子供の居た家庭は冷え切っていた。
それだけならば、不幸の謳い文句としては陳腐に過ぎる。
普通の物語と趣きを異なっていたところは、両親の愛情が子供には注がれていた事だ。
父親と母親の間に会話がなかろうと、二親は必ず子供に話しかけた。その手で抱き、温もりを伝えた。慈しみの眼でもって成長を見守った。
幼稚園の運動会。母親がお弁当を持って応援にやってきた。父親は反対側からハンディカムを手に、我が子の活躍を録画するに勤しんだ。
話しかけてくるのは、何時も片親ずつだった。
生まれて何度目かの誕生日。午前中に父親に手を引かれ、遊園地に連れて行ってもらった。しかし午後には母親と手を繋ぎ、動物園へと移動していた。
家族三人で行動したことは、一度も無かった。
両親が一緒に映り、仲良くしている姿を、子供の目は捉えたことがない。
だから子供は、両親を“そういうもの”だと無意識に刷り込んだ。
子供が小学校に上がるとき、両親は離婚する。
理由はやはり、子供だった。この家庭は、情操教育に悪いと。二人を繋ぎとめていたのが子供なら、切り離したのも子供だった。
子供は、離婚という言葉の意味を知らなかった。しかし、両親が離れて暮らすことだけは理解する。
何の感慨も抱かなかった。抱けなかった。
元々子供の中に、“父親と母親”はない。
あったのは“父親か母親か”。
両親は互いを無視し、自分と子供しか家に居ないように振舞っていた。子供にとっては、どちらかと二人で居る事のほうが正常なのだ。
子供は母親に引き取られた。
そして一年ほどの月日の後に、母親は再婚した。
不思議だった。
目の前で繰り広げられているのは、子供の知っている父親と母親の像とは、かけ離れた光景。
だから子供は訊ねた。新しい父親と母親に、何故そんなに笑い合っているのかと。
二人は揃って答える。
家族だから、と。
子供は猶も疑問を呈した。前の父親は、違うのかと。
母親も更に答える。
他人だった、と。
子供は言葉の意味を吟味する。しかし、深く考える事はしない――できない。まだ小学校に上がったばかりの年齢だ。そこまで言葉の裏を読み取る事が出来るはずも無い。
だから、出した解は極めて単純だった。
家族は仲良く出来る。
他人は仲良く出来ない。
たった、それだけ。
子供の幼い心は柔軟だった。柔軟なだけに始末が悪かった。
これまで短い也に歩んだ人生から学び取った経験が示す、細かな矛盾や些細な疑問も納得のいくように結びつけ、飲み干し、人との関係を“そういうもの”と意識下に条件付けた。
犬派の人の猫との生活
――非常に曖昧な夢を見た。
曖昧すぎて、起きたら雲散霧消してしまっている。
なんだか生涯における指針を掴み取ったような気もする。が、気のせいだろう。自分はそこまで達観できてはいない。
流はそこまで分析をして、足元にもぞふわとした物体が触れている事に気がついた。
むず、と掴んでみると、柔らかく心地良い毛並みの感触。
「ニィ?」
四本足の一本だけを掴まれている三毛猫が、眼をシパシパさせて鳴く。
「……ミィ。また潜り込んだのか」
声に苦いものが混じるのは仕方がないと思う。腹の上に乗られるよりは寝苦しくないが、もう既に夏。毛皮がくっついていれば、暑い事に変わりは無い。
自室と廊下を隔てるドアを見ると、ほんの少しだけ隙間が空いていた。相変わらず忍び込むのが上手い猫である。
布団から起き上がり、軽く肩を鳴らすついでに欠伸を一回。すると丁度ミィも、くぁ~っ!! と身体を伸ばしていたところだった。
まずは洗顔と一階に移動すると、ミィがナァナァと鳴きながらついてくる。餌をねだっているのか、甘えたいのか。
……両方だろうな。
流は思う。せめて夜鳴きは減らしてくれないだろうか、と。外に音が漏れるような泣き声の大きさではないが、同じ家の人間が起きるには十分すぎる。
流石に台所に入れるわけにはいかず、その前でシャットダウン。ガラス張りの扉をカリカリと引っかいていたミィだが、少しすると二階へと昇っていく音が聞こえた。
