大学は卒業したものの、就職先がない―という、新卒就職の「日本化」が米国で起きている。
「かわいそうに。大卒でも就職できなくて、米国は日本みたいになってきているんです。来年以降もどうなることか」
先日、ハーバード大を訪れた際、大学関係者がこう話してくれた。伝統ある建物に緑の芝生の風雅なキャンパスに集う学生を見ながらだ。就職難は、名門ハーバード大の卒業生をも容赦なく襲っている。
米労働省によると、米国では毎年240万人が卒業しているが現在、1つの就職口に5人の求職者がいる状況。しかも、米国の私大の学費は高いため、65%の学生が学生ローンを支払いながら社会人となり、その半数が2万ドル以上の借金を抱えている。
日本ではあまりよく知られていないが、学生ローンについて、オバマ大統領は今年3月、大胆な法律に署名している。学生ローンの提供元を、民間銀行から教育省、つまり政府に移す道筋をつけるもので、これによって、学生ローンのために政府が民間銀行に供出してきた680億ドルもの資金が廃止される。また、学生は低金利で直接教育省からローンを提供されることになる。
ミシェル夫人と結婚してからも学生ローンを返済していたオバマ大統領らしい制度改革だが、補助金をすっぽり持っていかれた民間銀行や学生ローン専門の金融機関は、巨額のロビー資金をつぎ込んで、これに大反対した。また、医療保険制度改革と同様、「オバマの大きな政府に学生ローンまでお世話になりたくない」と、保守派から批判を受けたことは言うまでもない。
しかし、就職できなくてローンが返済できないこと以上に深刻なのは、移民の第2世代で「家族で初めて大学に行った」という自負心と家族の期待を一身に背負っている学生が、たくさんいるということだ。「家族で初めて」大学教育を受けるということは、「アメリカン・ドリーム」の一つ。これまでに、さまざまな政治家や企業家が自分の経歴で、それを語るのを耳にしてきた。
2008年大統領選の共和党候補の一人だったマイク・ハッカビー氏からも、民主党候補だったジョン・エドワーズ氏からも、誇らしげにその言葉が出てくるのを何度も聞いた。
その華々しい学歴の最後に「就職ができない」という事実が待ち構えているのは、学生にとってはかなりショックなことだ。
軟調な経済指標が続く中、米国全体の雇用回復の兆しは全くみられない。08年ごろ失業した30~40代の知人の中で、就職にいたったのはまだ一人もいない。そればかりか、失業率は来年まで9%付近にとどまるという見方すらある。
ニューヨーク市内では最近、オフィスビルや店舗で、貸し店舗の貼紙が目立つ。08年からの不況を何とか乗り切った小規模な事業者が、景気回復にかけていた期待が破れ、店をたたまざるを得なくなった、という様子が手に取るように分かる。このような状況下、「求人」という貼紙が出るや、ちょっとした行列ができる。
現在、上院は、250万人が受給している失業保険の給付延長に動いている。法案が可決されれば、給付期間が現在の26週間から99週間にまで延長される。
しかし、これも成立してしまえば、民主党の中間選挙対策という感じだ。フェースブックで失業中の友人らが、給付期間延長のニュースをシェアしているのを見ると、雇用回復の見通しが立たない息苦しさを感じる。
*****************
津山恵子(つやま・けいこ) フリージャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、AERAに執筆した。米国の経済、政治について「AERA」「週刊ダイヤモンド」「文藝春秋」などに執筆。著書に「カナダ・デジタル不思議大国の秘密」(現代書館、カナダ首相出版賞審査員特別賞受賞)など。