しかし、先程までその場に居た浜面は殺気を感じ取り、それを紙一重で回避していた。自分の攻撃を避けられたことで驚いた顔をする男。一方、浜面の方はそれで相手が超能力者であることを知る。そしてSMプレイである可能性もなくなった。プレイを見られたからと言って、いきなり目撃者を殺そうとしてくる奴は幾らなんでも居ないだろう。いや、もしかしたら居るかもしれないが、普通はいない。とにかく、これで男の行動が何らかの犯罪行為であることはほぼ確定だった。その事実に浜面は思わずぼやく。

「どうしてなんだろうな? どうして俺らばっか何時もこうなるんだろうな? ほんとにマジで人徳なのか!? だから、そんな人徳はいらねえって言ってるだろうが!!」

 見回り時に浜面が揉め事に巻き込まれる確率は他のメンバーと比べて高い。正確に言えば見回り時以外も何度か巻き込まれている。学園都市の犯罪発生率は高いが、それでもスラムレベルに頻繁に犯罪が起きている訳では無い。誰かの作為的な仕業、あるいは運命の女神に好かれているか嫌われているとしか思えない位の確率だった。

「なんなんだ、てめえは?」

 いきなり攻撃を仕掛けてきた男は、いきなり大声で叫び出した浜面に対し、怪しいものを見たと言うような表情を浮かべる。しかし例え浜面が何者であるにしても、どの道目撃者を生かして置く気はないのか、男は一拍置くと、再度衝撃波を放ってきた。浜面はそれを再び殺気をよんで回避すると、覚悟を決めるしかないと浜面決断する。

「くそ、やるしかないのか!? 喰らえ、シマリス脚!!」

 そして反撃を仕掛ける。足に力を込めると十数メートルあった距離を一飛びで詰め、能力者の男に向かって蹴りを放った。しかし、その一撃は見えない壁によって阻まれ、男に届くことはなかった。

「くそ!!」

 舌打ちする浜面。超能力者相手に勝つ一番の方法は相手が能力を活用してくる前に一気に倒してしまうことである。超能力者と言っても体は生身なので、一部の反則的な能力者以外ならまともに攻撃を当てられれば無能力者でも超能力者を倒せる。武術によって鍛えた常人を超えた身体能力を生かした先程の一撃はそう言った意味で効果的な奇襲であったが、それが防がれたようで相手に警戒をさせてしまったようである。こうなっては、後は実力で打倒するしかない。
 とはいえ、先程の一撃に収穫がなかった訳では無かった。先程まで撃って来ていた衝撃波と今、攻撃を防いで見せた壁、そこから相手の能力について察することができていた。

(どうもサイコキネシス系っぽいな。攻撃の時は気体か液体をぶつけるみたいな感じで、防御の時は圧縮した個体って感じか?)

 学園都市の生徒は基本的にエリートである。そこで落ちこぼれたものも多いが、少なくとも元はエリートだ。科学や超能力についてはそれなり程度の知識は持ち合わせている。そこから浜面は相手の男の能力を推測してみせた。

(とりあえず、壁が壊せるかどうかから試してみるか)

「竜虎両破腕!!」

 両手を叩きつけるようにして、手持ちの技の中で一番破壊力のある一撃を放つ。不可視の壁とぶつかり、激しい音を立てるが壁は健在のようであった。そして破壊できなかった壁は技の勢いが無くなったところで勝手に消える。恐らくは男が解除したのだろう。支えがなくなり、一瞬バランスを崩しそうになる浜面。そして、そこで消えた壁の代わりに衝撃波が飛んできた。

「ぐっ」

 バランスを崩しかけたところに放たれたその攻撃は流石に避けきれず、浜面は腕を交差させ防御することで対抗する。骨が軽くきしみ、肉の表面が避けるが、それほど深刻でも無い。そして衝撃波が治まった所で、再び反撃に移った。

「山猿拳!!」

 猿の動きを模した変則的で高速な機動の拳。壁を破壊できないのなら、壁の無い所から攻めてみようとし、まず相手にむかって突っ込み、壁に阻まれたところで、大きくサイドステップを踏んで軌道を変え別の所から攻める。しかし、そこにも不可視の壁があり阻まれてしまう。仕方無しに更に横飛びをする浜面。その時、彼は足元にあった石ころを勢いよく蹴りあげてしまった。

「いて!」

 その石ころが壁にあたり、反射して、偶然にも男の額にあたる。怒りの表情を浮かべる男。しかし、そんな男の表情よりも、浜面はあることに気付きそれが気になっていた。

(あの石が通った所、さっき壁があったところだよな?)

 蹴りあげた石が通り過ぎたのは浜面がサイドステップをする前に攻撃を仕掛けたのとほぼ同じ位置。それはつまり、壁は広範囲に展開されている訳ではなく、こちらの動きに合わせて展開し直されているということである。

(こっちの攻撃を防ぐだけなら、広く張った方が有利な筈だ。って、ことはあまり広くは展開できないってことか)

 そこから彼は一つのことを推測し、もう一つ推測したことがあった。それを確かめる方法は無いが、当たっている可能性は高いと考える。そしてその推測が正しければある方法で男を打倒できる可能性が高い。しかし、そこには一つ大きな欠点があった。

(こっちもかなり痛い目に合わなくちゃならねえってことなんだよな……)

 考えて逃げたくなる。実際逃げることもできる。駒場も自分を犠牲にしてまで、人を救えとまでは言わないだろうからそこには何の問題も無い。しかし、その場合、男の後ろで転がっている少女がどうなるかわからない。

(くそっ!!)

