事件の真実は一体どこに--。東金市東上宿の路上で08年9月、保育園児の成田幸満(ゆきまろ)ちゃん(当時5歳)が遺体で見つかってから、21日で2年になる。幸満ちゃんを殺害したなどとして殺人罪などに問われている同市の無職、勝木諒被告(23)を巡って、検察側と弁護側の見方は真っ向から対立。公判開始の見通しは立っていない。【中川聡子】
勝木被告には軽度の知的障害があるとされる。検察側は鑑定留置の結果を踏まえ「責任能力がある」として起訴した。一方、弁護側は、殺害したとする供述調書や捜査側の有力な物証の信用性を争う方針だ。
公判前整理手続きはすでに15回を数えている。弁護団は「物的証拠に乏しく、被告の話からは真実が見えてこない。知的障害者が絡む難しい事件の典型例だ」と話す。
起訴状などによると幸満ちゃんの遺体は08年9月21日午後、裸の状態で発見された。遺棄現場に近いマンションの駐車場では、幸満ちゃんの衣服が入ったレジ袋も見つかった。同年12月、このマンションに住む勝木被告が逮捕され、殺人や死体遺棄などの罪で起訴された。
勝木被告の関与を疑わせる証拠としてこれまで明らかになったのは、レジ袋の指紋が勝木被告のものと一致▽レジ袋の中に勝木被告の母親の髪の毛があった▽遺体を運ぶ場面の目撃証言がある▽勝木被告が殺害などを認めた供述調書--が挙げられる。
これに対し、弁護側は、レジ袋の指紋が勝木被告のものと一致しないとする民間の鑑定結果を証拠として提出。知的障害を持つ被告の供述は変遷や誘導、憶測が混じる恐れが高いとして、供述特性や裁判の内容を理解する能力に関する専門家の鑑定結果も提出した。
さらに、被告は知的障害の影響で身体能力も弱いとして「起訴内容の時系列通り、幸満ちゃんを無理やり拉致したり遺体を遺棄するには無理がある」とも主張する。
弁護団のメンバーたちは、勝木被告の印象について「その場しのぎで話す」「相手の立場を感じ取り、迎合しながら答える傾向がある」などとし、知的障害者が絡む事件について「供述場面の生の記録が残っていないことが最大のネックになる。聞き手が適切な手法を取ったか検証するすべがない」と指摘。取り調べの可視化(録音や録画)の必要性を強調する。
次回16回目の公判前整理手続きは22日に予定されている。
毎日新聞 2010年9月21日 地方版