<検証>
【ニューデリー栗田慎一、北米総局】19日付の米紙ワシントン・ポストは、アフガニスタン駐留米軍の兵士5人が、「気晴らし」にアフガン市民を殺害した疑いで米軍から訴追されたと報じた。遺体の撮影や頭蓋骨(ずがいこつ)を収集した疑いも浮上している。同紙は01年のアフガン戦争開始後、「最も身の毛がよだつ事件」と批判している。
同紙が入手した米陸軍の訴追資料によると、殺害事件は今年1~5月、アフガン南部カンダハル州で3件発生。1月の事件では、兵士らが手投げ弾を爆発させて米軍が攻撃を受けたように装い、近くにいたアフガン男性1人を射殺した。また、遺体を切断して写真撮影することもあったという。
動機については、兵士らが酒や麻薬を常習し、ふざけて罪のない市民を殺害した疑いがあるとしている。内部告発した別の兵士がリンチを受けた事件も起きたという。
アフガン駐留米軍の「非道」ぶりについて、アフガン国内では、「何をいまさら」との受け止め方が強い。「気晴らし」感覚があるかどうかはともかく、アフガン市民は、米軍が極めて安易に市民を殺害していると考えているのだ。
アフガン各地に展開する米軍や国際治安支援部隊(ISAF)の装甲車の車体の前後には、現地の言葉で「近づくな」と書かれたプレートが張りつけられている。不用意に近づけば銃撃するとの意思表示だ。
内務省によると、低速で走る米軍車列を追い越そうとしたり、クラクションを鳴らした一般車両が銃撃され、乗っていた市民が死傷する事件が相次いだことを受けての措置で、数年前に始まった。
米国の後ろ盾を受けるアフガン政府はこうした銃撃事件について、「テロリストと誤解された不幸な事件」と鎮静を図ったが、地元テレビのカンダーリ記者(45)は「過失とは思えない銃撃も数多い」と憤る。
同記者は「検問所で英語が分からない老人や女性が制止を無視したとして射殺されたり、家宅捜索として深夜に米兵に押し入られた民家の男たちが抵抗し、その場で殺されるなど、常軌を逸した事件があまりにも多い」と指摘する。
米軍による市民殺害は、タリバンが勢力を回復し始めた07年ごろから急増していった。地上戦での消耗を避けるため、米軍が空爆を多用した結果、市民の犠牲は拡大して反米感情が高まり、タリバンを勢いづかせ、空爆や戦闘がさらに激化していったのだ。これが、市民や米兵の犠牲が毎月のように最悪を記録している背景となっている。
一方、イラクでもアフガンと同様の状況があった可能性が高い。イラクに派兵されていた元米兵が帰国後に書いた著書で、イラク駐留米兵が殺害したイラク人の頭部でサッカーに興じていたと報告している。
毎日新聞 2010年9月22日 東京朝刊