んっふっふ
楽しみィ
アタシも写真しか見たこと無いのよねぇ。
明後日かぁ。待ち遠しいわ。
シンジのススメ
第弐拾話
「リツコさん、この免許証なんですが」
「なあに?」
「二輪って大型、普通って区分があるんじゃ・・・」
「そうね」
「大型二輪は18歳からじゃ・・・?」
そうよ?、日本ではね。と気楽に応える。
「国連通しての許可申請だもの。国際免許扱いね。
で、国際免許に二輪の大型普通の区別は無いの。
普通二輪免許しかなくても、国際免許になると大型二輪免許保有者と同じく、二輪、もしくは三輪の空車重量900ポンド以下の車両を運転できるの。
排気量に関係なくね」
「・・・裏技っポイですね」
「そうね、事実そういうことをしていた人はいたらしいわ。
かなり昔の話しになるけど、大型二輪免許の取得は試験場に限られていた頃があったの。
試験の合格率はかなり低くてね。2パーセント、なんて試験場もあったくらい。
お陰で大型に乗ってるってだけでステイタスだった時期があるらしいの」
二輪免許と言うカテゴリーが出来る以前は乗用車免許にくっついていたほど甘かった免許が、暴走族対策ということで規制対象になったのだ。
「その頃は、50回試験受けても駄目だったって言う人がそれこそざらに居たそうよ。
で、海外で免許を取って、帰国後国内免許に切り替えるって言う人も居たの。
教習所で取れる今から思うと悪夢のようね」
・・・教習すら通って無いですけどね、僕。とは口に出さずに。
「練習してきますね」
「気を付けてね?あなたのことだから、ちょっとやそっとの事故じゃどうも無いでしょうけど」
「・・・行って来ます」
「・・・碇君・・・」
「あ、綾波。危ないから練習して大丈夫だって思ってからね?」
ガレージ前で暖気中に綾波に声をかけられたが取り合えず連れて行かないことにした。
「・・・行ってらっしゃい・・・」
「なーに寂しそうな顔してんのよ、レイ」
「・・・アスカ」
去って行くドマーニの独特のテールランプを見ながら
「置いて行かれたからって泣きそうな顔してんじゃないわよ」
「・・・アスカも寂しそう・・・」
うっ、
「な、なによ。どこを見ればそう見えるの?」
この自信たぁ〜っぷりに振舞ってるアタシのどこが。
「・・・なんとなく・・」
・・・レイってば結構鋭いわね。
「ま?アタシは自分のバイクが出来るから置いてかれても追っかけられるけどね?」
ふっふーん
「・・・私も。追い、かけたい」
ふふん?
「そっ!じゃあどうすればいい?」
「赤木博士に私もお願いするわ」
それでこそアタシの恋のライバルよ!
負けないわよ?
技術部 部長執務室
「アスカ、あなたの希望のバイク。届いたわ」
ネルフ本部で訓練中呼び出され、そう告げられた。
「やったぁ!何処に置いてるんです?」
「今?まだ技術部の作業場よ。納車点検中ってトコね」
まあ落ち着きなさいな、とコーヒーを手渡す。
「さすがに生産終了から17年経ってて、しかも間にセカンドインパクトを挟んで。更に生産台数が少ないとなるとね」
交換パーツが無いから、と
「全バラして3Dスキャン中。これでいつでも同じ部品が作れるわ」
「へー、でも中古でしょ?消耗した部品を基準にしたってしょうがないじゃない」
んふ、と笑うリツコ。
「新車よ」
「ほんと?」
98年だか99年だかで生産、というか在庫は尽きてるはずだ。
「ええ、好事家の方がいてね?当時国内販売されてなかったこれを逆輸入して、梱包のまま保管していたのを譲ってもらったのよ」
最終年式の赤、だそうだ。
「帰る頃には組みあがってるとはずよ。各部のバランス取りなんかもしてるから、本来の性能以上は保証するわ」
訓練終了後、更衣室
「だってさ。あんたは何にする気なの?」
「私は・・・」
古今東西のバイクカタログに目を通しながら、
「これがいい・・・」
「・・・あんた、結構過激ね」
本部ガレージ
アスカ号のお披露目の為にアスカが、リツコ、シンジ、レイは当然、ミサトや加持まで引っ張ってきていた。
「じゃーん!」
一同、どうコメントして良いのか困ってる様子。
「どう?アタシのバイクは?」
ようやく言葉を発したシンジの一言は
「・・・フロントフォークが無いね・・・」
であった。
「ほぉ、これまた変わったバイクだな?アスカ」
「ええ!市販車では唯一無二の画期的システムのステアリングよ」
ヤマハ GTS1000A
発売当初、その稀有なフレーム形状、オメガフレームと、それに伴うスイングアーム式フロントサスペンションで注目を浴びたが、比較的高い価格設定と購買層の中途半端さにいつしか消えていった隠れた名(迷?)車である。
そのため極端に生産数が少なく、日本の4大メーカーの1つ、ヤマハのツアラーモデルとしては珍しく、逆輸入されることも稀であった。
今この時代に新車で残っているのは奇跡であろう。
「でもさ、アスカ」
「なによ、なんか文句有るって言うの?」
お気に入りをけなされたと思ったのかちょっと頭に血が上る。
「いや、そう言うんじゃなくってさ」
GTSをちらりと見て、アスカに向き直る。
