「うめー」
「久し振りの本格ラーメンだよ。いけるなぁ」
国連直営の食堂にはろくな麺類が無いらしい。
「美味しいです、あ、先輩、チャーシュー残すんでしたら下さい」
「駄目よ、最後にとってあるんだから」
「シンちゃんお替りぃ〜」
好評のようである。
ずるずる
「美味いな、碇」
ずずずず
「ああ、問題ない」
こちらも好評のようで。
シンジのススメ
第弐拾四話
「ごちそうさま、シンジ君。美味しかったわ」
「ほんと、美味しかったです。シンジ君、お料理上手なんですね」
本部食堂内
発令所の面々にラーメンを振舞ったあと、リツコとマヤ、子供たちでお茶していた。
「いや、僕の料理は煮込むだけとか焼くだけとかなんで、そんなにたいしたものじゃ無いですよ」
「またまた謙遜しちゃって。自信持ちなさいよ」
「・・・碇君の作ってくれたものは美味しい・・・」
「大人気ね、シンジ君」
美女&美少女に囲まれても平気なのに誉められると照れるあたりシンジらしい。
「で、ちょっと帰るの待ってもらったのは、ツーリングのルートをどうするか、ってことなの」
ああ、とアスカ。
「そういえば乗れるのは乗れるけど、道知らないのよね、私達」
「・・・迷うわ。葛城一尉のように」
「嫌な例を出すわねぇ」
ククク、と笑うアスカ。ドイツでも迷っていたようだ。
「新東名を西にズバーっと行って、お昼過ぎたら逆向いて帰って来るってのどう?」
アスカの提案は全員一致で却下された。
「ちぇー」
「きっと最高速チャレンジツーリングになっちゃうわ。アスカの勢いだと」
と、リツコが苦笑する。
「伊豆半島一周くらいにしとかない?」
とシンジが口を挟む。
「ま、妥当な線でしょうね。温泉とお食事も楽しめるしね」
「じゃ、その線で決定ですね?予定、上に提出しておきます」
と、マヤがモバイルノートを叩く。
「でも久しぶりですね、先輩。ツーリングなんて」
「そうね、いつ以来かしら」
それを聞きシンジが
「あれ、マヤさんも来るんですか?」
「あ、まだ言ってなかったわね、ごめんなさい」
とリツコがすまなそうに言う。
「ちょっと口が滑っちゃってね。ミサトの乱入は押さえたんだけど、マヤはこれといって断る理由もなくて」
あ、ひど〜い。誘ってくれないつもりだったんですか〜とちょっとすね気味のマヤ。
「も、もしかしてシンジの横に乗っていくとか言うんじゃないでしょうねぇ!」
「あら、どうしてそんなにアスカが慌てるの?シンジ君の横に誰が乗ってもいいじゃない」
私が乗ろうかしら、などと言う兆発にのってしまい
「だ、っだ、駄目よ!あそこに座っていいのはアタシかレイなんだから!」
「え、そうなの?」
すっとぼけたシンジの声。
「・・・碇君・・・」
シンジの袖口を指でつまみながら、
「他の人乗せちゃ・・・いや・・・」
と真っ赤になりながら俯いてしまう。
そんな様子を楽しげに見ている年上女性二人組み。
「ま、混乱が広がらないうちに止めときましょうか」
私もマヤもバイクで行くのよ、といって二人の悩みを解決させる。
「まったくもう!つまんないこと言って乙女を惑わすんじゃないわよ!」
「うふふ、ごめんなさい。私も先輩も久しぶりのツーリングに舞い上がっちゃってるわ」
じゃあ、予定詰めとくわね、とリツコが言って解散する。
「あーあ、高速道路がよかったなぁ。せっかくのツアラーなのに」
「・・・私はカーブが多いほうが楽しい・・・」
「サイドカーって一人乗りじゃ本領発揮できないんだよね・・・」
どっちを乗せるにしても揉めるであろうが。
「い〜〜〜やっほ〜〜!」
「アスカ、飛ばしすぎないでね」
シンジが心配そうに声をかけ追いかける。
予定ルートは
芦ノ湖スカイラインを北上し、R138箱根裏街道で小田原方面に抜け、ターンパイクへ。
