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[20870] 誰かへの・・・
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/09/23 01:16
暑かった。

おいしかった。

いいなあ。

うるさい。

みんな死ね。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。






[20870] 一  外へ
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/08/06 00:42
 月一でブログを書いているが、閲覧数はいつも0だ。
コメントも当然0。
これまで気にしていなかったことだ。
気になったのは、今月、七月書いた内容にコメントをよこしたのが、一人現れたからだ。
そのコメントは、ブログの内容に関係ないのだから、印象に残った。

 私がブログに書く内容は、いつも「見える景色」についてだった。
文章は「私の書いている文章が見える」だ。
これまで毎月、ずっと同じことを書いていた。
ディスプレイに映る私の文字だけが、私を保つ唯一だった。
私はずっと、日の光の入らない部屋から外に出なかった。
そして誰も、私の部屋に入ることはなかった。

 その私の文章に寄せられたコメントは「七月二十三日、午後三時までに、○○駅の掲示板に書かれている文字を消せ」という一文だった。
それはコメントというより、命令だった。
明日だった。
私は応じる気などなかった。
特にすることなど無かったが、その時私は、動きたくなかった。

 一ヶ月くらい過ぎた。
私はブログの更新のため、パソコンの電源を入れた。
私はブログを書く前に、少しばかしネットを周るのだが、どのページも、ニュースも、前見た時から更新されていなかった。
少し不思議に思った。
おそらく、日付も動いていないのだろう。
おそらく、あの命令に従わなくては時は動かないのだろう。
しかし私は眠くなったので、少しばかし昼寝をした。

 日の光の入らない部屋だから、どれくらいの時間が過ぎたのかは分からないが、たぶん百年くらいはたったと思う。
私はもう一度パソコンから外の世界を視た。
変わっていなかった。
私はあの命令に従うことにした。
この時の感情は、たぶん気まぐれだった。
気まぐれでも、気まぐれだからこそ、私の世界は変わってしまった。

 黒のパーカーを着り、黒いコートを羽織り、黒いジーパンを穿き、フードを被り、黒いサングラスをかけ、マスクをし、黒い靴を履いて、私は部屋をでた。
内を、見られたくないと考えてそうしたのではなく、自然とそうしていたのだ。
私は考えなしだった。
外が暑いのを、考えていなかった。

 暑い暑いと思いながらも、私は歩いた。
なのに着ているものは何も脱がなかった。
駅まで歩こうとばっかり考えていたから、そこに頭がまわらなかったのかもしれない。
半分くらい進んだあたりで、ようやく別のことに頭がまわった。
変な人だと思われるかもしれない、と。
交番が目についたからかもしれない。
だからといって特にどうこうすることはなかったが。

 交番には婦警が一人いた。
規則はどうなっているか知らないが、腰まで伸びるストレートの髪をしていた。
色は、私と同じ白だった。
そういえば、なぜ私の髪は伸びないのだろう。
私の髪は、肩にも達しないショートのままだ。
だがその疑問も、すぐにどうでもよくなった。
暑かった。

 駅に着いた。
ようやく着いた。
十分も歩いてないのだが、あまりの暑さに、その時間は一時間くらいに思えた。
私は、掲示板の左隅に書かれていた文章を、右手で消し、帰った。







[20870] 二  喫茶店にて
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/08/06 00:46
 八月に入ったようだが、部屋は暑くもなければ、寒くもない。
暗いままだ。

 下旬に差し掛かるころ、また私に命令が来た。
内容は前回と同じ。
全部同じことと私は思ったので、私はまた外に出ることになった。

 前回、姿云々をとやかく考えていたが、あの暑さの前では、どうも面倒に思えてきた。
何か薄い服はないかと探していたら、無地の紫のワンピースを見つけた。
目立つとは思ったが、もう、面倒だった。
私は外に出た。

 交番には、前の婦警がいた。
婦警には私がどう見えていたのかは知らないが、なぜか笑顔をよこしてきた。
私は一応、頭を下げた。

 目的を果たした私は、帰りに喫茶店に立ち寄った。
アイスココアを注文した。
夫婦で経営している小さい店で、客は私を含め四人いた。
私はそこに二時間ほどいた。
その内の一時間は、ココアを飲み終えた後の、何も考えないでただ坐っている時間だった。
残りの一時間は、ちょっとした事件だった。

 事件の始まりは、一人の男性が私と相席したことから始まった。
席は他に空いているところがあるのに、私のところに来たということは、私に用があるのかと、思った。
というのは、その男は私と相席した後、一言も私に話しかけなかったのだ。
目を合わせようともしない。
一応、コーヒーは注文していた。

 ちなみに、私はその男を知っている。
モクシロ、という名だ。
私と同じ程の長さをした黒髪の、たぶん顔立ちのよい、30代の、無口の、自称エスパー。
そんなことは私にとってはどうでもいい。
私は夜までここで涼んでいたかったのだ。