 自分の知らない所で被害にあう人間を気にする程、浜面は善人では無い。しかし、見てしまったからには見捨てられない。そうして再度覚悟を決め、彼はふとあることを思い出した。

(そう言えば、あのじじいと出会った時もこんな感じだったか)

 彼が彼の武術師匠と出会った時のことを。



(後書き)
読者様のアイディアを使わせていただいた番外編です。今回はなのは世界でなく禁書世界なんで文章もちょっと禁書っぽい感じで書いてみました。全然そうできていないかもしれませんが。

PS.今更ですが、レイプ未遂とか作中で結構でてきたり、今回はSMプレイって単語を連発してますがこの程度ならR15とか付けなくても大丈夫ですよね?



[19760] 番外編:学園都市に武術の達人を放りこんでみた(浜面編・後編)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/18 23:50
 浜面が学園都市に来たのは彼がまだ、中学の頃、その頃の彼はまだ不良ではなく、夢や希望に満ちた少年だった。しかし学園都市に来て直ぐに来て直ぐにその希望は撃ち砕かれることになる。彼には学園都市エリートの象徴たる力、超能力の才能が無いことが判明したのだ。それはつまり落ちこぼれの烙印を押されたのと同じことである。
超能力が無くても他の分野で己を磨けばいい、そういう考え方もあるだろう。しかし、超能力者というのはその能力を扱うために、能力と一緒に演算能力、つまり理数系の能力が大幅に向上する。
 文系の能力は関係ないが、科学の研究都市たる学園都市において学生に求められるのはまず何より理系の能力。勿論、無能力者でも、真面目に暮らしているものも大勢居るし、必死に努力したりしてそれなりの立場を手にしたものも居る。
 しかしこの頃の浜面はなまじ意欲に溢れていたことと、妙なところでプライドが強かったために、無能力者と言う“底辺”に甘んじることができず、またそこから這い上がろうとする気概も持ち合わせてはいなかった。その結果、不良化し、悪い仲間達とつるみ、自分達よりも弱い相手に力を振るうことで自らの自己顕示欲を満たし、“底辺”以下に落ちてしまった訳である。
 だが、調子に乗って暴れるものには大概、その報いが訪れるものだ。ある時、能力者に喧嘩を売ってしまい、しかもその相手がすこぶる達の悪い相手だったという状況に遭遇してしまったのであった。









「うっ、ぐっ……」

「たく、てめえら、屑の癖に調子に乗ってんじゃねえよ」

「うぎゃああああ!!!!」

 浜面の耳に仲間の悲鳴が入る。彼らが絡んだ男二人、それは共にレベル3の能力者で、それぞれがパイロキネシス(発火能力)と重力操作の能力を持ち合わせていた。今の悲鳴は男の発火能力によって仲間の掌が焼かれたところである。その痛みは火のついた煙草を十数本まとめて押しつけられたようなものだろう。あまりの痛みに仲間は手を抑え、地面を転がりまわっている。

「うわっ、だせえ」

 その姿を見て嘲笑する男達。浜面と一緒に二人に対し絡んだ、三人の仲間達はそれを恐怖の目で見ている。次は自分達がやられるのではないかと恐れているのだ。彼等の目に既に反抗の意志は無く、その気持ちは従順に脅えながら死刑執行待つ受刑者達にも近かった。

(くそったれ!!)

 そんな中、浜面だけはまだ心が完全には折れていなかった。他の仲間達は骨を折られる等の重傷を負っていたが、彼は運よく比較的に軽傷だったと言うのもある。とはいえ、彼にしても男達に反撃してやろうなどと言う気概までは既に持ち合わせていなかった。なんせ、五人がかりで挑んで、あっという間にやられてしまったのだ。一人なら不意打ちを仕掛ければもしかしたらという希望も持てるが、二人相手ではどう考えても勝ち目は無い。
 だから彼の心の中にあるのは逃げること。幸い、ここらは曲がりくねった場所の多い路地裏で男達の不意をつき、後はスタートダッシュに成功しさえすれば、逃げ切れる可能性はそれなりに高い。
 一度逃げてしまえば、体勢を立て直し復讐してやることもできる、浜面はそう考えるが、それは彼が自らのプライドを守るために考えた偽りの動機だった。今、ここから逃げ出せば、彼は自分自身を納得させるために、適当な理由をつけて、二度と男達に関わろうとすることはないだろう。完全には折れていなくても、彼の心も既に折れかけているのだ。逃げてしまえば、再び立ち向かうことなどできなくなる。

「さてと、二度とこんなことをしないよう、きっちり思い知らせてやるか」

 そこで浜面にとって好機がやってくる。男達の注意が仲間達の方に向けられ、浜面に対する視線が外れたのだ。その瞬間、浜面は勢いよく立ちあがり、そのまま、一気に走り出そうとした。仲間は当然、見捨てることになるが、実のところ彼等はお互い出会って1ヶ月もたたない浅い縁に過ぎなかった。故に見捨てたらところで対して良心も痛まない。

(くそっ、その筈だったのによ!!)

