“小沢封じ”を狙う菅首相の興味深い人脈〜週刊ダイヤモンド連載「後藤謙次 永田町ライヴ!」(上)
ダイヤモンド・オンライン 9月17日(金)13時23分配信
民主党の2大潮流が激突した代表選が9月14日に実施され、首相の菅直人が前幹事長の小沢一郎を大差で破って再選を果たした。選挙前には、結果のいかんを問わず挙党態勢を貫くとしていた両者だったが、その行方にはすでに暗雲が漂い始めている。(文/政治コラムニスト、後藤謙次)
「お約束したとおりノーサイドで、党全員が力を発揮できる挙党態勢で頑張り抜く」
9月14日午後3時40分過ぎ、民主党最大の実力者、小沢一郎との激闘を制した首相の菅直人は、小沢と同じ壇上に並び勝利宣言を行った。
しかし、菅が声高に叫んだ「挙党態勢」には早くも疑問符が付いている。それほど2週間にわたる代表選を通じて生じた亀裂は、あまりに大きく深かった。
代表選に備えて菅陣営は、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ13階、同ホテルで2番目に大きなスイートルームに選対本部を構えた。
ただし、選対に詰めたベテラン秘書によると、陣営に張り詰めた空気はなく、ビールを飲みながら仕事をするスタッフもいたという。「小沢陣営が体育会ならこちらはサークルのようなものでした」と振り返った。
そんな菅陣営の13日午前における情勢分析は、次のようなものだった。
「議員票は190前後で拮抗、5人くらいは負けている。残りの全部が小沢に行くとは考えにくいため、大きく差がついたとしても10人程度。よほどのことがない限り総合ポイントで逃げ切れる」
さらに夜になって、状況が好転する。
「小沢支持からこちらに変わった1年生議員が7〜8人いる」
結局、これがそのまま代表選の結果になって表れた。
最終結果は菅の圧勝。劣勢が伝えられていた国会議員票でも、小沢の200票に対し、菅は206票としのいだ。また、党員・サポーター票、さらには地方議員票でも勝ち、総合ポイントは小沢に230ポイントという大差をつけて破った。
「人事をエサにした露骨な切り崩しがあった。それが証拠に入閣適齢期のベテラン組はみんな菅に流れた」と“人事手形”の乱発に、小沢陣営は激しく反発した。ある小沢側近の1人は、「手品のタネが多く、手品師も多い」と現職首相の壁をあらためて実感したと話す。
むろん菅陣営も、「小沢陣営のほうこそなりふり構わぬ多数派工作を展開した」と批判する。
小沢陣営の拠点は東京・六本木のANAインターコンチネンタルホテル。6階にあるミーティングルーム全室を借り切り、若手議員や秘書が電話攻勢をかけた。そのかけ方、順番も見事に統制が取れていた。議員への説得、勧誘も小沢仕込みだった。
「山岡(賢次)さんが来たら、間髪入れずに松木(謙公)さんが来る。波状的に説得されると逃げるに逃げられない」
国会議員の後援会幹部、支持団体への圧力。小沢が自民党時代から体で覚えた「田中軍団方式」がいかんなく発揮された。こうした積み重ねによって小沢陣営は、次第に自信を深めていった。
小沢自身も側近につぶやいた。
「国会議員を信じている」
小沢は党員・サポーター票と地方議員票では及ばなくても、国会議員票では菅を上回ることを確信していたようだ。
小沢がここまで国会議員にこだわったのは、代表選に敗れても実質的に党内ナンバーワンの立場を確保できるとの読みからだ。しかし、結果は期待を裏切るものとなった。
反小沢の閣僚の1人は、こう語って勝ち誇った。
「選挙結果が出た直後の小沢さんの顔を見ましたか。勝者になるか、敗者になるかでパワーポリティクスの世界では、まったく状況が違うんです」
代表選敗北は小沢の「不敗神話」が崩れた瞬間でもあった。だが、「政治とカネ」でこれだけの逆風にさらされながら、国会議員200人を確保した小沢に対して、「その底力をあらためて思い知った」(党幹部)議員も多い。
小沢は敗北後、「一兵卒」を宣言した。3ヵ月前に前首相の鳩山由紀夫とともにダブル辞任した際にも「一兵卒宣言」をしているが、その直後に「反菅」の姿勢を鮮明にした。そうした経緯から、今回の宣言も「戦闘宣言」と見ていいだろう。
