「じゃ、お先にィ!」

と言って、リツコ達技術部員が乗りこんだMIL26を先導機にして移動を開始する。

一方シンジとレイは。

 

「・・・葛城一尉、遅い」

「・・・ほんとだね」

 

アスカ専用の足としてそのまま第三に出向するヘリ、EC145と共に、いつまでたっても痴話げんかの終わらない二人を待っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

シンジのススメ

第拾六話

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスカ?張り切るのはいいけど、本部付近まではゆっくりね?地面、このあたりは普通の舗装だから」

めり込んじゃうわよ?

「了解しました〜まっかせてくださいってぇ〜。」

封鎖した箱根新道を行く弐号機であった。

 

 


 

 

本部発令所

当直の日向と青葉が暇をもてあましている。

「しかしあれだなぁ。マヤちゃんもいない、葛城さんもいない、赤木博士もいない。シンジ君もレイちゃんもいない。こんなときに使徒が来たらマズイだろうなぁ」

「おいおい、そんな冗談ホントになったらどうするんだよ」

笑えねぇぜ?と、

「大丈夫だって、こないだの使徒からまだ一週間経ってないんだ。そうそう来るはずが」

そのとき。

 

『戦略自衛隊から入電!正体不明の飛行物体が芦ノ湖方面から接近中!』

 

な?!

「おい、」

「・・・俺のせいじゃねぇ・・・よ、な」

「そんなこと言ってる場合か!情報収集急げ!パターン解析!それと赤木博士へ緊急連絡!最優先だ!」

 

 

 


 

 

箱根新道上空

MIL26機内では騒然とした空気が流れていた。

「パターンは・・・ええ、そう、・・・なんですって?・・・わかったわ。出来る限り早急に帰還します」

「先輩、どうしたんですか?」

「使徒よ」

 

 

「聞こえたわよ!それで?どうするの?」

そう聞いてくるアスカに、

「とりあえず」

「とりあえず?」

「いったん本部へ戻るわ。ここじゃ何の情報も無いも同然だし。」

それに、と

「貴方の弐号機、今のままじゃデータリンクも出来ないわ。目視だけで戦わせる事なんてさせたくないし」

「なによそれ、同じエヴァなのに?」

「同じなのは素体とそれに伴うコントロール系統だけ。他の部分は、ほぼドイツオリジナルね。まったく互換性が無いわ」

OSまで違うじゃない。なに考えてんのかしら、と艦隊司令に貰った資料を見ながら呟く。

「とりあえず急ぐわよ。アスカ、アスファルトのことは気にしなくていいからついて来てちょうだい」

「了解しました、赤木博士」

アスファルトを陥没させて弐号機が加速する。

「ま、このヘリは全力で300km/h弱しか出ないんだけどね」

 どうせそれほどの距離じゃないし、と。

  

 


 

 

本部発令所

使徒の進行状況を把握しているのは、未だ何の行動にも移れない本部のみ。

戦自、UNは静観、下手に手を出すとまったくの犬死であるから早々に指揮権をネルフに移譲していた。

「葛城一尉との連絡は?」

「確認できました。現在ヘリでこちらに向かってるそうです。同行者は・・・綾波レイと加持リョウジ一尉です」

「シンジ君はどうした?」

「それですが、え、はい。えーシンジ君ですが」

無線の報告を聞き取りながら報告する臨時オペレーター。

マヤ専用に特化しているオペレーター席が使いにくいようだ。

「STOVLのF35−Cの訓練機に乗せて先に出したからもうすぐ着くはずだ、だそうです」

おいおい、と言う顔で皆がぼやく

「空港からここまで何分かかると思ってんだ?」

「どうせならハリアーにでも乗っけてくれればいいのに」

「もうハリアーなんか積んで無いだろ。原型初飛行から50年以上たってんだぜ?」

ハリアーの原型機P.1127の初飛行は1960年10月21日。

何度も改修を繰り返されては第一線を張ってはいたが、今ではセカンドインパクトで生産ラインが無くなった為にアップデートはおろか部品の供給すら覚束無い始末である。

 

UN所属の機体が来ました!と下から報告が上がる。

「了解!早急に空港に迎えを回せ!」

「いえ!それが!」

「どうした?報告は簡潔に速やかに行え!」

「は、はい。本部ジオフロント入り口ゲート前の道路に着陸しました」

・・・なるほど。ソリャ早い。

(こういう反則技は葛城さんだろうな。流石です)

 

 

そこに新たな報告が入る。

「使徒に動きが!」

「円周部に高エネルギー反応!収束、加速していきます!」

なんだって?