 なのにその足は男達から逃げる方向ではなく、男達に向かっていた。そして浜面の仲間の一人に能力をぶつけようとしていたパイロキネシスの使い手の男を思いっきり殴りつける。不意打ちを喰らって吹っ飛ぶ男。更にもう一発殴ろうとしたところで、彼は全身に重りを付けられたような感触を味わった。

「この野郎。屑の癖にいい度胸してるじゃねえか!!」

 重力操作できる方の男が浜面の周りの重力を2倍にしたのだ。つまり浜面は今、自分と同じ体重の人物をいきなり背負わされたようなものである。いや、正確には更にそこに2倍の大気圧が加わる。当然まともに立っていられる筈もなく、その場に倒れ込む浜面。重くなった大気に息を吸うことも苦しくなる。

「よくもやってくれやがったな!!」

 浜面の拳を受けた男が立ちあがり、殴られた仕返しとばかりに彼を蹴りつけた。

「ぐわっ」

重力により威力の強化されたその蹴りは、まるで頑丈で太い木材を思いっきり叩きつけられた衝撃を浜面に与え、彼に悲鳴をあげさせた。しかし男は手を緩めない。更に重力操作の能力を持つ男も加わり、2倍の重力を維持したまま、二人は何度も彼を蹴りつける。意識がとびそうな痛みを受けながら、浜面は口を開いた。

「おい、お前等、いいから逃げろ。運がよければ一人位……」

 別に自分を犠牲にしても仲間を助けようなどと考えた訳では無い。仲間を助けようとしたのは事実だが、そこまで潔い考え方などできなかった。ただ、このままでは自分の行為がまるっきり無駄死にと同じというのはあまりに悔しいと感じたのだ。しかし、その言葉が男達の癪に障ってしまった。

「屑の癖にかっこつけてんじゃねえよ!!」 

 今まで以上に力を込めた全力の蹴りを放つ。しかし、その蹴りは第3者によって受け止められた。

「これ、それ以上やると死んでしまうぞ」

 何時の間にかその場に居た老人。それが男の蹴りを受け止めた者の正体だった。つい先程までいなかった筈の存在に男達は訝しむが、浜面を蹴るのに夢中になっていたので、接近に気付かなくても不思議は無いと、あまり気にせずにその老人を怒鳴りつけた。二倍の重力で加速していた男の蹴りを老人が受け止めたと言う不自然に気付くことなく。

「うるせえ!! 関係無い奴は引っこんでろ!!」

 叫ぶと共に男は脅しつけるように老人の直ぐ目の間に炎を出してみせる。それに対し、老人はそれをまるで気にしないかのように平然とした態度を見せた。

「ふむ、いかんのう」

 その態度が興奮で理性の緩くなっていた男を暴走させた。男は老人に向かって殴りかかる。そして老人はその拳を軽々と受け止めると見せた。そして男の目を真っ直ぐに見て言い放つ。
 
「お主達は少し、傷つけられるものの痛みを知るべきじゃな」

 言葉と同時に老人の拳が男の胸に叩きつけられていた。その一撃を受けただけで男は呼吸困難に陥る。そしてそこに更に老人の飛び蹴りが見舞われた。それにより男の意識は断ち切られ、昏倒させられる。その光景にもう一人の能力者も、いやその場に居た全員が目を丸くした。

「それとお主、他者に無闇に喧嘩を吹っ掛けるのは感心せんが、仲間のために立ち向かおうとするのは立派じゃったぞ」

 そんな中、老人は浜面に視線をやって褒める。その言葉に対し、浜面は反論しようとして、途中でその言葉の示すところに気付いた。

「べ、別にそんな訳じゃ……って、もしかして、あんた最初から見てたのかよ!?」

「うむ、元々はお主達の自業自得じゃからな。特に激しくなりすぎなければ手を出す気はなかったが。流石に度が過ぎて居ると思うたのでな」

 悪びれず答える老人に浜面は何と言っていいのかわからない。自分達が甚振られていることころを見物されていた訳だが、老人の言うことは正論なので反論もしづらい。そして、その時、唐突に彼の体が軽くなる。かかり続けていた2倍の重力が消えたのだ。

「む、むぅ」

「じ、じいさん!?」

 そして浜面は苦しそうな表情をする老人を見て気付いた。自分にかけられていた重力が今は老人にかけられていることを。老人の力を見て、重力操作出来る男の方が老人を脅威に感じ、その能力の対象を移したのであろう。その事に気付いた彼は思いっきり叫んだ。

