「まだカレンダーから消えてはいない。そして、もしコースが砂だらけだったら、そのときはキミ(ライコネン)をラリーから引っ張ってくるよ」
これは韓国GPは開催されると思うか、という記者の質問に対するフェラーリのドメニカリ代表の返答である。その瞬間、会見場はドッと笑いに包まれたが、ヨーロッパから約9000km離れた韓国では、こんな冗談を聞いている暇もなく、必死でサーキットの建設を行っている人々がいる。なぜなら、今年からF1のカレンダーに加わった韓国GPの舞台となる韓国インターナショナルサーキットが、開催(10月22日)まで1カ月を切ろうとしているにもかかわらず、いまだに完成していないからである。
F1を開催するための規約が記されている国際競技コードでは、開催90日前に予備査察が行われ、60日前の最終査察を経て、晴れて開催の運びとなる。
開催に漕ぎ着けたとしても……路面状態に疑問符が。
韓国インターナショナルサーキットは、90日前の7月下旬(写真参照)にFIAのチャーリー・ホワイティング安全委員が足を踏み入れたとき、コースにまだ舗装も敷かれておらず、ホワイティングは砂利の上を歩くしかなかったという状態だった。もちろん最終査察となった8月21日になっても、コースは完成しておらず、こけら落としとなるはずだった8月下旬の「アジアン・フェスティバル・オブ・スピード」というイベントも延期。そこでFIAは最終査察日を9月28日に再設定するという異例の処置をとって、なんとかして韓国GPを開催させる構えを見せている。
なぜサーキットの建設が遅れているのか。主催者側は「天候不順による工期の遅延」を理由に挙げているが、原因はそれだけではない。
リーマンショックに端を発した世界的な不況によって、韓国GP主催者団体の資金繰りが厳しくなったというのが本音だろう。これは昨年初開催となったアブダビも同じだった。彼らも工期が大幅に遅れて開催が危ぶまれたものの、東南アジアからの安い労働力を大量に受け入れたことと、本来同時に建設する予定だった複合施設のプロジェクトを一時休止してサーキット建設にリソースを集約して、ようやく開催にこぎつけた。しかし今回の韓国は、アブダビよりも状況は悪化している。
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筆者プロフィール
尾張正博
1964年、仙台市生まれ。93年にフリーランスとしてF1の取材を開始。98年から2001年まで、F1速報誌の「GPX」誌の編集長を務めた後、02年から再びフリーランスとしてF1グランプリを全戦カバー。グランプリ・トクシュウ(ソニー・マガジンズ)、F1速報、週刊オートスポーツ(いずれもイデア)、東京中日新聞などに寄稿。主な著書に「トヨタF1、最後の一年」(二玄社)、「F1事情通読本」(東邦出版)がある。