更にフライパンに投下した卵の黄身が固まる位の時間が経過し、今度は階段を降る足音が響く。
「……おはよ、兄」
「おはよう。瑞、ここでミィ離すなよ」
「んー」
こしこしと目を擦り、妹の瑞が起きてきた。両の腕でミィを抱きかかえている。
「ミィ目覚まし、相変わらず強烈そうだな」
「これ、商品にならないかな。猫目覚まし」
「もう猫の鳴き声がアラーム音の目覚ましくらいあるだろ」
「猫の何かを訴えるような鳴き声と、扉を引っかく音がセットになってればいいと思うの。きっと誰でも飛び起きるよね?」
……それで起きるのは、かなりの猫好きだけじゃないのか。
思いは胸に留め、曖昧に頷いておく。少なくとも瑞は確実に起きるだろう。そんな相手に正論を言っても効果は無い。
流は少し首を伸ばし、後ろを見た。現れたのは妹の瑞だけで、弟の姿が見えなかったからだ。
「陸は?」
「先に顔洗ってる」
「なんで女の子のお前が先じゃないんだよ……」
「寝起きにミィがいたからもふもふしてたら、先に使われちゃった」
「ああ、そう」
諦めと呆れを織り交ぜた笑顔でもって、流は瑞の言を受け入れた。
陸と入れ違いに、瑞が洗面所で一応の身支度を整え終わった頃、朝食の準備が完了する。
機嫌を損ねた理由は、流の膝の上に座っているミィだ。五月雨家の居間には、ちゃぶ台が設置されている。故に皆座布団に座り食事を取るのだが、
「なんでミィは何時も兄の膝の上に座るのかな? わたしはいつでも受け入れカモンなのに」
昨日の夕飯のおかずの残りを摘みながら、瑞が不満げに言う。
流も、齧るトーストの欠片がミィに落ちないよう気をつけ、返す。
「単に広くて座り心地いいからじゃないのか?」
「わたしのふとももの方がぷにぷにだもん! 絶対気持ちいいって!」
「瑞、それ女の子が大声で主張していいの?」
「ミィがわたしのところに来てくれるなら、このくらい別に問題なし」
だが悲しい事に、猫に人の言葉はわからない。ミィは瑞の言葉なんて聞くこともなく、流の膝の上で身体を丸め、軽く寝入っている。
「だったらもうミィを抱いて寝ろ。今日だって目が覚めたらミィが俺の寝床に侵入しててなぁ」
「……なにそれ自慢? 自分はミィに懐かれてますよーって自慢ですか!? けっ!!」
やさぐれる瑞。この妹はミィのことになると、人格が変わりすぎる。
テレビでは、今日も一日暑くなると放送している。流は二重にげんなりとし、
「別に事実を言ってるだけだ。ただ不思議なのは、扉閉めたと思ってたんだけど、開いてたんだよ」
「ミィが開けたのよ、きっと」
「猫だぞ? 障子とか襖ならともかく、どうやってノブを回すんだよ」
「ミィは賢いもん。それくらいできるよ?」
この飼い主馬鹿は、どうすれば現実を見るだろうか。
真剣に悩む流の横。ずずっと茶を啜っていた陸が、
「それ僕」
さらりと暴露する。涼しい顔を変えない辺り、いい性格をしている。
「四時くらいにミィがナァナァ鳴いてたから、兄さんの部屋のドア開けておいたよ」
「おいこら、なんで自分のところに連れて行かない」
「だって暑いじゃない」
「陸の馬鹿! なんでわたしの部屋にミィを招かないのよー!!」
「女の子の部屋の扉、勝手に開けていいわけがないでしょ……」
疲れたように、陸が呟いた。
この家では、各人の部屋に鍵はつけられていない。
ちゃんと部屋に入る際にはノックをするし、マナーを日頃から気をつけるというのが一点。更に最も大きく占めている理由として、
他の人が覗ける状況なんだから、無様を晒したくなければ部屋の整理整頓くらいきちっとしやがれ。
という意味が込められている。
この教育はきちりと成果を発揮し、三人とも部屋は綺麗なものだ。
「兄と陸に見られて困るようなもの、隠してるし」
「寝顔は? 見られてもいいの?」
「何を今更。朝誰に起こしてもらってると思ってるのよ」
威張るなよ。