「おい、馬鹿やめろ、死んじまうぞ!?」

 若い自分ですらきついものを老人が受けたら、そう思い何とか能力者の男を止めようとする。だがそこで老人がにこりと笑った。

「わしを心配するか。やはりお主、根はそう悪い奴ではないの」

「おい、じいさん、そんなこと言ってる場合じゃあ……」

 そこで浜面は気づく。老人は立って答って言葉を発していた。そう立っているのだ。突然、高い重力を浴びせかけられても倒れる事無く、表情は確かに苦しそうではあるが、先程までの自分に比べれば遥かに余裕があることに。

「新山拳究極奥義……」
 
 そしてその次の瞬間、浜面は見た高重力を跳ね除ける程の圧倒的パワーとその中を目で捕らえきれぬ程の早さで動く老人の姿を。

「旋牙連山拳!!!」










 老人が能力者の二人を倒した後、その強さにほれ込んで浜面は老人に弟子入りを申し込んだ。老人はそれを何度も断ったが、浜面は決して諦めず、とうとう最後には老人を根負けさせたのである。その後も平坦ではなかった。修行は厳しく、何度も逃げ出そうかとも思った。しかしそれでも踏ん張り彼は修行を続けた。
 そしてそんな彼にある日、彼の師匠となった老人、心山拳の老師はあることを告げる。

「仕上よ。はっきり言えばお主にはあまり才能が無い。しかし、お主には一つ何よりも大事なものが備わっている」

「うわっ、本当にはっきり言ってくれるな、くそじじい。んで、俺にある大事なものってなんだよ?」

 師匠の言葉に薄々気づいていたとは言え、自分の不出来さを実感し、落ち込みかける浜面。しかし、一つだけあると言う自分の優れた点について尋ねてみる。

「敵わずとも仲間を守るために立ち向かっていったお主の強さ、そして今日まで、逃げ出さなかった強さ。それは肉体的な強さよりも大切なもの、つまり……心じゃよ」

 その言葉が告げられてから2年の月日が流れ、そして今。








(あんときゃ、俺はなんにもできなかったが……)

 老師と出会った時、その時の彼では体を張っても仲間を守ることも能力者に勝つこともできなかった。けれど、今は違う。才能が無いなりに努力して強くなっている。後は老師の認めた心の強さを生かす、つまり体を張りさえすれば、少なくとも勝機は見える所にまで辿りついている。

「今度はそっちからきな!!」

 浜面は前に出ず挑発する。盾を一々消してから張り直していたことからして、男の能力は多重展開できないものと推察ができていた。そして浜面の攻撃に対し、男は常に壁を生み出すことで対処してきていた。しかし壁ではなく、衝撃の方をぶつけることでこちらを妨害すれば、攻撃を防ぐばかりでなく、同時に浜面にダメージを与えることもできる筈である。それをしなかった理由として考えられるのは一つしかない。

(ようするに、衝撃の方は壁程強固じゃないんだろ!?)

 壁を破れないのならば対抗手段は一つ。サイコキネシスの攻撃を突っ切って相手をぶん殴る。そのために挑発したのだ。とは言え、いきなりそんな態度に出た浜面に対し、男も当然の如く警戒をしめし、能力を使って来ずに構える。

「どうした、怖気づいたのかよ」

 そこで浜面は手を変えることにした。懐から拳銃を取り出したのだ。彼の基本戦術は武術だが、状況によっては武器も使う。また、拳銃と言う分かりやすい暴力は脅しにも向いていたので、常に携帯をしている武器だった。

「なら、こっちから行くぜ」

 拳銃を撃つ。当然、盾で防がれるが、左右に動きながら発砲し、その壁を抜けようとする。しかし、壁は抜けられない。それでも引き金を引き続ける浜面。だが、そこで引き金を引いても弾が発射されなくなる。

「!!」

 弾切れである。それを好機と見た男が反撃に移る。そして浜面はその殺気を感じ取った。

(かかった!!)

 それは全て最初から彼の狙い通りであった。最初から拳銃で仕留める気などなく、わざと隙を作ることで、相手に攻撃をしかけさせたのだ。能力者の男が能力を放つ直前に、前に跳び出す。

「!?」

 その行動に動揺する男。しかし今更止められず、男はサイコキネシスを放った。そして浜面は勢いを緩めずに突っ込む。そして洪水に飲み込まれるような感触と体中に走る痛みを無視し、突っ切ってみせた。

「うおおおお!!!!」

 そして衝撃波を抜けた先、驚愕する能力者の男の顔面に浜面の拳が突き刺さるのだった。








「うー、いてえ」

 折れた肋骨を抑えながら、気絶した男の方を無視し、浜面は少女に向かって近づき様子を確認する。気絶しているようだが、息はしているし、それが乱れたような様子も無い。とりあえずは無事なようだった。

「おい、あんた大丈夫か?」

 少女を揺すって声をかけようとした。すると少女は一瞬、目を開くがまた直ぐに閉じてしまう。そこでもう一度声をかけようとするが、しかしその瞬間、浜面は恐ろしい程の殺気を感じ、瞬間的に立ちあがると後ろを振り返った。

「あんたがタレントって奴?」

 浜面が振り返った先にいたのはオレンジがかった茶髪で、長い髪をした少女。大人っぽい雰囲気で、美少女と言っていいだろう。しかし、今、浜面にはそんなことを気にしている余裕はなかった。何せ、先程から感じているその殺気の正体はその少女から放たれているのだから。