現にその夜、小沢は小沢グループの議員たちと東京・赤坂の居酒屋で酒を酌み交わしており、これは新たな「小沢派」の旗揚げに向けたステップと受け取られた。
今回の代表選を通じて民主党内に生まれた大きな特徴の一つが、党内グループの派閥化現象だ。憎悪をむき出しにした権力闘争を経て、緩やかな議員グループから、徐々に閉鎖的な議員集団に変質する可能性が生まれている。
権力を失った自民党で派閥の崩壊、溶解が続くのとは対照的だ。自民党では参院議員会長選をめぐって、候補者2人の得票が同数となり最後はクジ引きで決着した。これは野党だから起きた現象だ。
今回の代表選は、権力をめぐる攻防がいかに激しいものになるかをあらためて浮き彫りにした。小沢側近の松木は、「これで小沢一郎という政治家が死んだわけではない」と早くも再起を誓った。
国民新党の亀井静香はこう警告したことがある。
「小沢がキバをむいたら大変なことになる」
亀井発言の意味するところは、小沢は追い詰められると再び「純化路線」に転じて、党を割る可能性があるということだ。
小沢は1992年の自民党旧竹下派内抗争で、少数派になるや派閥を離脱、さらに自民党を割って政界再編を仕掛けた事実がある。
新党改革幹事長の荒井広幸も、亀井と同様の見方を示す。荒井はより具体的で、小沢が参院で公明党の議席19より多い同志、つまり20人以上の賛同者がいれば行動を起こす可能性があると見ている。
【関連記事】
日本復活へ菅総理の「パクリの才能」に期待しよう【岸博幸コラム】
民主党情報暗黒時代の幕開けか、代表選「フリー記者ネット生中継禁止令」の真相【週刊 上杉隆】
再選した菅首相に警告する!「代表選勝利」は世論の積極的支持によるものではない【田中秀征 政権ウォッチ】
密室談合よりはマシだった民主党代表選 いまこそ「首相公選制」を考える絶好の機会
菅総理が自覚すべき民主党政権の欠陥は何か〜飯尾潤・政策研究大学院大学教授に代表選後の課題を聞く
「お約束したとおりノーサイドで、党全員が力を発揮できる挙党態勢で頑張り抜く」
9月14日午後3時40分過ぎ、民主党最大の実力者、小沢一郎との激闘を制した首相の菅直人は、小沢と同じ壇上に並び勝利宣言を行った。
しかし、菅が声高に叫んだ「挙党態勢」には早くも疑問符が付いている。それほど2週間にわたる代表選を通じて生じた亀裂は、あまりに大きく深かった。
代表選に備えて菅陣営は、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ13階、同ホテルで2番目に大きなスイートルームに選対本部を構えた。
ただし、選対に詰めたベテラン秘書によると、陣営に張り詰めた空気はなく、ビールを飲みながら仕事をするスタッフもいたという。「小沢陣営が体育会ならこちらはサークルのようなものでした」と振り返った。
そんな菅陣営の13日午前における情勢分析は、次のようなものだった。
「議員票は190前後で拮抗、5人くらいは負けている。残りの全部が小沢に行くとは考えにくいため、大きく差がついたとしても10人程度。よほどのことがない限り総合ポイントで逃げ切れる」
さらに夜になって、状況が好転する。
「小沢支持からこちらに変わった1年生議員が7〜8人いる」
結局、これがそのまま代表選の結果になって表れた。
最終結果は菅の圧勝。劣勢が伝えられていた国会議員票でも、小沢の200票に対し、菅は206票としのいだ。また、党員・サポーター票、さらには地方議員票でも勝ち、総合ポイントは小沢に230ポイントという大差をつけて破った。
「人事をエサにした露骨な切り崩しがあった。それが証拠に入閣適齢期のベテラン組はみんな菅に流れた」と“人事手形”の乱発に、小沢陣営は激しく反発した。ある小沢側近の1人は、「手品のタネが多く、手品師も多い」と現職首相の壁をあらためて実感したと話す。
むろん菅陣営も、「小沢陣営のほうこそなりふり構わぬ多数派工作を展開した」と批判する。
