郵便不正事件で押収したフロッピーディスク(FD)の更新日時記録を改ざんした大阪地検特捜部主任検事・前田恒彦容疑者(43)が証拠隠滅の疑いで最高検に逮捕されたが、改ざんの事実は今年1月時点で大阪地検トップにまで伝わっていたことから、最高検は大阪地検特捜部首脳をはじめとする関係者から事情聴取する。一方、ネットに詳しい関係者は、リスクの大きさとは対極のあまりにお粗末な“工作”ぶりについて、前田容疑者の真意を図りかねている。
昨年5月、前田容疑者は、厚生労働省元局長の村木厚子氏(54)=無罪確定=の元部下の上村勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=の自宅からFDを押収。約2カ月後の7月13日、村木氏から上村氏への改ざん指示の整合性を合わせる目的で、データの更新日時を「2004年6月1日」から同「6月8日」に書き換えたとされる。前田容疑者は書き換え後に捜査報告書を作成したが、FDは証拠品として公判に提出されなかった。
その後、今年1月の初公判で、村木氏が証明書の作成日時に関する検察主張と捜査報告書の食い違いに気づき、弁護側が矛盾を指摘。そのため当時、東京地検特捜部に派遣されていた前田容疑者に対し、大阪特捜の同僚らが改ざんの可能性を指摘するなど、改ざんのうわさが広がった。
2月上旬には、同僚が大坪弘道・大阪特捜部長(当時)に報告したため検事同士のトラブルに発展。前田容疑者は大坪氏に、「故意ではなく、遊んでいるうちにデータを変えてしまった」「自宅でUSBメモリに移植したデータで、日付の改ざんが可能かどうか試したつもりだった」などと報告。当時の次席検事、検事正も知るところとなった。
こうした経緯から、最高検は大阪地検が組織ぐるみで改ざんを隠蔽していた可能性もあるとみて、検事正以下関係者全員から事情を聴くとみられる。
前田容疑者は音楽プロデューサーの小室哲哉氏や小沢一郎元民主党幹事長の公設秘書の取り調べを任されるなど、大阪特捜でエースと目されていた。そんなやり手検事には似つかわしくない、あまりにも杜撰な“工作”について、東京都内のPCデータ修復会社スタッフはこうあきれる。
「データの変更日時書き換えは、『タイムスタンプ』と呼ばれるフリーソフトをインターネット上でダウンロードすれば簡単にできます。しかし、変えた『痕跡』までは消すことができず、“足が付く”恐れが高い。そのことは、少しでもパソコンを使用したことがあれば分かりそうなもの。大きなリスクを冒して行った意図的改ざんにしては、やり口があまりにも稚拙です。ひょっとして、本人が地検上層部に供述したとおり、本当に『遊んでいる』うちに書き換えてしまったのかもしれません」
いずれにしても、このFDが実際に証拠品として法廷に提出されれば、裁判官が改ざんデータを信用していた可能性は高い。たとえ「遊び」であったとしても、これで検察の威信は大きく揺らぐことになった。