「他所の奴等がうちのグループメンバーに手を出すってのは、要するに私達に、てか私に喧嘩売ってるってことだよね?」

 浜面は彼女の言う『タレント』と言うのが学園都市の抱える裏の仕事を担う少数精鋭の非公式部隊の一つであることも、先程、ぶちのめした男がそのチームの一員であることも、そして助けた少女が同じく非公式部隊の一つ『アイテム』のメンバー滝壺理后であり、上層部に居る人間の思惑の違いから『アイテム』と敵対することになった『タレント』が戦闘力は低いが、チームにとって有用な能力を持つ滝壺を狙ったことも知らなかった。
 しかし、話の流れから、自分が少女を襲ったと勘違いされていることは何となく気付き、慌てて弁解しようとした。ただし、それは既に遅かったが。

「ちょ、ちょっと待て!!」

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い」

 その後のことは浜面にとって一生思い出したくない恐ろしい体験だったが、何とか生き延びるのだった。







(ふと思いついたおまけ)
<もし、師匠がレイ・クウゴだったら>

 浜面を蹴る男を止めたのは一人の女だった。チャイナ服のような服を来ていて、頬に傷がある。飾りっ気はまるでないがなかなかの美女であったその女はあっという間に能力者である男二人を倒してみせた。
女が能力者達を倒して見せた後、その強さにひかれた浜面は弟子入りを申し込んだ。女は少しだけ迷うような仕草を見せた後、ただ一つだけ警告をし、それを承諾した。

「言っとくけどあたいの修行は甘くないよ」

 女の言葉通り、修行は苛烈を極めた。それを逃げ出さなかった理由は二つ。一つは彼女の不器用な優しさ。普段は厳しくても、浜面が怪我や病気で体調を崩したりした時には、手料理を振る舞ったり必死に看病をしたりと面倒を見てくれた。また、彼が何かを悩んでいる時には、荒れていた頃の、今の彼女にとっては恥ずかしい過去を明かしてまで、彼を励ましてくれたりした。逃げ出すことはそんな彼女の優しさを裏切るような気がしたのである。そして彼が逃げ出さなかったもう一つの理由、それはもっと単純である。

(逃げられるかよ!!)

 浜面は目の前の超能力者を前にして吠える。ここで少女を見捨てるようでは、“あの女”を守ることなど一生出来る訳がない、そう考えるからこそ逃げる訳にはいかない。自分よりも強い武術の師匠。何の因果かそんな女に惚れてしまった彼は、己の更に高めるために目の前の傷害に向かって挑むのだった。


(後書き)
浜面編終了。次は一方通行編です。

PS.おまけのレイ・クウゴ編。姉弟子としてでるとして予想した方も居るかと思いますが、見ての通り、本編のパラレル・ワールドなおまけで師匠キャラとして登場させました。(ちなみにおまけで無い方の学園都市には彼女は存在しません)
浜面君が彼女に惚れていますが、彼女居ない中学生の男子が年上の美人(周りに女扱いされてないって話でしたので、本当に美人かどうかわかりませんがそうだと信じています)と二人っきりでしょっちゅう過ごしていたら普通そうなるでしょ?なりますよね?



[19760] 年表(一部改訂(9/12))+武闘一課設定
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/12 20:29
注意:この先、盛大なネタバレを含みますので、本編をまだ見て居ない人は本編を見た後で読んでください。
※9/12に梁山泊三達人の年齢を若干変更、および外伝8と9、10を時系列に追加しました。武闘一課の人数を少し変更しました。



 外伝の時系列がバラバラですので時間軸を整理してSTSのスタート時を0年として年表にまとめてみました。
まだ、未公開のエピソードなどは内容を伏せてありますが、南斗の使い手の正体だけばらしていたりします。
原作の設定は出来る限り調べて書きましたが、矛盾しているところがあれば指摘いただくとありがたいです。





[年表([ ]内主要キャラの年齢。ただし、若返ったキャラは肉体年齢)]

<17年前>
第9世界マルドゥークに御神流一同が現れる(未公開エピソード)

<14年前>
亀仙人とヤンが出会う(管理世界に達人を放りこんでみた)
[亀仙人(130歳) ヤン(17歳)]

<13年前>
亀仙人とライが出会う(管理世界を達人が暴れまわっているそうです)
第9世界マルドゥークに比古清十郎が現れる(未公開エピソード)
[ライ(19歳)]

<12年前>
亀仙人、諸国漫遊中にメイリンと出会う(未公開エピソード)
[メイリン(300歳前後)]

<11年前>
南斗白鷺拳のシュウ、息子のシバと共に第7管理世界ナックに現れる(永遠に未公開)
第9世界マルドゥークに波紋使い二人が現れる(未公開エピソード)
第11世界テンプルに達人達が現れる(未公開エピソード)
東方不敗とゼファ-が出会う(受け継がれる流派東方不敗(前編))
[シュウ(27歳) シバ(12歳) 東方不敗(38歳) ゼファ-(20歳)] 

