白鵬の対栃煌山戦には、一部にある程度の期待があったようだ。私はそれも当然のことだと思う。関脇という位置からしても、この程度の戦いは繰り広げてくれるという予測もあっただろう。
しかも、今場所の白鵬の三役戦としては、初日の鶴竜、七日目に組まれた稀勢の里戦に次ぐ三番目の三役戦だった。その上、栃煌山は九日目現在、七勝二敗の好成績を挙げている。よもやという結果につながりかねないとまでは考えられないにしても、いく分か骨っぽい戦い方を見せてくれるのではないか。そんな気持ちがあってもおかしくはなかっただろう。
しかし、一気に斬って捨てるようないい方になるが、結果としては、横綱の強さを再認識させられてしまった。まさに、栃煌山の方には、拾い上げるなんの長所もない戦いに終わった。
引きしまった表情、厳しい目つき、見ている側が感じさせられたのは、日一日とこの横綱の土俵上の緊張度が高まっていることであった。そして、しみじみと感じさせられたのは、相手がなにを考えているにしても、この横綱は自分の取りたいような相撲に根こそぎ引きずりこんでしまうということなのだ。
この一番でも、右を差して戦い方を作ったあとは、相手にまわしを渡さないで、自分自分の形を作り上げていた。どうしたら、横綱の攻めのような逆の攻撃を繰り出せるのか、対戦相手はこの難問を解くところから戦いを始めなければならないのだから、さぞかし骨が折れることだろう。
かくて、白鵬一人がとびぬける形が作られて、追いかける側が次第に離されていく。この形がこのところ土俵の現実になってしまっている。その現実は白鵬の独走でより明確になったように、横綱一人と、数人の好成績の力士という二極分裂を、救い難いものとして受けとめなければならない。
決して好成績とはいえないが、多くのファンが重大な関心を持っている魁皇は、どこまで厳しい戦いについて来られるのか。八日目、九日目となんとかついて来られはしたが、やはり、先行きは暗い。来場所のカド番からの復帰が、それなりの現実味を帯びて来たように、このところ魁皇の土俵を見るのが辛くなって来た。しかし、こんなことはなん度かあった。そんな思い出を呼び戻しつつ、魁皇の土俵を見ている毎日である。 (作家)
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