押尾学実刑判決 暴かれた5つの大罪
週刊朝日 9月22日(水)17時17分配信
芸能人が初めて被告となる裁判員裁判で、東京地裁は9月17日、押尾学被告(32)に対して懲役2年6カ月の実刑判決を下した。市民が参加する法廷であぶり出されたのは、非道な犯罪の「事実」よりも、ただひとり事実を知っている押尾被告がいかに“ウソつきで最低な男”だったかという悲しい「現実」だった──。
保護責任者遺棄致死罪と麻薬取締法違反(譲り受け、譲渡、所持)の罪に当たるとして検察側が懲役6年を求刑したのに対し、判決では犯罪事実による「致死」は認めず、刑の軽い保護責任者遺棄罪に当たると認定した。「押尾被告の供述の信用性には相当に疑問があると言わざるをえない」として、検察側と対立する証言はほとんど認められなかった。
押尾被告は13日の被告人質問で、麻薬取締法違反(使用)の罪に問われた昨年秋の法廷でウソをついていたとアッサリ認めた。
昨年の法廷では、事件以前に日本で合成麻薬MDMAを使ったことは一度もないと語っていた。国内で薬物を購入したこともなく、事件当日に飲んだMDMAは1錠だけ。死亡した田中香織さん(当時30)の薬物使用を「止めたこともある」とまで饒舌に話した。
だが、今回は、入手元の泉田勇介受刑者(32)から3度にわたって薬物を譲り受け、田中さんに居酒屋で「次はクスリ使ってしよう」と言われて2度目のセックスからお互い持ち寄ったMDMAを服用したと言い、事件当日も自ら5錠を飲んだと白状したのだ。
「今回は何事も隠していません」
と語る押尾被告に対し、裁判長はこう問いかけた。
──前回と何が違うの?
やはり、置かれている立場が違います。
──どう違う?
なんていうんですかね、あの、前回の公判は逃げたい自分がいました。今回はこんな大きなことになって。
──前は小さかったと?
前はバレなきゃいいというのが正直ありました。
──前回はウソで、今回は正直。それはどうして?
やはりウソはよくないと。
押尾被告はたびたび真剣な表情を浮かべながら、
「私は見殺しにするような人間ではありません」
と熱心に訴え続けたが、女性裁判員とのこんなやりとりでボロが出た。
──大事な友達だと言っていた田中さんを残してまで、あなたが失いたくなかったものとは?
クスリの発覚です。
──クスリの発覚によって失うものとは?
法に触れることで、家族、仕事、いろいろ可愛がってくれた方々とか。
──それを失いたくないから放置したと?
何かを失いたくないとかじゃなくて、とにかくクスリの発覚を恐れた。クスリを抜きたかったんです。
さらに「大切な友達だった」と言うわりに、自身の無罪主張のために田中さんをめっぽうこき下ろした。
「10代の頃からあらゆるクスリをやっていて、特に覚せい剤をやめるのは大変だったと話してました」
「初めて食事に行き、次の店でクスリの話になった。(略)いろんな(入手)ルートがある、暴力団にもいろいろ可愛がってもらっている、と話していました」
事件当日に押尾被告も薬物を持っていたと認めたが、実際に飲んだのは田中さん持参のものだと頑なに主張。そのため、2人が会う直前の〈来たらすぐいる?〉メールも「俺のチンコいる?」との意味だったと抗弁し続けた。
「電話で田中さんから『新作の上物があるから楽しみにしてて』と言われた」
「(部屋に来たとき)すごくテンション高くて、抱きついてきてイチャイチャした。(略)すでにいい感じで、クスリ効いている、えらいご機嫌だと思った」
「今回は田中さんの新作を飲みました。(略)『早く私のペースに追いついて』と言われて」
などと言い、保護責任者の立場を逃れようとした。
だが、判決では、押尾被告が持参した薬を使ったと認定された。
こき下ろされたのは、クスリの売人で事件現場にも呼びつけられた泉田受刑者も同様だった。
「初めて会ったときから、目の前でコカインを鼻から吸引していた」
「コカイン、大麻、MDMAを持ち歩いていて、パンツや靴下、タバコの箱に入れているのを何回も見た」
