奈良市で22日開幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)観光相会合。訪日観光拡大を成長戦略の柱に据える政府にとって、日本の魅力をアピールする好機で、開催地に古都、奈良を選んだのもそのため。しかし、尖閣問題での“摩擦”を背景に、最大の需要先と期待する中国の代表団は同日の歓迎夕食会を欠席するなど冷ややかな態度に終始している。「中国側は自らに実害の少ない観光分野で対抗措置を打ち出しにくい日本に揺さぶりをかけている」(関係筋)との見方もあり、尖閣問題は日本の「観光立国」戦略に大きな影を落としている。【寺田剛、新宮達、井出晋平】
「1300年の歴史漂う奈良の街をしっかり楽しんでほしい」--。観光相会合の議長を務める馬淵澄夫国土交通相は初日の討議を終えた22日夕の歓迎レセプションで各国代表者に自らの地元、奈良の魅力を訴えた。しかし、この場に、祝善忠・国家観光局副局長ら中国代表団の姿は無かった。
出席者によると、本番の会合でも馬淵国交相と祝副局長の接触は「名刺交換をした程度」(出席者)といい、日本政府がもくろんだ訪日観光拡大に向けた日中当局の交流強化は空振りに終わりそうな気配だ。
それどころか中国当局は同会合に合わせたかのように、上海や北京などの旅行業者に訪日観光自粛を要請。さらに、中国国家観光局は東京都内で25、26日に開催予定の「世界旅行博2010」への参加をとりやめるなど、観光分野での交流を見合わせる動きを強めている。
景気活性化を狙いに、日本政府は7月から訪日観光ビザ(査証)発給要件を大幅緩和するなど中国人観光客の誘致拡大に乗り出したところだけに、中国当局による日本ツアー自粛要請など一連の措置は痛手だ。
観光庁によると、09年の訪日外国人数は679万人で、うち中国人が101万人。「観光立国」を目指す政府は訪日外国人数を2019年に2500万人にする目標を掲げているが、中国人観光客を呼び込めなければ、達成はおぼつかない。中国人観光客はみやげなど購買意欲も旺盛で、独立行政法人「国際観光振興機構」(通称・日本政府観光局、JNTO)によると、1人当たりの訪日時の買い物額は約7万8000円と、フランス人(4万7000円)、米国人(2万7000円)を大きく上回る。
それだけに、近年、順調に伸びてきた中国人の対日観光需要が尖閣問題をきっかけに変調すれば、関連業界への影響も大きい。ビザ緩和を機に、大手ホテルは全館で中国語放送が視聴できるシステムなどを整備。9月11日、リニューアルオープンした三越銀座店もブランド品販売拡大を狙って中国語による接客対応体制を強化するなど百貨店業界も準備をしてきたからだ。
尖閣問題が発生する前までは、現在規制されている日本の業者による中国での訪日旅行募集が12月にも試験的に解禁されるとの期待も出るなど、中国人観光客ブームへの日本の官民の期待は高かっただけに、不安は大きい。
毎日新聞 2010年9月23日 0時14分(最終更新 9月23日 11時18分)