ソニックブームを起こし、第一宇宙速度を軽く超え、月まで届かんとする勢いで投げられた槍が

 

 

弱々しく張られたATフィールドを貫き、その巨体さえも貫いた。

 

 

 

 「GUT!(よしっ!)」

 

弐号機アスカ、使徒初殲滅。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

シンジのススメ

第拾八話

 

 


 

 

 

 

二投目かぁ。

ふぅー、初の実戦だから二番手はしょうがないわね。

って違う違う。加持さんにも言われたじゃない。

パイロットの序列なんて無意味だって。

結果を出せばチームとして評価されるんだから。

・・・評価が欲しい?

んーなんか違うような気もするけど・・・

 

へぇ、遮蔽物ごしでも使徒の位置を確認できるようにCGで出してンのね。

・・・ドイツじゃそんなアップデートはなんにもしなかったわね。

 

『作戦開始。カウントダウン始めます。10秒前』

 

おっとダメダメ。気を抜いちゃあ。こないだのゲーセンの時みたいになっちゃうわ。

 

 『9』

 

さすがに初の使徒戦だとこのアタシでも緊張するのね。

今の心拍数、きっと記録ね。自分でも解るわ。

 

『8』

 

集中しなきゃ。・・・

「私が倒す」

なに?

 

『7』

 

「殺してやる」

なに?なによ!?

 

『6』

 

「殺してやる」

なによ、アタシそんなこと考えてない。

 

『5』

 

「私が使徒を殺すのよ」

ちがうちがう!そんなことアタシ考えてない!

 

『4』

 

使徒はどこ?

「駄目よ!今ATフィ−ルドを展開しちゃあ!」

 

「3」

 

そこね。私が殺してやる

「やめて!!シンジが撃たれちゃう!!」

 

「2」

 

前の奴!邪魔!

 

「駄目ーーーーーーーーーーーーー!」

 

 

閃光

 

 

 

ズバーーーーーーーーーーン!!

 

 

 

 

初号機の右腕が吹き飛ぶのが見える。

 

『っシンジ君!!』

 

ミサトの叫びが聞こえる。

 

 

はっ!ヤッパ私の出番ね!

「なんでよ!アタシじゃないアタシがアタシを!」

 

 

 

 

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 ふぅ〜。殺してやった。殺したやったわ。

 

「GUT!(よしっ!)」

 

殺せる

 

ころせる

 

大丈夫

 

私にだって

 

コロセル

 

殺せるわ。

 

 

あははははははははははははははは

 

あっはははははははははは

 

 



 

 

 

 発令所

 アスカの狂ったような笑い声が響く。

 

「ぱ、パターン青、消滅しました」

「使徒、の、殲滅を、確認・・・」

 

使徒殲滅。

だが。

 

「何やってんのよ、アスカ・・・」

フィールド展開なんて。

よりによってあの場面で。

呆然と、スクリーンを見上げる。

使徒殲滅は、結果的に出来たから良いようなものの、下手をするとどうにもなら無い状態に陥っていたはずだ。

右手を吹き飛ばされた初号機は、パイロットは大丈夫だろうか。

「っ!シンジ君!大丈夫!?」

 

『・・・問題ありません』

 

問題なくは無いだろう。

彼のシンクロ率なら自身の腕を焼かれ吹き飛ばされたと感じているはずだ。

 

「初号機回収!最優先!」

言い放ちリツコを見ると、マヤと何か相談している。

「・・・どうしたの?」

「興奮状態が治まらない」

とマヤが報告する。

「心拍数が220を越えてます。危険な数値になってきてます」

しょうがないわね、と

「鎮静剤を投与、機体回収は後回しでいいわ。パイロットの安全を優先してちょうだい」

マヤの前のスクリーンに映る弐号機プラグ内のアスカがおとなしくなる。

 

 

「やれやれ、今この時に出ちまうとはな」

言いつつ発令所に入ってくる加持。

正式に辞令が出ていないため、使徒殲滅まで発令所への入室が許可されていなかったためである。

「加持君・・・。どういうこと?」

「ここじゃなんだ、あとでりっちゃんトコでまとめて話すよ」

「わかったわ、とりあえず邪魔はしないでね」

そう言い放ち、各オペレーターに事後処理の代行を委任。

「ケイジに向かいます、何かあれば呼び出して」

よろしく日向君、と言い残して加持を一瞥して二人連れ立ってケイジに急ぐ。

 

 

「・・・やれやれ」

あごの無精ひげを擦りながら見送り、

「ここまで根深かったとはな」

と、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

 

 

 


 

 

 

 技術部 部長執務室

「と、まあこんなところだ」

加持の話をリツコとミサト、そしてレイと検査を終えたシンジが聞いていた。

「ドイツの連中!ほんっとナニ考えてんのよ!」

「奴らの考えはわからんがな、アスカが怖気づいた時に本来発動するものだったんじゃないか?」

ありえないことでは無いわね、と

「搭乗時のアスカの身体データ、見てみたんだけど。引き金となるのがなにであるのか、ね。

ドイツからこっち、記録したことが無いくらいの心拍数だったからこれもそうかもしれないし」

訓練時のデータじゃ比較対照になるものがちょっとね、と。

「あの、それで今アスカはどうしてるんです?」

ええ、それがね、と口篭る。

「あまりに興奮していたのでプラグスーツ内蔵の鎮静剤打って落ち着かせたわ」

「で、今は病院。もうじき目ぇ覚ますから、見舞い行ってあげてね」

「はい」

「・・・病室で、見ててあげてもいいですか・・・?」

ふっ、と微笑んで、

「ええ、お願いね、レイ」

シンジ君も、と二人を見送る。

 

 

 「で、だ。俺なりにアスカを誘導しては見たんだが」

と、メモをリツコに渡す。

流し読み、

「間違ってはいないわね。ただ根が深すぎたのと、主人格を押しのけてまで表層に出てくるもうひとつのペルソナがあるなんて思っていなかったでしょう?」

まあ、な。と

「ある程度の推測は立ててたさ。まさかりっちゃんに相談する前に使徒戦に駆り出されるとは思っても見なかったんでな」

と、タバコに火をつける。

「で、これからどうすんの?」

ズズズ、と冷めてしまったコーヒーを啜りながら聞く。

「どうもこうも無いわ。もうひとつの人格も彼女自身だもの。望むと望まざるとに関わらずね。

無理に消そうとしたら主人格も何かしらのダメージを受けるわ」

「じゃあどうすんのよ!あのままほっとく気?」

ふぅーっと紫煙を吐きながら

「人格の統合、か。出来るだけ緩やかに」

「そうなるわね。あのままじゃあの娘、駄目になるでしょうね」

と、山の陰でやられた時のアスカを思い浮かべる。

 

「・・・弐号機、もうだめなのかな・・・」

 

「じゃ、じゃあアタシまだパイロットでいられるんですね?」

 

あんな顔されて放って置けるものですか。

「四六時中監視を兼ねたガードがつきまとって。

一分一秒も惜しんで訓練して。

その結果がこれなんて、誰が認めてもこの私が認めません。これからきっちり私が面倒みます!」

 きっぱりと言い放ち、

「あの子達の才能、あの子達の未来。使徒と戦うだけに消費させるなんて、悲しすぎるわ」

 

だからね、と。

 

他のことからは精一杯守ってあげましょう

 

 

第拾八話  了

 

第拾九話へ

 

インデックスへ

 

1