<10年前>
ジャギ第7世界ナックに現れる(極悪の華の散る時)
レジアス、亀仙人にと出会う(実は管理世界に放りこまれたのは武術の達人“達”だった)
PT事件(リリカルなのは無印)
ギンガとスバル、ナカジマ夫妻に引き取られる(原作設定エピソード)
闇の書事件(リリカルなのはA’S)
[ジャキ(18歳)レジアス(40代) クイント(20代)]

<8年前>
武闘一課設立(タイトルは作中に)
クロノ、タオパイパイと交戦する(執務官と殺し屋)
なのは、撃墜される(思わぬ出会い)
静馬、家族と再会する(家族の再会)
なのは、御神流相手の修行を始める(家族の和解、その第一歩)
※なのはの修行は御神流を修めるものではなく、戦闘における応用の効く基本的なノウハウや、武術家相手の戦い方を磨くためのものです
[タオパイパイ(120歳) 比古清十郎(35歳)静馬(35歳) ツェぺリ(42歳)]

<7年前>
御神の剣士、黒傘と戦う(高町の家・死闘)
なのは、3人の武術の達人と戦う(3達人と白い魔導師)
[3達人(原作と同じ位)]

<6年前>
ティアナ、高槻巌と出会う(『水心』ティアナ・ランスター)
[ティアナ(10歳)ティーダ(21歳) 高槻巌(50代)]

<5年前>
キャロ、ヴォルテールを制する(受け継がれる流派東方不敗(後編))
エリオ、新梁山泊に住むことになる(三達人大暴れ 管理局○○支部最後の日?)
[長老(40歳)新宮隼人(38歳)タクマ・サカザキ(35歳)]

<4年前>
ティーダ・ランスター管理局地上本部で教導官の職につく(『水心』ティアナ・ランスター)
エリオ、梁山泊の居候から内弟子に変わる(未公開エピソード)

<2年前>
梁山泊にミゲール・アルベインとマリア・アルベインが加わる(未公開エピソード)
ミゲール・アルベインがエリオの師匠として加わる(未公開エピソード)

<半年前>
ティアナ、魔導師Aランク昇格試験に合格する


※こっから下は本編に活用するかどうかもわからないどうでもいい設定です
暇な方のみよかったら見てみてください

[武闘一課設定]

一番隊
特色:隊長であるライは武闘一課の総隊長でもあり、全体的に能力の高い者が選ばれるエリート部隊。総人数は12人

二番隊
特色:隊長は非魔導師で武闘一課結成の最初期メンバーの一人。結成時のライを上回る戦闘力を持つ。メンバーの全員が非魔導師なのが特色。総人数は15人

三番隊
特色:隊長は元Eランク魔導師で武闘一課結成の最初期メンバー。隊員は非魔導師と低ランク魔導師が混ざっている。総人数は13人

四番隊
特色:「タイトルは作中に」でレジアスにぶん殴られたBランクの魔導師が隊長。元々彼は多少奢った所があれど使命感の強い人物だったのだが、管理局本局へ行き高ランク魔導師との力の差に挫折し、鬱屈して捻くれてしまっていた。レジアスに殴られて正気に戻り、非魔導師にも関わらずそこまで強くなったレジアスに感銘を受け弟子入り。二番隊隊員となり、その後、誰よりも努力し、四番隊隊長に就任する。四番隊は彼と同じように魔導師にも関わらず、武術を学ぶことで更に力を高めようとした者達によって結成されているため、隊員が平均して強く一番隊に匹敵する戦力。総人数は12人

五番隊
特色:中期につくられた部隊。中堅クラスを中心にまとめられており、ここの能力はそれほどでもないが、人数で補うと言った形の部隊。隊長は二番隊の元隊員で非魔導師。総人数は20人

六番隊
特色:南斗白鷺拳の後継者の息子あるシバが隊長。隊員も全て南斗白鷺拳の使い手で構成されている。総人数は12人

七番隊
特色:亀仙流と南斗白鷺拳の混合部隊。隊長は途中まで亀仙流を学び基礎習得後、南斗白鷺拳を習得。総人数は14人

八番隊
特色:後期につくられた部隊。隊長は三番隊の元隊員。全部隊の中で最も戦力に劣る。総人数12人

九番隊
特色:武術を学んだ魔導師ではなく、純粋な魔導師と武術家の両方を入れた実験部隊。隊長は武術家だが副隊長は魔導師が務める。総人数は武術家と魔導師が5人ずつで計10名

※三番隊と七番隊はクラナガン以外の都市に派遣中



[19760] キャラ一覧表(キャラ追加(9/13))
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/09/13 22:13
※作品数が多くなって、元ネタが一部分からないという意見がありましたので、簡単にキャラ設定をまとめてみました。ただ、こんな簡単な説明ではそれぞれのキャラの魅力は語り尽くせないので興味を持った方がいましたら、是非原作を読んでみてください。

※高町士郎・恭也・美由希について9/13に追加しました

<亀仙人(武天老師)>
(登場作品)
ドラゴンボール
(紹介)
武術の神様と言われ、300歳を超える。主人公である孫悟空の二番目の師匠(最初の師匠は悟空のじいちゃんで、亀仙人の一番弟子である孫悟飯)
(作中でした実際にした凄いこと)
かめはめ波で月を吹っ飛ばした