一旦大観山PAで小休止し、伊豆スカイラインへ。
そのまま最終まで走り、R135に出て、下田温泉で昼食&入浴。
その後はR136で伊豆半島西側を北上し第三新東京市へと戻る、まあ初ツーリングならほどほどの距離と思われる。
朝、赤木邸
集合時間前にガレージからバイクを出し暖気する。
「今日も調子は最高、っと。技術部の人たちに感謝ねぇ」
「・・・そうね」
「リツコさんは?」
「昨日からガレージの奥でごそごそしてたけど?」
「・・・今朝は見てないわ」
「ちょっと見てこよっか」
と、そのとき。
パァァァ〜〜〜〜ン、パンパン。
パィィィ〜〜ン。
パン、パン、カラカラカラカラ
と、2st独特の乾いた高音を響かせてきたバイクが一台。
「マヤさん・・・だよね」
「他に誰が来るってぇのよ」
こくこく
「おまたせぇ〜、あら?先輩は?」
「今朝はまだ姿を見てないんですよ」
あ〜、それじゃあガレージで寝てるわね、とマヤ。
「先輩ったら、出かける前はいつもいじったままガレージで寝ちゃうのよ」
といいながらガレージ奥のブースへと足を運ぶ。
「ほらぁ先輩!起きてください!時間ですよ!」
ブースの隅で転がってるリツコを揺り動かして目覚めさせる。
「あらマヤ、おはよ」
のんびりとした口調で朝の挨拶をするリツコに
「おはよ、じゃないですよ。もうシンジ君たち準備出来て待ってますよ?」
壁の時計に目をやり、
「あら大変、すぐ用意するわ。マヤ、私のバイク外にだしておいてくれるかしら」
「はい先輩」
「へぇ、マヤさんはこんなのに乗ってるんだ」
なんてバイク?とアスカに聞く。
「あんたこれくらい知らないの?押しも押されぬ2stレプリカの頂点よ!ホンダNSR250R SP。年式は・・・よくわかんないけどカードキーだから最終年式近くだと思うわ」
「私のは96年式よ」
とリツコのバイクを押しながらマヤが声をかける。
「へぇ、そうなん・・・」
言いつつ振り向くとリツコのバイクが目に入る。
「・・・赤木博士ってば何考えてンのかしら」
「・・・何?」
「リツコさんのバイクがどうかしたの?」
「アンタバカァ?ちょっと見りゃわかるでしょうが!」
どう見ても後からつけた保安部品。
カラーリングはなつかしのロスマンズカラーを基準に猫の足跡がそこここに付いている。
「ホンダNSR500V2001年モデルよ。ホントはワークスのを手に入れたかったんだけど無理だったわ」
「あ、おはようございます」
「おはようございます赤木博士!これって大丈夫なんですか?」
「あら、なにが?」
近づいて細部を事細かにチェックしながらアスカが聞く。
「一走行でエンジン開けなきゃいけないとか、ピストン交換だとか言うじゃないですか、レーサーって」
「ああ、そのあたりは多少いじってるわ。OILも分離式に変えたしセルもつけたし。ブレーキもディスクがカーボンのままじゃ熱的に厳しいから鋳鉄に換えてるしね」
むー、と押し黙るアスカ。
(こんなことなら私もRC211vでも頼めば手に入ったかしら)
などと物騒なことを考えている。
「先頭はマヤ、で後はレイ、アスカ、シンジ君。最後尾が私ね」
峠道に入ったら自由走行、途中分岐があればそこで待機、と指示して。
「あと、これつけて頂戴。双方向で話せる無線機よ」
咽喉の部分にマイクを取り付けて振動を拾って音声信号に変換する、騒音のひどい戦車兵なども使っている無線機を各自に渡す。
「さ、行きましょうか。安全第一でね」
「じゃ、いきまーす」
珍妙な5台が走り出す。
『・・・お客さんが並び始めました』
『了解、引き続き人員整理を頼む』
木陰からごく普通のカローラが動き出す。
「さて、ネルフのアマちゃん連中は気が付くかな?」
暗い闇がそこまで近づいていた。
第弐拾四話 了