んふ、と、心持ち、いや、ものすごく嬉しそうに。

「こんなことも有ろうかと!ひそかに開発していたものがあります!」

リツコ、長年の夢が叶った瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

シンジのススメ

第拾七話

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「・・・槍にしか見えないんだけど」

使徒の侵攻は、中心部にたどり着くと砲撃ならぬ穴掘りに移行した。

使徒の下部中央から伸びるシャフトによるボーリング。ジオフロント到達まで11時間あまり。

お陰で時間的な余裕も出来た。

「槍だもの。眼科医の必要は無さそうね」

エヴァ専用兵器倉庫、ここにはエヴァが使用する武器、兵器の数々が格納される予定である。

今は先の戦闘で牽制にしか使えないと判明したパレットライフルと予備のプログナイフ、そして

「ジャベリンねぇ・・・最新の設備と技術を持ってしても有効な手段が古代メソポタミアにさかのぼる武器とは。とほほぉ」

「武器の歴史は、ね。狩猟用の武器としてなら何万年も遡れるわね」

二人のいるキャットウォークの横を槍とその付属品が運ばれていく。

「あなたがパレットライフルの試案を上げてきたとき言ったでしょ?

投げた方が威力あるって。それでちょっと作ってみたのよ。

これでも一朝一夕で作ったんじゃないのよ?強度からして並みの素材じゃ持たないもの。

材料はエヴァの試作廃棄体の骨格素材。」

「簡単に言うわねぇ。で、どれくらいの威力なの?」

「わからないわ」

実際試投する間も有るはずが無い。

「やって見なくちゃわからないってこと?」

「そうでもないわ」

そうね、と

「あなたの作戦試案、出力はどれくらいになった?」

「ん?あ、えーと一億八千万Kwだったわ」

「じゃあ、多分大丈夫」

なんでそんなことわかんのよ、と当然の憤慨であるがリツコは気にもせずに

「あの槍が34000kg、MAGIの予測ではシンジ君による初号機の投擲速度は18000m/s 、それにオプションを使えば速度は倍化するからさらに上乗せも得られるわね。車マニアなんだから馬力からワットに変換、出来るでしょ?」

計算なさい。と言い残しブリーフィングルームに向かう。

しばらく考えていたが、頭から煙を出しつつ後を追うことにするミサトであった。

 

 

 

 


 

 

 ブリーフィングルーム

スクリーンの前で今回の作戦で使用する武器の説明をするリツコ。

「見れば解るとおり、投槍、ジャベリンです」

はあ、とパイロット両名がそれぐらいわかります、と言った顔で生返事をする。

「で、ただ投げるだけでも相当な速度に到達すると考えられますが、更にこれを使います」

 映し出されたのは釘抜きのようなL字型の棒。

「なんなんです?これ」

「これは投槍器といって、槍の石突、刃の付いてないほうね。ここに引っ掛けて使います。

槍と一緒に握って、投擲時に槍のみを離し、このL字の部分で槍を押し出す形になります」

ミニチュアで、と言うか人間用の槍と投槍器で説明をする。

「ようするにぃ、関節の追加ね。スナップを利かせるって言うでしょ?それを大幅に伸ばして効果を高めるわけよね」

体を使うことならよくわかるのかミサトが後を受けて言う。

「エヴァでの試投は出来ないわ。これで感覚を覚えてちょうだい」

と、リツコが二人に手渡す。

「かろうじて時間はまだあるわ。時間いっぱいまで練習、お願いね」

エヴァでは無理だが、自身の体を使っての練習ならジオフロント内部は十分広いから、と。

 

 


 

 

ケイジ

初号機の発進準備は終了、現在は弐号機のチェックと最低限の機材の追加を行なっている。

「まったく。ドイツの連中は何考えてやがんだ」

弐号機整備班 班長 田中技術二尉である。先の弐号機引き取り時にも同行していた。

「まったくです。丸っきり制式規格のままですからねぇ。訓練中の戦訓を生かした改装も一切無しですよ。これ」

同じく弐号機整備班員 上田技術三尉が同意。

機体にかける予算、掠め取ってんじゃねえか?と口にしながら。

「取り合えずOSの書き換えはすんだ。各部の細かいアップデートも後回しだ。取り合えずデータリンクが出来りゃ良い」

あとはパイロットの力量だな、と。

 

そこにリツコが搭乗者二人を連れてアンビリカルブリッジに姿を見せる。

「じゃ、二人とも。頑張ってね、幸運を祈ってるわ」

「了解です」

「はいっ!任せて下さい!」

 

 