 沈黙は55分程だった。
客はそいつと私だけだった。
残りの5分程に差し掛かったころ、二人の殺人者が来店した。
一人は男、一人は女。
少年と少女。
兄妹だということは知っていた。
ルキとミキ。
目的はこの男だということも知っていた。

 彼らはまず、マスターであるおじさんとおばさんを殺した。
どう殺したかは知らない。
私がそこに目を向けた時には、二人とも倒れており、首が無かった。
私は、これからこの店で涼むことはもう出来ないのかな、と思った。

 殺人者の二人は私の聞き取れない言語で、モクシロに話しかけていた、と思う。
モクシロはそれに対して応えはしなかったが、立ちあがって、彼らの方に歩を進めた。
表情は無表情。
彼らのことなど、私にとっては、関係のないことだが。

 モクシロが三歩目に到達したとき、また一人、誰か入ってきた。
あの婦警だ。
何故かわからないが、あの婦警だけ『知らない』。

 婦警が入ってきた数秒後には事件は解決していた。
私はその過程の間、空のコップの中身を眺めていたから、どんなだったのかは見てない。
本当に、どうでもよかった。
残った結果は、殺人者二人の死体と、生きた夫婦だった。

 婦警はモクシロに言った。
今まで何をしていたの、と。
モクシロは返した。何をすればよかった、と。
推測するに、彼女たちの目的は私だ。
そして、モクシロに私は視えていなかったんだろう。
婦警が私の席に指をさした頃、私は既に店を出ていた。

 本当に、ゆっくりしたかった。





[20870] 三  欲しいもの
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/08/11 16:42
 まだ、三度目だが、これはもう習慣のようになってきた。
九月の下旬になって、ちょうどいい感じに、外は涼しかった。
特に変わりのない道のりだったが、いつもの交番にはいつもの婦警はいなかった。
また、二組のカップルと、帰り道にすれ違った。
その内の一組のカップルの女の方と少し目があった。
すぐに目を反らしたけど、たぶんそのあとその女はクスクスと笑っていたと思う。
私の姿は、やっぱり目立つ。
けど、私の服はそんなに種類は無い。
買い物に行くにしても、一人だと、どうも面倒だ。

 帰りに立ち寄った喫茶店の夫婦を見ても思う。
羨ましい。
誰かがそばにいる、というのは羨ましい。
明日戦争が起きようが、明日世界が滅びようが、私が死のうが、殺されようが、あるいは私が誰かを殺そうが、私の知ったことではない。
けど、私にも欲しいものはある。金や地位はいらない。
異性。
私も昔は最近の女子にみる、中身を相手に求めているものだった。
ネットに生きていたからかな。
たぶん。
けど、少し顧みれば分かる。
言葉は男を堕落させる。
喋れば喋るほど、そいつはそいつの価値を下げる。
醜くなる。
黙っていればいいんだ。
喋る奴は馬鹿だ。
何一つ知らない癖に、語ろうとする。
この世はつまりどうだとか、自分の愛はどうだとか、君を守るだとか、気色悪い。
自分を飾ろうと必死に美化して、自分が醜くなっていくことに気付かないのか。
私が、羨ましいと思ったのは、ただ、隣に誰かいる、っていう一点だけ。
形の整った肉が、黙ってそこにいればいいのだ。
人形のようにじっと、部屋の隅で坐っていればいいんだ。
そして、私が欲しくなった時に私がそこへ行く。
それでいいんだ。

 そういう点で、モクシロは一応合格。
理由はまだ、殆ど喋ってないからだ。
年齢はたぶん向こうが結構上だが、形は整っている方だ。
肉としては十分。
ただ、あれにはたぶん婦警が付いているな。
あの時は少し喧嘩をしていたようだが、長い付き合いのようだ。
引き離すのは無理、かな。
結局私は、いつまでも一人のままなのだろうか。
いや、何を考えている。
そんなことは、どうだって良かったはずだ。
ヒトが嫌いだから、私は『ここ』にこうしているのだろう。
暑くも、寒くもなく、光の入らないこの暗い部屋が、私の最も好きな場所なのだろう。
一人の、約束された永遠の時間を貰ったってことは、贅沢は言えないってこと。
何故貰えたのか、もう思い出せないけど。
狭い部屋、低い天井、そして長い時間は、私の脳をもう壊してしまっている。

 そう考えていたら、叩かれるはずのない部屋のドアをノックするものが現れた。
出たくない。
そのノックの音はコンコンからドンドンと大きなものとなってきた。
それでも、出たくない。
早く、帰ってくれ。

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン





[20870] 四  上神静に会う
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/08/16 20:23