流と陸は、心が合わさったことを、目を合わせて確認。ついで、何時もの事だからなぁ、と苦笑い。
ご馳走様と手を合わせ、食べ終わった流が、強引に話を纏めた。
「というわけで、今日からミィは瑞の部屋で寝る事になりました。決定」
「え、兄いいの? わーい!!」
「嫌がらなければ、という前提は守れよ」
「……むぅ」
「陸? どうした」
「いや、夜の間ずっとミィをとられるかと思うと、それはそれで癪な気が」
「……もう好きにしろ、お前ら」
流が問題を投げ出した頃、渦中にいるはずの猫はといえば。
我関せぬ。
ミィは偶に耳をピクピクとさせ、流の膝の上で寝ているだけだった。
今は全国的に夏期休暇である。
雲ひとつない炎天の空の下。駅までの道を、流は一人歩く。
家に居ても暇なので、夕飯の買い物がてら、隣町で遊ぼうと思ったのだ。
が。
瑞はミィにかまけ、陸は暑くて出歩きたくないと断られた。誘った友達は一人として課題が終わっておらず、つかまらなかった。
熱せられたアスファルトが、陽炎を昇らせる坂道を昇っていく。
……夏休みも残り三日だというのに、薄情な怠け者たちめ。
ちっ、と舌打ちし、
「あ、すみません」
課題を見せてくれ、と言われても無視してやろうと心に決めた。
……まぁ、本屋で新刊でも見繕うか。
「えっと、すみません!! ちょっと待ってください!!」
予定の変更をしたところで、む、と流は眉の形を変えた。先程よりも声が近づいてきている。
もしや自分に声をかけてきているのか、と思い振り返ると、見知らぬ小柄な少年が小走りに駆け寄ってきた。流が足を止めたのを見、ああ、よかったと顔を綻ばせている。
「すみません、ちょっとお尋ねしたい事があるんですけど」
「ああ、はい。なんでしょうか?」
流は柔らかく返事をした。
こういうとき、威圧的に出てしまうと、相手が萎縮してよけいに時間がかかってしまうものだ。手間を掛けずに済ませるには、友好的にでるのが一番だと流は思っている。
いざこざを起こすのは面倒だ。こういう他人とは暇つぶしがてら、適当に話を合わせて切り上げればいい。
……訪問販売とかじゃ、なさそうだしな。
もしもそうなら、にこやかに爽やかに『間に合ってます』を連打するつもりだった。
しかし道の真ん中で声をかけてきたこと、困った声の口調などから、道を訊きたいのではないかと予想していた。
「実は、ちょっと駅までの道を教えてもらいたくて」
恥ずかしいのか、頬を掻き、眼を上に泳がせながら少年が言う。思い浮かべて比べてみると、瑞よりも小柄かもしれない。
「ああ、かまいませんよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
感激する少年を、行く所でしたから、と先導を開始する。
道すがら少年は、感謝の言葉からどうして迷ったのかの事情までを勝手に話す。
流は適当に頷きながら、街路樹が作る影の多い道を選び、歩いていった。
最寄の駅は、寂れているほどではないにしろ、発展しているとは言い難い。
コンビニが三軒にスーパーが二軒。あとはペットショップやら喫茶店がぽつぽつと連ねるだけだ。
「本当に助かりました、すみません」
「いえ、ついででしたから」
中央の改札で頭を下げる少年に、手をひらひらと振る。
既に流の心は少年から離れ、本屋に向かっていた。
それじゃあこれで、と声をかけ、流が少年と別れようとした時、
「煉」
少年の背後から、少女らしき声音が聞こえた。短く、苛立たし気に呼ぶ声。
反応し振り返った少年――煉は、暢気に返事をする。
「あ、姉さん。やっほー」
「やっほー、じゃない! どこまで行っていたのよ!」
びっと指を突きつけ、少女が煉に詰め寄った。姉弟らしいだけあって、この子も小柄だ。瑞といい勝負だろう。
「ええっと……ちょっと散歩でそこいらに?」
「散歩なら帰れる距離にしておきなさい!」
どうやら姉のようだが、流に姉弟のいざこざを最後まで見る義理はない。