「おう!坊主!今度もがつんとやってくれよ!幾らでも修理してやるから気にしねぇでぶん投げてきな!」

整備班主任 初号機整備班 班長兼任 山中技術一尉がベらんめぇな口調でシンジに声をかける。

「了解」

ピシッと敬礼をし、エントリープラグに身を躍らせる。

「かぁ〜!わけェのに“漢”だねぇ!」

と、感心しながら部下に檄を飛ばす。

「野郎ども!出すぞ!」

 

 

 

弐号機に乗り込むアスカに敬礼しながら

「うーんヤッパ可愛いな」

「ああ。否定しない」

なんだよそれ、と掛け合い漫才を始める田中と上田。階級の差はあまり意識が無いのはネルフゆえか。

「俺はレイちゃん派だ」

「なるほど」

おれは伊吹ニ尉だなぁと上田。

「貴方達!ブリッジから離れなさい!出すわよ!」

リツコの叱咤が飛ぶ。

やべーやべー、と駆け出す二人。

安全位置まで下がり、帽を振る。

がーんばーれよー、壊しても良いからケガすんなよー!

アスカに聞こえるはずもないが、それでもやはり、気は心だ。

 

 

 


 

 

発令所からエヴァの二人へ作戦概要の確認を行うミサト。

「作戦、頭には入ってると思うけど確認しとくわ。

大涌谷ゲートより出撃、神山を遮蔽物として使徒に対しジャベリン投擲による攻撃を行います。

カウントゼロで第一投はシンジ君、カウントマイナス二秒で二投目はアスカ。第一投目が当たろうと外れようと、投げてちょうだい」

『しつもーん』

「なに?アスカ」

『どうせなら神山の山頂から投げたら?重力で多少なりとも威力が上がらない?』

即座にリツコが

「アスカ、エヴァの投擲速度に加算するには誤差程度にしかならないわ。それにね」

それもいいかも、と思いかけてる横のミサトにも諭すように

「上から投げたら下に落ちるの。使徒を貫通した槍が勢いを殺したとしても、地面に落ちたらどうなるか」

隕石並みよ?

言われてようやく気が付いたのか頬をポリポリかきながら誤魔化すアスカとミサト。

「その位置からなら使徒を外れたとしても重力を振り切って大気圏外へ飛び出すわ」

では、作戦開始。

そうミサトが告げると共に動き出す2体のエヴァ。

「・・・二人とも頑張って・・・」

『まっかせなさいってーの!』

『行ってきます』

 レイの激励に答え、二人は意識を切り替える。

 

 

 


 

 

「エヴァ両機、地上へ」

「使徒に動き、ありません」

日向と青葉から報告が上がる。

とりあえず、起動しているだけのエヴァには攻撃をかけてこないようだ。

「ねえリツコぉ。ATフィールド、展開したら撃って来るかもね」

「でしょうね。第四使徒のときもATフィールド展開にあわせて変形、攻撃してきたわね」

さって、おっぱじめますか、と

「初号機、弐号機共に投擲位置へ!」

「作戦開始。カウントダウン始めます。10秒前」

 

初号機が山影から使徒を確認し投擲体制に入る。

 

「9」

 

わずかに遅れて弐号機もそれに倣う。

 

「8」

 

力を貯めていく初号機。

 

「7」

 

更に引き絞る。

 

「6」

 

「アスカ・・・駄目・・・」

なに?とミサトがレイを見る。

 

「5」

 

「弐号機がATフィールドを展開し始めました!」

悲鳴のような報告が上がる。

 

「4」

狼狽しながらもカウントダウンを続けるマヤ。

 

「3」

 

「使徒に高エネルギー反応!」

 

「2」

 

「シンジ君!投げて!」

 

「はいっ!」

カウントダウンを待たずに投擲の指示を出すミサト。

即座に答え投擲を早めようと動き出す。

 

が、

 

閃光

 

 

 

ズバーーーーーーーーーーン!!

 

 

 

初号機の右腕を槍ごと消し飛ばす。

 

「っシンジ君!!」

 

駄目なの?

 

誰もがそう思ったとき。

 

紅い閃光が初号機の傍らを通り抜けた。

 

 

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

ド・ドーーーーーーーーーーン!!

 

 

 

ソニックブームを起こし、第一宇宙速度を軽く超え、月まで届かんとする勢いで投げられた槍が

 

 

弱々しく張られたATフィールドを貫き、その巨体さえも貫いた。

 

 

 

 「GUT!(よしっ!)」

 

弐号機アスカ、使徒初殲滅。

 

第拾七話  了

 

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