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心に届くバッハ「歌う」 90歳のビンシャーマン「マタイ」指揮

2010年9月22日

写真:大きな手もまた表情豊かなビンシャーマン。「叫ばなくても、この指でニュアンスをすべて伝えられる。ありがたいよ」拡大大きな手もまた表情豊かなビンシャーマン。「叫ばなくても、この指でニュアンスをすべて伝えられる。ありがたいよ」

 バッハ演奏の名匠ヘルムート・ビンシャーマンが来日し、バッハ芸術の頂点に日本の演奏団体と取り組んでいる。大阪での「ロ短調ミサ曲」に続き、30日には東京で「マタイ受難曲」を上演する。「バッハは最高の長寿薬。音楽をやり続けることが私の生涯の挑戦」と、90歳の現役は張りのある声で語った。

 1962年の初来日以来、ぬくもりのある響きで多くの日本人をバッハに開眼させてきた。「言葉と音楽が有機的に結びつき、ひとつの世界を紡ぐのが理想の演奏」と語る。

 そんなビンシャーマンにとって、今回の「マタイ」は新たな挑戦となる。原語のドイツ語ではなく日本語訳で上演することを、共演する成城合唱団に提案されたのだ。

 そもそもプロテスタント信者だったバッハは、誰もが日常の言葉で信仰を歌いあげられるよう、ドイツ語で多くのカンタータや「マタイ」などの受難曲を生み出した。その精神を継ぐ試みだが「例えば『トレーネン(涙)』という言葉ひとつにしても、言葉のアクセントが全く異なる。簡単なことではない。でも、伝統ある合唱団の実力を信じ、全力でバッハの精神を日本語にのせる努力をする」。

 もとはオーボエ奏者。音色に芯があり、のびやかに旋律を奏でるオーボエは、バッハが生涯もっとも大切に扱った独奏楽器のひとつだ。

 「この楽器のおかげで、私は若くしてバッハに目覚め、『歌』とは何かを知った。どんな楽器を使おうと、本当の名人は、究極的にはみな『歌手』なのだ」

 古楽の先鋭であり続ける指揮者アーノンクールと意見を交わし、「大切なのはどの楽器を使うかではなく、どう演奏し、どう『歌う』かだということに気付いた」と言う。

 「古楽器で演奏するのは、作曲家がイメージした響きを体感するため。たとえ南米の楽器を使おうと、演奏者にイメージの基盤さえあれば、その音楽はバッハになる」

 20世紀の音楽文化の変遷を知る生き証人だ。「カラヤンの時代を頂点に、誰もが『完璧(かんぺき)な演奏』を目指そうとしてきた。演奏の良しあしを言いすぎるのは、創造性を失わせる。若い指揮者が、そういう表面的な評価に惑わされず、信念に忠実に演奏しているのを見ると希望の光を感じる」

 「マタイ」公演は午後6時半、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホール。出演は鈴木寛一、多田羅迪夫ほか。同公演のために編成された特別オーケストラが出演する。5千円。03・5429・2399(ヒラサ・オフィス)。(吉田純子)

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