素早く離れようとしたのだが、その動きを見て、少女が流に視線を向ける。
「で、あんたは?」
「迷子を届けただけだ」
「ふぅん……それはどうも」
胡乱気に身、面倒そうに言う少女。
……礼儀知らずだな。
指摘はしない。どうせ偶然会っただけの他人。揉めるほうが面倒と考えた。
流は相手にしないで、今度こそその場から離れる。
「あの、ありがとうございました!」
「一応感謝してあげるわ!」
流は背後に向け、一回だけ手を振った。
流は一月以上ぶりに制服に袖を通す。昨日クリーニングから受け取った制服は、ぱりっとしていて着心地がいい。
下駄箱の上に寝そべり、小窓から外を覗いてたミィを軽く撫でる。
がらりと玄関を開け、
「鍵とミィの餌、任せたからな」
「はーい!」
今日も陸に起こされた瑞が、元気に返事をする。
結局、瑞はミィと共に寝ていない。理由は、
「ミィの寝息、臭い」
……そりゃ肉食だし、口臭は凄いだろうな。
兄弟は、揃って同じ見解を出した。
見慣れた駅までの道を歩き、人が人を押しつぶそうとする電車に揺られて三駅分。そこから更に十分ほど木々の生い茂る山道を歩くと、流の通う学校が見えてくる。
校門から左にある、木造の旧校舎は一年用。流たち二年は、五年ほど前に造られた新校舎を使っていた。
ホールになっている中央は、吹き抜け仕様だ。横につけられている階段を昇り、流はクラスにたどり着く。
一学期の頃から座っている席に鞄を置き、友人に近づいた。
「おはよう、一斗、柳井」
「流か、おはよう」
目つきが鋭く、真面目そうな印象を受ける男子――樫樹一斗は、その印象そのままの声で挨拶を返し、
「久しぶり、五月雨。結構会わなかった気がする。最後に一斗の家で会ったの、盆くらいだったよね?」
ポニーテールの女の子――柳井莉理は、その活発そうな顔に似合う笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「ああ、そういえばそうか」
「なんで一斗の家に来なかったの?」
「溜まっていた本とか読んでたから。というか、何故俺が一斗の家に行かなかったことを知っているんだ?」
「家に居ても暇だったし、夏休み殆ど一斗の家に居たからだけど」
「……殆ど?」
うん、それが? と莉理は、心底不思議そうに首を傾げた。
「一斗」
「なんだ?」
「それでいいのか?」
「いいんじゃないか? こいつがしたいなら」
「そうか」
本人たちがいいと言っているのなら、納得するしかない。
一瞬爛れた関係なんて言葉も思い浮かんだが、納得するしかないのである。所詮恋愛なんて当人同士の問題だ。流はとやかく言うほど野暮ではない。
そのまま近況報告に移行する。
時計を見れば、HRの時間まで十分程度。会っていない間にあれをしたこれをした、時間を潰す話題には事欠かない。
近くの湖で行われた花火について莉理が目を輝かせて語ろうとしたあたりで、チャイムが鳴り響き担任が入ってきた。
クラスメイトが流も含め、蜘蛛の子を散らすように席に戻っていく。一斗と莉理は前後の席なので、莉理が前を向くだけだ。
「皆席についたな? 出席取るぞ、居ないのは――」
担任が開いている席の名前を呼び、事情を知っている者が居ないか聞いていく。開いている席が二つしかなかったこともあって、担任が出席簿を閉じるのは早かった。
全校集会が明日になったこと等の連絡事項を伝え、以上と締めくくる。
HRが終わる――
「あー、あと一つ」
――かと思いきや、担任はまだ言葉を続けていた。
「今学期から通う事になった、転校生が来ている」
聞いてた? いや、知らない。ざわりと、教室内そこかしこで密談が行われる。
担任は苦笑し、あまり騒ぐなよと注意をしてから廊下への扉を開く。
入ってきたのは、流が見覚えのある少女だった。
……煉って子の、姉だったかな。
いまだざわめく周囲を尻目に、流はぼんやりとチョークの動きを追う。
カッ!