 

 


 

 

「あの峠を越えたら山肌にゲートがあるから、そこから回収。一旦本部に入ってもらうわ」

「了解です」

箱根新道のアスファルトを吹き飛ばし、陥没させつつ弐号機が行く。

右に双子山を見ながら駆ける。

「ん?」

なんだか明る・・・?

 

轟音と閃光

 

ズバァーーーーーーーーーーーーーーン

 

山を貫き光の矢が弐号機を襲う。

 

「きゃああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

あおりを食らってリツコたちが乗るMIL26も、その姿勢を崩す。

「な、なに?」

「使徒の攻撃のようです!」

「なんですって?」

 

 

 


 

 

双子山の山腹が

 

 

 

使徒の一撃で

 

 

 

貫通してしまっていた。

 

 

 

 

 

「弐号機を、弐号機が直撃だそうです!パイロット、生きてます。自力でイジェクト、外部に逃れました」

発令所はもう手が付けられない混乱振りに陥っていた。

「落ち着きたまえ!諸君!」

司令塔最上部より響き渡った声に一同沈黙。そして、

「初号機の発進準備を進めろ。最優先だ。弐号機の被害状況の確認もだ。使徒の状況、報告」

「はっ!現在使徒は、芦ノ湖上空をごく低速でこちらに進行中です。一番古い発見のデータは乙女峠付近。忽然と現れたとしか言いようがありません」

逐次あちこちからの報告が纏められゲンドウに報告されていく。

 

 

 


 

 

 

「まーったく!なんだってぇのよぉ!」

せっかく来ていきなり不意打ちでおしまい?そんなのないわよ!

MIL26はさっきのあおりでへろへろと墜落しかけたが、何とかその姿勢を建て直し今は弐号機の傍らに着陸している。

「赤木博士!今のなんなんです?」

ヘリに駆け寄り問う。

「おそらく、いえ確実に使徒からの攻撃ね。あんな出力を出せる光学兵器、いえ、ビーム兵器かしら。どちらにしても人間業では無いわ」

「・・・弐号機、もうだめなのかな・・・」

泣き出しそうに言うアスカに、リツコは

「貴方、私達を誰だとお思い?天下に名だたるネルフ本部、その技術部の精鋭よ?」

と、笑みを浮かべ胸を張る。

「とりあえずバックパックが死んだだけ。直撃したのは背部バッテリーね。そのせいで過電流が

流れて弐号機がショートしちゃったの」

本体には深刻な被害は無い、と言うとアスカは心底ほっとした様子で

「じゃ、じゃあアタシまだパイロットでいられるんですね?」

と、なかば怯えながら聞いてくる。

(この娘・・・)

リツコはそのアスカの極端な感情の揺れに訝しげにひとつの疑問を浮かべたが今はそんな時ではないと考えを保留にした。

「とりあえず、復旧、再起動の準備をします。バックパックは死んだけど内部電源は充電されたはずだから」

使徒に吹き飛ばされて、山肌にあったゲートはぽっかりとその穴を見せている。そこを指差し、

「あそこまで行くくらいならなんでもないわ」

 

 


 

 

な、何?今の光は。

使徒の攻撃?

 

全力で本部に向かうヘリの中でミサトの心は焦りで満たされていた。

 

ちょうど箱根の峠付近よね・・・

リツコ達の予定ルート・・・だったわよね。

まさか今のでやられちゃったんじゃないでしょうね。

「葛城!おい葛城!」

あ、ん?