<桃白白(タオパイパイ)>
(登場作品)
ドラゴンボール
(紹介)
亀仙人のライバルである鶴仙人の弟で世界一の殺し屋であったが、主人公である悟空に敗れた
(作中で実際にした凄いこと)
舌だけで頭蓋骨を貫き、人間を殺して見せた

<東方不敗(マスターアジア)>
(登場作品)
Gガンダム
(紹介)
世界のパワーバランスを裏から取り、その被害を抑えていた集団シャッフル同盟のリーダーであるキング・オブ・ハートの先代にして、世界の覇者を決める代理戦争であるガンダムファイトの前大会優勝者。主人公であるドモンの師匠
(作中で実際にした凄いこと)
ドモンと二人ではあるが、パンチでビルを数十メートルの高さにまで吹っ飛ばした

<ミケロ・チャリオット>
(登場作品)
Gガンダム
(紹介)
第13回ガンダムファイトのネオイタリア代表ガンダムファイター。終盤ではデビルガンダム細胞に寄生され、デビルガンダム四天王の一人として登場し、驚異的な力を見せる。狡猾な性格をした男。
(作中でした凄いこと)
蹴りでビルを切り裂いて見せた。

<北斗ジャキ>
(登場作品)
北斗の拳、北斗の拳外伝『極悪の華』
(紹介)
北斗の拳の主人公であるケンシロウの義理の兄で主人公同様、北斗神拳の使い手だが後継者争いに敗れた男。師であるゴウケンの養子
(作中で実際にした凄いこと)
北斗の奥義の一つである北斗羅漢撃を完璧とは言えないが使って見せた

<アミバ>
(登場作品)
北斗の拳
(紹介)
南斗水鳥拳の使い手であるが、後継者争いに敗れた男。天才を自称し、実際、模倣に関してはかなりのレベル。北斗神拳を模倣し、その使い手であり、ケンシロウの義理の兄のトキの名を語ったりした
(作中でした凄いこと)
動揺していたとはいえケンシロウに「その拳の冴え、紛れも無くトキ」と言わせた

<比古清十郎>
(登場作品)
るろうに剣心
(紹介)
飛天御剣流の継承者。主人公である剣心の師匠
(作中で実際にした凄いこと)
20キロ以上の重さでかつ、筋肉を逆さ釣る装備を付けたまま身長10メートルは超えてそうな大男を刀一本で瞬殺した

<石動雷十太>
(登場作品)
るろうに剣心
(紹介)
殺人剣こそ剣術の本道とし、古流剣術の復興を唱えた男。しかし実際には人を殺したことはなかった
(作中で実際にした凄いこと)
竹刀で道場の床を切り裂き、真剣ならダイヤモンドさえも切り裂けると主人公である剣心に言わせた

<ウィル・A・ツェペリ>
(登場作品)
ジョジョの奇妙な冒険
(紹介)
吸血鬼した父親を目撃したことで、吸血鬼と戦うことを己の定めと決意し、吸血鬼相手に有効な波紋の力を身につける。一部主人公であるジョナサンの師匠
(作中で実際にした凄いこと)
カエルにパンチを放ち、カエルを傷つけずにその下の石だけを割って見せた

<高槻巌>
(登場作品)
ARMS
(紹介)
元最強の傭兵で、「静かなる狼(サイレントウルフ)」の異名で名を馳せ、米国の諜報機関が総がかりで敗北したほどの凄腕の人物。主人公である高槻涼の養父
(作中で実際にした凄いこと)
前兆が一切存在しない空間の断裂による攻撃を、殺気だけで読み取って回避して見せた

<新宮十三>
(登場作品)
ARMS
(紹介)
新宮流古武術の使い手。普通の人間で老人にも関わらず、サイボーグ相手に無双する強さ。主人公の仲間である新宮隼人の祖父
(作中で実際にした凄いこと)
作中最強候補の一人である高槻巌に若い頃の彼には自分でも勝てないと言わせた

<コウ・カルナギ>
(登場作品)
ARMS
(紹介)
突然変異によって生まれた異常な身体能力を持つ人間。
(作中で実際にした凄いこと)
大型トラックを軽々とふっ飛ばした

<ボー・ブランシュ>
(登場作品)
SPRIGGAN
(紹介)
ナチスの残党の一因。多少偏った考え方ではあるが、彼なりの高い志を持っていたり間抜けだったりと憎めない男。薬物強化により、初登場時には主人公である御見苗優が見きれない程素早い動きを見せる。その後、敗れたことにより、薬物を捨て、修行によって更なる力を得る。しかし描写だと弱くなったように見えるため、本当に強くなったのかどうかは不明(周りがインフレした可能性も有り)
最終的には共通の敵に対し、優と共闘するが、その戦いで死亡する。
(作中で実際にした凄いこと)
数人に分身して見える程の高速の動きを見せた。


<タクマ・サカザキ>
(登場作品)
龍虎の拳シリーズ、キング・オブ・ファイターズシリーズ
(紹介)
極限流空手師範。竜虎の拳の主人公であるリョウ・サカザキの父親
(作中で実際にした凄いこと)
衛星レーザーに打ち勝ち、さらに落としてみせた