「笹鳴音祢子君だ」
「笹鳴音祢子です。宜しくお願いします」
音祢子は深く頭を下げ、編入の挨拶をする。
ついで頭を上げて――そこで流と音祢子は眼が合った。
「あぁ……?」
「ん、どうかしたか?」
流からしてみれば、特に興味がなかったので、眼を逸らしただけだ。音祢子はそれを無視されたように感じたらしく、眉根の角度を変えた。
「……いえ、少し知っている顔を見た気がしたので」
「ほぉ。知り合いか、誰だ?」
すっ、と音祢子が指さした先は、当然の如く流だった。
クラスの視線を一身に集める中、流はきっぱりと断言する。
「そうなのか? 五月雨」
「俺は笹鳴音祢子なんて名前、今知りましたが」
「ふむ、知り合いなら学校の案内を頼もうかと思ってたんだが……いや別に知り合いでなくともいいか。五月雨、頼まれてくれるか?」
「先生、笹鳴さんは女性です。ここは同性の方が適任だと思います」
「む……それもそうだな。じゃあ委員長、任せてもいいか?」
「あ、はい!」
急に指名されたクラス委員長が、こくこくと頷く。
……面倒は避けられたようだ。
流は安堵から、ふぅ、と小さく息を吐く。その様子を見た音祢子の眼が、更に吊り上った。
「この後すぐ席替えするから、笹鳴はここに座っていてくれ」
「わかりました」
「笹鳴の自己紹介は……休憩多めに取るから、お前ら勝手に聞け。そっちの方が親交深めやすいだろ」
音祢子が教台の横にある椅子に座ったところで、HRが終わる。
一旦休憩。
言い残し、担任が教室から出て行った。
途端、
「ねぇねぇ五月雨、転校生と知り合いなの?」
興味で瞳を輝かせた莉理が詰め寄ってくる。
やはりこうなったかと、流が面倒くさそうに答える。
「聞いてなかったのか? 名前を今知ったばかりだと言っただろう」
「ああそっか」
あっさりと納得する。流は、嘘は言っていない。
しかし一緒についてきていた一斗は、さらりとその隠し事を見破った。
「名前を聞いていなかっただけで、知り合っていないわけでないんだろう?」
「あー、なるほど」
「……まぁ、三日前に顔を見たことがあったかもしれないな」
「ようするに?」
「ニ、三言言葉を交わした程度の他人だ」
「それにしては、転校生の態度が妙だった気もするが」
「俺が知ったことか。お蔭で面倒な用事押し付けられそうになったし、いい迷惑だ」
「擦り付けたくせによく言う」
「でも笹鳴さんって、可愛いよね」
言われ、流たちが音祢子の方を見ると、早速委員長が話しかけていた。周りのクラスメイトがつくる垣根から、軽く音祢子の観察を開始する。
セミロングの髪。中学生の妹と変わらないほど小柄な体躯。整った目鼻の顔立ち。柔らかそうな頬に、大きめ癖に少し吊りめな目元。
……なるほど、確かに一般的な可愛い部類に入るかも知れない。
流が頷こうとしたところ、いきなり隣の一斗の身体がぶれた。
「……いきなり何をする」
「今一斗、ちょっといやらしい眼つきになった」
「勝手な判断で抱きつくな。暑い」
引き離そうとする一斗と、抵抗する莉理。
何時ものようにじゃれているだけだろうと、流は気にしない事にした。ついでに音祢子が眼で何かを訴えているような気がしたが、気にしない事にした。