メールで交わされた「MDMA=アミノ酸」という隠語は、自分ではなく泉田受刑者が考えたもので、薬物の形状をめぐって証言が異なるのは、泉田受刑者が「罪の重さ」を考慮してウソをついたと主張。薬物の処分を依頼したりメールについて口裏合わせしたりしたことも否定してみせた。
証拠採用された供述調書によれば、田中さんの死亡時刻についての供述を大幅に変えた理由として、弁護士の工作まで語っている。
「面会した弁護士に『急死だと死体遺棄になる。それはマズイ』と言われて従うことにした」
エイベックスの元チーフマネジャーや友人だった元国会議員が相次ぎ「救急車を呼べと話した」と証言したことに対し、押尾被告は「聞いていない」の一点張り。「一生、面倒を見るから」と元現場マネジャーに頼み込み、ドラッグセックスの相手に仕立てようとしていたとの証言に対しては、
「身代わりは頼んでない。
第一発見者になってくれとは頼んだ。クスリを抜きたかったから」
などと苦しい弁明だった。
押尾被告のドラッグセックスについて克明に証言した女性たちに対しては、
「違法薬物を使ってセックスしたことはない」
と言い、アダルトショップで買った媚薬などを使っていたと説明してみせた。
放言の矛先は、取り調べの検事らにも向かった。
「検事に『彼女がポン中自爆なのは間違いない。お前は被害者でもある。俺もこの仕事してなきゃMDMAやシャブやってるな。えへへ』と言われました」
「検事が信用できなくなったのは『世論がうるさいから起訴せざるを得ないんだ』とか『お前の裁判は来年の春。それまでずっと一人だ』『お前は精神鑑定必要なんじゃねえか』と言われたからです」
今回の裁判で、押尾被告が最低なヤツだとハッキリしたものの、結局、事件当日の薬物使用の実態も、女性が死亡した詳しい経過も、本当かどうかわからない押尾被告の“証言”を切り貼りして作り上げた印象は拭えない。判決でも認定された押尾被告の経歴すら、本人の供述ベースで「虚偽だ」という報道もある。押尾被告が本当のことを包み隠さず話す日など期待できず、真実が明かされる見込みはゼロだ。
刑が確定すれば、執行猶予中だった懲役1年半と合わせた刑の服役を科せられる押尾被告。イエス様やマリア様に許しを請うたと法廷で話したが、それは自身の罪を受け入れてからにしてほしい。
本誌・藤田知也
保護責任者遺棄致死罪と麻薬取締法違反(譲り受け、譲渡、所持)の罪に当たるとして検察側が懲役6年を求刑したのに対し、判決では犯罪事実による「致死」は認めず、刑の軽い保護責任者遺棄罪に当たると認定した。「押尾被告の供述の信用性には相当に疑問があると言わざるをえない」として、検察側と対立する証言はほとんど認められなかった。
押尾被告は13日の被告人質問で、麻薬取締法違反(使用)の罪に問われた昨年秋の法廷でウソをついていたとアッサリ認めた。
昨年の法廷では、事件以前に日本で合成麻薬MDMAを使ったことは一度もないと語っていた。国内で薬物を購入したこともなく、事件当日に飲んだMDMAは1錠だけ。死亡した田中香織さん(当時30)の薬物使用を「止めたこともある」とまで饒舌に話した。
だが、今回は、入手元の泉田勇介受刑者(32)から3度にわたって薬物を譲り受け、田中さんに居酒屋で「次はクスリ使ってしよう」と言われて2度目のセックスからお互い持ち寄ったMDMAを服用したと言い、事件当日も自ら5錠を飲んだと白状したのだ。
「今回は何事も隠していません」
と語る押尾被告に対し、裁判長はこう問いかけた。
──前回と何が違うの?
やはり、置かれている立場が違います。
──どう違う?
なんていうんですかね、あの、前回の公判は逃げたい自分がいました。今回はこんな大きなことになって。
──前は小さかったと?
前はバレなきゃいいというのが正直ありました。
──前回はウソで、今回は正直。それはどうして?
やはりウソはよくないと。
押尾被告はたびたび真剣な表情を浮かべながら、
「私は見殺しにするような人間ではありません」
と熱心に訴え続けたが、女性裁判員とのこんなやりとりでボロが出た。
──大事な友達だと言っていた田中さんを残してまで、あなたが失いたくなかったものとは?
