月一でブログを書いているが、閲覧数はいつも0だ。
コメントも当然0。
これまで気にしていなかったことだ。
気になったのは、今月、七月書いた内容にコメントをよこしたのが、一人現れたからだ。
そのコメントは、ブログの内容に関係ないのだから、印象に残った。
私がブログに書く内容は、いつも「見える景色」についてだった。
文章は「私の書いている文章が見える」だ。
これまで毎月、ずっと同じことを書いていた。
ディスプレイに映る私の文字だけが、私を保つ唯一だった。
私はずっと、日の光の入らない部屋から外に出なかった。
そして誰も、私の部屋に入ることはなかった。
その私の文章に寄せられたコメントは「七月二十三日、午後三時までに、○○駅の掲示板に書かれている文字を消せ」という一文だった。
それはコメントというより、命令だった。
明日だった。
私は応じる気などなかった。
特にすることなど無かったが、その時私は、動きたくなかった。
一ヶ月くらい過ぎた。
私はブログの更新のため、パソコンの電源を入れた。
私はブログを書く前に、少しばかしネットを周るのだが、どのページも、ニュースも、前見た時から更新されていなかった。
少し不思議に思った。
おそらく、日付も動いていないのだろう。
おそらく、あの命令に従わなくては時は動かないのだろう。
しかし私は眠くなったので、少しばかし昼寝をした。
日の光の入らない部屋だから、どれくらいの時間が過ぎたのかは分からないが、たぶん百年くらいはたったと思う。
私はもう一度パソコンから外の世界を視た。
変わっていなかった。
私はあの命令に従うことにした。
この時の感情は、たぶん気まぐれだった。
気まぐれでも、気まぐれだからこそ、私の世界は変わってしまった。
黒のパーカーを着り、黒いコートを羽織り、黒いジーパンを穿き、フードを被り、黒いサングラスをかけ、マスクをし、黒い靴を履いて、私は部屋をでた。
内を、見られたくないと考えてそうしたのではなく、自然とそうしていたのだ。
私は考えなしだった。
外が暑いのを、考えていなかった。
暑い暑いと思いながらも、私は歩いた。
なのに着ているものは何も脱がなかった。
駅まで歩こうとばっかり考えていたから、そこに頭がまわらなかったのかもしれない。
半分くらい進んだあたりで、ようやく別のことに頭がまわった。
変な人だと思われるかもしれない、と。
交番が目についたからかもしれない。
だからといって特にどうこうすることはなかったが。
交番には婦警が一人いた。
規則はどうなっているか知らないが、腰まで伸びるストレートの髪をしていた。
色は、私と同じ白だった。
そういえば、なぜ私の髪は伸びないのだろう。
私の髪は、肩にも達しないショートのままだ。
だがその疑問も、すぐにどうでもよくなった。
暑かった。
駅に着いた。
ようやく着いた。
十分も歩いてないのだが、あまりの暑さに、その時間は一時間くらいに思えた。
私は、掲示板の左隅に書かれていた文章を、右手で消し、帰った。