高木マニア堂

＜2007年11月＝東スポ・プロレス格闘技サイト・プロレスマニア堂より＞


「ＡＬＷＡＹＳ　続・三丁目の夕日」の公開にちなんで、昭和30年代回顧本やテレビ番組をよく目にする。

　当然、力道山のプロレスも話題となるのだが、その中でよく笑い話にされているのが、当時、インターバルのリング清掃に使われていた三菱の電気掃除機「風神」だ。言うまでもなく三菱電機はプロレス中継の大スポンサー。宣伝の意味合いが大きい。だが、多くの芸人や識者と言われる人が発する「電気掃除機でリングを掃除して何の意味があるの？」みたいな論調には断固として「ＮＯ！」と叫びたい。

　リングの清掃には電気掃除機が最も有効、理想的なのである。絶対に。

　リングに上がったり、直接触れた経験のある人なら分かるはずだが、リングを覆うキャンバスは非常に不潔だ。その汚れやゴミの主成分は汗（汗は乾くとサラサラの粉になる。夏場など練習後のアマレスマットをそのまま放置して、次の日に掃除するとラーメンどんぶり一杯分程度の“汗粉”がたまる）、ツバ、痰、鼻水など各種の体液。そして頭髪、陰毛、ワキ毛、スネ毛、さらに血液…。あとは空気中を舞うホコリも付着してくる。まさに雑菌の温床だ。喘息の持病がある人なら呼吸すら苦しいはず。

　一般的に男子プロレスのリングを覆うのは、目の粗いキャンバス地。普通の人なら、受け身一発ですぐに皮膚が擦り切れるほどゴワゴワだ（女子は伝統的にアマレス同様のビニールコーティングされたキャンバスを使用）。目の粗いキャンバス地にはホコリや汗粉が染み込みやすい。それらが乾燥した後にホウキで掃いたとしても、ホコリや汗粉を単に右から左に移動させているに過ぎない。レスラーが受け身をとった際に舞い散る煙は、それら不潔成分の結晶なのだ。

　だからリングの清掃には、まずは電気掃除機でホコリや各種の毛、そして乾いた汗粉を吸い込むことが必要。その後に、薄めたクレゾール液などを染み込ませた雑巾で表面を水ぶきするのが理想的といえる。

　新日本プロレスでは故・橋本真也さんが選手会長の時代に、電気掃除機を再導入したことがある。だが若手選手がそれを使用していると「ラクしてんじゃねえ！」などと説教したり、時に制裁を加える先輩選手がいたりして、いつしかホウキに逆戻りしてしまったのだとか…。

　マット界…いやマットのリアル浄化に必要なのは「風神」の復活だ！