 ノックが止むことはなかった。
ここを見つけるのも異常だが、一ヶ月もひたすらノックできる点も、たぶん異常だ。
私はひたすら無視したが、いつまでも無視しているわけにはいかなかった。
十月の下旬、命令が来たからだ。
私は外に出るために、あのドアの向こうの相手と顔を合わせなくてはならない。
胃が痛い。
実際痛いわけではないが、あえてこの表現を使う。
扉の向こうには、一応ヒトの形をしたものがいた。
女性。
腰まで伸びる長く赤い髪以外では、まるで鏡を見ているようだった。
着ている服が私と同じような無地のワンピースで(色は白だが)、そして白い肌。
そいつは、私を見ると二コリと笑い「初めまして。上神静(うえがみしずか)です」と言った。
さらに「私も一緒に『落書き』を消しにいこうかなぁと思って」と加えてきた。
断る理由は無かった。

 外はちょっと寒かった。
薄着だったからかな。
歩いている間、寒さも気にしてなさそうな上神は、ひたすら話していた。
私は無言だった。
主に『町が物騒になっている』ということについてだった。
無差別殺人、通り魔の増加、不自然な自殺が最近相次いでいるらしい。
そんなことは、私にとってはどうだっていい。
むしろ、人口が減ってくれることは私にとってはうれしいことに近い。
外の空気が、少しは綺麗になる。
しかしこいつは、相手との距離を考えない奴だ。
ベタベタと話してきやがって。
会って数分もないぞ。
そもそも、最初っからこいつは異常だったわけだが。
そういえばいつもの交番には、またあの婦警はいなかったな。

 目的地に着いた。
「酷いこと書く人もいるわよね」上神は言った。
「一人でも多く殺せ」という一文の、どこが酷いのか。
「唯の落書きですよ」私は返した。
そういえば久しぶりに、文章を声にした気がする。
「言葉には力があるのよ」
ああ有るな。
人を堕落させる力が。
「それもあるけど、言葉は人を動かすのよ。特に無自覚な人をね」
まぁ、それもあるか。
私が動いたのは、言葉からだな。
「命令を書いたのは、あなた?」久しぶりに質問をした気がする。
「違うわ。私は知っていたから、あと興味があったからあなたについてきただけ。なんとなくよ。誰が書いたか知らない」
嘘を付いてるのはわかる。
「誰が書いたか知らない」のは絶対に嘘だ。
けど、どうだっていいことだったから、それ以上私は追及しなかった。

 帰り道、喫茶店に寄りたかったが、あそこには一人で行きたいところだったから、やっぱり行かなかった。
「今から買い物に行かない?」私はため息を抑えることが出来なかった。
「また今度」上神は苦笑いで返した。
今度、なんてあってほしくなかったが。
まぁ上神が家までついてこなかったのが、今日の唯一の救いか。
部屋に戻った私は、ベッドに倒れこみ、そのまま寝た。
私にとっては、この上なく騒がしい一日だった。

 私の見ていないことだが、上神はあとであの婦警に叱られたらしい。
何故私に言わなかったの、と。
それに対し、彼女は苦笑いで返した。







[20870] 五  暗闇に戻る
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/08/17 02:45
 私はヒトが嫌いだからここにいる。
外に、出たくなどなかったのだ。
ただ、出ない時期があまりにも長かったから、そんなことは忘れていたんだろう。

 また、いつもの感じで外に出たら、寒かった。
もうあと一週間程すれば、十二月になる時期だった。
部屋に戻ろうかと一度思ったが、やはりめんどうだったので、さっさと仕事を終わらして、そして帰ろうと思った。
今日私は、駆け足程度ではあったけど、本当に久しぶりに走った。
走ったら少しは体があったかくなると思ったが、それは間違いで、寒さは骨にまで伝わってきた。
けど、走るのはやめなかった。
交番にはいつもの婦警がいたが、こちらには気付いてないようだった。
若い男(モクシロではない)と何か話していた。
婦警は笑顔で、それは印象に残った。
寒いのもあるが、私は苛々してきた。
様々な想像が頭をよぎったからかも知れない。
幸せそうな人間を見るのが嫌だったからかもしれない。
私は走るのはやめなかった。
鬱憤のようなものをアスファルトにぶつけていた。

 仕事を終えた私は、帰りも走った。
駅で休憩もしなかったものだから、足は痛かったし、横腹も痛かっし、息も荒かった。
『私は何をしてるんだ』今更になって思った。
こんな馬鹿馬鹿しいことを、何故私は始め、そして続けているのか。
本当に馬鹿馬鹿しいと思ったからか、ますます苛々してきた。
怒りだとか、殺意に近い感情になってきた。
外は嫌だ。
私は何かにつまずいた。
顎があがって目も閉じてたものだから、それが何かも確認してない。
私は前倒れになった。
肘だとか膝だとかを擦りむいた。
その横を、二人の男女が通り過ぎた。
足を見てわかった。
以前『私を笑った方』だ。
私は、見上げ、眼を見てしまった。
思いだした。
あの眼だ。
「なにこの人」
「面白い格好してるね」
この声だ。
『これ』が嫌だったんだ。
あの眼を殺したかった。
あの口を潰したかった。
くだらないことで優越感に浸り、見下し、そして話のネタにする、そいつらのを。
そういう塵共が腐るほど、こっちにはいるんだ。
思いだした。

