毎日新聞が入手した現場撮影のビデオ映像によると、中国監視船のうち1隻の船首付近には漢字で「漁政311」の船名がある。……漁業を統括する中国農業省の所属で、船体色こそ白だが、どっしりと洋上に浮かぶ姿は正に軍艦だ。
……ファイバー製の警備艇は被弾すればひとたまりもない。やむなく漁船を解放したという。中国監視船は5月15日にも拿捕漁船を解放させていた。「武装護衛艦付きの違法操業はこれが初めて」(インドネシア政府当局者)だった。
(7/26 毎日新聞 「中国:武装艦で威嚇「拿捕の漁船解放せよ」 一触即発の海」)
このときは漁業監視船の「撃つぞ」という脅迫に負け、インドネシア側がやむなく違法漁船を解放しました。もし交戦に入れば警備艇程度ではたちうちできない上、こうも強硬に脅されたのでは仕方がなかったのでしょう。
中国はこういった漁業監視船をさらに建造し、南シナ海での海洋権益を拡張しようとしています。古い軍艦の転用ばかりでなく、専門船の新造にも着手しています(読売9/17)。
中国農業省は西沙(パラセル)諸島周辺での漁業管理を強化するため、同諸島に常駐させる漁業監視船の建造に着手した。……監視船の全長は約56メートル、最高速度18ノット、航続距離2000カイリという。農業省高官は同通信に「西沙海域での漁業管理と主権保護の任務が日に日に大きくなっている」と述べた。
中国が西沙諸島に常駐監視船、実効支配強化へ : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
現在、尖閣諸島沖合いなどの東シナ海では、ここまで事態が加熱してはいません。今回の尖閣沖の事件において中国の漁業監視船はおとなしく引き上げました。しかし将来また事件があれば、軍艦に準じる武装をもった監視船の投入や、「中国漁船を解放しなければ撃つ」といった脅迫がありえることを、日本も念頭においておく必要があるでしょう。
漁船は海洋戦略の尖兵
もと外交官の茂田氏の分析によれば、今年6月のインドネシア沖の事件は「
中国が南シナ海や東シナ海で、海軍の退役艦艇を改造した漁業監視船を派遣しつつ、漁船を“先兵”として使っていることを裏付けている」とされています。また、こういった場合のやり口にはパターンがあるそうです。
中国のこういう場合のやり方には一つのパターンがあり、漁船を送り込む、その後、武装した監視船や海軍艦船を送り込むというものである。
尖閣諸島問題 - 国際情報センター - Yahoo!ブログ
そうやって段階的に、その海は中国が事実上利用している、という状態を作っていくわけです。こう書くとなんだかえらくアクドイやり口のように思われるかもしれませんが、海洋権益の拡張にはきわめて効果的な手段です。中国の権益を増やすという立場からすれば合理的、当たり前の営業活動だといえるでしょう。
実効支配の確立と、国際的なアピールが必要
まず漁船、次に漁業監視船、さらには島への上陸と、だんだんと実質的な支配を確立していくやり方は、領域紛争において効果的です。海洋政策研究財団の寺島紘士氏のブログによれば、係争地域が自国領として認められるか否かについては、その国がその領域の主権を実際に握っているかいなかが重要になるといいます。
国際裁判における領域紛争の解決においては「領域主権の継続的かつ平穏な表示は権原に値する」という見解が支配的という。国家が係争地域において実効的に展開する主権者としての活動が、先占等の領域主権の取得方式に優越する決定要素である(信山社「プラクティス国際法講義」p196)
尖閣諸島領海における中国漁船の違法操業について考える-海洋政策は今 寺島紘士ブログ
よって日本側としても尖閣諸島およびその周辺領海の実効支配を維持し、固めていくことが大事でしょう。ただし火に油を注いでも損ですから、さしあたっては違法操業を引き続き万全に取り締まれる体勢を維持することからとなるでしょう。また「尖閣諸島には領土問題が存在する」ということが国際的に認識されるだけでも、日本にとっては損です。よって中国に対してだけでなく、他国に対しても日本の立場の説明、アピールを行っていくことが望ましいといえるでしょう。
おすすめ文献

日本の国境 (新潮新書)