「民主主義と立憲主義」韓日の憲法学者が対談(上)
長谷部教授「多数決を強調し過ぎると民主主義の暴走を招く」
チョン教授「ポピュリズムの誘惑を食い止めるのが立憲主義」
ソウル大のチョン・ジョンソプ法学部長(53)と、東京大の長谷部恭男・元法科大学院長(54)という、韓日両国を代表する憲法学者が9日、ソウル大法学部の会議室で対談し、民主主義と立憲主義について意見を交わした。チョン教授は、『憲法学原論』『憲法研究』など憲法関連の著書を手掛け、全国民憲法読み運動を展開している。長谷部教授は、『憲法学のフロンティア』『憲法と平和を問い直す』などの著書を執筆したほか、杉田敦・法政大教授との共著『これが憲法だ!』が最近、韓国で翻訳出版された。長谷部教授は、北京大・ソウル大・東京大の法学部が共同主催した学術会議に出席するため、韓国を訪れた(以下、敬称略)。

- 長谷部恭男・東京大法学部教授(写真左)と、チョン・ジョンソプ・ソウル大法学部長が9日、民主主義と立憲主義をテーマに対談した。/写真=金翰秀(キム・ハンス)記者
チョン・ジョンソプ「まずは、憲法をめぐる両国の時代背景について話し合ってみましょう。韓国の場合、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の2004年、大統領に対する弾劾事件が起こったのを機に、憲法裁判所や憲法に対する関心が高まりました。遠い存在だと思われていた憲法が、“本当に生きていたんだ”と、多くの韓国国民が関心を持つようになりました。ところがその後、政治勢力が政治的問題を憲法裁判所に持ち込み、政治・権力闘争の道具と化している、という指摘があります。政治家が、憲法解釈をそれぞれ好き勝手に行う傾向もあります」
長谷部恭男「日本の国民は、憲法に対してほとんど関心がありません。一部の政治家の間で(再武装が可能なように)平和憲法を改正しようという議論が高まったことはありますが、今では沈静化しています。少し前に行われた、NHKの研究所による世論調査でも、日本国民は憲法に関する正確な知識や関心が高くない、という結果が出ました。しかしわたしは、こうした現象をただ単に悪いとは思いません。憲法に高い関心を持つ社会は、むしろ不幸な社会かもしれません」
チョン「憲法学者たちは、憲法が定める通りに実現した社会が、きちんと機能する社会だと言います。韓国は、過去の独裁時代には、憲法が国家権力を制御することが立憲主義だと見なしていました。しかしその後、民主化が成し遂げられ、金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政権を経て理念論争が激しくなる中、憲法について合理的かつ正道を歩む議論が必要になりました。民主主義と立憲主義の概念をはっきりさせる必要があります」
長谷部「17-18世紀のヨーロッパでは、宗教改革の結果として宗教戦争が起こり、大航海時代による別の文明との接触で、さまざまな世界観と価値観が衝突しました。こうした状況で、人間らしい生き方の枠を定めることが必要になった、これがすなわち立憲主義でした。言うなれば、立憲主義の基本は公と私を区別することです。互いに価値観が違っていても、憲法の理念の下、公共領域で協力し、関係を調整することです」