十五分の後、HRが再開する。今日は集会が無くなった代わりに、一限をHRに当てるらしい。
頭髪、制服の着こなしが乱れていないか、担任がチェックしていく。そう厳しいものではない。金髪などのあからさまなアウト以外は流してしまう程度のものだ。
それが終われば席替えである。委員長が籤を作り、前から順に引いていく。後は黒板に割り振られている数字に対応した席に移動するだけだ。
流は十四番の籤を引いた。窓際で真ん中の席である。
全員が引いたので、一斉に席に移動する。
「よろしく、一斗」
「ああ」
流を中心に、後ろは莉理、隣は一斗。ついでに前に委員長が座っていた。
と、つんつんと背中をつつかれる。
「ねぇねぇ五月雨、席変わらない? 私、一斗の隣がいい」
「お前は……あー、まぁ……」
恋人だし、変わってやるのも吝かではない。流は肯定の意を伝えようと首を捻り――そこで気がついた。
斜め後ろの人物が、おっかない目つきで睨んでくる、笹鳴音祢子であることに。
「……駄目だろ。籤で決まったんだし」
「いいじゃん、けち」
「これだけ近いんだからいいだろう?」
「寧ろこれだけ近いから一つずれているのが我慢できなかったり?」
「莉理、我慢しろ」
「……むぁい」
鶴の一声。ちょっと膨れたまま莉理が頷いた。
一段落したところで、流は体勢を元に戻す。音祢子と眼が合った気がしたが、気のせいだろう。
「ちょっとあんた」
「……」
「おいこら、聞こえてないの?」
「莉理、呼ばれてるぞ」
「いや、どう考えても私じゃないから」
「一斗、呼ばれてるぞ」
「俺でもないと思うが」
「委員長、呼ばれ――」
「五月雨とか呼ばれていたあんたよ、あんた」
名前で呼ばれては誤魔化しようがない。仕方なく、流は応じる。
「なにか?」
「あんた、煉を駅まで案内した奴よね?」
「それが?」
「やっぱりあたしのこと知ってたんじゃない! さっきなんで無視したのよ!」
「……無視?」
とんと心当たりがない。
流は首を傾げたが、それが気に障ったらしい。音祢子が表情を険しくした。
「最初に紹介された時と休憩中。こっちの視線に気がついたくせに、無視したじゃない!!」
「顔を見たことがある程度の仲に、何をしてほしいってんだ。頼るなら世話役の委員長を頼れよ」
「……っ! ああそう! 煉に道を教えてくれた親切な奴と思ってたけど、そうでもなかったみたいね!」
ふん、と鼻を鳴らし、音祢子は会話を打ち切った。
……勝手に期待されて失望されても困る。
そんな態度を取られた流は、気分を害するでもなく、ただ気性が激しい子だな、と呆気に取られるしかない。
「大変そうだな」
「ん? ああ、かもな」
一斗の声は、どことなく同情を含んでいた。
確かに関わり合いになったら大変だろう。
……まぁ、近づかなければいいか。
流は、音祢子と距離を取る事を心に決めていた。
作者「なんか気の向くまま小説書き始めてみた。ラノベの新人賞にでもだしてみっかなー」
友人N「この程度で応募とか正気かよw なにそれうけるw ――馬鹿じゃないの?」
作者「ですよねー」
友人N「まぁ、書いちゃったもんはしょうがないし、どっか投稿すれば?」
作者「どっか投稿が簡単な場所ある?」
友人N「理想郷とか」