 私は駅へ戻った。
そして、何も書かれてない掲示板に『書いてあった文』をいくつも、殴るように書き、埋め尽くした。
そう、私なんだ。
ここに書いていたものは私だ。
呪いを、憎しみを『ここ』にしみ込ませたんだ。
思いだした。
私は涙をこぼしながら何度も何度も書いた。
どうせ田舎の駅だ。
監視カメラもない。
誰も見やしない。
駅員も寝ているさ。
私の涙は止まらなかったが、口は笑っていた。
この呪いを、世界中に伝播させるんだ。
そして、もう二度と外に出るもんか。
私は、思いだしたんだ。

 私は光の入らない部屋に戻った。
そうだ。
ここにいればいい。
そうすれば、みんな死ぬんだ。
私の世界からみんな死ぬ。
死ね。
みんな死ね。
一人でも多く死ね。
死ね。
消えてくれ、私の記憶から。

 11月23日、再び時計は止まった。

 そして。



[20870] 六  時計の針は、止まらない
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/09/23 02:21
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


そう。
いくら『外』が止まっても、私が止まらなくては意味がないんだ。
自分が憎い。
『外』に対して放っていた憎しみは、あまりにも長い時間を経て、自分に返ってきた。
あまりにも長い時間は、恐ろしいことに、私の『外』に対する思いを飽きさせていた。
そう。
飽きたんだ。

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

わかってる。
あんたなのは、とっくにわかってる。
すっかりと。
もう『ずっと』ずっとあんたはドアを叩いているね。
ドアを叩いてるだけじゃない。
数々の『説得』を私に叩きつけてきている。

「外の世界が止まったの」
「あなたが『アレ』を消さないから」
「どうか消しに行きましょう」
「私と一緒に行きましょう」
「私と一緒なら大丈夫でしょう」
「私と一緒に笑われましょう」
「私と一緒に笑いましょう」
「私と友達になりましょう」
「私と思い出を作りましょう」
「誰かと一緒ならこの世も悪くないのよ」
「私と一緒なら世界は変わるのよ」
「私があなたの世界を変えて見せます」
「私はあなたと一緒にこれからの世界を見たいの」
「みんなが永遠に止まってしまうのは嫌」
「お願い私と来て」
「このドアを開けて」
「そうだ、一緒に買い物に行きましょう」
「お洋服よ」
「アクセサリーでも」
「化粧品でも」
「どこかお食事にも行きましょう」
「最初は私がおごりますから」
「一緒に遊びましょう」
「ねぇ」
「いっぱいお話しましょう」
「ねぇ開けて」
「お願い開けて」
「そうだ若い子みたいに私たちも男をつくりましょうよ」
「まだまだ、私たち若いでしょ」
「外見なら20にもなってないわ」
「あの子たちのまねをすればあの子たちの気持も分かるわ」
「きっと楽しいわ」
「お願い開けて」
「ねえ」
「街にも行きましょう」
「一緒に都会に行きましょう」
「沢山の人に会いましょう」
「ここだときっと退屈よ」
「飽きるくらい外遊んでそれから戻ってくればいいじゃない」
「まず外よ」
「いろんな人を見ればあなたも分かるわ」
「外の大切さが」
「けど『動いてないと』だめなのよ」
「ねぇ」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」

引出しが少ないのか、殆どの時間は「開けて」だった。
ノイローゼにならなかった自分にも驚きだが、結局、時間には勝てなった。
飽きてしまった。
また、外がどうであるとかが、どうでもよくなってしまった。
その自分が憎い。
ああ。
憎い。

私はドアを開けた。
一般的には狂っているといえた彼女だが、意外と普通な笑顔で待っていた。
やつれてもいないし、眼が充血してるわけでもない。
ドアを叩いていた手も、傷ひとつなかった。

「じゃ、行きましょ」
「ええ」

外の景色は印象的だった。
雨が降っていたんだが、その雨は止まっていた。
音もなく、幻想的だった。
私は文字を消すのを躊躇った。
その景色をもう少し見ていたかった。

「なら、飽きるまで見ましょ」
「・・・そうですね」

そうした。

来月のこの時期にも、私は同じように『止め』た。
止まった雪を、飽きるまで見た。
その時私は、たぶん幸せ者だった。
時間には勝てない。














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