クスリの発覚です。
──クスリの発覚によって失うものとは?
法に触れることで、家族、仕事、いろいろ可愛がってくれた方々とか。
──それを失いたくないから放置したと?
何かを失いたくないとかじゃなくて、とにかくクスリの発覚を恐れた。クスリを抜きたかったんです。
さらに「大切な友達だった」と言うわりに、自身の無罪主張のために田中さんをめっぽうこき下ろした。
「10代の頃からあらゆるクスリをやっていて、特に覚せい剤をやめるのは大変だったと話してました」
「初めて食事に行き、次の店でクスリの話になった。(略)いろんな(入手)ルートがある、暴力団にもいろいろ可愛がってもらっている、と話していました」
事件当日に押尾被告も薬物を持っていたと認めたが、実際に飲んだのは田中さん持参のものだと頑なに主張。そのため、2人が会う直前の〈来たらすぐいる?〉メールも「俺のチンコいる?」との意味だったと抗弁し続けた。
「電話で田中さんから『新作の上物があるから楽しみにしてて』と言われた」
「(部屋に来たとき)すごくテンション高くて、抱きついてきてイチャイチャした。(略)すでにいい感じで、クスリ効いている、えらいご機嫌だと思った」
「今回は田中さんの新作を飲みました。(略)『早く私のペースに追いついて』と言われて」
などと言い、保護責任者の立場を逃れようとした。
だが、判決では、押尾被告が持参した薬を使ったと認定された。
こき下ろされたのは、クスリの売人で事件現場にも呼びつけられた泉田受刑者も同様だった。
「初めて会ったときから、目の前でコカインを鼻から吸引していた」
「コカイン、大麻、MDMAを持ち歩いていて、パンツや靴下、タバコの箱に入れているのを何回も見た」
メールで交わされた「MDMA=アミノ酸」という隠語は、自分ではなく泉田受刑者が考えたもので、薬物の形状をめぐって証言が異なるのは、泉田受刑者が「罪の重さ」を考慮してウソをついたと主張。薬物の処分を依頼したりメールについて口裏合わせしたりしたことも否定してみせた。
証拠採用された供述調書によれば、田中さんの死亡時刻についての供述を大幅に変えた理由として、弁護士の工作まで語っている。
「面会した弁護士に『急死だと死体遺棄になる。それはマズイ』と言われて従うことにした」
エイベックスの元チーフマネジャーや友人だった元国会議員が相次ぎ「救急車を呼べと話した」と証言したことに対し、押尾被告は「聞いていない」の一点張り。「一生、面倒を見るから」と元現場マネジャーに頼み込み、ドラッグセックスの相手に仕立てようとしていたとの証言に対しては、
「身代わりは頼んでない。
第一発見者になってくれとは頼んだ。クスリを抜きたかったから」
などと苦しい弁明だった。
押尾被告のドラッグセックスについて克明に証言した女性たちに対しては、
「違法薬物を使ってセックスしたことはない」
と言い、アダルトショップで買った媚薬などを使っていたと説明してみせた。
放言の矛先は、取り調べの検事らにも向かった。
「検事に『彼女がポン中自爆なのは間違いない。お前は被害者でもある。俺もこの仕事してなきゃMDMAやシャブやってるな。えへへ』と言われました」
「検事が信用できなくなったのは『世論がうるさいから起訴せざるを得ないんだ』とか『お前の裁判は来年の春。それまでずっと一人だ』『お前は精神鑑定必要なんじゃねえか』と言われたからです」
今回の裁判で、押尾被告が最低なヤツだとハッキリしたものの、結局、事件当日の薬物使用の実態も、女性が死亡した詳しい経過も、本当かどうかわからない押尾被告の“証言”を切り貼りして作り上げた印象は拭えない。判決でも認定された押尾被告の経歴すら、本人の供述ベースで「虚偽だ」という報道もある。押尾被告が本当のことを包み隠さず話す日など期待できず、真実が明かされる見込みはゼロだ。
刑が確定すれば、執行猶予中だった懲役1年半と合わせた刑の服役を科せられる押尾被告。イエス様やマリア様に許しを請うたと法廷で話したが、それは自身の罪を受け入れてからにしてほしい。
本誌・藤田知也
最終更新:9月22日(水)17時17分