「アスカにはちょーっとばっかり大きいんじゃないかなぁって・・・」
「い、良いじゃないのよ。私が気に入ってんだから」
乾燥重量247kgはかなり重い。
「さあさ、色々言ってないで。乗って見れば良いことでしょう?」
それまで沈黙を守っていたリツコが背中を押す。
「パワーもこの頃のリッターバイクにすれば比較的マイルドだし、アスカの体格でもなんとかなるわ」
「はーい」
「それじゃ早速乗って帰りまーす!」
ヘルメットはショウエイ。
ジャケットはタイチ。
グラブとブーツはアルパインスター。
ほぼ赤と黄色の色合い。
「目立つカラーリングね・・・」
ミサトがちょっと呆れ顔で言う。
「バイクに乗るならそれぐらいで良いのよ、車にしか乗って無い人は意外にバイクを認識してないものよ?」
もっと派手にしてもいいくらいよ、と。
赤木邸
「あー面白かった!」
「アスカ、バイク乗るの上手だね」
本気で誉めているようだ。
「初めて乗ったにしちゃ、自分でも良くやったと思うけどね」
「うん、信号待ちで片足爪先立ちで止まってるのはちょっと危なっかしかったけどね」
身長の割に股下が長いアスカは何とか立ちごけを免れていた。
「・・・私も、早くアスカみたいに走ってみたい・・・」
「そういえば綾波もバイク決めたんだってね。何にシタの?」
ちょっと頬を染めながら、
「・・・内緒」
と言うレイの肩を抱いて
「びっくりさせるんだもんねぇ〜!」
とアスカがにやりと笑う。
「ご飯よー」
リツコが皆に声をかける。
ガレージで色々と話しこんで時間を忘れてしまっていた。
「はぁーい」
アスカが声を返し、
「さ、ご飯ご飯♪」
さすがにご機嫌である。
今日の夕飯は、アスカのリクエストで純和風。
「郷に入りては郷に従えってね」
「綾波がお肉駄目だから、助かるけどね」
こくこく
頷くレイ。
ふと、何かを思い出したようにシンジを上目遣いに見つめて
「・・・碇君・・・」
「ん?なに?綾波」
「ラーメン・・・」
・・・
「あ、この間約束してたよね。忘れてた訳じゃないけど、色々あって出来なかったからね」
じゃ、明日帰りに材料買って帰ろうね?と言うと
「らーめんってなに?」
「ドイツにはさすがに無いか・・・あ、日清カップヌードルは知ってる?」
世界中で一番知名度の高いインスタント食品である。
「知ってるわよ?あれを作るの?」
「あれは言ってみれば廉価版なんだ。きちんと作ると凄く美味しいんだよ?」
「・・・アタシにも分けてね」
みんなでね、とシンジが言う。
「さあさ、おしゃべりしながらのお食事も良いけど、手が止まっちゃってるわよ?」
「「「はーい、ごめんなさーい」」」
「そうそう。レイ?あなたの再起動実験。週明けに決定したわ」
ほんとはもう少し早くの予定だったのだけど、ごめんなさいね?と。
送れた理由が、初号機の右腕再生に手間取ったから、とはアスカの手前言わないが。
その次は初号機のドック入りだ。
自然とシンジと目が合い表情を曇らせるが、他の二人に動揺が伝わらないように努めている。
「あ、そうだわ」
と傍らの椅子に引っ掛けていた上着から封筒を取りだし、
「シンジ君、これ」
「なんですか?」
封を切りながら尋ねるシンジに、
「対使徒用ロボットの発表会よ。その招待状」
へぇ、と開き読み始める。
後からアスカが覗きこんでいるが、
「読めない・・・漢字多すぎよ」
「来週の週末ですか、零号機の起動実験の後なら特に急ぎの用事って無いですよね?」
「行く気?シンジ君。止めないけど、どうせ私も呼ばれているし」
「じゃーアタシ達は?」
「招待状は私と、ミサトと初号機パイロット、それと司令と副指令ね。司令達は行く訳無いから替わりに行っても良いけど・・・」
「いいけど?」
「顔バレしちゃうのよ?下手をすると普通の生活、一層送れなくなるわよ?」
ウームと考え込む。
エヴァのパイロットとしての立場は未だ秘匿事項だ。
「あなたたちのことは機密レベル自体はもうかなり下がってるの。まあ公然の秘密って感じね。
情報規制があっても人の口に戸は立てられないから」
普通のパイロットと違い、未成年で、しかも美少女とくれば放っておくまい。
それに幾ら超法規的処置での徴兵といっても世論もうるさいであろう。
「博士の被保護者って事で良いじゃない。招待券が余ったから連れて来たって事で」
「三人も?かえって変な目で見られるわ?」
「そこよ!普通の14歳ならおかしいと思われるけど、アタシ達って基本的に普通じゃないじゃない。英才教育のために博士が保護してますって言えばみんな納得するわよ」
そうなの?、とシンジに答えを求めるレイ。
曖昧に引きつった笑顔で返事するしか手段を持ち合わせていない。
「ま、おいおい考えましょ。今すぐって訳でもないのだから」
そうリツコが締めて、食事に戻った。
「そうそう、レイのバイク。明日になったわ。案外早かったわね」
「・・・ありがとうございます、赤木博士。」
嬉しそうにするのを見て、(ぱっと見わからないが)付き合いの長いリツコは
「良い顔するようになったわね、ホント」
違いがわかるらしい。
第弐拾話 了