さらに浮かび上がる
裏付け捜査のずさんさ
そして、逮捕から6日目、上村元係長は村木元局長の関与を認める内容の調書にサインした。ところが、特捜部はこの筋立てと矛盾する証拠を入手していた。それは、上村元係長の自宅から押収したフロッピーディスク。そこには、上村元係長が嘘の証明書を作成した際のデータが残されていた。データが最後に更新されたのは、平成16年6月1日だった。
一方、関係者の証言などから割り出すと、倉沢元会長が村木元局長に催促し、村木元局長が上村元係長に指示したのは6月8日以降とされる。つまり、フロッピーのデータは、村木元局長の指示があったとされる6月8日以降より前の6月1日に、証明書がすでにできていたことを示していたのだ。しかし、それでも特捜部は自らの筋立てを見直さなかった。
さらに、裏付け捜査のずさんさも浮かびあがった。石井一議員の証人尋問で浮上したゴルフ場での「アリバイ」について、特捜部がゴルフ場を訪れて確認したのは、証人尋問の翌日。村木元局長の逮捕から、実に9ヵ月も後だった。地検幹部はこう振り返る。
「石井議員にアリバイがあったら…ということは不安に思っていた。いま思えば、きちんと調べていなかったのは、捜査に穴があったと言わざるを得ない」
浮かび上がった捜査の問題点について、スタジオ出演した髙井康行弁護士(元東京地検特捜部検事)はこう指摘する。
「本来あってはならない捜査だ。特捜部には、人を起訴することについてもっと謙虚であることが求められる。そして、検察総体としてなぜこのような捜査がまかり通ったのか、上級庁が止めることができなかったのかを検証することが、国民の信頼を回復する道だ」
いま特捜部の捜査に国民の厳しい目が注がれている。国民の信頼に応える捜査とはどうあるべきなのかを考える上でも、今回の捜査を検察が自ら検証していくことが求められる。
(文:番組取材班)
取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
20年前、私が司法記者だった頃は、ほぼ毎日法廷で取材していました。9月10日に大阪地裁で言い渡された厚生労働省の村木厚子元局長の無罪判決、久しぶりに法廷で聞きました。
4時間近くに渡って検察の主張をことごとく退けた裁判長は、判決の最後に「犯罪の証明がない」と言い切りました。証明が不十分という事でもない。村木元局長の犯罪はそもそもなかったという判断です。特捜部の完全敗北。特捜部の取材を長く続けてきた私にとっても衝撃でした。なぜ、こうした捜査が行なわれたのか、今週はその実態に迫りました。
その詳しい内容はここでは省略しますが、今回の判決は無罪という結論にとどまらない影響を検察全体に与えたと考えています。どういうことか。
特捜部が手掛ける事件というと賄賂の受け渡しなど密室犯罪が中心です。このため関係者を取り調べて、供述調書を作成し裁判の証拠とするという捜査が普通行なわれます。厳しい取り調べで供述を引き出す能力のある検事は「割り屋」と呼ばれて尊敬されもしました。もちろん客観的な証拠も重要ですが…。