「ああ、なに?加持君」

「なに?じゃ無いだろ。このままの進路だと使徒の目の前に出ちまうんじゃないのか?」

そ、そういえばそうね。

リツコ達とおんなじルートの飛行計画出してるんだし。

コクピットに顔を覗かせて、

「海岸線沿いに南へ飛んで。しばらく行くと飛び出た小さな岬があるわ。それを過ぎて6kmくらい行ったら右側の山が開けてくるからそこから低高度進入、よろしく」

「Ja Vohr!Frau Hauptmann Katsuragi(了解であります!葛城大尉(一尉)」

 

 

 


 

 

 本部発令所 司令塔最上階

ゲンドウと冬月が慣れぬ戦闘指揮を執っていた。

「拙いな碇。このままでは初号機単機での戦闘になる。サードの能力が突出しているとはいえ、長距離から超高出力で狙われては只では済まんぞ」

「問題ない。」

「しかしだな」

そこに初号機のエントリー準備完了の報告が上がる。

「冬月先生、使徒はもうすでに第三新東京市中心部に近づいています。遅かれ早かれ出さねば全てが無に帰すのです」

むう、と押し黙る冬月。

「人類にはこれしかないのです。初号機、出撃準備!」

発令所に響く無情の指示、しかし

「初号機の発進は中止!弐号機の準備が終了するまで待機!」

葛城一尉!

周囲にほっとした気配が広がる。やはり指揮するものは威圧感だけではいけないのだ。

「司令!今出しても各個撃破されるのがオチです。

技術部が先ほど弐号機の収容を完了、応急処置ですが再出撃に合わせ作業を開始しております!」

ご許可を!と。

「・・・指揮を引継ぎたまえ、葛城一尉」

「はっ!」

凛々しく敬礼を返し、正面を向く。

「現状は!」

「はいっ!現在使徒は第三新東京市北部を南下中。極低速度での侵攻のため市街中心部へは20分後に到着すると思われます」

20分、か。

「出来うる限りの敵戦力の把握を行います。最外縁にある兵装で即時稼動可能なものは?」

「はい、芦ノ湖東岸に展開済みの、203mm自走榴弾砲です」

「了解。使徒の報復射撃が予想されるので、周辺の人員は退避。リモート射撃にて攻撃。準備完了次第射撃開始」

 

ドン!ドン!ドン!

 

国内では最大の火砲による使徒への攻撃は、

 

パキーーーーーーーン!

 

前回、前々回の使徒らをはるかに上回る出力のATフィールドによりはじかれ、

 

ビカッ!

 

ズバーーーン!!

 

予想道理、報復攻撃により撃破された。

 

ダミーバルーンを2体、使徒に向かってリモートで接近させる。

一体はパレットライフルを、もう一体は装備無しで。

 

「攻撃、して来ませんね。」

「ん、じゃあ、パレットライフル射撃用意」

「了解です」

ジャキン!と使徒に向け照準を開始するやいなや、

 

ズバーーーーン!

 

破壊された。

 

 


 

 

「以上の様に、使徒は攻撃を受けた場合、ATフィールドによる防御、それに続く報復攻撃、あるいは使徒に対しての敵対行動を、何らかの方法で感知、攻撃するものと思われます」

よって、と

「大出力、長距離射撃によるATフィールドの中和無しでの使徒殲滅作戦を提案します」

「異議有り」

即座にリツコが反対を表明。

「・・・赤木博士。意見をどうぞ」

「使徒は一定以上のエネルギーを感知して攻撃を行なうものと推定されます。

その実証は先ほど行なわれた203mm自走榴弾砲による砲撃と、パレットライフルによる攻撃であきらかです。

と言うのは、炸薬による攻撃時には着弾後の報復、電磁カタパルトを使用しているパレットライフルによるそれは射撃前に攻撃を受けています。これは電磁カタパルトへの電力供給がその一因かと。

なにより、弐号機は“双子山の影に”いてさえ遭遇前に攻撃を受けています。おそらくは弐号機に使用されていたバックパック、フライホイールバッテリー“回転君1号”に蓄積されていたエネルギーを感知したものと考えられております。

よって、先の葛城一尉の提案、大出力での長距離射撃はその射撃を開始する前段階のエネルギー供給時に使徒の攻撃を受ける可能性が高いと、こう推測しております」

 

・・・回転君?

 

一同、作戦よりもリツコがつい口走ったバッテリーの愛称に気を取られてしまったようだ。

「ん、んんっ!何かご質問は?」

気まずく、言葉を発するものもいない。

そこに、

「じゃあリツコォ、あんたなんか良い考えあんのぉ?けなすばっかでさぁ」

んふ、と、心持ち、いや、ものすごく嬉しそうに。

「こんなことも有ろうかと!ひそかに開発していたものがあります!」

リツコ、長年の夢が叶った瞬間でもあった。

 

第拾六話  了

 

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