小沢陣営の拠点は東京・六本木のANAインターコンチネンタルホテル。6階にあるミーティングルーム全室を借り切り、若手議員や秘書が電話攻勢をかけた。そのかけ方、順番も見事に統制が取れていた。議員への説得、勧誘も小沢仕込みだった。
「山岡(賢次)さんが来たら、間髪入れずに松木(謙公)さんが来る。波状的に説得されると逃げるに逃げられない」
国会議員の後援会幹部、支持団体への圧力。小沢が自民党時代から体で覚えた「田中軍団方式」がいかんなく発揮された。こうした積み重ねによって小沢陣営は、次第に自信を深めていった。
小沢自身も側近につぶやいた。
「国会議員を信じている」
小沢は党員・サポーター票と地方議員票では及ばなくても、国会議員票では菅を上回ることを確信していたようだ。
小沢がここまで国会議員にこだわったのは、代表選に敗れても実質的に党内ナンバーワンの立場を確保できるとの読みからだ。しかし、結果は期待を裏切るものとなった。
反小沢の閣僚の1人は、こう語って勝ち誇った。
「選挙結果が出た直後の小沢さんの顔を見ましたか。勝者になるか、敗者になるかでパワーポリティクスの世界では、まったく状況が違うんです」
代表選敗北は小沢の「不敗神話」が崩れた瞬間でもあった。だが、「政治とカネ」でこれだけの逆風にさらされながら、国会議員200人を確保した小沢に対して、「その底力をあらためて思い知った」(党幹部)議員も多い。
小沢は敗北後、「一兵卒」を宣言した。3ヵ月前に前首相の鳩山由紀夫とともにダブル辞任した際にも「一兵卒宣言」をしているが、その直後に「反菅」の姿勢を鮮明にした。そうした経緯から、今回の宣言も「戦闘宣言」と見ていいだろう。
現にその夜、小沢は小沢グループの議員たちと東京・赤坂の居酒屋で酒を酌み交わしており、これは新たな「小沢派」の旗揚げに向けたステップと受け取られた。
今回の代表選を通じて民主党内に生まれた大きな特徴の一つが、党内グループの派閥化現象だ。憎悪をむき出しにした権力闘争を経て、緩やかな議員グループから、徐々に閉鎖的な議員集団に変質する可能性が生まれている。
権力を失った自民党で派閥の崩壊、溶解が続くのとは対照的だ。自民党では参院議員会長選をめぐって、候補者2人の得票が同数となり最後はクジ引きで決着した。これは野党だから起きた現象だ。
今回の代表選は、権力をめぐる攻防がいかに激しいものになるかをあらためて浮き彫りにした。小沢側近の松木は、「これで小沢一郎という政治家が死んだわけではない」と早くも再起を誓った。
国民新党の亀井静香はこう警告したことがある。
「小沢がキバをむいたら大変なことになる」
亀井発言の意味するところは、小沢は追い詰められると再び「純化路線」に転じて、党を割る可能性があるということだ。
小沢は1992年の自民党旧竹下派内抗争で、少数派になるや派閥を離脱、さらに自民党を割って政界再編を仕掛けた事実がある。
新党改革幹事長の荒井広幸も、亀井と同様の見方を示す。荒井はより具体的で、小沢が参院で公明党の議席19より多い同志、つまり20人以上の賛同者がいれば行動を起こす可能性があると見ている。
【関連記事】
日本復活へ菅総理の「パクリの才能」に期待しよう【岸博幸コラム】
民主党情報暗黒時代の幕開けか、代表選「フリー記者ネット生中継禁止令」の真相【週刊 上杉隆】
再選した菅首相に警告する!「代表選勝利」は世論の積極的支持によるものではない【田中秀征 政権ウォッチ】
密室談合よりはマシだった民主党代表選 いまこそ「首相公選制」を考える絶好の機会
菅総理が自覚すべき民主党政権の欠陥は何か〜飯尾潤・政策研究大学院大学教授に代表選後の課題を聞く
最終更新:9月17日(金)13時23分
特集 アキバ変態 メタモルフォーゼ
第2特集 コンサル活用の光と影
アキバ 不死身の街 驚異のビジネスモデル
オタクの聖地はオタクだけのものじゃない
第2特集 コンサル活用の光と影
アキバ 不死身の街 驚異のビジネスモデル
オタクの聖地はオタクだけのものじゃない