今日みられている失業は、30歳以下の教育水準が低い層に集中しているが、なかでも、いわゆる「ブルーカラー」産業に従事していた労働者がもっとも苦しんでいる。建設、修理・メンテナンス、機械操作、運輸(具体的な職種はトラックやバスの運転手)などの「ブルーカラー」業界では、世界的な経済危機が発生して以来、雇用者数が18%減少した。
この18%という数字を過去の例でみてみよう。1929年から33年にかけて世界を襲った大恐慌での雇用者数の落ち込みはこれをわずかに上回る18%強だった。手短に言うと、現在、若年ブルーカラー・ワーカー層を襲っている「グレート・レセッション」は、終わりの見えない「恐慌」のような気がする。
経済が回復するまで必要となるのは、新たに生じた一連の問題に対処する雇用対策だ。これらの問題は、近年発生した今回ほどは激しくない景気後退期にみられた問題よりも複雑で難しい。
今回の景気後退で問題となるのは、長期的な失業状態が所得や生産性の重しになっているだけでなく、結婚生活を破壊し、家族生活をゆがめ、コミュニティーを荒廃させているという点だ。仕事とはただ単にお金を稼ぐためだけのものではなく、どのようにアイデンティティーを形成し、社会参加するかに関わるものだ。自尊心を形成するものでもあるため、失業状態が続くと、うつ病、引きこもり、機能障害などを誘発する危険性がある。
それでは、どのように対処すべきなのか?今回のような深刻な景気後退期には失業状態から就職に至る長くゆっくりとした道のりで発生する衝撃を和らげることが答えの1つとなる。ただ、失業保険やジョブ・シェアリングを行っている労働者を対象とした短期的な補償制度「ギャップ・フィリング・プログラム」などは重要な緩衝材とはなるが、対処方の一部でしかない。
失業状態に置き去りにされたブルーカラー・ワーカーは若年層に属し、高等教育を受けていない場合が多く、同じく求職中のより経験を積んだ人材よりも保有資格があやふやな場合も多い。今後30年から40年前後にわたって労働力となり得る世代について見切りをつけたくないならば、業務、業務時間、業務活動などについて見直す必要がある。
われわれが直面している問題が、若年のブルーカラー・ワーカー層が極限状態の生活を数年にわたって強いられているという点である場合、対処方法には新旧織り交ぜたさまざまな雇用創出対策が考えられる。成長分野の小企業やインフラなどの従来型公共事業での雇用創出に対する公的助成金の拠出のほか、老人介護やコミュニティー内の清掃サービスなど現在の社会的なニーズに対応する形の雇用創出といった補助的な取り組みなどがこれにあたる。
このようなアプローチがうまくいくことは実証済みだ。すでに米国内37州が「フェデラル・マッチング・ファンド」からの拠出金を公共と民間の両面における雇用創出に利用しており、合計24万人に就職、職業訓練、雇用主への紹介の道が開かれた。このようなチャンスがなければ閉ざされていたはずのドアが開かれることになった。
成人の場合、紹介を受ける業務は大企業でのものもあれば、テネシー州のベーカリーからカリフォルニア州の運送業者までさまざまな業種にわたる小企業の起業や事業拡張に関わるものもある。このようなワーキング・プアの支援は、1996年の福祉制度改革で始動した「貧困家庭一時扶助(TANF)プログラム」のもとで成功した。
若者の場合、貴重な業務(と人生)経験は、民間企業と非営利団体の両方で行われる「サマー・ジョブ・プログラム」やインターンシップなどを通じて得られる。政府と企業が一丸となれば、今後も就職を後押しするさまざまな活動を進めることが可能だ。親戚の老人の介護に苦労している人や手入れされていない用地が自宅の住宅価格と安全性にどのように影響するか心配している人は、生活の向上に向け、なされるべきことがたくさんあることを分かっている。これらのニーズも雇用創出につながる。
このようなアプローチを通じて、支援策がなければ失業中だった国民が、助けを差しのべる者、消費者、さらにはコミュニティーの一員に変化を遂げ、自信を得て家族をサポートすることが出来るようになる。このような考え方は現時点では政治的な支持を得にくいかもしれないが、経済的な痛みが続き、深みを増し、より多くの国民に影響するようになれば、そうでなくなる可能性もある。
「産業革命」という言葉が最初に使われたのは1799年のことだが、広く使われるようになったのは、これが根付いたずっと後の1881年のことだ。今は名もつけられていないが、我々は現在、「産業革命」と同じ位、将来の社会の方向性を決定づける力を持つ経済の革命期にいるのかもしれない。失業状態に取り残されている人々を少なくする未来を望むならば、今から取り組み始める必要がある。
(ジャニス・ニトリ氏は、ロックフェラー財団のアソシエート・バイスプレジデント。同財団が推進する「キャンペーン・フォー・アメリカン・ワーカーズ」のディレクターでもある)