<風林寺隼人>
(登場作品)
史上最強の弟子ケンイチ
(紹介)
強すぎて表世界に馴染めない“達人”ばかりが集まる場所“梁山泊”の長老。主人公であるケンイチの師匠の一人
(作中で実際にした凄いこと)
主人公であるケンイチと孫の美羽の二人掛かりを相手どってを0.0002%(50万分の一)の力で圧倒した

<呂塞五郎兵衛>
(登場作品)
史上最強の弟子ケンイチ
(紹介)
報奨を求めて年齢を偽り、年齢制限のある大会の出場した男。世間では達人クラスの一人と言われていたが、風林寺隼人に瞬殺された
(作中で実際にした凄いこと)
数メートル以上飛びあがっての飛び蹴りを使った

<御神静馬>
(登場作品)
とらいあんぐるハート3(リリカルなのはスピンアウト元)
(紹介)
なのはの父である士郎の妹の美沙斗の夫。つまりなのはの義理の叔父。実はなのはの姉である美由希の実の父でもある(なのはと美由希は血縁上は実は従姉妹)爆弾テロによって死亡している。
(作中で実際にした凄いこと)
原作時に既に死亡しているため、具体的な描写は無し。しかし近代兵器をフル装備した兵士100人に匹敵すると言われる御神の剣士の中でも最強と言われている。

<高町士郎>
(登場作品)
リリカルなのは・とらいあんぐるハート3リリカルおもちゃ箱
(紹介)
なのはの父で御神流という小太刀二刀に暗器を組み合わせたの古流剣術の使い手。ボディーガード業を営んでいたが、仕事中の事故(=テロ)によって、原典(とらいあんぐるハート3)では死亡し、リリカルなのはでは重傷を負っている(事故にあった時期も微妙に異なる)
(作中で実際にした凄いこと)
マシンガンを装備し、薬物強化した相手を倒した

<高町恭也>
(登場作品)
リリカルなのは・とらいあんぐるハート3(以下とらハ3)
(紹介)
なのはの腹違いの兄(桃子の実子ではない)で初登場のとらハ3、その続編のOVA、世界観の違うリリカルなのはと全て性格が異なる。
とらハ3では朴訥で老生した感のある少年だったが、OVAではかなり明るくなっており、リリカルなのはでは普通の好青年になっている。その他、戦闘力や家族へのスタンスなどもかなりの違いが感じられる。
御神流と言う古流剣術を習っており、とらハ3では幼い頃の訓練のしすぎで右膝に致命的な後遺症を追っていたが、OVAでは手術によりかなり回復している。リリカルなのはではどうなっているのか不明だが、このSSでは怪我は負っていないことになっている。
(作中で実際にした凄いこと)
普通ならかわせないタイミングの刀の一撃を回避し、そのまま相手が気づかない間に背後に回り込んだ(とらハ3)
戦闘力を有したアンドロイド4体に勝利した(とらハ3)
マシンガンの弾丸を軽々と回避した(OVA)
コンクリートの床や壁を踏みぬいた(OVA)
「奥義の極み・閃」を使い、一瞬で10メートル位の距離を詰めた(OVA)

<高町美由希>
リリカルなのは・とらいあんぐるハート3(以下とらハ3)
(紹介)
なのはの姉であるが、実際の血縁関係は従姉妹で静馬と美沙斗の娘。恭也と違いこちらはどの作品でもあまり性格その他の変化が見られない。ただし、とらハ3の美由希は料理おんちだが、リリカルなのはの美由希は普通にできるという違いがあるらしい。
恭也同様、御神流を学んでおり、恭也より才能がある。しかし戦闘時の優秀さとは裏腹に日常時は何故か異常にドジな文学少女。
(作中で実際にした凄いこと)
「奥義の極み・閃」を使った(とらハ3)
ジャンプして3メートル位の高さにある天井に着地した(OVA)
コンクリートの壁を踏みぬいた(OVA)
コンクリートの柵を粉砕するような破壊力を持った相手の剣を刀で受け止めた(OVA)

<心山拳老師>
(登場作品)
LIVE A LIVE
(紹介)
本名は不明、心山拳(デフォルト名)という武術の継承者。原作では年を取り衰えているが、このSSでは10歳程若返っており、強くなっている。三人の弟子を取っていたが、内二人が殺されてしまう(元ネタがゲームなのでプレイヤーの選択で死亡する弟子が変化)心山拳の心得と技の全てを弟子に託し、弟子の敵討ちを果たし、死亡した。
(作中で実際にした凄いこと)
RPGで描写が少ない上、年を取っているので実際にどの位の強さなのかいまいち不明。若い頃は大岩を割れたっぽい。
(余談)
実は、レイ・クウガとサモ・ハッカ(このSSでは死亡したことになっている弟子二人)は老師と共に生き返っており、浜面の兄弟子と姉弟子という設定です。

<レイ・クウガ>
(登場作品)
LIVE A LIVE
(紹介)
元盗賊で心山拳の老師に敗れたことで、彼に弟子入りした。


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