そして、5月26日に開かれた第20回公判。裁判長が、検察の調書のうちどれを採用するか判断を示した。裁判長が採用する調書を読み上げていく…、すると検察が証拠として採用するよう求めた調書43通のうち、34通が「信用性がない」等として却下された。これが決定打となり、村木元局長の無罪判決に至った。
特捜部の捜査の問題点は?
あいまいな供述を基にした筋立て
果たして、特捜部の捜査のどこに問題があったのか。特捜部が「厚生労働省の組織犯罪」という事件の構図を描くきっかけとなったのが、「凛の会」倉沢元会長の供述だった。倉沢元会長は、
「証明書は厚生労働省の50歳くらいの色白の女性課長から受け取った」
と供述。その翌日、検察官が村木元局長の写真を見せると、「この人で間違いありません」と答えたという。
捜査の流れに大きな影響を及ぼした倉沢元会長を、われわれは直撃取材した。すると彼はこう語った。
「いまだに何べん思い返しても、はっきりした(証明書の)受け渡しの状況っていうのは記憶していないんです」
「その相手が村木さんだったという記憶は?」
「そういう記憶はないですね」
「では、なぜあのような供述をしたのか?」
「ご挨拶した課長さんから受け取ったというのがごく自然だと思いますし、はっきりした記憶はないけど、そういう流れだったと思います、という風に供述したわけですね」
このあいまいな供述から、特捜部の筋立てが作られていった―――。
特捜部は、厚生労働省の組織的関与の解明に乗り出していった。去年5月には、村木元局長の部下だった上村元係長を逮捕。彼は、自分が証明書を作成したと認め、
「自分で勝手に課長印を押して、嘘の証明書を作った」
と供述した。しかし、特捜部はこれを疑い、他の関係者の供述などから、村木元局長が上村元係長に指示した経緯を次のように考えた。
◎倉沢元会長は国会議員に口添えを頼んだものの、なかなか証明書が発行されなかったため、村木元局長に直接証明書の発行を依頼した。
◎これを受けて、村木元局長は上村元係長に証明書を作るよう直接指示した。
特捜部は、この筋立てを念頭に上村元係長を追及。取り調べ室でこう迫ったという。
「関係者の意見を総合するのが一番合理的じゃないか。多数決のようなものだ」(上村元係長の被疑者ノートから)